郊外の洋食店を、女性客と夫婦がわざわざ訪れる店へリノベーション


滋賀県郊外で、長年営業してきた洋食レストランの改装の提案事例です。

現在も地域で一定の認知があり、週末にはファミリー客が訪れています。一方で、平日の夜は来店が少なく、食材費や人件費が上がるなか、現在の客単価と店舗の印象を維持し続けることには限界があります。

今回、最初に考えたのは内装の雰囲気ではありません。

この店が、これから誰に選ばれるべきなのか。

その人は、なぜ郊外まで車を走らせるのか。

価格が少し上がっても、また訪れたいと思ってもらえる理由をつくれるのか。

そこから設計を考えました。

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郊外の既存店は、誰に選ばれる店へ変えるべきか

郊外型の飲食店では、駐車場があることから、ファミリー層を中心に考えるケースが多くなります。

ただ、ファミリー層を広く集めようとすると、席数、料理の量、提供速度、価格の分かりやすさが優先されます。

その結果、周辺のファミリーレストランや大型飲食店と比較されやすくなり、価格と利便性の競争に入りやすくなります。

今回の店は、すでに地域で知られています。

新しい店として認知を一からつくるのではなく、これまでの安心感を活かしながら、来店目的を変えられる可能性があります。

そこで今回は、ファミリー層をさらに広く取り込むのではなく、30代から50代の女性客と、夫婦2人で食事を楽しみたい人を中心に考えました。

友人を誘って少し長く話したい。

普段より少し良いランチを楽しみたい。

夫婦で料理と会話をゆっくり味わいたい。

そのような時間を求める人にとって、郊外という立地は必ずしも不利ではありません。

駐車場があり、人通りや時間を過度に気にせず過ごせることは、目的来店の理由にもなります。

今回は、誰にでも合わせた店ではなく、女性客や夫婦が「この店で時間を過ごしたい」と感じることを優先しました。

客単価を上げる前に、価格へ納得できる理由をつくる

今回の改装では、客単価を上げる必要があります。

しかし、料理の価格だけを上げても、店の見え方や過ごし方が以前と変わらなければ、顧客には単なる値上げとして受け取られます。

必要なのは、高級店に見せることではありません。

価格が上がった理由を、料理だけでなく、店に入るまでの期待、席に着いたときの安心感、食事中の会話、食後に過ごす時間まで含めて感じてもらうことです。

今回は、料理を食べて帰るだけの店ではなく、過ごした時間そのものに価値を感じてもらう店を目指しました。

この判断が、予算の配分、席数、素材、照明、音、厨房の見せ方まで、すべてにつながっています。

限られた改装予算を、どこに使うべきか

既存店の改装では、外観を大きく変えれば、店舗が新しくなったことは伝わりやすくなります。

ただし、外壁や建物形状まで全面的に改修すると、それだけで予算の多くを使ってしまいます。

外からの印象を変えても、店内で感じる価値が以前と大きく変わらなければ、再来店や客単価の向上にはつながりにくいと考えました。

そこで今回は、外装全面改修よりも、店内でのブランド体験に予算を使うことを優先しています。

外壁は既存を活かし、真っ白に塗装します。

扉と窓にはブランドカラーを使い、建物全体をつくり変えなくても、以前とは違う印象を与えます。

そして、ファサードの中心を建物そのものではなく、駐車場から入口までのアプローチに移しました。

建築を大きく変えなくても、店への近づき方を変えることで、顧客が感じる期待は変えられると考えたからです。

車を降りた瞬間から、店の印象は始まっている

郊外店では、車から見えるファサードが重要です。

ただし、道路から大きな看板を見せることだけが、ファサードの役割ではありません。

今回の店は、地域ですでに知られています。

必要なのは、何の店かを一から説明することではなく、以前から知っている店が変わったと感じてもらうことです。

アプローチには植栽を配置します。

建物を完全に隠すのではなく、葉の隙間から、真っ白な外壁、印象的な窓、ブランドカラーの扉が見える構成を考えました。

すべてを一度に見せず、入口へ近づくにつれて店の姿が見えてくることで、到着から入店までに期待が生まれます。

駐車場から入口までは、レンガの小道を歩く構成にします。

均一に舗装された通路ではなく、雑木林のなかを歩くような印象です。

車を降り、植栽の間を歩き、白い建物へ近づいていく。

この短い時間によって、日常の移動から、食事を楽しむ時間へ気持ちを切り替えます。

料理を提供する前から、店の体験は始まっています。

だからこそ、アプローチを単なる通路ではなく、来店目的を高める空間として考えました。

大きな看板より、記憶に残る見え方をつくる

郊外のロードサイド店舗では、大きな看板に店名、料理写真、価格を掲載する方法もあります。

分かりやすさはありますが、情報を多く見せるほど、店の印象は説明的になります。

今回は、女性客や夫婦がわざわざ訪れる店を目指しています。

そのため、大きな看板で料理や価格を強く訴求するよりも、「何か変わった」「少し気になる」と思わせる見え方を優先しました。

