
今回ご相談いただいたのは、京都市内に計画する約20坪の洋食店です。
昼は近隣で働く人や夫婦客が利用し、夜はワインと料理をゆっくり楽しむ。日常的に立ち寄れる親しみやすさを持ちながら、誕生日や少人数の会食にも選ばれる店にする。
料理は、ハンバーグや煮込み料理、魚料理などの洋食が中心です。
私たちはこの店を、内装の雰囲気だけで印象づけるのではなく、外から店を見つけ、扉を開け、料理人の動きを眺めながら食事をするまでの時間が、一つのブランド体験としてつながるように考えた提案事例です。
今回の設計で中心に置いたのは、白いタイルとブランドカラーの扉、そして舞台のように見せるオープンキッチンです。
「白いタイルと可愛い扉の店」として記憶に残す

ファサードには、光沢のあるホワイトの細型磁器タイルを縦方向に使うことにしました。
窓と入口には、ブランドカラーを使った鋼製建具を製作します。
店名を覚えてもらう前に、
「あの白いタイルの店」
「可愛い色の扉がある店」
という外観の印象から、店を認識してもらえるファサードをつくりたいと考えたからです。
ホワイトのタイルは、単に可愛らしい雰囲気をつくるためだけに選んだものではありません。
飲食店のファサードは、雨や埃、排気ガスなどの影響を受けます。開業時の印象をできるだけ長く保つことも、店のブランドを守るうえで重要だと考えました。
そこで今回は、汚れに配慮しやすく、光を受けたときに清潔感が出る光沢のある磁器タイルを選んでいます。
ブランドカラーの鋼製建具は、ホワイトのタイルの中で店の印象を決めるポイントになります。
可愛らしさは感じられても、軽いカフェのようには見せない。鋼製建具の輪郭と磁器タイルの硬質な質感を組み合わせることで、親しみやすさの中に、少し品のある存在感をつくろうと考えました。
厨房を、料理人がブランド体験をつくる舞台にする
今回の店では、厨房を裏側に隠すのではなく、店の中心となる舞台として考えました。
飲食店の印象をつくるのは、仕上げ材や家具だけではありません。
鉄板でハンバーグを焼く姿。
料理を皿に盛りつける手元。
店内を動くシェフやスタッフの様子。
そこで働く人の動きそのものが、店の活気や料理への期待感をつくると考えています。
この物件では、厨房が客席より一段高くなっています。
その高低差を弱点として隠すのではなく、客席から料理人の上半身や動きが自然に見える舞台として活かすことにしました。
オープンキッチンの開口は、できるだけ大きく取ります。
開口を絞りすぎたり、腰壁を高くしすぎたりすると、厨房の存在は見えても、料理人の動きやライブ感までは伝わりません。
今回は、厨房の足元や設備を整理しながらも、料理をつくる様子はできる限り客席へ開くことを優先しています。
客席側には腰壁を設け、その上に木製カウンターを造作します。
厨房として隠す必要がある部分は腰壁で整理しながら、料理人の姿や料理が仕上がっていく時間は、客席から感じられるようにしました。
外壁と厨房壁を、同じ白いタイルでつなぐ

厨房の正面壁には、ファサードと同じ光沢のあるホワイトの細型磁器タイルを使うことにしました。
外から見た店の印象と、店内に入った後に目にする中心的な景色を、同じ素材でつなげたいと考えたからです。
ファサードでは店を記憶してもらうための白いタイルが、店内では料理人が立つ舞台の背景になります。
外観と内装を別々のデザインとして考えるのではなく、一つの素材に異なる役割を持たせることで、店全体の印象に一貫性を持たせています。
白い光沢タイルを背景にすることで、ステンレスの厨房機器や木製カウンター、料理そのものも見えやすくなります。
厨房側に色や装飾を増やしすぎず、人と料理の動きが主役になる背景をつくりました。
席は2名席を基本単位にする
席構成は、2名席を基本に考えました。
昼の1人利用や2人利用、夜に夫婦や友人同士でワインと料理を楽しむ2人客が、この店の中心になると考えたからです。
4名客には、隣接する2名席を連結して対応します。
固定された4名卓を多く配置するよりも、その日の予約や客層に合わせて席の使い方を変えられる構成を優先しました。
2名席は、単に席数を確保するための単位ではありません。
向かい合う人との距離、隣席との間隔、厨房の見え方、卓上に落ちる照明によって、一つひとつの席の居心地が変わります。
道路側の窓際にも2名席を配置します。
外から店内をすべて見せるのではなく、人が食事をしている気配や、照明の温かさが伝わる程度に見せたいと考えました。
店内の奥まで見通せない一方で、閉じているようにも感じさせない。
白いタイルとブランドカラーの扉で興味を持ってもらい、窓越しの光や席の気配が入店のきっかけになるようにしています。
約20坪の店内を、壁で細かく分断しない
ご相談の中には、店内全体が一度に見渡せる構成にはしたくないというご希望がありました。
ただし、約20坪の店内に壁や半個室を設けると、空間のつながりが切れ、席の組み替えやスタッフの動線にも影響します。
そこで今回は、壁で視界を遮るのではなく、席の向きや照明、既存柱によって、店内にいくつかの景色をつくることにしました。
厨房が見える席。
窓際の光を感じる席。
中央柱の演出が視界に入る席。
一つの空間を分断せずに、座る位置によって見えるものが少しずつ変わる構成です。
空間を閉じるのではなく、視線の方向を整理する。
今回の規模では、その方が店全体の活気を保ちながら、席ごとの落ち着きもつくれると判断しました。
中央柱を、季節によって表情が変わる場所にする
店内中央には、既存の構造柱があります。
今回は、この柱をできるだけ目立たなくするのではなく、店内の印象を変えるための場所として活かすことにしました。
柱にはブラケット照明を設置し、写真や小さなアートを照らします。
そこにグリーンや季節の装飾を加え、時期やイベントに合わせて内容を変えられるようにします。
春は植物や花。
秋は写真や素材の展示。
クリスマスには、小さな装飾を加える。
内装全体を変えなくても、この柱の演出を変えることで、来店するたびに店の表情を少し変えることができます。
ただし、柱を空間の主役にはしていません。
この店の主役は、あくまで厨房と、そこで働く料理人です。
柱は店内の視線を一度受け止め、客席と厨房の間に奥行きをつくる役割として考えました。
床に予算を使い、壁と天井はラフに整える
床には、清潔感のあるテラコッタ調のタイルを使うことにしました。
フランスの田舎にあるビストロのような空気を感じさせながら、古びた店には見せない。そのバランスをつくるためです。
テラコッタの温かい色は、木製カウンターや木製テーブル、電球色の照明とも相性がよく、店内全体に落ち着いた温度を与えます。
一方で、壁と天井には過度に予算をかけないことにしました。
既存内装を解体したコンクリート壁には、ホワイト塗装を施します。
天井も仕上げを張らず、スラブ現しのままホワイトで塗装します。
約20坪の店内で天井を張り下げるよりも、既存の高さをできるだけ活かした方が、オープンキッチンと客席が一体に感じられると考えたからです。
電気配線、エアコンの冷媒配管、換気設備も隠蔽せず、化粧で見せます。
ただ露出させるのではなく、配管や設備を整理し、天井と同じホワイトで塗装します。
床と厨房壁には素材の印象が残る仕上げを使い、壁と天井はラフに整える。
店内のすべてを均一に仕上げるのではなく、どこに予算を使い、どこを背景にするのかを明確にしました。
昼と夜は、照明の重心を変える

