小規模スタジオでは、反射を返すのではなく逃がして残す

小規模スタジオでは、反射を“返す”のではなく“逃がして残す”

小規模スタジオで問題になるのは、反射そのものではありません。

問題は、反射がどこへ戻るかです。

モニターから出た直接音が、作業点へ純粋に届く。
その直後に、壁、天井、床、作業面、機材、前方の構成から戻ってくる音がある。
その戻りが強く、早く、方向性を持って作業点へ入ってくると、モニターの音は濁ります。

小規模スタジオでは、ここが逃げられません。

部屋が小さい。
距離が近い。
時間が短い。
反射がすぐ作業点へ戻る。

だから、反射をどう扱うかは、小規模スタジオ設計の中心になります。

ただ、反射を全部消せばいい、という話でもない。
反射を気持ちよく作業点へ返せばいい、という話でもない。

小規模スタジオでは、反射を作業点へ強く返さない
でも、空間を不自然に死なせない。
そのために、反射を逃がし、ほどき、空間に必要な余韻として残す。

これがDIVERの考え方です。


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反射は「あるかないか」ではなく、「いつ・どこから・どの強さで戻るか」

反射を考えるとき、多くの場合は「反射がある」「反射が多い」「反射を減らす」という言い方になりがちです。

でも、小規模スタジオではそれでは粗すぎます。

本当に見るべきなのは、

いつ戻るのか。
どこから戻るのか。
どの強さで戻るのか。
どの方向性を持って作業点へ入るのか。

ここです。

EBU Tech 3276では、リスニングルームの音場を、直接音、初期反射、後続の音場に分けて考えています。さらに初期反射は、直接音到達後15ms以内にリスニングエリアへ届く反射として定義されています。
ITU-R BS.1116-3でも、15ms以内の初期反射について、1kHz〜8kHzで直接音より少なくとも10dB低くする条件が示されています。

これは、DIVERが小規模スタジオを考えるうえで非常に重要な整理です。

直接音。
その直後に戻る反射。
さらに後に残る空間の気配。

これらは同じではありません。

同じ「反射」という言葉でまとめてしまうと、スタジオの判断環境は設計できません。

小規模スタジオでは、直接音の直後に戻る成分が、作業点の判断を大きく左右します。
だから、DIVERは反射の量だけを見ません。

反射の時間を見ます。
方向を見ます。
戻り先を見ます。
作業点へどう入っているかを見ます。

反射は、存在しているだけで問題なのではない。

作業点を汚す戻り方をしているときに、問題になるのです。


オーディオルームとスタジオでは、反射の送り先が違う

ここは、DIVERの中でもかなり重要な分岐です。

オーディオルームでは、直接音を成立させたあと、後続反射をリスニングポジションへ音楽的に返すことがあります。

小さな部屋であっても、音楽に包まれる感覚を作る。
スピーカーの外側へ空間が広がる。
後ろから、横から、時間差を持って響きが返ってくる。
直接音の後に、音楽として成立する空間が立ち上がる。

オーディオルームでは、それが価値になります。

しかし、小規模スタジオでは目的が違います。

スタジオは、まず判断する場所です。

ミックスの定位。
低域の量。
中域の密度。
奥行き。
リバーブの距離。
コンプレッションの立ち上がり。
音像の輪郭。

それらを判断する場所です。

だから、小規模スタジオでは、後続反射をリスニングポジションへ気持ちよく返すことを第一目的にはしません。

作業点へ強い反射を返せば、空間は豊かに感じるかもしれない。
でも、その反射が判断を濁らせるなら、スタジオとしては危険です。

オーディオルームでは、反射を音楽として返す。
小規模スタジオでは、反射を作業点へ直撃させず、空間の自然さとして残す。

この違いを混同してはいけません。


小規模スタジオでは、反射を“返す”前に“外す”ことを考える

小規模スタジオでは、反射をどう作業点へ返すかより先に、どう作業点へ返さないかを考える必要があります。

作業点へ戻る強い反射は、直接音の純度を濁らせます。

特に、小規模スタジオでは、距離が近い。
近いから、戻りが早い。
早いから、直接音との時間差が短い。
時間差が短いから、音像や音色の判断に混ざりやすい。

この状態で、反射を「豊かさ」として扱うのは危険です。

反射は、豊かさにもなる。
でも、判断を濁らせる要素にもなる。

その差は、戻り方で決まります。

だからDIVERでは、反射をまず外します。

作業点へ強く返さない。
耳へ直撃させない。
早い時間帯で直接音に重ねない。
強い塊のまま戻さない。

反射を消すのではありません。

作業点から外す

これが第一です。

BBCのControlled Image Designは、コントロールルームにおける初期反射を、リスニング位置へ戻らないようにリダイレクトする設計手法として説明されています。
つまり、反射をただ減らすのではなく、早い音エネルギーの行き先を設計するという考え方があります。

