12畳戸建てサックスルームの防音音響設計事例|部屋で音を鳴らすということ

contents list

CASE OUTLINE

ROOM
12畳戸建てサックスルーム

SOUND SOURCE
サックス、演奏、練習、伴奏音源

USER
戸建てでサックスをしっかり鳴らしながら、耳に刺さらず、部屋に広がる音で練習したい演奏者

PURPOSE
防音条件を整えながら、サックスの音が壁に張り付かず、空間に広がり、演奏者の身体へ自然に戻る部屋をつくる

SOUNDPROOFING REQUIREMENT
D-50〜55相当を目安に検討する。条件によりD-55〜60相当も視野に入れる。中高域の音漏れ、窓・ドア・換気・隙間、防音によって室内側に残りやすくなる中低域〜中高域を設計条件に含める

INITIAL REQUEST
サックスを戸建ての一室でしっかり鳴らしたい。防音しながらも、音が乾かず、部屋で気持ちよく広がる状態にしたい

LATENT ISSUE
防音や吸音だけを優先すると、室内では音が近く返り、耳に刺さったり、壁に張り付いたりする。反対に響きを残しすぎると、中低域が濁り、音の輪郭が見えにくくなる

DESIGN FOCUS
側壁KAIROS、室中央の下げ天井ハイブリッドデュフューザー、コーナーベーストラップ、中低域コントロール、演奏位置、側壁・天井からの返り

ACOUSTIC THEME
音を閉じ込めるのではなく、部屋に出たサックスの音がどう返り、身体に届くかを設計する


部屋でサックスを鳴らすということ

サックスを部屋で吹くとき、聴いているのは楽器から出た直接音だけではありません。

ベルから前へ出る音。
管体まわりから広がる音。
開いているトーンホール周辺から部屋へ出る音。
床に触れ、壁に当たり、天井から返ってくる音。
そして、自分の身体へ戻ってくる音。

それらが重なって、演奏者は「自分の音」を感じています。

防音された部屋でサックスを吹けるようにすることは大切です。
しかし、音を外へ漏らさないことだけを考えると、部屋の中で音が詰まることがあります。

音が耳に刺さる。
壁に張り付く。
息を入れても音が先へ伸びない。
中低域が重く残り、輪郭が曖昧になる。
吸音しすぎると、今度は音が乾いて身体に戻ってこない。

この状態では、サックスを鳴らしているというより、防音された箱の中で音を処理している感覚になります。

今回のケースでは、12畳の戸建てサックスルームを、防音と音響の両方から設計します。
主題は、音を小さく閉じ込めることではありません。
音が部屋に出て、返り、演奏者の身体へ戻る状態をつくることです。


サックスはベルだけから鳴っているわけではない

サックスの音は、ベルから前にだけ出ているわけではありません。

もちろん、ベルの向きは重要です。
ベルをどの壁へ向けるかによって、正面への音の当たり方は変わります。

しかし、サックスの音は、ベルだけで完結していません。

管体の振動。
開いているトーンホール。
音域や運指によって変わる放射。
演奏者の身体まわりに広がる音。
上方向、側方、背面へ回り込む音。

これらが一体になって、部屋の中へ放射されます。

そのため、サックスルームでは、ベルの正面だけを処理しても十分ではありません。
側壁、天井、背面、床からの返りまで含めて設計する必要があります。

特に12畳程度の戸建てルームでは、6畳や7畳より余白はあります。
しかし、余白があるぶん、響きをどう残すか、中低域をどう支えるか、返りをどう身体へ戻すかが重要になります。

