音に包まれたいなら、まず鳴らせる部屋をつくる|音像がぼやける10畳オーディオルーム設計事例

この図面は、そのまま別の部屋に転用できる正解図ではありません。
部屋の寸法、躯体、防音性能、音源、聴く位置によって、音の成立条件は変わります。
ここでは、DIVERが何を問題として読み、どこに設計の焦点を置いたかを示すために掲載しています。
contents list

音像がぼやける10畳オーディオルームを、響きが成立する空間へ

ROOM
マンション内の10畳程度のオーディオルーム 
防音施工で8畳程度

SOUND SOURCE
2chオーディオスピーカー

USER
自宅で音楽を深く聴き込むオーディオユーザー

PURPOSE
音量を抑えすぎず、スピーカーをしっかり鳴らしながら、音像・奥行き・包まれ感が成立するリスニング環境をつくる

SOUNDPROOFING REQUIREMENT
目標遮音性能:D-60相当を目安に計画
80dB以上で聴く時間があるため、マンションでは隣戸・上下階への音漏れに対して高めの遮音性能が必要になる。
ただし、遮音性能を高めるほど室内側では30〜300Hzの低域〜中低域が残りやすくなるため、防音とルームアコースティックを同時に設計する必要がある。

INITIAL REQUEST
「音量を上げると音圧は出る。けれど反射が強く、音像がぼやけて、音に包まれる感じにならない」

LATENT ISSUE
スピーカーはしっかり鳴っているが、部屋側の中低域と初期反射が整理されていない。
音圧があるぶん、反射も強く現れ、響きが包まれ感ではなく濁りとして感じられている。

DESIGN FOCUS
中低域を先に整えたうえで、スピーカー間のKAIROS、後方壁両サイドのKAIROS、リスニングポジション上部の天井ハイブリッドデュフューザーによって、反射を消さずにコントロールする。

ACOUSTIC THEME
響きはコントロールできる。
ただし、音に包まれるためには、中低域の制御が先に必要になる。


相談|音量は出せる。でも、音に包まれない

今回の相談は、マンション内の10畳程度の部屋を、2chオーディオのためのリスニングルームとして整えたいというものでした。

施主は、音楽を小さな音で流すだけでは満足できない方でした。
スピーカーをしっかり鳴らしたい。
音量を上げたときに、音楽のスケールや空気の動きを感じたい。
ただ音像が見えるだけではなく、音に包まれるようなリスニング体験が欲しい。

想定する音量は、80dB以上になることもある。

この条件では、マンションの一室として防音性能も無視できません。
隣戸や上下階への音漏れを抑えるため、目標遮音性能はD-60相当を目安に考える必要があります。

ただし、遮音性能を高めるほど、室内の音は逃げにくくなります。
特に30〜300Hzの低域〜中低域は部屋の中に残りやすくなり、音像や響きの見通しに強く影響します。

ヒヤリング時の施主の最初の言葉は、こうでした。

音量を上げると、音圧はしっかり出る。
でも、そのぶん反射が強い。
ボーカルの輪郭が少し太くなる。
音像が一点に結ばない。
低域も重なって、空間全体が少し濁る。
音に包まれたいのに、実際には音圧に押されている感じがする。

つまり、この部屋の問題は「音が足りない」ことではありませんでした。

むしろ、スピーカーはしっかり鳴っている。
だからこそ、部屋側の反射と中低域の問題が強く現れていたのです。


音に包まれるには、まずスピーカーが鳴っている必要がある

音に包まれる空間をつくるためには、まずスピーカーがしっかり鳴っている必要があります。

音量が小さすぎると、部屋に十分なエネルギーが供給されません。
反射も拡散も、空間の中で立ち上がる前に消えてしまいます。
音が部屋へ広がる前に弱くなり、響きとして育ちません。

つまり、包まれ感は、小さな音をただ散らせば生まれるものではありません。

十分な音圧がある。
部屋の中に反射が生まれる。
その反射が適切に戻ってくる。
そこで初めて、音は空間として感じられます。

ただし、音圧があるほど、部屋の問題も強く現れます。

初期反射はきつくなる。
中低域は膨らみやすくなる。
後続反射は濁りやすくなる。
音像は太り、奥行きは見えにくくなる。

だから、音に包まれる部屋をつくるには、ただ響きを足せばよいわけではありません。

まず鳴らせること。
そのうえで、鳴った音を制御すること。

この順番が重要です。


音像がぼやける原因は、解像度不足だけではない

音像がぼやけると、多くの場合、機材やスピーカーの解像度を疑いたくなります。

もっと細かい音が出れば、ボーカルが立つのではないか。
もっと高域が伸びれば、楽器の輪郭が見えるのではないか。
アンプやケーブルを替えれば、定位が明確になるのではないか。