DIVERの小規模スタジオ設計も、ここに近い考え方を持っています。

反射の強さだけを見るのではない。
反射の行き先を見る。

作業点へ返すのか。
外すのか。
逃がすのか。
遅らせるのか。
ほどくのか。

ここを設計します。


逃がした反射を、どう残すか

反射を作業点から外したあと、次に問題になるのは、その反射をどう残すかです。

小規模スタジオをデッド気味にすることは基本です。

でも、部屋が不自然に死にすぎると、別の問題が出ます。

音は見える。
でも、空気がない。
音像は近い。
でも、距離が読みにくい。
細部は見える。
でも、空間の判断が硬くなる。
長時間いると、身体が緊張する。
など、心理的にも違和感の残る設計になってしまいます。

これは、僕たちが目指すスタジオではありません。

小規模スタジオで必要なのは、空間を派手に響かせることではない。

けれど、空間を完全に消すことでもない。

直接音は濁らせない。
作業点へ強い反射は返さない。
そのうえで、部屋としての自然さ、空気の存在、余韻の気配は残す。

このバランスが難しい。

だから、反射を逃がしたあとに、どう残すかが重要になります。

強い反射をそのまま返すのではなく、時間方向にほどく。
方向を散らす。
密度を変える。
空間の奥へ逃がす。
作業点へ直撃しない形で、気配だけを残す。

DIVERが考える後続反射は、そういうものです。

後続反射は、作業点を汚すためのものではない。
部屋を派手に響かせるためのものでもない。
直接音を守ったあとに、空間を不自然に死なせないために設計するものです。


“デッド気味”の質は、後続反射の残し方で決まる

小規模スタジオはデッド気味でいいとおもいます。

ただし、その質は後続反射の扱いで大きく変わります。

悪いデッドは、空間が消えています。

音は近い。
情報は見える。
でも、部屋の空気がない。
作業者の身体が緊張する。
音楽の距離感が、不自然に切り落とされる。

一方で、質の高いデッドは違います。

直接音は濁らない。
作業点は澄んでいる。
反射は強く戻ってこない。
でも、空間そのものは死んでいない。

小さな余韻がある。
空気の存在がある。
耳が不自然に詰まらない。
長く作業しても、空間に押しつぶされない。

この違いは、部屋が明るいか暗いか、響くか響かないかだけでは決まりません。

後続反射が、どう残っているかで決まります。

作業点へ強く戻る後続反射は、判断を濁らせる。
完全に消えた後続反射は、空間を不自然にする。
時間方向にほどけ、方向性を失い、密度を持って残る後続反射は、空間の自然さになる。

