
滋賀県郊外で、ランチ、喫茶、持ち帰り惣菜を組み合わせた新規店舗を考えました。
この計画で最初に考えたのは、カフェらしい店内にすることでも、惣菜を多く並べることでもありません。
ランチ、喫茶、テイクアウトという異なる利用目的を、どうすれば一つの店として成立させられるか。
そして、限られた席数とスタッフ数のなかで、昼食だけに依存しない売上をどうつくるか。
そこから設計を始めました。
何でもできる店ではなく、サラダを目的に訪れる店にする
ランチ、喫茶、テイクアウトをすべて扱うと、便利な店にはなります。
一方で、何の店なのかが分かりにくくなる危険もあります。
ランチもある。
コーヒーも飲める。
惣菜も買える。
それだけでは、顧客がわざわざ訪れる理由にはなりません。
そこで今回は、サラダを店の中心に置きました。
サラダは、季節の変化や食材の鮮度を視覚的に伝えやすく、ショーケースに並べたときにも店の特徴が伝わります。
30代から50代の女性客や、食事への意識が高い層にとっても、来店の明確なきっかけになります。
ただし、健康的な食事を提供する店に見せたいわけではありません。
サラダを入口にしながら、魚介、肉、スープ、パン、デザート、コーヒーまで選び、一食を完成させる楽しさをつくりたいと考えました。
今回の店では、サラダそのものが売上のすべてではありません。
サラダを見て入店し、そこから何を追加したくなるか。
その顧客心理まで含めて、店の構成を考えています。
ショーケースを設備ではなく、店の価値を伝える場所にした

この店で主役になるのは厨房ではありません。
ショーケースです。
飲食店では、オープンキッチンによって料理人の動きや調理風景を見せる方法があります。
しかし今回は、料理人のライブ感よりも、顧客が商品を見て選ぶ体験の方が重要だと考えました。
何が並んでいるのか。
今日はどのサラダを選べるのか。
食後には何を注文できるのか。
帰りに何を持ち帰れるのか。
これらを顧客が自分の目で確認できることが、この店の来店価値になります。
そのため、厨房はバックヤードに配置し、調理設備を強く見せる構成にはしていません。
一方で、ショーケースから料理を取り分け、皿へ盛り付け、コーヒーを抽出して顧客へ渡す動きは見せます。
調理工程のすべてではなく、商品が一皿として完成する瞬間を見せる。
そうすることで、清潔感、鮮度、選ぶ楽しさを店内の体験として伝えられると考えました。
イートインとテイクアウトを分けたのは、体験価値が異なるから
店内には、二つのショーケースを設けています。
入口付近には、テイクアウト用のショーケース。
イートイン側には、店内飲食用のサラダやデザートを見せるショーケースです。
二つに分けたのは、単に客の動線を整理するためではありません。
テイクアウトとイートインでは、顧客が求める価値が異なるからです。
テイクアウトでは、短時間で選びやすく、自宅の食卓へ取り入れやすいことが求められます。
一方、イートインでは、その場で選ぶ楽しさ、盛り付け、温度、食後のデザートやコーヒーまで含めた時間が価値になります。
同じメニューを店内と持ち帰りの両方で提供すると、店内で食事をする理由が弱くなります。
そこで、使用する食材に共通性は持たせても、商品としては分けて考えます。
イートインでしか体験できない料理がある。
テイクアウトでしか買えない商品がある。
この違いが、利用目的を分けるのではなく、相互に行き来する理由になります。
持ち帰りで利用した人が、次は店内で食事をしたいと思う。
店内で過ごした人が、帰りに夕食用の商品を買いたいと思う。
二つのショーケースによって、売上を別々につくるのではなく、顧客行動を循環させたいと考えました。
セミバイキングは、品数ではなく選ぶ行為に価値を持たせる
サラダをセミバイキング形式で提供することも考えました。
バイキングという言葉からは、多くの商品が並ぶ豪華な構成を想像しやすいと思います。
しかし今回は、品数を増やすことを目的にはしていません。
商品数を増やせば、仕込み、補充、衛生管理、廃棄の負担も増えます。
その結果、顧客満足度を高めるための仕組みが、店舗運営を圧迫する可能性があります。
そこで、「本日のサラダ」として、提供する内容を日ごとに絞ります。
選択肢が無限にあるのではなく、その日に選べるものが明確にある。
今日は魚介を使ったサラダ。
別の日は、豆や穀物を使ったサラダ。
季節によって、温野菜や果物を組み合わせる。
種類の多さではなく、今日何が並んでいるのかを楽しみに来てもらう方が、この店には合うと考えました。
フードロスは販売後ではなく、メニューを考える段階で減らす
セミバイキングやテイクアウト販売では、フードロスが大きな課題になります。
選ぶ楽しさを見せるために商品を多く並べても、売れ残れば利益は残りません。
だからこそ、余った商品をどう処分するかではなく、食材をどのように循環させるかを最初から考える必要があります。
葉物やハーブであれば、サラダだけでなくジュースやソースに展開できるかもしれません。
根菜であれば、ロースト、スープ、ポタージュへつなげられます。
果物であれば、サラダ、ケーキ、自家製ドリンクに使えます。
焼き菓子は生菓子よりも販売期間を長く取れるため、デザート構成の中で在庫リスクを抑える役割を持たせられます。
ただし、完成した料理を無理に別の商品へ転用する考え方ではありません。
仕込み前の段階で、一つの食材に複数の出口を持たせておく。
その方が、商品の質を落とさず、運営負担も減らせます。
今回、ショーケースに並べる商品数を絞ったのも、見た目をシンプルにするためだけではありません。
選ぶ楽しさを残しながら、ロスと仕込み負担を抑えるための判断です。
ファサードでは、何の店かを説明しすぎない

