
約15坪のとんかつ店|ロードサイド店舗
店舗前には12台分の駐車場があり、来店の中心は車になります。
昼は会社員や夫婦客が定食を食べ、夜は家族や2人客が、上ロースやヒレ、単品料理、ビールやハイボールまで楽しむ。
この店で最初に考えたのは、内装の雰囲気ではありません。
幹線道路を走る車から、どうすれば店を認識してもらえるのか。
そして、認識された後に、どうすれば安いロードサイド店には見せず、少し良いとんかつを食べる店として期待してもらえるのか。
今回の設計では、この二つを同じ見せ方で解決しようとは考えませんでした。
遠くからは、分かりやすく見せる。
近づくほど、情報を減らす。
その切り替えによって、来店のきっかけと料理への期待をつなげています。
道路では、とんかつ店であることを一瞬で伝える

幹線道路沿いでは、店名だけを掲げても、何を提供する店なのかまでは伝わりません。
特に車で通過する人が看板を見る時間は短く、細かな説明やメニューを読む余裕はありません。
そこで道路沿いの看板には、店名と、とんかつの宣材写真だけを載せることにしました。
背景は墨色です。
その上に、衣の質感や肉の断面が分かる写真を大きく見せます。
価格やメニュー数を並べる方向にはしていません。
今回伝えたいのは、
「とんかつを食べられる店であること」
「少し良さそうなとんかつであること」
の二つだからです。
情報を増やすと、看板は読ませるものになります。
今回は、文章を理解してもらうよりも、写真を見た瞬間に食欲と期待が生まれることを優先しました。
ただし、建物まで同じように料理写真や大きな文字で埋めることはしていません。
道路沿いの看板で業態は伝わっています。
その先のファサードまで、とんかつ店であることを繰り返し説明すると、価格や量で選ばれるロードサイド店の印象が強くなると考えたからです。
看板は、駐車場へ車を入れてもらうためのもの。
建物は、ここで食事をする価値を感じてもらうためのもの。
今回は、その役割を分けました。
駐車場から先は、小料理屋のような佇まいへ切り替える

車を停めた後に見える建物は、小料理屋を思わせるような佇まいにしました。
外壁は、墨を混ぜたモルタルの金鏝仕上げです。
入口は、木製枠のガラス2枚引き戸だけにします。
既存の窓は残さず、壁に変えました。
郊外店だからといって、駐車場から客席を全面的に見せる必要はないと考えたからです。
道路では、とんかつ店であることを分かりやすく見せています。
そのため、建物へ近づいた後は、店内のすべてを見せるよりも、引き戸越しに光や人の気配が少し伝わる程度に抑えた方が、料理への期待を持たせられます。
ファサードには、大きな看板を付けません。
小さなアイアン製のサインを壁に取り付け、電球色のブラケット照明で照らすだけにしました。
看板を見て駐車場へ入り、建物へ近づくと、情報が減っていく。
この変化によって、
「分かりやすいとんかつ店」から、
「少し良い食事をする店」へ、
来店客の意識を切り替えたいと考えました。
車を降りてから引き戸を開けるまでの数歩に、明るい駐車場とは異なる光と陰影を入れます。
この短いアプローチがあることで、単に食事を済ませる店ではなく、
「今日は少し良いとんかつを食べに来た」
という気持ちへ切り替わると考えました。
郊外店の価格感は、料理だけで決まるものではありません。
車を停めた後、どのような景色を見ながら入口へ向かうのか。
その時間も、料理の価値を感じてもらうための設計に含めています。
見せるのは厨房全体ではなく、とんかつが完成へ近づく瞬間

