
24時間ジムは、なぜこれほど増えたのでしょうか。
単純に営業時間が長く、利用できる人が増えるから。
スタッフの常駐時間を限定し、省人化しやすいから。
フランチャイズとして仕組みを展開しやすいから。
事業者側には、さまざまな理由があります。
しかし、利用者から見た24時間ジムの強さは、もっと分かりやすいものです。
ジムの営業時間に、自分の生活を合わせなくてよい。
出勤前でも、仕事帰りでも、家族が寝た後でも、自分が使える時間に運動できる。決められた営業時間に間に合わせるのではなく、自分の都合で来館時間を選べる。
つまり、24時間ジムが提供しているのは、深夜にも施設を開けているという機能だけではありません。
自分の時間を、自分で決められる自由です。
この価値が、24時間ジムを強い商品にしました。
一方で、24時間営業のジムが増えれば、「24時間」という条件だけでは違いをつくれなくなります。
これから問われるのは、
24時間開いているかではなく、その24時間をどのような体験にするか。
ということです。
24時間ジムの増加がフィットネス市場を拡大させた
国内のフィットネス市場は拡大しています。
帝国データバンクによると、2024年度のフィットネス市場は約7,100億円に達する見込みとなり、主要大手15社の店舗数は約6,500店まで増加しました。10年前と比較すると約2.3倍です。
市場拡大を押し上げた要因の一つが、chocoZAPに代表される低価格のコンビニジムや、目的を絞った24時間ジムの増加です。一方で、低価格業態の増加によって顧客獲得競争も激しくなり、調査対象企業のうち黒字企業は48.8%にとどまっています。
24時間ジムは、フィットネス市場の利用者を広げました。
従来のジムは、運動のために時間を確保し、ウェアを準備し、施設の営業時間内に来館する場所でした。
しかし、現在は仕事帰りや家事の合間に立ち寄ることを前提とした業態も増えています。
chocoZAPは、月額3,278円、24時間利用、着替えやシューズの履き替えが不要という手軽さを前面に出し、「外出のついで」や「家事の合間」といった隙間時間を利用価値に変えています。
エニタイムフィットネスも、24時間年中無休と全国の店舗網を通じて、多様な生活スタイルに合わせて運動できることをブランドの中心に据えています。国内では1,200店舗以上を展開し、2026年には会員数110万人を突破しました。
両者に共通するのは、身体づくりの効果を説明する前に、運動に必要だった時間と手間を減らしていることです。
「24時間」は強いマーケティングメッセージだった
「24時間営業」という言葉は、非常に強い訴求です。
設備の性能やトレーニング理論を詳しく説明しなくても、利用者が自分の生活へ置き換えられるからです。
- 残業があっても利用できる
- 早朝にトレーニングできる
- 不規則な勤務にも対応できる
- 混雑する時間を避けられる
- 思い立ったときに行ける
- 自分の生活リズムを崩さずに通える
「24時間」は、営業時間の説明であると同時に、
施設側の時間ではなく、利用者の時間を優先します。
というメッセージです。
だから伝わりやすい。
「最新のマシンを導入しています」よりも、日常生活との関係が明確です。
「身体を変えられます」よりも、入会後の利用場面を想像しやすい。
24時間ジムが増えた背景には、運営効率だけではなく、誰にでも理解できる時間価値を商品化できたことがあります。
HAGANEは24時間ジムのメリットをどう考えるか
24時間営業には、利用者側と事業者側の両方にメリットがあります。
ただし、営業時間を延ばすこと自体ではなく、どのような価値が生まれるのかを捉える必要があります。
利用者の生活へ入り込みやすい
24時間営業であれば、一般的な営業時間では取り込めなかった利用者とも接点を持てます。
早朝に動きたい人。
仕事の終了時間が一定でない人。
夜勤や交代勤務の人。
家事や育児の後に利用したい人。
混雑を避けたい人。
利用者がジムの時間に合わせるのではなく、ジムを生活の中へ組み込めます。
同じ施設で異なる利用時間を獲得できる
朝、昼、夕方、深夜では、来館する人も目的も異なります。
朝は出勤前の短時間利用。
昼は在宅勤務者やシニア層。
夕方は学生や仕事帰りの会社員。
深夜は混雑を避けたい利用者や不規則勤務者。
一つの施設が、時間帯によって異なる市場と接点を持てることは、24時間業態の強みです。
