8坪・10席。ジャズと炭火で客単価をつくる焼き鳥店

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約8坪の小さな焼き鳥店

席はカウンター10席だけ。
店内にはジャズが流れ、薄暗い客席の正面で、炭火を扱う料理人の姿が浮かび上がります。

焼き鳥店は、串の本数だけでは客単価を上げにくい業態です。

最初のドリンクを注文し、焼き鳥を追加し、もう一杯飲み、最後に一品や締めを頼んでもらう。その流れが生まれなければ、限られた10席で十分な売上をつくることは難しくなります。

だから今回は、席を詰め込むことよりも、焼き台の所作、料理の見え方、酒の存在、店内に流れる音を使って、一席ごとの注文を厚くすることを考えました。

8坪という小ささを隠すのではなく、料理人と客の距離が近いことを、この店の価値に変えています。

千本格子の向こうに、少しだけ店の気配を見せる

ファサードには、炭を混ぜたモルタルを使います。

漆喰のように平らに塗り込めるのではなく、金鏝の動きを少し残し、炭の深い色と左官の表情が感じられる仕上げにしました。

入口は、千本格子の上吊り引き戸です。

大きなガラス面で店内をすべて見せる方向にはしていません。

格子の隙間から、店内の光やカウンターの一部、料理人が動いている気配が少しだけ見える。その程度に抑えています。

今回つくりたかったのは、通りからすべてが理解できる焼き鳥店ではありません。

「中はどうなっているのだろう」
「少し特別な店かもしれない」

と感じてもらえる余白を残したいと考えました。

壁には小さなサインだけを取り付け、電球色のブラケット照明で照らします。

大きな看板や赤提灯で業態を説明するのではなく、炭色の壁、千本格子から漏れる光、小さなサインによって、隠れ家のような焼き鳥店として記憶してもらいます。

10席しかないのではなく、10席に体験を集中させる

店内は、カウンター席だけで構成しました。

長さは約7,800mm。
カウンターの前に10席を並べます。

8坪の店内にテーブル席まで入れようとすれば、もう少し多くの客を受けられるかもしれません。

ただし、客席の種類が増えるほど、焼き台と客の関係は弱くなります。

今回の店では、どの席に座っても、料理人が串を返し、火入れを確認し、焼き上がった一本を仕上げる姿が見えることを優先しました。

客はカウンターに座り、ジャズを聴きながら、正面の焼き台を眺めます。

隣の客に次の串が提供される。
ワインがグラスに注がれる。
料理人が次の食材を炭火へ置く。

その光景が、もう一本、もう一杯という注文につながると考えています。

席数を増やして一度に多くの客を入れるのではなく、10席すべてを焼き台と向き合わせ、注文が生まれやすい距離をつくりました。

長い一枚板のカウンターを、店の象徴にする

カウンターには、木製の一枚板を使います。

幅は約600mmです。

今回の空間は、墨色の床、モルタルの壁、黒いモザイクタイル、ステンレスの厨房と、硬質な素材を中心に構成しています。

その中に一本の長い木製カウンターを入れることで、客が触れる場所にだけ温度を持たせました。

木を多く使って和風の雰囲気をつくるのではありません。

客の手が触れ、料理と酒が置かれるカウンターに木を集中させることで、その一枚板を店の象徴にしたいと考えました。

カウンターに座ったとき、目の前には焼き台があり、上には料理を照らす小さな光が落ちます。

店全体を装飾するよりも、客が過ごす場所と料理が置かれる場所を丁寧につくる。その方が、8坪の空間には強い印象が残ると判断しました。

焼き台を、厨房設備ではなく舞台として見せる

焼き台は、カウンターに向かって設置します。

この店で最も見せたいのは、完成した焼き鳥だけではありません。

炭の状態を確認する。
串を返す。
焼き色を見る。
火から外す。
最後に味を決める。

その一連の所作が、焼き鳥を待つ時間の価値になると考えました。

ただし、焼き台と客席の間を完全に開放するわけではありません。

カウンター側には、手元を少し隠す程度の小壁を設けます。

小壁は黒い光沢のあるモザイクタイルで仕上げ、上部には木製の笠木を載せます。

焼き台の足元や作業台は隠しながら、料理人の上半身と串を扱う動きは見せる。焼き上がった料理は、その木製笠木の上から客へ提供します。

すべてを公開するのではなく、見せたい動きだけを切り取ることで、焼き台を舞台として成立させています。

防炎垂れ壁も約500mm下げ、黒い光沢モザイクタイルで仕上げます。

安全上必要な部分を、単なる設備として白く残すのではなく、小壁と同じ素材でつなぎ、焼き台を囲む一つのフレームとして見せることにしました。

客席を暗くし、厨房を明るくする

店内の照度は、少し低めに設定します。

一方で、厨房と焼き台は客席よりも明るくします。

薄暗い客席から、料理人の動きと炭火のまわりだけが明るく見える。その照度差によって、厨房を店の舞台にしたいと考えました。

店全体を暗くして雰囲気をつくるだけでは、料理の色や清潔感が見えにくくなります。

今回は、客席に落ち着きを持たせながらも、料理と厨房は明確に見せます。

カウンター上には専用のピンスポット型ダウンライトを設け、提供された焼き鳥や小皿料理を一皿ずつ照らします。

店内全体を均一に明るくするのではなく、

  • 料理人が立つ厨房
  • カウンターに置かれた料理