もちろん、機材の影響はあります。

しかし、この部屋では、音像がぼやける原因を解像度不足としては見ませんでした。

むしろ、情報は十分に出ていました。
音量もあり、細部も聴こえている。
それでも音像が結ばない。

この場合、問題は情報が足りないことではなく、情報が重なりすぎていることにあります。

直接音の直後に、側壁や天井からの初期反射が戻る。
前壁中央からの戻りが、センターに重なる。
後方壁からの反射が、遅すぎず早すぎず中途半端に返る。
そこに30〜300Hzの中低域の濁りが重なる。

その結果、ボーカルの輪郭は太くなり、音像は一点に結ばなくなります。

音が少ないのではなく、位置情報を乱す成分が多い。
これが、この部屋の音像をぼやけさせていました。


中低域を整えないと、響きは包まれ感にならない

この事例で最も重要だったのは、中低域です。

音に包まれるためには反射が必要です。
しかし、中低域が整理されていない状態で反射を増やすと、包まれ感ではなく濁りになります。

30〜300Hzの低域〜中低域には、音楽の土台があります。

ベースの量感。
キックの重心。
声の身体性。
空間の厚み。
音楽に包まれる感覚の下支え。

しかし同時に、この帯域は部屋の影響を強く受けます。

マンションでD-60相当の防音を考えると、音は外へ逃げにくくなります。
そのぶん、室内側では低域〜中低域が残りやすくなります。

低域が暴れていると、音場全体が霞みます。
中低域が膨らむと、ボーカルの輪郭が太ります。
減衰が遅いと、次の音に前の音がかぶります。
その状態で拡散や反射を足しても、音は包まれず、むしろ濁って感じられます。

