
約12坪のピッツェリア
来店の中心は徒歩客です。
車で通過する人に大きな看板を見せる店ではなく、店の前を歩く人に、
「ここでピッツァとワインを楽しみたい」
と感じてもらう必要があります。
そこで今回は、ファサードだけを目立たせるのではなく、店内の明かり、席の密度、厨房の気配までを外観として見せることにしました。
昼は1人でも入りやすく、夜は2人で前菜やワインまで楽しめる。
12坪という小ささを広く見せるのではなく、料理と会話が生まれる密度として使っています。
白いファサードの奥に、店内の熱量を見せる

外壁には、光沢のある白いモザイク状の磁器タイルを使います。
細い通りの中で店の輪郭を明るく見せながら、夕方以降は店内から漏れる電球色の光を受け、昼とは異なる表情をつくります。
入口は、ブランドカラーで塗装した鋼製建具。
白い外壁の中に建具の色を置くことで、遠くからでも入口の位置が分かり、店の印象としても記憶に残りやすくなります。
今回、徒歩客に見せたいのは、建物の造形だけではなく、その奥で起きていることです。
ガラス越しに見える白いテーブル。
各席まで下がる吊り下げ照明。
天井から緩やかに掛かる布。
奥に並ぶワインボトルと厨房の光。
店内に客が入れば、その密度や動きも通りから見えてきます。
料理写真や大きな説明を並べるよりも、店の中でどのような時間を過ごせるかを、実際の景色として伝える方が、この立地には合うと考えました。
店外の丸椅子が、店と通りをつなぐ
入口の外には、丸椅子を3脚程度配置します。
主な役割は、テイクアウト客の待機場所です。
ただし、単なる待合設備として置くのではありません。
人が少し腰掛けられる場所がファサードに加わることで、完成されすぎた白い外壁と鋼製建具に、気軽に立ち寄れる空気が生まれます。
ベンチを大きく設置すると、テイクアウト専門店やファストフード店の印象が強くなります。
今回は3脚程度に抑え、必要なときだけ使える軽い居場所にしました。
店内で食事をする人、店外で商品を待つ人、店の前を歩く人。
それぞれの動きが入口付近で重なることで、店が通りに対して閉じず、自然な活気が生まれます。
テイクアウト客を完全に店内へ入れてしまうと、入店する客と動線が重なり、入口から見せたい客席の景色も塞いでしまいます。
店外に小さな待機場所をつくることで、店内飲食の体験を守りながら、テイクアウトにも対応しています。
12坪の小ささを、活気へ変える