  • ワイングラス

に光の重心を置きました。

焼き鳥が提供されるたびに、暗いカウンターの上へ料理が浮かび上がる。

その見え方によって、一串ずつの価値を感じてもらいたいと考えています。

モノトーンの中に、木と炭火の温度を残す

床は、清潔感を優先して墨色のタイル貼りとしました。

焼き鳥店では油や炭を扱うため、雰囲気だけで素材を選ぶことはできません。

墨色のタイルで空間を引き締めながら、日々の清掃や維持にも配慮します。

客席側の壁は、モルタルの金鏝仕上げです。

均一に塗りつぶすのではなく、照明を受けたときに鏝の表情がわずかに見える程度に残します。

厨房内はオールステンレス貼りです。

客席側には炭やモルタルの少し粗い表情を使い、厨房側にはステンレスの清潔感と緊張感を出します。

焼き鳥店らしい親しみは、木製カウンターと炭火の色でつくる。厨房の品と清潔感は、ステンレスで見せる。

素材ごとの役割を分けることで、無骨でありながら、安い大衆店には見えない空間を考えました。

木板天井で、7,800mmのカウンターを強調する

天井には、木の板を長手方向に張ります。

間口の狭い店舗では、天井材の方向によって空間の見え方が大きく変わります。

今回は、約7,800mmの長いカウンターと同じ方向へ木板を流すことで、入口から店内奥までの奥行きを強調しました。

壁や床をモノトーンで抑えているため、天井に木を使っても、民芸的な焼き鳥店にはなりません。

むしろ、長い一枚板カウンターと木板天井が同じ方向へ伸びることで、10席の小さな店に一本の軸が生まれます。

入口から奥を見たときに、カウンター、天井、照明、厨房のすべてが焼き台へ視線を導く構成です。

ジャズで、大衆焼き鳥店とは違う時間をつくる

今回、店内にはジャズを流します。

単におしゃれな雰囲気を加えるためではありません。

焼き鳥店には、炭火の音、皿を置く音、料理人と客の会話など、多くの音があります。

それらを消して静かな店にしたいわけではありません。

一方で、会話や厨房音だけが空間を支配すると、大衆的な賑やかさに寄りやすくなります。

ジャズを店内に薄く広げることで、炭火や会話の音を残しながら、この店の時間に一定のリズムをつくりたいと考えました。

一人で来た客にとっては、ジャズが店内で過ごすための背景になります。

二人客にとっては、周囲の会話を気にしすぎずに過ごせる空気になります。

焼き台の音とジャズが重なり、静かすぎず、騒がしすぎない。

その音の距離感が、料理と酒をゆっくり楽しむ店の品につながります。

ワインを見せ、焼き鳥だけで終わらせない

厨房内には、ワインラックをデザインの一部として設けます。

ワインをメニューの中だけに置いても、焼き鳥を食べに来た客が自然に注文するとは限りません。

目の前の厨房にボトルが見え、料理人がワインを扱う姿が見えることで、焼き鳥とワインを合わせる店だと伝わります。

焼き鳥屋にワインが置いてあるのではなく、焼き鳥とワインを楽しむことが、この店の体験として最初から組み込まれている状態をつくります。

ラックは、単に本数を多く見せるための収納にはしません。

焼き台の舞台を邪魔しない位置に置き、ラベルやボトルの形が照明の中で見えるようにします。

焼き鳥が提供される。
厨房の奥にはワインが見える。
隣の客がグラスを追加する。

その景色が、次の一杯を頼むきっかけになります。

客単価を上げるために、接客で強く勧めるのではなく、酒を頼みたくなる景色を店内につくりました。

8坪だからこそ、記憶に残る体験へ絞る

今回の店には、テーブル席も個室もありません。

大きな看板も、派手な装飾もありません。

あるのは、千本格子の引き戸、長い一枚板カウンター、正面の焼き台、薄暗い客席、明るい厨房、ジャズ、そしてワインです。

小さい店で多くの要素を入れようとすると、何の店なのかが分かりにくくなります。

今回は、焼き台を眺めながら、焼き鳥と酒を楽しむという体験だけに集中しました。

外では店内を見せすぎず、格子の向こうに期待を残す。

中に入ると、10席すべてが料理人の所作に向いている。

料理には光が落ち、厨房にはワインが見え、ジャズが店内の時間をつくる。

8坪という面積を、店の可能性を狭める条件にはしていません。

体験を絞り込み、記憶を強くすることで、10席でも焼き鳥の追加注文と酒の二杯目につながる店を考えました。

それが、今回設計したジャズが流れる焼き鳥店です。

HAGANEについて

HAGANEは、音と空間からブランド体験をデザインしています。

席数を確保するだけではなく、客が店を見つけ、扉を開け、料理人の動きを眺めながら、料理や酒を追加したくなるまでの流れを設計します。

ファサード、カウンター、厨房、素材、照明、音を一体で捉え、小さな店舗でも、その店にしかない体験と売上につながる空間を考えます。

関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。

飲食店のデザインについては全国対応しております。

この記事を書いた人

建築士として、空間デザイン、音響映像デザイナーとして。
音と空間が、店の印象や人の行動をどう変えるのか。
マーケティング、ブランディングの視点も加えながら、
HAGANEの設計思想を、青川の言葉で発信しています。

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