だからDIVERでは、響きをコントロールする前に、中低域を読みます。

暴れている低域なのか。
欠落している低域なのか。
音楽を支えている低域なのか。

ここを分けなければ、響きの設計には進めません。

この部屋で必要だったのは、低域を殺すことではありません。
音楽の厚みとして必要な低域は残しながら、音像を濁らせる中低域の暴れを抑えることでした。


初期反射は処理する。響きは後続反射でつくる

音に包まれる空間には、反射が必要です。

ただし、すべての反射が良いわけではありません。
広いリスニングルームなら側壁の初期反射も響きの設計アプローチに入れるべきです。

ですが、特に10畳程度の部屋では、初期反射が強く出やすくなります。
側壁、天井、前壁、床からの反射が、直接音のすぐ後に戻ってくる。

この初期反射が強すぎると、音像はにじみます。

ボーカルが太る。
センターが一点に結ばない。
楽器の輪郭が甘くなる。
音が前に張り出す。
奥行きが見えない。

この状態では、後続反射が美しく成立しません。

最初に戻ってくる反射が強すぎると、その後の響きや余韻が見えなくなります。
音が包み込む前に、近い反射が音像を壊してしまうからです。

だから、この部屋では初期反射を処理します。

ただし、全部を吸ってデッドにするわけではありません。

初期反射は整理する。
そのうえで、後続反射を成立させる。

この順番です。

響きは、反射を放置して生まれるものではありません。
初期反射を処理し、後続反射を設計することで、はじめて包まれ感として立ち上がります。


スピーカー間のKAIROSで、前壁中央の戻りを整える

この部屋では、スピーカー間の前壁中央寄りにKAIROSを配置します。

スピーカーから出た音の一部は、前壁側へ回り込みます。
また、スピーカー間の中央付近からは、センターに関わる後続反射が戻ります。

この部分が硬い壁のままだと、戻り方が単純になります。

ボーカルがスピーカー間に張りつく。
音圧が前へ出すぎる。
センターはあるが、奥に抜けない。
音像が一点に結ばず、少し太る。

そこで、前壁中央寄りのKAIROSで、反射の戻り方を整えます。

KAIROSは、音を消すためのものではありません。
音を硬く返さず、時間方向にほどくための設計要素です。

前壁中央からの戻りを単純に返さない。
スピーカーからの回り込みを硬く戻さない。
センターに重なる反射を整理し、前方像に奥行きをつくる。

この役割を、スピーカー間のKAIROSに持たせます。

音像をはっきりさせたいからといって、ただ吸音するのではありません。
必要な反射を残しながら、戻り方を変える。

これがKAIROSの役割です。


後方壁両サイドのKAIROSで、包まれる反射をつくる

音に包まれるためには、後方の反射も重要です。

リスニングポイントの後ろにある壁からの反射が硬く一点で返ると、音場は前後に詰まります。

前から音圧が来る。
後ろから硬い反射が戻る。
その結果、音に包まれるのではなく、音に押されているように感じます。

この部屋では、リスニングポイント後方壁の両サイドにKAIROSを振り分けます。

後方KAIROSの役割は、後ろの反射を一点で返さないことです。

後方反射を左右に分散する。
時間方向に少しずらす。
反射の密度を整える。
耳に近い硬い戻りを、余韻として感じられる戻りへ変える。

前壁中央のKAIROSが、スピーカー間の戻りを整える。
後方両サイドのKAIROSが、リスニング後方の反射を包まれる方向へ分散する。

この前後の役割分担によって、音圧に押される部屋ではなく、音に包まれる部屋へ近づけます。


リスニングポジション上部の天井ハイブリッドデュフューザー

今回の設計では、天井も重要な要素になります。

ただし、天井全面を大きく下げるわけではありません。
リスニングポジション上部だけを下げ、ハイブリッドデュフューザーとして設計します。

理由は、リスニングポイント周辺の反射密度を整えるためです。

音量を上げると、天井反射も強くなります。
特にリスニングポイント上部の天井が硬いままだと、耳に近い反射として戻りやすい。
これが音像のにじみや、聴き疲れにつながります。

一方で、天井を全面吸音にすると、部屋の響きが乾きすぎる可能性があります。

そこで、リスニングポジション上部だけにハイブリッド処理を行います。

中低域の一部を受ける。
強すぎる天井初期反射を抑える。
中高域は硬く返さず、方向と時間を少しずらす。
後続反射が自然につながるように整える。

この天井ハイブリッドは、音を消すためのものではありません。

上から返る音の質を変えるためのものです。

スピーカーをしっかり鳴らす部屋では、天井もただの仕上げ面ではありません。
音圧があるからこそ、天井反射も設計対象になります。


響きは足すものではなく、制御するもの

この事例で目指したのは、響きを増やすことではありません。

音に包まれたい。
そう考えると、反射や拡散を足したくなります。

しかし、中低域が整理されていない部屋で反射を増やすと、音場は広がるどころか濁ります。
初期反射が強すぎる部屋で拡散だけを足しても、音像は整理されません。
防音によって低域が閉じ込められている部屋では、響きの前に土台を整える必要があります。

響きは足すものではありません。

コントロールするものです。

どの反射を処理するのか。反射を残すのか。
どの反射を時間方向にずらすのか。
どの低域を抑え、どの低域を残すのか。

この判断ができて初めて、反射は濁りではなく、包まれ感になります。


目指したのは、音圧に押される部屋ではなく、音に包まれる部屋

この部屋で目指したのは、音量を下げて整ったように感じる部屋ではありません。

スピーカーをしっかり鳴らす。
音圧を確保する。
そのうえで、音に押されるのではなく、音に包まれる状態をつくる。

そのためには、防音性能も必要です。
マンションで80dB以上を想定するなら、D-60相当の遮音性能を目標に、音漏れへの配慮が必要になります。

しかし、防音だけでは音は完成しません。

防音によって残る中低域を読む。
初期反射を処理する。
KAIROSで前壁と後方壁の戻りを整える。
リスニングポジション上部の天井ハイブリッドで、上からの反射を制御する。

そうして初めて、音圧が包まれ感へ変わっていきます。

音量があるから、反射が生まれる。
反射があるから、空間が立ち上がる。
でも反射を制御しなければ、音像はぼやける。

この順番を間違えないことが重要です。


響きはコントロールできる。ただし中低域が先にある

オーディオルームで音像がぼやける原因は、解像度不足だけではありません。

音圧がしっかり出ている部屋では、初期反射も強くなります。
防音性能を高めた部屋では、低域〜中低域が室内に残りやすくなります。
その状態で反射を放置すると、音像は太り、奥行きは見えにくくなり、音に包まれるどころか音圧に押される部屋になります。

音に包まれるためには、まずスピーカーがしっかり鳴っている必要があります。

しかし、鳴らせる部屋ほど、反射と低域の制御が必要になります。

中低域を読む。
初期反射を処理する。
スピーカー間のKAIROSで前壁中央の戻りを整える。
後方壁両サイドのKAIROSで後続反射を分散する。
リスニングポジション上部の天井ハイブリッドデュフューザーで、上からの反射を制御する。

響きは、コントロールできます。

ただし、その前提として、中低域のコントロールが先に必要です。

DIVERは、音を小さく整えるのではありません。
鳴らした音が、その部屋でどう戻り、どう包み、どう余韻になるのかを設計します。

音に包まれる部屋は、ただ響く部屋ではありません。

しっかり鳴っている音を、空間として成立させる部屋です。

この記事を書いた人

goさん / DIVER
建築士・音響デザイナー・オーディオフリーク。
小さな部屋でスピーカーと部屋が本当に鳴る空間をつくるために、DIVERを運営しています。
DIVERでは、防音・音響設計・スピーカーセッティング・低音対策を分けて考えず、部屋全体で「音楽が鳴る条件」を整理します。
このブログでは、6畳のような小さなオーディオルームで起きる低音、反射、吸音、防音、スピーカーサイズの悩みを、goさんの実体験と建築音響の視点から解説しています。
記事を読んでも自分の部屋で何が起きているかわからないときは、リスニングブースでコーヒーを飲みながら、音の話をしましょう。

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