狭い間口の奥に、ワインと炭火料理の時間をつくる

駅から徒歩3分。
間口は約4m、奥へ長く伸びる18坪のテナント。

この場所に、ワインと炭火料理を中心とした飲食店を計画するとします。

周辺には居酒屋やバルが並び、夜になると人通りも増える。
一方で、価格の安さや席数の多さでは競争しにくい立地です。

だからこそ必要なのは、狭い間口を弱点として処理することではありません。

通りから見える店内の景色によって、

この店で料理とワインを楽しみたい。

そう思わせるブランド体験をつくることです。

今回は、マーケティング、ブランディング、空間デザイン、音の設計を一つの考え方でつないだ、ワインと炭火料理の店の提案事例です。


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間口の狭さは、マーケティング上の弱点とは限らない

店舗の間口が狭いと聞くと、一般的には「目立ちにくい」「入りにくい」と考えられがちです。

しかし、間口の広さだけで店舗の認知力が決まるわけではありません。

重要なのは、通りを歩く人がファサードの先に何を見るかです。

今回の計画では、入口から約4mほど奥へ向かって、厨房を兼ねた長いカウンターバーを配置します。

通りからは引戸を通して、奥へ伸びるカウンターが見えます。

ライティングによって木のカウンターが象徴的に浮かび上がり、その周囲には料理人の動き、炭火の気配、ワインボトル、人の会話が重なります。

つまり、外壁や大きな看板だけで店を見せるのではありません。

店内のカウンターと厨房そのものを、通りに向けた広告として使います。

狭い間口によって見える範囲が限定されるからこそ、一本のカウンターを強い象徴として印象づけることができます。


ファサードは主張しすぎず、店内の活気を見せる

ファサードは、暗めの色を基調とします。

細く、少し光沢のある磁器タイルを縦方向に張り、建物の高さと細さを強調します。

派手な装飾や大きなサインで目立たせるのではなく、素材の陰影とガラス越しの店内によって、通りからの視線を引き込みます。

入口の建具には、店舗全体の方向性によっては和の要素を持つ引き戸も考えられます。

炭火、石、木、ワインという構成に、引き戸や縦格子を加えることで、単純な欧風バルとは異なる印象をつくれます。

ただし、和風の意匠を強く出しすぎる必要はありません。

引き戸の納まりや格子のピッチを簡潔にし、あくまで現代的なレストランとして見せます。

ガラス越しに店内の様子が見えるため、初めて訪れる人にも、客層や店内の活気が伝わります。

入口を開放的に見せるだけではなく、入店前に店の空気を理解できることが、心理的な入りやすさにつながります。


長いカウンターを、店の中心に据える

カウンターは、

  • 店の象徴
  • 厨房と客席をつなぐ場所
  • 一人客を受け入れる場所
  • 炭火料理を見せる舞台
  • ワインを選ぶ楽しさを伝える場所

として機能します。

カウンター席を大きく確保することで、一人で訪れた人も、周囲を気にせず料理とワインを楽しめます。

テーブル席だけの店では、一人客は入りにくくなります。

反対に、カウンターが中心にあると、短時間の利用から食事目的の滞在まで、幅広い使い方を受け止められます。

カウンターの奥には、2〜4人で利用できるテーブル席を配置します。

入口側にカウンターの活気をつくり、奥側には複数人で落ち着いて食事できる席を設けることで、細長い空間の中に利用目的の違いをつくります。


カウンター背後の通路も、ブランド体験になる

カウンター席の後ろには、お客様が奥の席へ向かうための約1mの通路が生まれます。

一般的には、席の後ろを人が通ることをデメリットとして捉える場合があります。

しかし、十分な通路幅が確保されていれば、必ずしも違和感にはなりません。

むしろ、この通路を店の世界観へ入っていく導入として使えます。

カウンター背後の壁には石材を張ります。

石壁の下部に間接照明を仕込みます。

光が床面へ落ちることで、重い石壁がわずかに浮いているように見え、通路に奥行きが生まれます。