植栽の手前に石を積み、店名とその日のメニューを静かに掲示します。

石、植栽、白い外壁、印象的な扉。

限られた要素で構成することで、車から見たときにも記憶に残る存在をつくります。

看板は店をすべて説明するものではなく、次に訪れる理由を残すものだと考えました。

女性客が人を誘いたくなる店内とは

店内では、女性客が料理だけでなく、そこで過ごした時間そのものに満足できる空間を目指しました。

壁には、オフホワイトに塗装した木板を縦方向に貼ります。

床にはテラコッタタイルを使います。

白と素焼きの色によって、南フランスを思わせる空気は生まれると思います。

ただ、特定の様式を再現したいわけではありません。

今回必要なのは、落ち着いているけれど、日常の延長ではないこと。

気取っていないけれど、誰かを誘いたくなること。

高級感を強く出しすぎると、既存客が入りにくくなります。

一方で、以前と同じナチュラルな洋食店の延長では、価格を上げる理由が生まれません。

そこで、装飾を増やすのではなく、白、土、木、自然光という要素に絞りました。

オフホワイトの木板は、自然光や照明を柔らかく受け止めます。

テラコッタタイルは、均一ではない素焼きの表情によって、店内に温度を与えます。

女性客が写真を撮りたくなることも大切ですが、それ以上に、長く過ごしても疲れず、また別の人を連れてきたくなることを重視しました。

店内全体より、席に着いたときの感覚を優先する

壁に貼ったオフホワイトの木板は、天井まで連続させます。

壁と天井を別々の意匠で構成すると、空間の情報量が増え、店内全体が説明的に見えます。

今回は素材を増やすことよりも、空間全体がひとつの印象として残ることを優先しました。

床のテラコッタ、壁と天井のオフホワイト、窓の外の植栽。

それぞれを主張させるのではなく、食事と会話の背景としてつなげます。

ただし、店内全体を美しく見せるだけでは十分ではありません。

顧客が実際に価値を感じるのは、入口から空間を眺めた瞬間だけではなく、席に着いてからです。

料理がどう見えるか。

向かいに座る人の表情がどう見えるか。

隣席の視線や会話が気にならないか。

今回は、空間全体の完成度だけでなく、一組ごとの過ごし方から店内を考えました。

席数を減らしても、売上を上げられる店を考える

既存店には48席あります。

席数を維持すれば、満席時の売上は確保しやすくなります。

しかし、今回取り込みたい女性客や夫婦客にとって、席数の多さは価値になりません。

隣席との距離が近く、会話が聞こえ、スタッフが慌ただしく行き交う店では、食事後にゆっくりコーヒーやデザートを楽しもうとは思いにくくなります。

そこで今回は、席数を少し減らし、テーブル同士の間隔に余裕を持たせます。

これは、単にゆったりした店にするためではありません。

食後の追加注文まで含めて、滞在時間を客単価へ変えるための判断です。

回転率だけを上げようとすると、滞在時間は短くなります。

一方で、女性客が友人と会話を楽しみ、食後にコーヒーやデザートを注文する店にできれば、一組あたりの売上は上げられます。

今回は、席数ではなく、一席あたりの価値を高める方を選びました。

円卓が、女性客と夫婦の会話を変える

テーブルは、円卓を中心に考えています。

円卓を選んだのは、雰囲気が柔らかく見えるからだけではありません。

四角いテーブルでは、向かい合う位置関係が明確になります。

円卓では、体の向きや視線が少しずれ、料理を囲みながら自然に会話ができます。

夫婦2人での食事にも、女性同士のランチにも使いやすい形です。

四角いテーブルは配置効率が高く、席数を確保しやすい一方で、店内が規則的に見えやすくなります。

今回は効率よりも、席に着いた人同士の距離感と、空間全体の柔らかさを優先しました。

テーブルごとの光が、特別な時間をつくる

店内全体の照明は、広い範囲を照らすダウンライトで構成します。

そのうえで、各テーブルに小さなシャンデリアタイプのペンダントライトを吊り下げます。

店内全体を均一に明るくすると、どの席に座っても同じ印象になります。

各テーブルに光の中心をつくることで、自分たちの席だけが切り取られたような感覚をつくります。

「あなただけのために用意された場所」と感じてもらうためです。

特別感を装飾の多さでつくるのではなく、光によって一組ごとの時間をつくります。

料理の色や質感が自然に見えること。

向かいに座る人の表情が柔らかく見えること。

写真を撮ったときに料理と手元が美しく見えること。

空間全体の雰囲気よりも、席に着いたときの体験を優先して照明を考えました。

昼の滞在時間を、客単価と再来店へ変える

一般的にランチ営業では、滞在時間を短くして回転率を高めることが重視されます。

しかし今回は、女性客がわざわざ訪れる店を目指しています。

食事が終わればすぐに退店してもらう店ではなく、食後の時間まで楽しめる店にした方が、今回のターゲットには合うと考えました。

重要なのは、滞在時間が長くなることを問題として捉えるのではなく、その時間を売上へ変えることです。