今回、昼と夜で別の店のように内装を変える必要はないと考えました。
昼は洋食を気軽に楽しむ、明るく活気のある店。
夜はワインと料理を楽しむ、少し落ち着いた店。
同じ店の中にある二つの時間なので、色や素材を変えるのではなく、照明の明るさと光の位置によって表情を変えることにしました。
昼は全体の照度を上げます。
白い壁や天井、光沢のあるタイルに光を回し、厨房の動きや店内の活気が感じられる明るさにします。
夜は全体の照度を少し下げ、各テーブルに吊るした小さなシャンデリアの光を印象的に見せます。
卓上に光を集めることで、料理と向かい合う人の表情が自然に浮かび上がります。
色温度は、昼夜とも電球色を基本にします。
光の色を変えるのではなく、昼は空間全体を明るくし、夜はテーブルごとの時間をつくる。
そうすることで、同じ空間のまま、昼と夜の使われ方を自然に切り替えられると考えました。
厨房の音を、店の空気として活かす
今回、BGMを強く押し出す方向にはしていません。
鉄板でハンバーグを焼く音や、料理が仕上がっていく気配、厨房を動くスタッフの声や食器の音が、この店の空気をつくると考えたからです。
オープンキッチンを舞台として見せる以上、そこから聞こえる音も、店の体験の一部になります。
料理の匂いと焼く音が客席へ届くことで、料理を待つ時間にも期待感が生まれます。
そのため、厨房の音を完全に抑え込むのではなく、料理をつくる気配が心地よく伝わる状態を目指します。
一方で、客席の一部だけに厨房音が強く届いたり、会話が店内全体に広がったりすると、落ち着いて食事をする時間がつくれません。
厨房の開放感は残しながら、音の広がり方は素材や天井、スピーカーの配置を含めて整える必要があります。
BGM用のスピーカーは、広い範囲へ自然に音を届けられるものを4台程度配置する想定です。
音量を上げて店の雰囲気をつくるのではなく、厨房の音や客席の会話を邪魔しない程度に流し、店内全体の空気を薄くつなぐ役割として考えています。
人が働く姿まで含めて、店の体験を設計する
今回の店では、仕上げ材や家具だけで空間を完成させようとは考えていません。
料理人がどこに立つのか。
客席から何が見えるのか。
料理がどこから運ばれてくるのか。
スタッフがどのように店内を動くのか。
人の動きまで含めて設計することで、初めてオープンキッチンが店の魅力になります。
外では、白い光沢タイルとブランドカラーの扉が、店を見つけるきっかけをつくります。
扉を開けると、テラコッタの床と白い壁の先に、同じ白いタイルを背景にした厨房が見えます。
客席に座ると、料理人が動く姿や、ハンバーグを焼く音、料理が仕上がっていく気配が伝わります。
夜には小さなシャンデリアの光が卓上に落ち、昼とは少し異なる時間が始まります。
ファサード、厨房、席、素材、照明、音を別々に考えるのではなく、店で過ごす一連の時間としてつなげる。
それが、今回の洋食店で私たちが考えたブランド体験です。
HAGANEについて
HAGANEは、音と空間からブランド体験をデザインしています。
ファサード、素材、席、照明、厨房の見せ方、スタッフの動き、BGMや料理の音までを一体で捉え、店らしさが自然に伝わる空間を考えます。
きれいな店舗をつくることだけを目的にするのではなく、なぜその素材を使うのか、なぜ厨房を見せるのか、なぜその席配置にするのかを整理し、設計として形にします。
関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。