利用者へ主導権を渡せる
予約時間や営業時間に縛られず、自分で来館時間を決められることは、利用者にとって大きな自由です。
この自由は、単なる便利さではありません。
忙しい人にとっては、運動を諦めなくてよい理由になります。
訴求内容が分かりやすい
「24時間利用できる」という価値は、広告や看板で瞬時に伝わります。
ターゲットが自分の生活へ置き換えやすく、見学や入会を検討する入口として強いメッセージになります。
24時間営業には、ブランドを弱くする危険もある
24時間営業は強い仕組みですが、採用すれば自動的に魅力的なジムになるわけではありません。
むしろ24時間という機能に頼りすぎると、施設の個性が見えなくなる場合があります。
24時間だけでは価格と距離で比較される
近隣に複数の24時間ジムがあれば、「いつでも使える」は共通条件になります。
その後に比較されるのは、
- 会費
- 自宅や職場からの距離
- マシンの種類
- 混雑状況
- 清潔感
- 駐車場
- 店舗数
などです。
24時間営業が一般化すると、差別化要素だったものが、入会を検討するための最低条件へ変わります。
無人時間にブランド体験が消えやすい
スタッフがいる時間帯には、挨拶、案内、指導、清掃、声掛けなどによって店舗の姿勢を伝えられます。
しかし、無人時間になると、それらの接点が一気に減ります。
残るのは、マシン、空間、音、照明、映像、サインです。
それらが単なる設備として配置されているだけなら、店舗はマシンを置いた箱になります。
スタッフがいない時間ほど、空間そのものにブランドの考え方が表れます。
自由が「放置」に変わる可能性がある
自由に使えることと、誰にも気づかれないことは紙一重です。
慣れている利用者にとって、無人環境は気楽です。
一方、初心者にとっては、
- 何から始めればよいか分からない
- マシンの使い方を聞けない
- 周囲の利用者に見られている気がする
- 困ったときに頼れる人がいない
- 自分がこの場所にいてよいのか分からない
という不安につながる場合があります。
24時間という自由を提供するなら、一人でも迷わず利用できる体験も同時に構築しなければなりません。
24時間同じ空間では、時間帯との不一致が起こる
昼間に活気として成立する音量や照明が、深夜にも適しているとは限りません。
夕方の混雑時に高揚感を生む音が、人の少ない午前2時には落ち着かなさを生むこともあります。
朝に必要な光と、仕事帰りに必要な光も異なります。
24時間営業なのに、空間の体験が一日中固定されている。
ここには、大きな矛盾があります。
24時間営業は、一つのサービスではない
24時間ジムを「一日中開いている一つの施設」と考えると、体験は均一になります。
しかし、利用者側から見れば、朝、昼、夕方、深夜は異なる時間です。
訪れる理由も、心理状態も、施設に求めることも違います。
早朝は、身体と意識を起動する時間
出勤前に利用する人は、長時間滞在するために来ているとは限りません。
限られた時間の中で、迷わず動き始められることが重要です。
入口からロッカー、ウォームアップ、トレーニングまでの流れが分かりやすい。
空間全体が見渡せる。
音や光によって身体が徐々に動き出す。
早朝の価値は、静かな施設を使えることだけではありません。
一日を始めるためのスイッチを、短時間で入れられることです。
昼は、自分のペースを取り戻す時間
昼間には、在宅勤務者、主婦・主夫、シニア層、不規則勤務者など、さまざまな利用者が訪れます。
夕方ほど混雑しないことを価値として選ぶ人もいます。
ここでは、強い高揚感よりも、自分の身体と向き合いやすい落ち着きや、スタッフ・他の利用者との適度な距離が重要になる場合があります。
夕方から夜は、日常から切り替える時間
仕事や学校を終えて来館する利用者は、すでに身体的・精神的な疲労を抱えています。
その状態からトレーニングへ入るには、日常との境界が必要です。
入口を通った瞬間に感じる音の変化。
身体の輪郭を意識させる光。
人の動きや熱量が見える空間。
これらによって、仕事や生活からトレーニングへ意識を切り替えます。
深夜は、一人で集中できる時間
深夜を選ぶ人にとって、人が少ないことは大きな価値です。
しかし、人が少ない空間には、静けさと同時に不安も生まれます。
暗すぎる。
奥の様子が分からない。