この店では、看板に多くの情報を載せません。
ブランド名だけをシンプルに表示します。
ランチ、喫茶、テイクアウト、サラダ、モーニング。
これらをすべて看板で説明すると、できることは伝わりますが、店の印象は弱くなります。
そこで、看板ではなく、建物と店内の気配で興味を持ってもらうことを考えました。
ファサードには大きなガラス面を設けます。
ただし、道路から店内全体が見える状態にはしません。
すべてが見えてしまうと、入店前に店内の体験が完結してしまうからです。
大中小の植栽を雑木林のように配置し、葉の隙間から店内の照明やショーケース、人の動きが見える状態をつくります。
中が見える安心感は残す。
しかし、すべては見せない。
その距離感が、店内への期待につながると考えました。
店内をシンプルにしたのは、サラダの色を主役にするため
店内は、コンクリート金鏝仕上げの床と、オフホワイトの塗り壁を中心に構成します。
天井は現しとし、梁、空調設備、換気設備をホワイトで統一します。
電気配線も化粧配線として見せます。
素材を増やし、空間そのものを強く主張することは考えませんでした。
この店で最も目に入ってほしいのは、ショーケースに並ぶサラダの色です。
季節によって変わる野菜。
魚介や果物。
皿に盛り付けられる料理。
それらが店内の印象をつくります。
空間をシンプルにしたのは、無機質に見せるためではありません。
商品、人、植栽、家具の色が自然に浮かび上がる背景をつくるためです。
家具には少し色を使います。
無彩色だけで構成すると、商品の鮮度は際立ちますが、長く過ごしたい場所には感じにくくなります。
一人掛けソファや椅子の張地に色を加え、清潔感と滞在しやすさの両方をつくります。
席数より、利用する時間を想像して席を考えた
イートインエリアは、4人掛けテーブルを中心にします。
30代から50代の女性客が、2人から3人で訪れることを想定したためです。
一方で、一人でモーニングやコーヒーを楽しみたい人、夫婦2人でランチを利用する人もいます。
ガラス面には2人席を配置し、一人でも落ち着いて利用できる席をつくります。
テーブルと椅子は少し低めにします。
食事を終えた瞬間に帰る席ではなく、食後にコーヒーやデザートを注文し、会話を続けられる場所にしたいからです。
ただし、低く落ち着かせるだけではありません。
窓の外に植栽の木漏れ日が見えることで、道路沿いの立地を直接感じさせず、日常から少し離れた時間をつくります。
モーニングを加えたのは、営業時間を増やすためではない
土日限定で、サラダプレートとトーストを中心にしたモーニングも考えました。
営業時間を長くし、売上を増やすことだけが目的ではありません。
モーニングは、この店の価値を最もシンプルに伝えられる時間帯だからです。
本日のサラダ。
トースト。
スープ。
コーヒー。
そこに魚介、卵、鶏肉などを追加できるようにします。
朝の時間にサラダを中心とした食事を体験してもらうことで、ランチやテイクアウトにも関心を持ってもらえます。
主婦層だけでなく、少し年齢層の高い夫婦や、食生活への意識が高い層にとっても、店を知るきっかけになります。
照明とBGMは、清潔感と活気を伝えるために設計した
店内の照明は、少し明るめにします。
サラダや惣菜を主役にする店では、食材の色、鮮度、清潔感が正しく見えることが重要です。
暗く落ち着いた店ではなく、商品を選ぶ楽しさと店内の活気を感じられる明るさを優先しました。
照明はスポットライトを中心に構成し、ショーケース、テーブル、植栽へ光を向けます。
BGMも昼は少し活発な選曲と音量を考えます。
ただし、音量を上げるだけでは、場所によって音の聞こえ方に差が出ます。
そのため、店内を複数のゾーンに分け、局所的に音が大きくならないようにします。
朝は音量を下げ、落ち着いた時間をつくる。
昼は会話と選ぶ楽しさが感じられる活気をつくる。
同じ空間でも、時間帯によって過ごし方が変わることを、音で支えます。
この店では、ショーケースが売上構造を変える

今回の設計では、ショーケースを商品を並べる設備として考えていません。
顧客が何を選び、何を追加し、次にどのような利用をするのかを決める場所として考えました。
サラダを見て入店する。
その日の商品を選ぶ。
スープや魚介、パンを追加する。
食事中にデザートを意識する。
食後にコーヒーを注文する。
帰りにテイクアウト用の商品を購入する。
次はモーニングや別の日のサラダを目的に訪れる。
この流れがつながれば、ランチ、喫茶、テイクアウトは別々の業態ではなくなります。
サラダを中心に、一日の異なる時間と利用目的が循環する店になります。
今回は、内装の雰囲気を先に決めたのではありません。
ターゲットが何を見て入り、何を選び、どこで追加注文し、何を持ち帰るのか。
その行動から逆算して、ショーケース、ゾーニング、席、光、音を設計しました。
飲食店の新規出店をご検討の方へ
飲食店の設計では、見た目の印象だけでなく、顧客がどのように店を利用し、売上がどこで生まれるのかまで考える必要があります。
ランチ、喫茶、テイクアウトを組み合わせる場合も、機能を並べるだけでは一つの店にはなりません。
何を店の中心に置くのか。
何を見せ、何を選ばせ、何を追加してもらうのか。
その判断が、空間の構成とブランド体験を決めます。
HAGANEでは、空間デザインと音響デザインを通して、店舗での顧客体験と来店理由を設計します。
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