店内には、2名用のテーブルを7卓程度配置します。
席数は約14席です。
店内を広く見せるためにテーブルを小さくしたり、席数を極端に減らしたりすることは考えませんでした。
夜のテーブルには、ピッツァだけでなく、前菜、ワイン、グラス、取り皿が並びます。
2名席としては少し大きめのテーブルを使うことで、追加注文を受け止められる余白を確保しています。
テーブルは木製で、ホワイト塗装。
床はテラコッタタイル、壁はラフなホワイトクリームの塗り壁。
天井は2階床のコンクリートスラブを現しにし、素材の粗さを残します。
白を基調にしながらも、均質で新しいだけの空間にはしません。
テラコッタの色むら、塗り壁の陰影、木製家具の質感、コンクリートの粗さを重ねることで、使い込まれたような温度を持たせています。
テーブル同士の距離は、少し近めに設定します。
隣席の存在や厨房の動きを完全に消すのではなく、その気配を店の活気として使います。
この店では、静かで余白の大きなレストランを目指していません。
少し窮屈だからこそ、店に客が入ったときの熱量が外からも伝わり、店内でも「今、この場所で食事をしている」という感覚が生まれます。
一方で、席が近いだけでは落ち着きがなくなります。
そこで、各テーブルの上には専用の吊り下げ照明を設けました。
天井全体を均等に明るくするのではなく、テーブルごとに光の範囲をつくります。
席同士の距離が近くても、自分たちの食事に視線を集中できるようにするためです。
天井から掛ける布も、雰囲気をつくるだけではありません。
硬いコンクリートスラブの印象を和らげ、店内の密度を包み込む柔らかな層として使っています。
ピザ窯は、入店した人の期待を高めるために見せる
厨房は店内の奥に配置します。
ピザ窯については、通りから明確に見せることを最優先にはしていません。
店外からは、客席の奥に厨房の光や窯の存在が少し感じられる程度で十分です。
今回、窯を最も楽しんでもらいたいのは、店内に入った人です。
席に着いたときに、
- ピザを窯へ入れる動き
- 炎の揺れ
- 焼き上がりを確認する姿
- 料理が完成していく気配
が感じられる。
その景色が、ピッツァを待つ時間を店の体験に変えます。
厨房の開口部には、約500mmの垂れ壁を設けます。
その下をガラスで仕切り、客席側からピザ窯と調理の動きが見えるようにしました。
ただし、厨房全体を見せるわけではありません。
洗い場や食材のストック、下処理まで見えると、料理への期待よりも作業場としての印象が強くなります。
見せるのは、ピッツァが完成に近づく工程だけです。
厨房内部はステンレス貼りとし、清掃性と機能性を優先します。
一方、客席側から見える厨房外壁には、外壁と同じ白いモザイクタイルを使います。
通りからファサード、客席、厨房まで、同じタイルの質感が連続することで、奥行きのある細長い店舗に一本の軸をつくっています。
オープンカウンターの上にはワイングラスを吊り、周囲にはワインボトルを陳列します。
窯だけを見せると、ピッツァを短時間で食べる専門店に寄りやすくなります。
窯の炎とワインを同じ景色に入れることで、
「焼きたてのピッツァと一緒に、前菜やワインも楽しむ店」
という夜の使い方を伝えています。
光と音で、店内の過ごし方を変える
客席の照明は、昼も夜も電球色を基本にします。
昼は全体の照度を上げます。
入口から客席までが明るく見え、初めて来る人や1人客でも入りやすい状態です。
夜は全体照度を落とし、各テーブルの吊り下げ照明を強く感じさせます。
空間全体を見る光から、料理とワインを見る光へ重心を変えます。
厨房は客席よりも少し色温度を高くします。
ただし、白く明るく浮かび上がらせることが目的ではありません。
ステンレスや窯の輪郭が認識でき、客席側から調理の動きが見える程度の差に抑えます。
厨房だけが青白く見えると、店の奥に工場があるような印象になります。
客席の電球色と完全に分離させず、窯の炎や料理の色が自然に見える範囲で光を切り替えます。
BGMは、一般的な小さなレストランよりも少しボリュームを上げます。
今回は、テーブル同士を近づけ、厨房の動きやグラスの音も含めて店の熱量をつくっています。
その中でBGMは、隣席の会話が直接聞こえすぎることを抑えながら、店全体の空気を一つにつなぐ役割を持ちます。
音を小さくして静けさをつくるのではなく、会話、厨房、音楽が適度に重なる状態をつくる。
店内の密度と音の密度を合わせることで、この店らしい活気が生まれると考えました。
通りから見える活気を、夜の注文につなげる

今回のピッツェリアでは、徒歩客を引き込むために、窯だけを大きく見せたり、料理写真を前面に出したりすることはしていません。
白いモザイクタイルとブランドカラーの入口によって店の存在を伝え、その奥にある客席の密度や照明、ワイン、厨房の気配を見せます。
店外の丸椅子には、テイクアウトを待つ人が座る。
ガラス越しには、近い距離に並ぶ白いテーブルと吊り下げ照明が見える。
店内へ入ると、奥のピザ窯とワインの景色が現れる。
外では入りやすさを伝え、内では食事への期待を高める。
この順番によって、昼は気軽にピッツァを食べる店として使われ、夜は前菜やワインまで楽しむ場所へ変わります。
12坪という小ささを隠さず、席の近さ、厨房の気配、人の動きを店の魅力として使う。
それが、今回考えた徒歩客を引き込むピッツェリアです。
HAGANEについて
HAGANEは、飲食店のデザインを中心に音と空間からブランド体験をデザインしています。
通りから見える店内の景色、入口で生まれる人の動き、席の密度、厨房の見せ方、料理に落ちる光、BGMの音量までを一つの体験として考えます。
関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。
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