
郊外型のベーカリーカフェでは、店内の什器や内装を考える前に、確認しなければならないことがあります。
それは、この店が一日に何組の来店によって成立し、その来店を受け止めるために何台分の駐車場が必要なのかという事業条件です。
郊外立地では、来店の多くが自動車になります。駐車しにくい、空いているか分からない、入口までの動線が見えない。こうした小さな不便が、来店のハードルになります。
一方で、駐車場に複数の車が停まっている光景は、幹線道路を通る人に店の存在と人気の気配を伝えます。
今回の記事では、約22坪の郊外型ベーカリーカフェを、損益分岐、駐車計画、道路からの視認性、ファサード、アプローチ、商品什器、イートイン、厨房、BGMまでを、一つのブランド体験として考え設計した提案事例です。
郊外の幹線道路沿いで、ベーカリーカフェを開業する
店舗面積は約22坪。パンは常時40〜50種類ほど用意し、朝と昼はテイクアウトを中心に、午後はイートインの利用も増やしたいと考えています。
ドリンク、スープ、サンドイッチとのセット販売も行い、地域の日常使いだけでなく、休日には車でわざわざ訪れてもらえる店を目指しています。
ブランドカラーはブルーとホワイトです。
明るく開放的な印象にしたい一方で、一般的な郊外型ベーカリーのように、駐車場の奥へ建物が置かれているだけの店舗にはしたくありません。
敷地には8〜10台程度の駐車スペースを確保できそうですが、駐車台数を増やすと外構や植栽に使える面積が減ります。
また、次の点でも迷っています。
- 駐車場を店舗前に置くべきか
- 車でファサードが隠れないか
- 幹線道路から何を見せるべきか
- テイクアウトとイートインを分けるべきか
- 客席数をどこまで確保するべきか
- パンを40〜50種類並べても雑然と見えないか
- 焼き上がりの様子をどこまで見せるべきか
- 店内のBGMや響きをどう考えるべきか
僕たちは、相談に対して最初からファサードや店内パースを描いてデザインを提案するのではなく、まず店舗の成立条件から考えます。
最初に考えるのは、何台の車を受け入れる店なのか
郊外立地では、駐車場の台数が来店可能な組数を制限します。
そのため、必要な駐車台数は、敷地に何台入るかだけで決めるものではありません。
まず、事業計画から次の条件を確認します。
必要売上
→ 平均客単価
→ 必要な来店組数
→ 時間帯別の回転率
→ 一組あたりの滞在時間
→ 必要な駐車台数
例えば、テイクアウト客が中心になる朝は、駐車時間が短く、同じ一台分を複数の来店客が利用できます。
一方、午後にイートイン客が増えると、一台あたりの占有時間は長くなります。
客単価が低いにもかかわらず、長時間滞在する客が増えれば、店舗売上より先に駐車場が飽和する可能性があります。
したがって、客席数だけを増やしても、駐車場が不足していれば来店組数は増えません。
今回の店舗では、8〜10台程度の駐車場を確保しながら、テイクアウト客が短時間で利用しやすく、イートイン客も滞在できる運営を想定します。
駐車場は、外構計画の余った場所につくる設備ではありません。店舗の売上構造を支える最初の設計条件です。
駐車している車そのものが、幹線道路から見える広告になる
郊外店では、車が停まっている光景が店への関心を生みます。
幹線道路を走る人は、建物だけを見ているわけではありません。
「いつも車が停まっている」
「何の店だろう」
「人気がありそうだ」
という気配から店舗を認識します。
そのため、今回の駐車場は建物の裏へ完全に隠すのではなく、道路側から一定数の車が見える配置とします。
ただし、駐車場だけが前面に出ると、店舗の印象が弱くなります。
そこで、道路側からは次の順番で情報が入るようにします。
- 複数の車が停まっている気配
- 少し先から読めるベーカリーカフェの看板
- 植栽と木漏れ日
- その隙間に見える白い外壁とブルーの扉
- 店内の光とパンの陳列
車の存在で視線を引き、看板で業態を理解させ、植栽と建物でブランドへの期待をつくります。
駐車場とファサードを別々に考えるのではなく、道路から店を発見する一連のマーケティング接点として構成します。
看板は店名だけでなく、遠方から業態を伝える
幹線道路沿いでは、建物に取り付けた小さなサインだけでは認識が遅れます。
