昼に訪れ、夜にもう一度来たくなるレストラン設計事例

郊外の幹線道路沿いにある、以前はファミリーレストランとして使われていた平屋の建物。

周囲には、焼肉店、回転寿司、カフェ、チェーンレストランが並び、駐車場も十分に確保されています。料理は、炭火料理と地元食材を中心にした洋食。高級レストランではありませんが、普段の外食より少し特別な時間を提供したい。

昼の客単価は1,500円から2,500円ほど。
夜は4,000円から6,000円ほどを想定します。

この条件で昼と夜の両方を成立させるには、営業時間を分けるだけでは足りません。

昼に来店した人が、店を家族や友人へ伝え、次は夜に訪れたくなる。朝、昼、夜で空間の表情を変えながら、それぞれの利用が別の利用へつながっていく。

今回は、時間帯によって役割が変わる郊外型レストランを、マーケティングと空間の両面から考えます。


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昼は売上をつくるだけでなく、ブランドを地域へ広げる時間

昼の中心に考えるのは、平日昼間に行動しやすい主婦層や女性客です。

主婦層を意識する理由は、単にランチ需要があるからではありません。

一度良い店を見つけると、友人との会話や地域のつながり、家族との外食を通じて、店の情報が広がりやすい。昼に友人と訪れた人が、次は夫婦で夜に来る。家族へ話し、休日の食事につながる。別の友人を連れて、もう一度ランチに来る。