部屋が広ければ自然に良く鳴るわけではありません。
音がどこへ出て、どこから戻るかを読む必要があります。


防音は必要だが、音を閉じ込めるだけでは足りない

戸建てであっても、サックスルームでは防音条件を確認します。

サックスは中高域のエネルギーが強く、屋外や隣室へ抜けやすい楽器です。
窓、ドア、換気口、隙間、建具まわりが弱いと、そこから音が漏れます。

今回のケースでは、D-50〜55相当を目安に検討します。
夜間練習や近隣条件が厳しい場合は、D-55〜60相当も視野に入れます。

ただし、防音性能を高めると、外へ漏れにくくなった音は室内に残りやすくなります。

サックスの音圧。
中高域の鋭さ。
中低域の厚み。
伴奏音源との重なり。
演奏者の耳に近い反射。

これらが、部屋の中で強く感じられることがあります。

防音は、外との関係を整えるために必要です。
しかし、音を閉じ込めるだけでは、吹きやすいサックスルームにはなりません。

防音の内側で、音がどう返り、どう減衰し、どう身体へ届くか。
そこまで設計して、はじめてサックスを鳴らす部屋になります。


吸音しすぎると、息の先が乾く

サックスの音が耳に刺さると、吸音を増やしたくなります。

壁に吸音材を貼る。
天井を吸音する。
カーテンや布を増やす。
硬い反射を減らす。

たしかに、吸音によって耳に痛い返りは抑えやすくなります。
部屋の音圧感も落ち着きます。

しかし、吸音しすぎると、今度はサックスの音が乾きます。

息の先に余韻が残らない。
音が伸びない。
弱音が空間に支えられない。
ビブラートの揺れが部屋に残らない。
吹いていて、自分の音が身体へ戻ってこない。

サックスは、息の流れが音楽の流れに直結する楽器です。
部屋の返りが少なすぎると、息を入れても音が空間の中で育たない感覚になります。

だから、サックスルームでは吸音だけに頼りません。

耳に刺さる返りは抑える。
しかし、音を乾かしすぎない。
中低域の身体感を残しながら、濁りは整理する。

このバランスが重要になります。


中低域は、サックスの身体を支える

サックスの音を考えるとき、高域の抜けや中高域の張りに意識が向きやすくなります。

しかし、サックスの音の身体は中低域にあります。

息の太さ。
音の胴体。
低音域の重心。
中音域の密度。
フレーズの支え。
伴奏音源と重なったときの土台。

これらは、中低域の状態に大きく左右されます。

中低域が足りないと、音は軽くなります。
息を入れても、音の身体がついてこない。
フレーズは明るくても、重心が弱く感じられます。

反対に、中低域が部屋に残りすぎると、音は濁ります。

低音が膨らむ。
音程感が見えにくくなる。
伴奏のベースやピアノと混ざる。
フレーズの切れ目に部屋の音が残りすぎる。
吹いている本人には、音が太いのではなく、重く曇って感じられる。