車で通過する人は、歩行者よりも短い時間で情報を判断します。
そのため、道路側にはある程度の高さを持つ独立看板を設けます。
看板には、ブランド名だけでなく、
- ベーカリー
- カフェ
- 営業時間
- 駐車場の入口
が短時間で判断できる情報を含めます。
デザインは、ブランドカラーであるブルーとホワイトを中心に構成します。
情報量を増やしすぎるのではなく、遠方から見たときに店の存在を認識し、近づいたときに内容を理解できる段階的な見せ方が必要です。
ブランドカラーは装飾ではなく、道路から店舗を識別するための視覚記号として使います。
ファサードを正面から見せすぎない
今回の外観では、白い塗り壁とブルーの扉をブランドの象徴にします。
外壁はホワイト系の左官仕上げとし、三角屋根の輪郭をシンプルに見せます。
ただし、幹線道路から建物全体を正面に見せるだけでは、一般的な郊外店舗と大きく変わりません。
そこで、建物の前に高木や中低木を配置し、木漏れ日の隙間からファサードが見える構成とします。
最初からすべてを見せず、
植栽の先に白い壁が見える
木漏れ日の中にブルーの扉が見える
窓越しにパンと店内の光が見える
という段階をつくります。
緑を増やすことが目的ではありません。
葉を透過する光、壁面へ落ちる影、風で動く枝、その奥に見えるブランドカラーによって、来店前の期待をつくります。
車を降りてから、あえて小道を歩かせる
駐車場から入口までの距離は、それほど長く取れません。
それでも、車を降りてそのまま最短距離で扉へ向かうのではなく、植栽に囲まれた一方通行の小道を通って入店する動線とします。
数秒程度の短い移動ですが、この時間には意味があります。
車内から店内へ瞬時に切り替わるのではなく、
車を降りる
→ 木陰へ入る
→ 看板や植栽を見る
→ ブルーの扉へ近づく
→ 店内のパンや光が見える
→ 入店する
という体験を挟みます。
この小道によって、駐車場と店舗の距離を心理的に分けられます。
入口までの移動を不便にするのではなく、日常の移動からブランドの時間へ切り替えるアプローチとして使います。
雨天時には、路面の滑りにくさ、庇の位置、傘を閉じる場所、商品を持って車へ戻る動線も必要です。
ブランド体験は、晴れた日の写真だけで成立するものではありません。日常的な使いやすさを損なわない範囲で、期待を高める時間をつくります。
22坪では、テイクアウトとイートインを完全には分けない
店舗面積が約22坪の場合、テイクアウトとイートインの入口や受付を完全に分けると、厨房、売場、客席のどこかが圧迫されます。
そのため、店舗内部では商品を選ぶ動線と会計を共通化し、利用後の行動を分けます。
- テイクアウト客は、会計後に短い動線で外へ出る
- イートイン客は、小道や窓に面したカウンター席へ進む
- 混雑時も、商品を選ぶ人と会計待ちの列が重ならない
- ドリンクの受け取り位置をレジ付近へまとめる
イートイン席は、独立したカフェエリアとして大きく確保するのではなく、小道や植栽を望む窓際のカウンター席を中心にします。
これにより、限られた面積の中でも、外構と店内の関係を感じながら滞在できます。
席数を増やすことよりも、ベーカリーの売場を圧迫せず、店の雰囲気を体験できる場所をつくることを優先します。
店内は中央什器を起点に回遊させる

店内へ入ると、三角屋根の骨組みが見える開放的な空間が広がります。
外部の小道では視線を絞り、店内へ入った瞬間に空間を大きく開く構成です。
中央にはパンを陳列する什器を配置し、その周囲を回遊しながら商品を選びます。
中央什器には、次の役割があります。
- 入店直後に主力商品を見せる
- 店内奥まで自然に歩かせる
- 商品との接触回数を増やす
- 混雑時に一方向へ人が集中しすぎることを防ぐ
- レジ待ちと商品選びを分離する
40〜50種類のパンをすべて同じ高さ、同じ密度で並べると、商品価値が均一に見えます。
そのため、中央什器と壁面什器で役割を分けます。
中央には、焼きたて商品、季節商品、店を象徴するパンを配置する。
壁面には、食パン、ハード系、焼き菓子、ギフトなど、目的を持って選ぶ商品をまとめる。
商品数を減らすのではなく、顧客が理解しやすい順番で商品を見せることが重要です。