音がほとんどなく、マシンの動作音だけが響く。
モニターには昼間と同じ広告が流れている。
これでは、自由というよりも放置された感覚になります。
深夜に必要なのは、昼間の活気をそのまま再現することではありません。
一人でも集中できる静けさと、一人きりだと感じさせない気配の両立です。
24時間の次に、何を売るのか
24時間営業は、来館できる時間を広げます。
しかし、利用者がその中の何時を選び、どのように過ごすかまでは決めてくれません。
だからこそ、店舗ごとに次の価値を定める必要があります。
- 出勤前の30分で、身体と頭を起動できる
- 仕事帰りの45分で、日常から完全に切り替えられる
- 混雑を避け、本格的なトレーニングへ集中できる
- 不規則勤務でも、自分の生活リズムを崩さず身体を管理できる
- 初心者でも、スタッフ不在時に迷わず運動できる
- 短時間でも、トレーニングを完了した実感を得られる
同じ24時間ジムでも、どの価値を中心にするかによって、必要な空間は変わります。
「誰でも、いつでも使えます」だけでは、施設の輪郭は見えません。
誰のどの時間を、どのような時間へ変えるのか。
そこまで定めることで、24時間営業がブランドの価値になります。
空間は、利用者が迷う時間を減らす
短時間利用を訴求するジムで、利用者が館内を迷っていては、約束が成立しません。
空間デザインでは、単に通路幅を確保するだけでなく、利用者が考えなくても次の行動を選べる関係をつくります。
入口から目的のエリアが把握できる。
どのマシンが空いているか分かる。
ウォームアップからメイントレーニングへ自然に移れる。
プレートや備品が、使用する場所の近くにある。
休憩している人と、移動する人の動線が重ならない。
初心者向けの場所から、より本格的なエリアへ段階的に進める。
この構成によって、利用者は移動や判断に時間を使わず、トレーニングへ集中できます。
ただ分かりやすいだけではありません。
空間の見え方によって、
「ここは自分のための場所だ」
「このエリアなら使えそうだ」
「次はあの場所にも挑戦してみたい」
という心理もつくれます。
音は、24時間の中に異なる心理状態をつくる
ジムの音響は、BGMを流すためだけの設備ではありません。
音によって、空間の時間帯を感じさせることができます。
早朝には、急激に刺激するのではなく、身体が動き始めるリズムをつくる。
夕方には、仕事や日常からトレーニングへ切り替える密度とエネルギーを持たせる。
深夜には、音量を抑えながらも、空間が無人のように感じられない気配を残す。
重要なのは、単純な音量の上下ではありません。
- 楽曲のテンポや密度
- 低音の量
- スピーカーから利用者までの距離
- 音を届ける範囲
- エリア間での音の重なり
- マシン音やプレート音との関係
- 壁や天井から返る反射音
- 時間帯による変化
これらを一体で考えます。
フリーウェイトでは集中を深める音。
有酸素運動ではリズムを維持しやすい音。
ストレッチでは身体の緊張を意識しやすい音。
一日中同じプレイリストを同じ音量で流すのではなく、その時間に利用者をどの状態へ導くかから音を設計します。
音は、空間に人が少ない時間にも存在します。
だからこそ、24時間ジムのブランドを継続して伝えられる要素になります。
映像は、無人時間の説明係では終わらない
無人時間の映像は、マシンの使い方や館内ルールを案内するために有効です。
しかし、それだけでは映像を十分に活用しているとはいえません。
映像には、利用者へ次の行動を示す役割があります。
ウォームアップの方法を伝える。
短時間で完了できるトレーニングメニューを提示する。
自分のフォームと正しい動きを比較する。
トレーニングの記録や変化を確認する。
次に挑戦できるプログラムを紹介する。
トレーナーの考え方や専門性を伝える。
スタッフがいないから映像を置くのではありません。
利用者が自分で選択し、自分の時間を使えるようにするために映像を使います。
朝に表示する内容と、深夜に必要な情報は同じではありません。
初めて来館した人と、継続して利用する人が見たい内容も違います。
映像を時間帯、エリア、利用者の習熟度に合わせて構成すれば、モニターは単なるデジタル掲示板ではなくなります。
ジムの考え方を伝え、利用者の行動を支える接点になります。
照明は、24時間の空間に時間を取り戻す
