
約16坪の焼肉店
主な来店客は、仕事帰りの同僚や夫婦、30〜50代の2人客です。
食べ放題や宴会を中心にするのではなく、質の良い肉と酒を、落ち着いた空間で楽しんでもらう。
客単価は、1人5,000円から7,000円程度を想定しています。
肉の仕入れ価格が上がり続ける中で、安さを入口にしてしまうと、後から価格を維持することが難しくなります。
そこで今回は、席数と回転だけで売上をつくる焼肉店ではなく、
限られた席に、肉を選ぶ時間、焼く時間、酒と合わせる時間を持たせる店
として設計しました。
路面店でも、店内をすべて見せない

一般的な路面店であれば、ガラス面を広く取り、店内の活気を外へ見せることを考えます。
しかし今回つくりたいのは、大人数で賑やかに利用する焼肉店ではありません。
2人で落ち着いて過ごし、少し良い肉と酒を楽しむ店です。
そのため、ファサードから客席全体を見せることはしませんでした。
店内が完全に見えると、入りやすさは生まれますが、同時に客席の距離感や店内の情報も外へ流れます。
今回は、入口付近から光と店内の質感がほんの少し分かる程度に抑えます。
営業していることは伝わる。
しかし、中でどのような時間が流れているのかまでは見せない。
その距離感によって、隠れ家的な印象をつくりたいと考えました。
外から派手に客を引き込むのではなく、質の良い焼肉を求めている人に、
「この中で、少し特別な時間を過ごせそうだ」
と感じてもらうファサードです。
テーブルを並べず、U字カウンターを店の中心にした

今回、店内に一般的な焼肉テーブルを並べることは考えませんでした。
4名テーブルを中心にすると、2人で利用されたときに席が余ります。
2名テーブルを細かく並べると、今度は焼肉店として窮屈に見えやすくなります。
そこで、店内をU字型のカウンターだけで構成することにしました。
客は2人で横並びに座り、カウンターの内側には、肉を切り分けるための舞台があります。
ここは厨房ではありません。
洗い場や下処理、食材のストックはバックヤードへ分けます。
客席から見える場所で行うのは、肉の塊を切り分け、部位として仕上げ、皿に載せる工程です。
肉が冷蔵庫からそのまま出てくるのではなく、目の前で切られ、今から自分たちが食べる一皿に変わっていく。
その時間があることで、同じ肉でも、料理としての価値が上がると考えました。
カウンター内には、ワインクーラーも組み込みます。
肉を切る手元と、ワインボトルが同じ視界に入る。
これによって、店の印象を「肉を食べる店」だけで終わらせず、
肉と酒を組み合わせて楽しむ店
として見せています。
通常の肉は自分で焼き、特別な肉だけ店主が焼く
この店では、基本的に肉は客自身で焼いてもらいます。
自分で焼き加減を見ながら、会話をし、酒を飲む。
その焼肉らしい楽しさは残します。
すべてを店側が焼く店にすると、焼肉店というより肉割烹に近づきます。
接客も構えたものになり、日常の延長で使える店から離れてしまいます。
ただし、希少部位や厚切りの特選肉だけは、店主が焼きます。
中央で切り分けられた肉が客席へ運ばれ、部位や食べ方の説明を受けながら、店主が網の上で仕上げる。
普段は自分たちだけで使っている網に、店主が一度だけ入ってくる。
この一皿だけ、時間の流れが変わります。
店主が焼く肉を増やしすぎると、特別感はなくなります。
そこで、
- 本日の希少部位
- 厚切りの特選肉
- 2人で分ける限定の一皿
など、1組の食事の中で一度か二度だけ起きる場面に絞ります。
通常の肉は、自分たちで気軽に楽しむ。
特別な肉だけは、焼き加減を店主に委ねる。
この差があることで、上位商品を注文する理由が生まれます。
単に高い肉をメニューに載せるのではなく、
注文した人だけが受けられる体験をつけることで、価格の違いを伝える
という考え方です。
店主が焼いた肉に合わせてワインや日本酒を提案できれば、肉の追加だけでなく、ドリンクの注文にもつながります。
暗くするのではなく、見る場所を絞る
店内は、全体の照度を抑えます。
ただ暗い店にするのではありません。
客に見てほしい場所だけを、スポットライトで浮かび上がらせます。
床は墨色のタイルです。
その他の壁は土壁を思わせる塗材とし、一部だけ石張りの壁を設けます。
その前には盆栽を置き、店内の一つの景色として見せます。
石、土、木を店内全体へ均等に使うと、典型的な和風焼肉店に見えやすくなります。
今回は、石壁と盆栽を一つの象徴として絞り、その他の壁は光を受ける背景にしました。
天井は木板張りです。
暗い天井の中に木の表情がわずかに見えることで、空間全体に温度を残します。
照明は、すべてスポットライトを基本にします。
- 中央で肉を切る手元
- ワインクーラーのボトル
- 石壁と盆栽
- カウンターに置かれた皿
- 客の前にある網焼き部分
だけに光を集めます。
特に網の上は、肉の色と焼き加減を確認できる照度を確保します。
客席全体を明るくするのではなく、2人の前にある網と料理だけを少し明るくする。
これによって、一つのU字カウンターの中に、席ごとの小さな舞台が生まれます。
店主が特別な肉を焼くときには、その光の中へ店主の手元が入ります。
中央の肉を切る舞台と、客席で肉を焼く舞台がつながる瞬間です。
音を抑え、2人の時間を守る
BGMは、全体的に音量を落とします。
ただし、無音に近い静かな店にはしません。
U字カウンターでは、反対側の客や店主との距離も近くなります。
BGMが小さすぎると、別の客の会話や注文の声が直接聞こえやすくなり、かえって落ち着きがなくなります。
ゆったりした音楽を低めの音量で流しながら、
- 肉を切る音
- 網の上で肉が焼ける音
- グラスが置かれる音
- 2人の会話
が自然に重なる状態を考えました。
焼肉店としての活気は残しながら、居酒屋のような騒がしさにはしない。
この店の音は、静けさをつくるためではなく、2人の会話が店内全体へ広がりすぎないための背景として使います。
限られた席の価値を高める焼肉店

今回の店では、20席以上を無理に確保することを優先していません。
U字カウンターの内側に、肉を切る舞台とワインクーラーを設け、客席には一組ごとの焼き台を用意します。
その分、一般的なテーブル配置より席数は限られます。
しかし、この店で売上をつくる方法は、安い肉を多くの人に短時間で提供することではありません。
通常の肉を自分たちで焼く楽しさを残しながら、特別な肉だけは店主に焼いてもらう。
目の前で切られる肉を見て、もう一皿追加したくなる。
ワインクーラーを眺めながら、肉に合う酒を選びたくなる。
2人で少し長く過ごし、次に何を頼むかを話したくなる。
その一つひとつが、客単価をつくります。
外からは中を見せすぎず、入った先にU字カウンターと肉の舞台が現れる。
暗い店内で、肉、網、酒、石壁だけが光の中に浮かび上がる。
そして食事の途中で一度だけ、店主が特別な肉を焼く。
それが、今回考えた隠れ家的なカウンター焼肉店です。
HAGANEについて
HAGANEは、音と空間からブランド体験をデザインしています。
ファサードから見せる情報、客席と店主の距離、肉を切る動き、料理に落ちる光、焼ける音、酒を選ぶ時間までを一つの体験として考えます。
関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。
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