つまり、昼の来店は一度の食事で終わらず、その後のディナーやファミリー利用へつながる可能性があります。

だからこそ、昼は単に安いランチを提供する時間にはしません。

料理を食べて終わるのではなく、食後にケーキとコーヒーまで楽しみ、友人との会話を続けられる。普段の昼食より少し特別でありながら、無理なく繰り返し利用できる。

その体験が成立すれば、店は「近くにあるレストラン」ではなく、顧客が自分で選び、誰かに紹介したくなる場所へ変わります。


休日の朝にも、この店へ行く理由をつくる

このレストランであれば、休日限定の朝営業も考えられます。

朝食に1,500円を支払う顧客は、食事の量や価格だけで店を選んでいるわけではありません。

炭火で焼いたパン。
地元の卵や野菜を使った一皿。
丁寧に淹れたコーヒー。
雑木林を通して入る朝の光。

そうした時間全体に価値を感じています。

休日の朝にこの店を訪れ、昼は友人とのランチに使い、夜は夫婦や家族で食事をする。

一つの店舗に複数の来店理由をつくることで、朝、昼、夜の営業がそれぞれ独立するのではなく、ブランドとの接点として積み重なっていきます。


幹線道路沿いでは、その場で入店させるより記憶に残す

交通量の多い幹線道路では、車から店を見つけても、

「雰囲気が良さそうだから、今すぐ入ろう」

という判断にはなかなかつながりません。

店舗を認識し、減速し、駐車場の入口を探し、進路を変えるには時間が必要です。通過する数秒の間に、大量の情報を読ませることもできません。

だから、幹線道路沿いのファサードやサインに求めるのは、即時の入店だけではありません。

あそこに気になるレストランがある。
炭火料理の店らしい。
今度、家族と行ってみたい。

そう記憶してもらうことが重要です。

料理写真、メニュー、価格、営業時間を一つの看板へ詰め込めば、情報は増えます。しかし、走行中の顧客には何も残らない可能性があります。

看板に見せるのは、オーナーが料理で最も大切にしていることです。

どのような炭を使うのか。
どの食材を、どのような火で調理するのか。
この店でしか味わえないものは何か。

その一つの価値を、短い言葉とビジュアルへ変換します。


看板らしくないサインが、店の存在を記憶させる

幹線道路沿いだからといって、大きく明るい看板を取り付けるとは限りません。

例えば、道路側に存在感のある自然石を置き、そこへ店名や炭火料理を象徴するサインを設ける。

均一に加工された看板ではなく、自然石の形や質感をそのまま使うことで、周囲のチェーン店とは異なる印象をつくれます。

通過する車からすべての情報を読めなくても、

大きな石のある、炭色のレストラン

として記憶に残ればいい。

その風景自体が、店舗を識別するサインになります。


昼は、新緑の中に炭色の建物が見える

建物の外観は、炭を連想させる濃い色で統一します。

ただし、幹線道路沿いで目立たせるために、建物だけを強く主張させるわけではありません。

外周には雑木を植え、建物が緑の中へ少し埋もれるように見せます。

昼間は、新緑や木漏れ日の奥に、炭色の建物がかすかに見える。建物の全体像を一度に見せるのではなく、植栽の間から外壁やガラス、店内の気配が断片的に見える。

周辺のロードサイド店舗が、看板や建物の大きさで存在を伝える中、この店は風景として印象を残します。

入りやすさは保ちながら、道路沿いの日常的な景色から、少し異なる場所へ入っていく期待感をつくります。


夜は、雑木林の奥に舞台が現れる

日が落ちると、昼とは見え方を変えます。

雑木林の幹や葉を下から照らし、建物へ近づくアプローチに奥行きをつくる。暗い外部の中で、ガラス越しの厨房と客席だけが浮かび上がる。

昼は緑の中へ溶け込んでいた建物が、夜には一つの舞台として現れます。

この昼夜のギャップが重要です。

昼にランチへ来た顧客が、夜の店を見たときに、

同じ店なのに、昼とはまったく違う。
今度は夜に来てみたい。

と感じる。

外観を変更しなくても、植栽、照明、店内の明暗によって、時間帯ごとに異なるブランド体験をつくることができます。


炭火料理は、完成した皿だけが価値ではない

炭火料理の魅力は、料理が完成してテーブルへ運ばれてくるまでの過程にもあります。

火を扱う料理人の動き。
炭が弾ける音。
鉄板から立ち上がる湯気。
食材が焼ける瞬間。
皿へ盛り付けられていく様子。

これらを厨房の内側へ隠してしまうと、この店が持つ価値の一部も見えなくなります。

そこで、厨房と客席の間にガラスを設け、鉄板や炭火で調理している様子を客席から見えるようにします。

厨房は裏方ではありません。

この店では、厨房そのものが舞台になります。

料理を待つ時間にも視線の先に動きがあり、調理の音や香りがわずかに伝わる。家族や友人との会話を楽しみながら、店の活気を感じられます。

見せるためのオープンキッチンではなく、炭火料理の価値を体験として伝える厨房です。


自然石によって、日常から少し離れた場所をつくる

厨房のガラス下には、1,100ミリ程度の腰壁を設け、その周囲に自然石を使います。

選ぶのは、表面が均一に加工された石ではなく、凹凸や荒々しさが残るものです。