三角屋根の骨組みは、開放感だけでなく店の記憶をつくる
屋根の骨組みを見せることで、22坪以上の広がりを感じさせます。
ただし、高い天井をつくること自体が目的ではありません。
入口から見上げたときに屋根の形が分かり、中央什器の上に光が落ちることで、店内の中心が明確になります。
梁や小屋組は、郊外型ベーカリーの素朴さを表現しながら、白い壁とブルーの建具によって軽やかに見せます。
木を多用しすぎると、一般的なナチュラル系ベーカリーに近づきます。
そのため、木は構造や什器の輪郭に使い、壁面や床は明るいニュートラルカラーで構成します。
ブランドカラーのブルーも、壁一面に使うのではなく、扉、サイン、メニュー、パッケージなど、視線が止まる場所へ限定します。
厨房の大きなFIX窓から、焼き上がりの気配を見せる
厨房側には、大きなFIX窓を設けます。
この窓は、厨房を全面的に公開するためのものではありません。
客席や売場から見せたいのは、
- 生地を扱う手元
- パンをオーブンへ入れる様子
- 焼き上がったパンを取り出す瞬間
- 商品が売場へ運ばれる流れ
です。
一方で、洗浄、ストック、清掃、廃棄物などは見せる必要がありません。
FIX窓の高さや厨房機器の配置によって、製造のライブ感とバックヤード業務を分けます。
また、外部の小道側からも厨房の気配が見えるようにすれば、入店前からパンをつくっている店だと伝わります。
香りだけに頼らず、視覚からも焼き上がりへの期待を高める計画です。
レジは出口ではなく、次の商品提案の場所にする
レジでは会計だけでなく、ドリンク、スープ、サンドイッチ、ギフトなどの追加提案を行います。
そのため、会計待ちの列が中央什器の回遊を塞がない位置に配置します。
レジ周辺には、
- ドリンクメニュー
- セットメニュー
- 焼き菓子
- ギフト商品
- 季節商品
を置きます。
ただし、小物を過剰に並べると、レジ周辺が雑然として見えます。
追加購入につながる商品を絞り、会計中に理解できる情報量に抑えます。
客単価を上げるには、商品数を増やすだけではなく、顧客が選びやすいタイミングで提案することが必要です。
イートインは、外構と一体で考える
今回のイートインは、店内だけで完結させません。
小道や植栽に面したカウンター席、大きなFIX窓、外部のテラスを一つの滞在環境として考えます。
店内では短時間の一人利用や親子利用に対応し、気候のよい時期には外部席も使えるようにします。
外部席は客席数を増やすためだけではありません。
植栽の中でパンやコーヒーを楽しむ人の姿が、駐車場や道路から見えることで、店舗の雰囲気を伝える役割も持ちます。
ただし、駐車車両や車の動線と近すぎると、落ち着いて利用できません。
植栽、段差、低い壁などによって、車と人の距離をつくります。
高い天井では、BGMを聞かせる前に響きを考える
三角屋根の高い空間では、音が上方へ逃げるように感じますが、実際には天井や壁の仕上げによって反射が生じます。
店内では、
- トレーやトングの音
- 商品包装の音
- レジの音
- 厨房機器の音
- 客同士の会話
- 子どもの声
- BGM
が重なります。
特に、硬い床、塗り壁、ガラス面が多い空間では、音が長く残りやすくなります。
今回のBGMは、店内を演出する主役にはしません。
聞こえるか聞こえないか程度の音量で、店内の時間をゆっくり感じさせる背景として使います。
しかし、響きが長いままBGMを小さく流すと、音楽の輪郭がぼやけ、厨房音や会話音だけが目立つ可能性があります。
そのため、
- 屋根面の一部
- 梁間
- 什器の下部
- カウンター席周辺
- 家具や張地
- 厨房と売場の境界
などへ、意匠と一体化した吸音性を分散させます。
残響を極端に短くするのではなく、パンを選ぶときに音が気にならず、滞在中に疲れにくい状態を目指します。
BGMは「ベーカリーらしい曲」ではなく、店内の時間を設計する
ブランドイメージに合う音楽を選ぶだけでは、音のデザインにはなりません。
今回の店舗では、BGMの役割を次のように考えます。
朝
通勤や通学途中の短時間利用を妨げず、店内の動きを軽やかに感じさせる。
昼
店内の活気を支えながら、レジや商品選びの声が過度に目立たない状態をつくる。
午後
イートイン客が落ち着いて過ごせるように、音数とテンポを抑える。