今回、厨房を全面的なオープンキッチンにはしていません。
とんかつ店で客席から見せたいのは、洗い場や冷蔵庫、下処理の作業ではないと考えたからです。
見せたいのは、油の中で衣が立ち上がり、料理が完成へ近づいていく瞬間です。
そこで、フライヤーを客席側へ配置しました。
客席とフライヤーの間にはガラスを設け、約500mmの防炎垂れ壁を下げます。
油や熱、においに配慮しながらも、揚げている気配は客席へ伝わる構成です。
厨房全体を見せるのではなく、客が料理への期待を持てる工程だけを切り取りました。
フライヤーの背景には、光沢のある細型磁器タイルを縦方向に張ります。
色は深い墨色です。
厨房壁を白く明るく見せるのではなく、墨色の光沢タイルを背景にすることで、照明を受けた揚げ場と料理人の動きを浮かび上がらせたいと考えました。
とんかつが揚がっていく時間そのものを、店内の舞台にしています。
ただし、揚げ上がった料理を、その場から直接客席へ渡す構成にはしていません。
料理は受け渡しカウンターから店内へ提供します。
揚げ場で期待をつくり、完成した料理は別の場所から落ち着いて届ける。
この流れによって、厨房のライブ感と、客席で食事を楽しむ時間を分けています。
厨房内はステンレスで仕上げています。
客席から見える場所には、墨色の光沢タイルを使い、働く場所には清掃性と耐久性のあるステンレスを使う。
すべてを同じ素材で見せるのではなく、見せる場所と機能を優先する場所を分けました。
昼の回転と夜の客単価を、同じ空間の光で変える
店内は、2名席を基本に構成します。
昼は1人客や2人客を案内しやすく、夜は夫婦や2人客が落ち着いて食事をできる。
4人家族には、隣り合う2名席を連結して対応します。
固定された4名席を多くつくるよりも、その時間帯の来店人数に合わせて使い方を変えられる方が、この店には合うと考えました。
テーブルと椅子には、上質な木製家具を選びます。
回転率だけを優先した軽い家具にはしていません。
一方で、長時間身体を預けるラウンジ家具のような深い座り心地にもしていません。
昼の食事のテンポを妨げず、夜には料理と会話を楽しめる。
その中間にある座り心地を選びます。
今回、家具の質は夜の客単価にも関わると考えました。
同じ上ロース定食やヒレかつが置かれていても、軽いテーブルと椅子の上に置かれるのか、触れたときに質感を感じる木製家具の上に置かれるのかで、料理の受け取られ方は変わります。
店内の床は墨色のタイルです。
壁は土壁を思わせる塗り仕上げとし、天井には木板を張ります。
木材を多く使って、分かりやすい和風の店にすることは避けました。
墨色の床、塗り壁の陰影、木板天井、上質な木製家具。
それぞれの質感を使いながら、安い和風インテリアには見えない空間を考えています。
壁と床の間には間接照明を入れます。
壁全体を明るく照らすのではなく、低い位置に光を流すことで、夜の店内に奥行きをつくります。
昼と夜で、内装の印象を大きく変えることはしていません。
同じ店が、昼は食事のテンポを持ち、夜は料理の価値を感じられる場所へ変わる。
その切り替えは、色温度ではなく照度で行います。
照明の色は、昼も夜も電球色を基本にします。
昼は全体の照度を上げます。
入口から席までが分かりやすく、料理も明るく見える。
店内全体を見せることで、入店、着席、食事、退店までのテンポをつくります。
夜は全体照度を落とします。
各テーブルに設けたピンスポットの光を強く感じさせ、料理と器、木製テーブルの上に視線を集めます。
昼は空間全体を見せる。
夜は料理と席を見せる。
同じ素材と家具を使いながら、光の重心だけを変えることで、昼の回転と夜の滞在をつなげています。
夜のBGMも、店内の空気をゆっくりさせるものを選びます。
ただし、静かな高級店にすることが目的ではありません。
油の中で衣が揚がる音。
料理がテーブルへ置かれる音。
家族や夫婦の会話。
とんかつ店に必要な活気は残します。
BGMはそれらを消すのではなく、夜の店内に少しゆったりした時間をつくるために使います。
照度を落とし、料理に光を集め、音のテンポも少し緩やかにする。
その変化によって、昼は定食を食べる店、夜は上位商品やドリンクまで楽しむ店として使われることを考えました。
来店される分かりやすさと、価格以上に感じる体験を分けてつくる

今回の店では、道路から入口までを、同じデザインで統一していません。
道路では、店名ととんかつの写真によって、何の店なのかを一瞬で伝えます。
駐車場へ入ると、料理写真や大きな文字はなくなり、植栽と光のアプローチが始まります。
建物へ近づくと、墨色の外壁と木製枠の引き戸、小さなアイアンサインだけが見えます。
店内へ入ると、上質な木製家具と墨色の床があり、その先で、とんかつが揚がっていく工程だけが見えます。
遠くでは分かりやすく、近づくほど情報を減らす。
この設計によって、幹線道路沿いに必要な来店率と、夜に上位商品やドリンクを選びたくなる価格感を両立させたいと考えました。
郊外店だから、大きな看板と明るい店内だけでつくるのではありません。
見つけてもらうための分かりやすさと、食事の価値を感じてもらう体験を、それぞれ異なる場所でつくる。
それが、今回のとんかつ店で考えたブランド体験です。
HAGANEについて
HAGANEは、音と空間からブランド体験をデザインしています。
店舗の内装だけではなく、道路から店を見つけ、駐車場へ入り、入口まで歩き、料理が完成する様子を見ながら食事をするまでの時間を設計します。
看板、ファサード、アプローチ、家具、厨房、照明、音を一つの体験としてつなぎ、郊外立地や小さな店舗でも、来店と売上につながる空間を考えます。
関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。
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