自然石の重さや粗さには、一般的な内装材にはない存在感があります。火、炭、大地、熱といった、炭火料理の原始的な力も連想させます。

外部のサインに使った石と、店内の厨房周辺に使う石がつながれば、道路から店内まで同じ世界観を継続できます。

石を使う目的は、単に高級に見せることではありません。

普段の生活から少し離れ、料理と時間を楽しむための非日常をつくることです。


店内は、炭色の床とクリーム色の壁で重さを調整する

床には、墨色のタイルを使います。

厨房周辺の自然石とつながり、炭火料理を扱う店として空間の重心を低く見せられます。

一方、壁まで暗くすると、昼の利用には重すぎます。

客席周辺の壁はクリーム色を基調とし、必要な場所へ木板を使います。天井にも木を一定のリズムで配置し、硬質な床や石だけでは生まれない柔らかさを加えます。

昼は自然光とクリーム色の壁によって親しみやすく見える。
夜は照明を落とすことで、炭色の床、石、木の陰影が強く現れる。

同じ材料でも、時間帯によって感じ方を変えられます。


照明は、店内全体ではなくテーブルと厨房を見せる

上質な時間をつくるために、間接照明を多用する必要はありません。

店内の基本照明には、広い範囲をカバーできるダウンライトを使いながら、各テーブルにはピンスポットを当てます。

昼は、客席全体に明るさを確保し、ファミリーや女性客が気軽に利用できる環境にする。

夜は、客席全体の照度を下げ、テーブル上の料理と、ガラス越しの厨房を中心に見せます。

顧客の視線は自然に、

  • テーブル上の料理
  • 一緒に過ごす相手
  • 厨房の動き

へ向かいます。

すべてを明るく見せるのではなく、見せたい場所へ光を集中させることで、夜の特別感をつくります。


昼と夜で、音が店の世界を切り替える

昼は、友人同士や家族の会話が自然に生まれる、明るく楽しい雰囲気をつくります。

ただし、BGMを大きく流して活気をつくるのではありません。厨房から聞こえる調理音や、客席の会話が不快な騒がしさにならない範囲で、空間の温度を支える音楽を選びます。

夜はジャズへ切り替えます。

ジャズを使う目的は、単に大人っぽい雰囲気を出すことではありません。

昼に訪れた顧客へ、同じ店とは思えないほどのギャップを感じてもらうためです。

照明を落とし、厨房を舞台のように浮かび上がらせ、店内にはジャズが流れる。そこへ炭が弾ける音、鉄板で食材を焼く音、グラスが触れる音、人の会話が重なります。

音楽ですべてを覆うのではなく、料理をつくる音も空間の演出として残す。

ここで生まれるのは静けさではありません。

料理、会話、音楽が一つの空気として成立する、上質に設計された活気です。


客席は2名席を中心に、店の密度を変えられるようにする

客席は、2名席を中心に構成します。

夫婦や友人同士、カップルなど、この店の中心となる利用へ対応しやすく、必要に応じてテーブルを組み合わせれば、家族や少人数の会食にも使えます。

固定された大きなボックス席を増やすと、ファミリーレストランの印象が強くなり、昼と夜の表情を変えにくくなります。

2名席を中心にすることで、昼はテーブルを近づけ、親しみやすく活気のある密度をつくる。夜はテーブル同士の距離を感じられる配置にし、一組ずつの時間を際立たせる。

海外の小さな洋食店へ来たような距離感を残しながら、利用人数に応じて柔軟に対応できる構成です。


昼はブランドを知り、夜はブランドを体験する

休日の朝、雑木林の間から光が入り、炭火で焼いた朝食とコーヒーを楽しむ。

昼は友人とランチを食べ、ケーキとコーヒーを前に会話を続ける。店の料理や空間を誰かに話し、次は家族を連れて来ようと思う。

夜はライトアップされた雑木林の奥に、昼とは異なる店が現れる。照明を落とした客席で、ジャズと鉄板の音を聞きながら、炭火料理を楽しむ。

このレストランで、昼と夜は単に客単価が違うのではありません。

昼と夜では、店の役割が違います。

昼と朝は、地域の中で店を知ってもらい、次の来店につなげる時間。
夜は、その店でしか得られない料理と空間を深く体験する時間。

ファサード、植栽、サイン、厨房、素材、照明、音、客席を一つのストーリーとしてつなげることで、昼に来た人が夜にもう一度訪れたくなるレストランをつくります。


飲食店の空間デザインをご検討の方へ

HAGANEでは、見た目だけから飲食店を考えるのではなく、立地、顧客層、時間帯、客単価、料理、照明、音までを一つのブランド体験として設計します。

関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、レストラン、カフェ、ベーカリーをはじめとした飲食店の空間デザインをご相談いただけます。


この記事を書いた人

建築士として、空間デザイン、音響映像デザイナーとして。
音と空間が、店の印象や人の行動をどう変えるのか。
マーケティング、ブランディングの視点も加えながら、
HAGANEの設計思想を、青川の言葉で発信しています。

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