中低域は、消すものではありません。
しかし、放置するものでもありません。

暴れている中低域。
欠落している中低域。
サックスの音を支えている中低域。

この3つを分けて読む必要があります。

今回の設計では、中低域をサックスの身体として残しながら、部屋に溜まりすぎる濁りを整理します。


コーナーベーストラップで、中低域の滞留を整理する

このケースでは、コーナーベーストラップを設けます。

サックスは低音楽器ではありません。
それでも、12畳の防音された部屋では、中低域の滞留が問題になります。

特に部屋のコーナーには、低域〜中低域のエネルギーが溜まりやすくなります。

演奏中に低音域が膨らむ。
中音域の厚みが重くなる。
伴奏音源とサックスが濁る。
部屋の角に音が残り、フレーズの後ろを曇らせる。

この状態を放置すると、音が部屋に広がるというより、部屋の中で重く停滞します。

コーナーベーストラップの目的は、サックスの音を細くすることではありません。
音の身体を奪うことでもありません。

部屋に残りすぎる中低域を整理し、サックスの音色を支える成分を残すことです。

中低域が整うと、音は軽くなるのではなく、輪郭が見えやすくなります。
息の太さと濁りの違いが分かりやすくなります。

サックスを部屋で鳴らすためには、中低域を避けるのではなく、読んで扱う必要があります。


側壁2面にKAIROSを設置する

このケースでは、側壁2面にKAIROSを設置します。

サックスの音は、演奏者の前方だけでなく、側方にも広がります。
ベルの向き、トーンホールの開き方、音域、演奏姿勢によって、側壁へ届く音の質も変わります。

側壁が硬いままだと、中高域が近く返り、耳に刺さることがあります。
音が部屋に広がる前に、壁で止まり、演奏者へ押し返されるように感じることもあります。

反対に、側壁を吸音しすぎると、息の先の余韻や側方の広がりが痩せます。
音は落ち着いても、部屋で鳴っている感覚が薄くなります。

そこで、側壁2面にKAIROSを配置します。

目的は、音を派手に拡散することではありません。
また、KAIROSを置けば必ず改善するという話でもありません。

側壁KAIROSは、近い壁からの返りを単純な硬い反射にしすぎず、吸音だけで音を乾かしすぎないための設計要素です。

サックスの音が壁に張り付かず、空間の中へほどけていく。
そのために、側壁の返り方を整えます。


KAIROSは、音を減らすためではなく返り方を整えるために使う

サックスルームでKAIROSを使うとき、大切なのは、何を変えたいのかを明確にすることです。

音量を下げたいのか。
耳への刺さりを和らげたいのか。
壁に張り付く感じをほどきたいのか。
響きを残しながら、近い反射を整えたいのか。

KAIROSは、音を吸って小さくするためのものとして扱いません。
このケースでは、近すぎる側壁の返り方を整えるために使います。

音が壁に当たって、そのまま硬く戻る。
その返りが直接音に近い時間で耳に届く。
結果として、音が耳の近くに張り付く。

この状態を避けるために、側壁の返り方を変えます。

ただし、KAIROSだけで部屋全体の問題が解決するわけではありません。
中低域の滞留はコーナーベーストラップで確認します。
天井からの返りは下げ天井とハイブリッドデュフューザーで扱います。
演奏位置とベルの向きも調整します。

KAIROSは、その中のひとつの役割を持つ設計要素です。


室中央の天井を下げる

このケースでは、室中央の天井を一部下げます。

サックスは立って演奏することが多く、演奏者の耳と天井の距離も重要になります。
音は前方や側方だけでなく、上方向にも広がります。

硬い平面天井のままだと、中高域やアタックが上で強く返り、耳に近く感じられることがあります。
音が上に抜けず、頭上でまとまるように感じる場合もあります。

一方で、天井を全面的に吸音すると、部屋が乾きます。
息の先の余韻や、音が上方向へ開く感覚が失われることがあります。

そこで、室中央の天井を下げます。

目的は、天井を単純な平面反射として残さないことです。
演奏位置付近の上方向の返り方を変え、音が近く硬く戻りすぎない条件をつくります。

ただし、下げ天井によって低域モードが解決するわけではありません。
低域〜中低域は、部屋寸法、壁・床・天井の剛性、演奏位置、ベーストラップ、測定によって確認します。

ここでの下げ天井は、主に上方向の反射条件を整えるための設計です。


下げ天井をハイブリッドデュフューザーとする

室中央の下げ天井は、ハイブリッドデュフューザーとして設計します。

天井を吸音だけで処理すると、耳に刺さる返りは減ります。
しかし、音が乾きすぎることがあります。

反対に、天井を硬く残すと、音の存在感はあります。
しかし、頭上からの返りが強く、演奏者の耳に近く戻りすぎる場合があります。

その中間として、下げ天井部をハイブリッドデュフューザーとします。

目的は、上方向の強い返りをそのまま耳へ戻さないこと。
同時に、サックスの息と余韻を吸い殺さないこと。

サックスの音が上へ抜け、部屋の中でほどける。
しかし、天井から硬く刺さるようには戻らない。

この状態を目指します。

天井ハイブリッドデュフューザーは、音を飾るための要素ではありません。
演奏者が、自分の息の先にある響きを感じながら吹けるように、上方向の返り方を整えるための設計です。


演奏位置とベルの向きを決める

サックスルームでは、演奏位置とベルの向きが重要です。

どの壁を向いて吹くのか。
ベルを正面壁へ向けるのか、少し角度を振るのか。
側壁KAIROSに対して、どの距離で演奏するのか。
室中央の下げ天井の下に立つのか、少し外すのか。
背面からの戻りをどのくらい受けるのか。