DIVERが狙うのは、この領域です。

ただ響かせるのではない。
ただ殺すのでもない。

直接音の純度を守ったうえで、空間として必要な気配だけを残す。

この設計が、小規模スタジオでは重要になります。


反射の行き先は、部屋の形だけでなく、モニター設置で決まる

反射の行き先は、部屋の壁だけで決まるわけではありません。

モニターの位置。
前方の構成。
トーイン。
スタンド。
壁面内蔵。
デスク上設置。
作業点の位置。

すべてが関係します。

モニターがどの方向へ音を出すか。
どの面へ触れさせるか。
それとも面を避けるか。
どの時間帯で戻らせるか。
どの反射を作業点から外すか。

モニター設置と反射設計は、別々ではありません。

スタンド設置なら、モニター周辺に音が回り込みやすい。
デスク上なら、作業面が近すぎる。
壁面内蔵なら、前方の回り込みを整理しやすいが、構造との関係が難しくなる。

そのどれも、反射の行き先に関わります。

だから、DIVERはモニターを置いてから反射を考えるのではありません。

モニターの設置そのものを、反射経路の設計として考えます。

直接音の軸をどう作るか。
作業点をどこに置くか。
前方の戻りをどう扱うか。
側方へ逃げる音をどう処理するか。
後続反射をどこへ回すか。

そこまで含めて、スタジオ設計です。


KAIROSは、反射を“散らす”だけのものではない

ここでKAIROSの話に入ります。

KAIROSは、反射をただ散らすための装置ではありません。

小規模スタジオで必要なのは、反射を雑に拡散させることではない。
反射を派手に増やすことでもない。
部屋を豊かに響かせることでもない。

必要なのは、後続反射の行き先と時間構造を設計することです。

作業点へ直撃させない。
強い塊のまま返さない。
時間方向へほどく。
方向性を変える。
密度を変える。
空間に必要な気配として残す。

KAIROSは、そのための音響モジュールです。

DIVERがKAIROSを小規模スタジオへ使うとき、目的は明確です。

モニターの直接音を守る。
作業点へ強い反射を返さない。
後続反射を、空間の自然さとして残す。

KAIROSは、直接音を邪魔するためのものではありません。

直接音の純度を守ったあとに出てくる、後続反射の問題へ入っていくものです。

この順番を間違えてはいけません。

先に直接音。
次に反射の行き先。
その先に、KAIROSによる時間構造の設計。

ここまで考えて、初めてKAIROSは小規模スタジオで意味を持ちます。


作業点へ返さない。でも、部屋を死なせない

小規模スタジオの反射設計は、かなり狭い領域を狙います。

返しすぎれば、判断を濁らせる。
消しすぎれば、空間が不自然になる。

この間を取る。

直接音が濁らないこと。
早い戻りが作業点を汚さないこと。
後続反射が強い塊として戻らないこと。
でも、部屋の空気が消えないこと。

この条件を同時に成立させる。

それが小規模スタジオの反射設計です。

ここは、理論だけでは足りません。

もちろん、音響工学から逸脱してはいけない。
直接音、初期反射、後続反射、時間応答、方向性、作業点。
これらを無視して語れば、設計は破綻します。

でも、数値だけでも足りない。

どの反射が音を濁らせているのか。
どの余韻なら空間として残せるのか。
どこから不自然に感じるのか。
どこから判断を邪魔するのか。

そこには、音への執念が必要です。

DIVERは、反射を雑に扱いません。

反射は消すものではない。
返すものでもない。
逃がして、ほどいて、残すものです。

小規模スタジオでは、それが判断環境を作ります。


DIVERは、反射の“行き先”を設計します

DIVERが小規模スタジオで見るのは、反射の量ではありません。

反射の行き先です。

どの反射が作業点へ戻っているのか。
どのポイントの反射が直接音を濁らせているのか、それとも反射を外すべきなのか。
どの反射なら、空間の自然さとして残せるのか。
どこにKAIROSを置けば、強い反射を時間方向へほどけるのか。

そこまで見ます。

スタジオは、ただデッド気味にすればいい部屋ではありません。

作業点で判断できる直接音が必要です。
その直接音を汚さない反射経路が必要です。
そして、空間を不自然に死なせない後続反射が必要です。

DIVERは、その全部を設計対象にします。

音の軸。
反射の行き先。
後続反射の密度。
作業点の純度。
KAIROSの配置。
床、壁、天井、モニター設置との関係。

全部、音から逆算します。

小規模スタジオの反射設計は、材料から考えるものではありません。

音の戻り方から考えるものです。


小規模スタジオの反射設計を相談する

今の部屋で、反射が作業点を汚しているのか。
直接音の直後に、どの戻りが混ざっているのか。
後続反射を残せるのか。
それとも、まず作業点から外すべきなのか。
KAIROSを使うなら、どの面に置くべきなのか。

それは、一般論だけでは決まりません。

部屋の寸法。
モニターの位置。
作業点。
前方の構成。
天井の高さ。
床との関係。
壁の近さ。
後続反射の逃げ先。
KAIROSの配置。

そこまで見て、初めて判断できます。

DIVERは、反射をなんとなく整えません。

直接音の純度を守る。
作業点へ強い反射を返さない。
後続反射を殺しきらず、空間の自然さとして残す。

そこまでやります。

小規模スタジオの反射設計で迷っているなら、相談してください。

反射を返すのか。
外すのか。
逃がすのか。
ほどくのか。
残すのか。

その答えを、音から決めます。

DIVERが、作業点を汚さない反射経路から設計します。


参考資料

本文では出典を最小限に抑えていますが、理論確認の土台として以下を参照しています。

  • EBU Tech 3276:リスニングルームの直接音・初期反射・後続音場の整理。
  • ITU-R BS.1116-3:小さな音質差を評価するためのリスニング条件、初期反射条件。
  • BBC / AES Controlled Image Design:コントロールルームにおける初期反射のリダイレクト。
  • AES 137th Convention paper:コントロールルームの初期反射方向を可視化・評価する研究。

この記事を書いた人

goさん / DIVER
建築士・音響デザイナー・オーディオフリーク。
小さな部屋でスピーカーと部屋が本当に鳴る空間をつくるために、DIVERを運営しています。
DIVERでは、防音・音響設計・スピーカーセッティング・低音対策を分けて考えず、部屋全体で「音楽が鳴る条件」を整理します。
このブログでは、6畳のような小さなオーディオルームで起きる低音、反射、吸音、防音、スピーカーサイズの悩みを、goさんの実体験と建築音響の視点から解説しています。
記事を読んでも自分の部屋で何が起きているかわからないときは、リスニングブースでコーヒーを飲みながら、音の話をしましょう。

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