季節のケーキ、ベーカリー、ハンドドリップコーヒーなど、食後にも注文したくなる理由をつくります。

ハンバーグや地元野菜にこだわるのであれば、コーヒーやデザートも同じ基準で選ぶ必要があります。

主菜だけに価値があり、食後の時間が一般的な内容では、店全体の体験は途中で途切れてしまいます。

入口までの小道、席の光、料理、食後のコーヒーまでを、ひとつの来店体験として考えます。

長く滞在してもらい、追加注文が生まれ、また別の人と訪れてもらう。

今回は、回転率ではなく、滞在時間と再来店を売上へつなげる店を考えました。

昼は木漏れ日、夜は夫婦の会話を価値にする

昼は、大きな窓から植栽と自然光を取り込みます。

窓際は少しテラスのような開放感を持たせ、白い木板とテラコッタの床に木漏れ日が入る構成を考えました。

女性客が長く滞在したくなるのは、単に明るい店だからではありません。

季節や時間によって光と影が変わり、同じ席でも訪れるたびに違って見えることが、再来店の理由になります。

夜は、店内全体の照度を少し落とし、テーブルの光と料理へ視線を集めます。

酒を中心にした店ではなく、夫婦2人が食事と会話を楽しむ店として考えます。

アルコールを飲まない人でも利用しやすく、普段より少し良い夕食を楽しめることが重要です。

昼は開放感と会話。

夜は料理と2人の時間。

同じ空間でも、光の重心を変えることで、異なる来店目的をつくります。

オープンキッチンで、料理への信頼を伝える

厨房は、オープンキッチンにします。

長年営業してきた洋食店には、料理そのものへの信頼があります。

その強みを、メニューの説明文だけで伝えるのではなく、料理人の動きによって見せたいと考えました。

ハンバーグを焼く所作。

皿を仕上げる瞬間。

料理人同士の連携。

厨房を単に客席から見える場所にするのではなく、料理への姿勢を伝える舞台として考えます。

厨房内は、ステンレスを中心に構成します。

客席のオフホワイトやテラコッタとは異なる、機能的で緊張感のある素材です。

柔らかな客席の奥に、料理へ真剣に向き合う厨房が見えることで、居心地と料理への信頼を同時に伝えます。

厨房内の照明は、作業性を考えて白昼色系統とします。

ただし、その白い光が客席へ漏れると、店内の温かな光が壊れます。

厨房では作業性を確保し、客席からは料理人の手元と動きが自然に見えるよう、光の境界を考えます。

BGMで、昼と夜の会話のしやすさを変える

BGMも、店内の雰囲気づくりだけで選ぶものではありません。

昼は、女性客同士の会話が重なる時間帯です。

店内が静かすぎると、隣の話し声が聞こえ、自分たちの会話も周囲へ伝わっているように感じます。

そこで昼は、少し大きめの音量で適度な活気をつくります。

会話への警戒心を減らし、気兼ねなく過ごせる状態をつくるためです。

夜は、昼よりもスローテンポの音楽を選び、音量を少し下げます。

ただし、静かにしすぎるわけではありません。

夫婦の会話が周囲へ直接伝わらず、食器音や厨房音も気になりすぎない音量を考えます。

昼は、会話しやすい活気をつくる音。

夜は、2人の時間を邪魔しない音。

選曲、音量、スピーカーの配置までを、営業時間ごとの来店目的から考えました。

改装で変えるのは、見た目ではなく来店理由

今回の改装では、外装全面をつくり変えることよりも、誰に、どのような時間を提供する店なのかを明確にすることを優先しました。

植栽の間を歩くアプローチ。

真っ白な外壁とブランドカラーの扉。

オフホワイトの木板とテラコッタ。

円卓と、一組ごとに用意された光。

窓から見える木漏れ日。

料理人の所作が見える厨房。

昼と夜で変化するBGM。

これらは、南仏らしい店をつくるための装飾ではありません。

女性客が人を誘いたくなること。

夫婦が普段より少し良い時間を過ごせること。

食後のコーヒーまで楽しみ、また訪れたいと思ってもらうこと。

その来店理由をつくるために選んだデザインです。

価格を上げるために高級に見せるのではありません。

この店で過ごす時間に価値を感じてもらう。

その体験が、価格への納得と再来店につながると考えました。

郊外レストランの改装をご検討の方へ

郊外の既存店には、長年積み重ねてきた認知と顧客があります。

すべてを新しくするのではなく、残す価値と、変えるべき来店理由を見極めることが重要です。

店舗の改装では、素材や色を決める前に、これから誰に選ばれたいのかを考える必要があります。

ターゲット、客単価、滞在時間、昼と夜の使われ方から、空間、照明、音、厨房の見せ方までをつなげて考えます。

関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。

設計デザインについては、全国からご相談いただけます。

この記事を書いた人

建築士として、空間デザイン、音響映像デザイナーとして。
音と空間が、店の印象や人の行動をどう変えるのか。
マーケティング、ブランディングの視点も加えながら、
HAGANEの設計思想を、青川の言葉で発信しています。

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