これらによって、吹き手の聴こえ方は変わります。

ベルを硬い壁へまっすぐ向けると、音は強く返ります。
音量感はありますが、近すぎる返りは息を押し返すように感じることがあります。

反対に、吸音面へ向けすぎると、音のきつさは減ります。
しかし、息の先が乾き、音が部屋の中へ伸びにくくなることがあります。

今回の設計では、側壁KAIROS、下げ天井、コーナーベーストラップの位置と合わせて、演奏位置とベルの向きを決めます。

サックスは、どこで吹いても同じように鳴るわけではありません。
部屋の中のどこで音を出すかが、音の返り方を決めます。


伴奏音源との聴こえ方も確認する

サックスの練習では、伴奏音源を使うことがあります。

ピアノ伴奏。
リズムトラック。
クリック。
マイナスワン音源。
録音した自分の演奏。

これらを流しながら吹く場合、部屋の中ではサックスの生音と伴奏音源が重なります。

中低域が濁ると、伴奏のベースやピアノとサックスの下の帯域が混ざります。
中高域が刺さると、自分のサックスだけが耳に近くなり、伴奏との距離感が取りにくくなります。
吸音しすぎると、自分の音は乾き、伴奏だけがスピーカーから別に鳴っているように感じることがあります。

練習室として成立するためには、自分の音だけでなく、伴奏との関係も確認します。

自分の音が聴こえる。
伴奏も聴こえる。
息のニュアンスが分かる。
フレーズが伴奏の上でどう流れているかを判断できる。

この状態をつくるためにも、中低域、側壁、天井、演奏位置を整える必要があります。


音を閉じ込めず、部屋に出す

防音された部屋では、音を閉じ込める意識が強くなります。

外へ漏らさない。
近隣に迷惑をかけない。
室内で音を抑える。
反射を減らす。

これらは必要です。

しかし、サックスルームでは、音を閉じ込めるだけでは演奏しにくくなります。

サックスの音は、息とともに部屋へ出ます。
その音が壁に触れ、天井に触れ、床に触れ、少し遅れて身体へ戻ってくる。
その戻りを聴きながら、吹き手は音色、音程、息の量、フレーズを調整します。

だから、音を全部抑え込むのではなく、どう返すかを考える必要があります。

耳に刺さらない。
壁に張り付かない。
中低域が濁らない。
でも、音は薄くならない。
息の先が部屋に伸び、身体へ戻ってくる。

この状態が、サックスを部屋で鳴らすということに近いのだと思います。


部屋で鳴るサックスルームへ

今回の12畳戸建てサックスルームでは、防音だけではなく、部屋で音を鳴らすことを主題にしました。

防音性能はD-50〜55相当を目安にし、条件によってはD-55〜60相当も検討します。
中高域の音漏れ、窓、ドア、換気、隙間を確認します。
そのうえで、防音によって室内側に残りやすくなる音圧や近接反射も設計条件に含めます。

室内では、コーナーベーストラップで中低域の濁りを整理します。
側壁2面にKAIROSを設置し、音が壁に張り付かないよう、返り方を整えます。
室中央の天井を下げ、ハイブリッドデュフューザーとして、上方向の硬い返りを調整します。
演奏位置とベルの向きも、部屋の返り方に合わせて決めます。

音を小さくするだけなら、吸音を増やせば近づくかもしれません。
けれど、サックスは小さく処理されるための楽器ではありません。

息を入れたあと、音がどこへ行くのか。
壁に当たったあと、どんな表情で戻るのか。
中低域は身体を支えているのか、それとも濁りになっているのか。

そこを聴き分けるほど、部屋はただの箱ではなくなります。

サックスの音は、ベルを出たあともまだ変化しています。
その変化を邪魔しないように、そして演奏者の身体へ戻せるように、部屋の返事を整えていく。

この部屋で大切なのは、音を閉じ込めることではなく、音が帰ってくる道筋をつくることです。

この記事を書いた人

goさん / DIVER
建築士・音響デザイナー・オーディオフリーク。
小さな部屋でスピーカーと部屋が本当に鳴る空間をつくるために、DIVERを運営しています。
DIVERでは、防音・音響設計・スピーカーセッティング・低音対策を分けて考えず、部屋全体で「音楽が鳴る条件」を整理します。
このブログでは、6畳のような小さなオーディオルームで起きる低音、反射、吸音、防音、スピーカーサイズの悩みを、goさんの実体験と建築音響の視点から解説しています。
記事を読んでも自分の部屋で何が起きているかわからないときは、リスニングブースでコーヒーを飲みながら、音の話をしましょう。

contents list