さらに、石材の一部をくり抜き、照明を落とした小さな展示スペースをつくります。

そこに盆栽や苔、季節の枝物などを飾れば、通路を歩く数秒間にも視線の止まる場所が生まれます。

入口から最初の1mほどには縦格子を設けてもよいでしょう。

店内全体を最初から見せ切るのではなく、格子越しにカウンターと光が見えることで、外部から内部へ意識を切り替える間が生まれます。

移動のためだけの通路ではなく、入店体験の一部として設計する。

細長い店舗だからこそ、この数メートルが店の印象を決めます。


炭火とワインを、二つの異なる景色として見せる

店の特徴は、ワインと炭火料理です。

しかし、メニューに書くだけでは、その特徴は空間から伝わりません。

厨房内では、炭火を扱うゾーンと、ワインを扱うゾーンを視覚的に分けます。

炭火ゾーンには、火、煙、料理人の動きがあります。

ワインゾーンには、ボトルが規則的に並ぶ静的な美しさがあります。

この二つを同じ厨房内に見せることで、空間に対比が生まれます。

ワインラックは収納設備として隠すのではなく、店内からも通りからも見える位置に組み込みます。

ただし、展示用のボトルと、実際に提供・保管するワインは分けて計画します。

温度管理が必要なワインまで意匠優先で露出させるのではなく、ブランドを見せる展示と、品質を守る保管を分離します。

炭火とワインという二つの商材を空間に反映することで、初めて訪れた人にも、何を楽しむ店なのかが直感的に伝わります。


昼を安価なランチ業態に変えない

夜営業を中心とする店舗では、昼の集客を目的にランチを始めることがあります。

もちろん、ランチ需要を取り込むこと自体は重要です。

しかし、一般的なランチセットを低価格で提供すると、夜の客単価やブランドイメージとの間にずれが生まれる場合があります。

今回の店は、ワインと炭火料理が特徴です。

昼だけ別の安価な飲食店になるのではなく、昼の時間にも店の特徴を維持する必要があります。

例えば、

  • 炭火で焼いた軽食
  • 小皿料理
  • パンと前菜
  • グラスワイン
  • 昼から楽しめるコース
  • 遅めのランチと昼飲み

といった構成が考えられます。

一般的な昼食需要を完全に排除する必要はありません。

ただし、価格だけで来店を促すのではなく、昼から料理とワインを楽しむ時間そのものを提案します。

昼の営業が夜のブランド価値を下げるのではなく、夜に来店する前の入口として機能することが重要です。


静かなワインバーではなく、料理と会話が重なる店にする

ワインを扱う店だからといって、必ずしも静かで落ち着いた空間にする必要はありません。

今回想定している客単価は、約4,500〜7,000円です。

高級レストランのような緊張感をつくるよりも、料理、ワイン、会話を気兼ねなく楽しめる活気が必要です。

BGMは、炭火の調理音や客同士の会話と重なり、店内の熱量をつくる程度に、少し大きめのボリュームで展開します。

音があることで、隣の会話が必要以上に気になりにくくなり、一人客も周囲の視線を意識せず過ごしやすくなります。

また、静かすぎる店では、食器の音や話し声が局所的に目立ちます。

適度なBGMが店内全体に広がることで、空間に一体感が生まれます。

ここで重要なのは、単純に音量を上げることではありません。

石、ガラス、モルタルなどの反射しやすい素材が多いため、スピーカーの配置や音量バランスを考えずに再生すると、場所によって聞こえ方が大きく変わります。

カウンター席、奥のテーブル席、入口付近の音量差を抑え、どの席でも同じ店の空気を感じられるように設計します。

音を静かに抑えるのではなく、店の活気として成立させる。

それが、この店に必要な音の考え方です。


木、石、炭を混ぜたモルタルで、商材の背景をつくる

店内の素材は、ワインと炭火料理の印象を支えるものを選びます。

カウンターには木を使います。

手やグラスが触れる場所に木の温度があることで、石やモルタルの硬さを和らげます。

カウンター背後の壁には石材を使い、空間に重さと特別感を加えます。

床は、炭を混ぜたモルタルの金鏝仕上げです。