時間帯で大きく世界観を変えるのではなく、同じブランドの中で、店内の時間感覚を少し変化させます。
スピーカーも一か所から大きく鳴らすのではなく、複数の位置から小さな音量で届け、場所による音量差を抑えます。
今回採用しなかった設計案
駐車台数を減らして、大きなテラスをつくる案
外部空間の魅力は高まりますが、来店可能な組数が減り、郊外立地のハードルを上げます。
今回は8〜10台の駐車を確保したうえで、小道沿いのカウンター席と小規模なテラスを設けます。
駐車場の奥に建物を目立たせる案
店舗全体は分かりやすくなりますが、車を降りてからすぐに入口へ到達し、ブランドへの期待をつくる時間がありません。
今回は植栽と小道を介して入店する構成を採用します。
テイクアウトとイートインの入口を分ける案
動線は明確になりますが、22坪では受付やスタッフ動線が二重化し、売場と厨房を圧迫します。
注文と会計は共通化し、利用後の動線を分けます。
イートイン席を多く確保する案
滞在客は増えますが、駐車時間が長くなり、パンを購入する短時間客を受け入れにくくなります。
今回は窓際のカウンター席と外部席を中心にします。
厨房を全面的に見せる案
製造のライブ感は強くなりますが、洗浄やストックまで見えれば、ブランドの印象が崩れます。
見せる工程を限定したFIX窓を採用します。
郊外型ベーカリーのブランド体験は、道路から始まっている
郊外店の店舗体験は、入口を開けた瞬間に始まるわけではありません。
幹線道路を走りながら、車が停まっている光景を見る。
看板からベーカリーカフェだと知る。
駐車場へ入る。
木漏れ日の小道を歩く。
ブルーの扉と白い壁が見える。
窓越しにパンや厨房の動きを見る。
店内へ入り、中央什器を回遊する。
パンを選び、コーヒーと一緒に少し滞在する。
この時間の連続が、店舗の印象をつくります。
店内だけを美しくデザインしても、駐車しにくく、入口が分かりにくく、道路から存在が伝わらなければ、郊外立地の強みは生かせません。
一方で、駐車場を効率だけで処理すると、店舗は道路沿いに置かれた箱に見えてしまいます。
駐車場で来店のハードルを下げ、
車の気配で店への関心を生み、
小道と木漏れ日で期待を高め、
店内でブランドの世界を開く。
この流れを一つの設計として考えることが、郊外型ベーカリーカフェのブランド体験につながります。
マーケティングとブランド戦略を、店舗と外構へ変換する

今回の提案では、最初に店内の素材や什器を決めていません。
まず考えたのは、
- 客単価と回転率から、何組の来店が必要か
- その来店を受け入れる駐車台数は何台か
- 幹線道路から店舗をどう認識させるか
- 駐車している車をどうマーケティングへ生かすか
- 車を降りてからどのように期待を高めるか
- 限られた面積でテイクアウトとイートインをどう両立するか
- 商品数と上質な見え方をどう両立するか
- 高い天井と硬い素材の中で、音をどう残すか
という条件です。
その判断を、
- 道路側の独立看板
- 8〜10台の駐車場
- 植栽に囲まれた小道
- 白い外壁
- オーシャンブルーの扉
- 三角屋根と見せる小屋組
- 中央什器
- 厨房のFIX窓
- 窓際のイートイン席
- 控えめなBGM
へ変換しています。
ベーカリーの店舗設計は、パンを並べる売場をつくることではありません。
来店前から商品を選び、購入し、滞在し、再び車へ戻るまでを、一つのブランド体験として設計することが重要です。
郊外型ベーカリーカフェの店舗設計をご相談ください
郊外型店舗では、建物だけをデザインしても、事業条件と来店体験はつながりません。
必要な売上を、どれだけの来店組数で成立させるのか。
そのために、何台の駐車場が必要なのか。
道路から何を見せ、どのように入口へ導くのか。
テイクアウト、イートイン、厨房、売場をどう構成するのか。
事業計画、マーケティング、ブランド戦略を読み取り、外構、ファサード、店内、照明、音環境まで一体で提案します。
新規出店、既存店舗の移転・リニューアル、郊外立地への出店計画など、物件検討や事業構想の段階からご相談いただけます。
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