24時間営業の施設では、外部の明るさと館内の時間感覚が一致しないことがあります。
特に窓が少ない店舗や地下区画では、朝も深夜も同じ空間に見えます。
そこで照明が重要になります。
朝は、身体と意識が動き出す明るさ。
昼は、自然な視認性と開放感。
夕方は、トレーニングへ集中を切り替える陰影。
深夜は、安心して移動できる見通しと、集中を邪魔しない光。
時間帯に応じて空間の性格を変えることで、24時間営業であっても、利用者は時間の流れを感じられます。
ただし、暗くすれば格好よくなるわけではありません。
ベンチに寝たときに光源が目へ入る。
鏡へ照明が映り込み、フォームを確認できない。
プレートや足元が見えにくい。
マシンの設定表示を読めない。
これでは、演出が利用者の集中を妨げています。
照明は、内装を見せるためだけではなく、利用者の行動と心理状態を変えるために設計するものです。
無人時間には、空間そのものが接客する
スタッフがいない時間に、人による接客をそのまま再現することはできません。
しかし、利用者を放置しない環境はつくれます。
入口から館内の使い方が分かる。
次に何をすればよいか迷わない。
音によって施設の温度を感じる。
映像から必要な情報を得られる。
照明によって安全と集中を両立できる。
休憩する場所と、トレーニングする場所の性格が分かれている。
これらが一体になれば、空間そのものが利用者へ働きかけます。
それは人の代わりをするという意味ではありません。
スタッフがいない時間にも、
「このジムは利用者をどう考えているのか」
「どのように使ってほしいのか」
「どのような時間を提供したいのか」
が伝わる状態です。
24時間ジムでは、空間、音、映像、照明が、ブランドの姿勢を一日中伝え続けます。
24時間営業の価値は、広告と現地体験が一致して完成する
「いつでも使える」と広告で伝えることはできます。
しかし、実際に深夜に訪れたとき、
暗くて不安を感じる。
使い方が分からない。
音がなく、施設全体が停止しているように見える。
設備の故障や汚れが目立つ。
何かあったときの行動が分からない。
という状態であれば、利用者が感じるのは自由ではありません。
反対に、
自分のペースで迷わず利用できる。
人が少なくても安心して集中できる。
短時間でも目的を完了できる。
どの時間に訪れても、そのジムらしさを感じられる。
という体験があれば、「24時間」という約束に中身が生まれます。
マーケティングで掲げた言葉を、実際の空間で証明する。
それが、ブランド体験です。
24時間ジムの差は、ユーザーのブランド体験に現れる

24時間ジムが少なかった時代は、24時間営業そのものが選ばれる理由になりました。
現在は、多くの施設が同じ条件を掲げています。
ここから先に必要なのは、営業時間をさらに延ばすことではありません。
その時間を、誰に、どのように使ってもらうのかを明確にすることです。
出勤前の30分を、一日の身体を起動する時間に変える。
仕事帰りの45分を、日常から自分へ戻る時間に変える。
深夜の60分を、誰にも邪魔されず集中する時間に変える。
初心者の最初の利用を、一人でも迷わず運動できた経験に変える。
その価値を、広告だけでなく、空間、音、映像、照明から感じられるようにする。
24時間営業とは、一つの空間を一日中開放することではありません。
異なる時間を生きる利用者に、それぞれ意味のある体験を提供することです。
HAGANEは、音と空間から、「いつでも使える」という機能を、そのジムで過ごす理由へ変えていきます。
「24時間」だけでは終わらないジムをつくる
24時間営業を採用するだけでは、競合との差は生まれにくくなっています。
重要なのは、
- 誰がどの時間帯に利用するのか
- その時間にどのような価値を提供するのか
- 朝、夕方、深夜で空間の性格をどう変えるのか
- 無人時間にブランドの姿勢をどう伝えるのか
- 音、映像、照明をどのように連動させるのか
- 集客で伝えた価値を、現地でどう実感させるのか
を一体で考えることです。
HAGANEでは、24時間ジム、フィットネス施設、トレーニングスタジオの空間デザインと音響・映像デザインをご提案しています。
関西エリア(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山)、東海エリア(三重・岐阜・愛知・静岡)を中心にご相談いただけます。