均一な黒色にするのではなく、炭の粒子や鏝の跡によって、わずかな表情を残します。

天井には木の板を、入口から奥へ流れる方向に張ります。

床、カウンター、天井の線を長手方向へそろえることで、細長い形状を隠すのではなく、奥行きとして強調します。

石材以外の壁は淡い色のクロスで抑えます。

すべての面に強い素材を使うと、空間全体が重くなり、料理や人の存在が埋もれてしまいます。

木、石、モルタル、淡い壁を使い分け、見せる場所と休ませる場所をつくります。


暖色系の光で、暗く沈みすぎない空間をつくる

照明は暖色系を基本とします。

木、石、炭火料理、ワインの色を温かく見せながら、暗く沈みすぎない明るさを確保します。

店内のベース照明には、調光可能なダウンライトを使います。

すべてを均一に照らすのではなく、

  • カウンター上
  • 料理が置かれる位置
  • ワインラック
  • 石壁
  • 通路
  • テーブル面

に必要な光を分けて配置します。

カウンター上では、料理とワインの色が分かる照度を確保します。

通路では、石壁下部の間接照明によって、歩く方向と素材の陰影を見せます。

昼はガラス面から入る自然光を活かし、夜は照度を少し落として、カウンターと厨房の存在を強くします。

明るさを一段階に固定せず、昼、夕方、夜で光を変えられることが重要です。


昼と夜で、同じ店の役割を変える

この店では、昼と夜で別のブランドをつくる必要はありません。

同じ素材、同じカウンター、同じ厨房を使いながら、時間によって店の役割を変えます。

昼は、自然光の中で軽食とワインを楽しめる場所。

夕方になると、カウンターの照明が際立ち、炭火の動きが見え始める。

夜は、ジャズ、料理の音、会話、照明が重なり、店内に活気が生まれる。

この時間の変化そのものが、店舗のブランド体験になります。

昼に訪れた人が、次は夜に来たいと思う。

一人でカウンターを利用した人が、次は友人や家族と奥のテーブル席を予約する。

店舗の利用目的が固定されず、時間と人数によって変わることで、再来店の理由が生まれます。


ワインと炭火料理をどう売るかが、空間の形を決める

この提案の中心にあるのは、内装のスタイルではありません。

ワインと炭火料理を、どのような客層に、どのような時間で楽しんでもらうか。

そのマーケティング上の判断から、空間全体を組み立てています。

夜の客単価を守るために、昼を安価なランチ業態へ寄せない。

通りから店の活気を伝えるために、カウンターと厨房を見せる。

一人客を受け入れるために、長いカウンターを店の中心にする。

細長い空間を魅力へ変えるために、天井、床、照明の方向を奥へ流す。

店の緊張感を下げ、会話と料理を楽しめるように、ジャズを少し大きめのボリュームで展開する。

マーケティング、ブランディング、空間デザイン、音響を別々に考えるのではなく、すべてを同じ店舗体験へつなげます。

狭い間口を広く見せる必要はありません。

通りから見える一本のカウンターが、店のブランドになればいい。

そこに料理人の動き、炭火の音、ワイン、照明、人の会話が重なることで、この場所でしか過ごせない時間が生まれます。


飲食の店づくりをご検討の方へ

飲食店の価値は、料理や内装の見た目だけでは決まりません。

通りからの見え方、入店時の印象、カウンターと厨房の関係、座席の使われ方、照明、素材、音が一体となって、来店理由と再来店のきっかけをつくります。

HAGANEでは、音と空間の両方から、飲食店のブランド体験をデザインします。

関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心に、店舗・施設・オフィスの空間デザインをご相談いただけます。


この記事を書いた人

建築士として、空間デザイン、音響映像デザイナーとして。
音と空間が、店の印象や人の行動をどう変えるのか。
マーケティング、ブランディングの視点も加えながら、
HAGANEの設計思想を、青川の言葉で発信しています。

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