ビルで排水臭が清掃後も消えない場合は、いきなり排水管を全面洗浄・交換せず、トラップの封水、排水・通気管、地下排水槽(ビルピット)を分けて調べます。発生した場所と時間帯、排水口へ水を補給した後の変化、他の器具の使用や排水ポンプの運転との関係が、清掃と改修工事を分ける判断材料になります。
テナントから「トイレが下水臭い」と連絡が入り、床排水口を清掃した。数日は落ち着いたものの、再び同じ臭いがする。ビル管理会社としては、もう一度清掃を頼むべきか、通気管や排水立て管を調べるべきか、それとも地下排水槽が原因なのか、判断に迷います。
このとき、清掃の回数だけを増やしても、トラップの封水が失われる原因や排水槽の貯留状態が変わらなければ、臭気が再発することがあります。反対に、原因を特定せず排水管の全面更新を見積もることも、施設の費用と停止時間を増やすおそれがあります。
本記事はビル管理会社・施設管理担当者に向けて、苦情の記録 → 原因の切り分け → 現地調査 → 清掃・修理・配管改修の比較 → 完了確認という発注判断の流れを解説します。一般住宅の排水口掃除ではなく、使用中の法人施設で設備改修が必要かどうかを判断する内容です。
臭いが出る「場所」「時間帯」「直前の設備運転」を最初に記録する

臭気が出ている場所と、臭気の発生源は必ずしも同じではありません。排水立て管まわりの貫通部、トラップの封水切れ、マンホール・排水槽の開口部など、空気が移動する経路を通じて別の場所で臭いを感じる場合があります。先にトイレや機械室の利用状況を調べ、苦情を記録します。
| 臭気が出る状況 | 主な調査対象 | その場で断定してはいけないこと |
|---|---|---|
| 使用頻度が低い床排水口の近くで臭う | トラップの封水深、わん部品・接続部、使用頻度 | 単なる蒸発なのか、器具不良があるのか |
| 上階・隣室の排水後や多量排水時にゴボゴボ音がして臭う | 排水立て管、横枝管、通気管、トラップ封水の変動 | 通気不良なのか、部分的な詰まりなのか |
| 清掃後に一時改善するが同じ場所で再発 | 器具・トラップ組付け、排水管内の堆積、接続部 | 清掃不足か、配管の損傷・変形か |
| 地下機械室や排水槽の付近、ポンプ運転時に臭う | 排水槽の密閉、貯留水、ポンプ運転、通気・排気系統 | 居室のトラップが臭気の発生源かどうか |
記録に残すのは、発生日、階・区画、使用中の器具、臭いの強さの変化、清掃・水の補給・設備運転など直前に行ったことです。「清掃したら消えた」だけではなく、「いつ再発したか」を記録して初めて調査対象を絞れます。
封水が切れていないか。水を補給して改善するなら重要な手掛かり
排水トラップは、内部に水(封水)をためて排水管内の臭気や害虫が室内へ侵入するのを防ぐ設備です。しばらく使われていない床排水口では封水が蒸発し、臭いが発生する場合があります。名古屋市上下水道局も、ビル等のトラップについて使用頻度が低い場合の封水切れと、点検・清掃の必要性を案内しています。
参考:名古屋市上下水道局「トラップの点検・清掃をおすすめします」。
トラップの封水が不足していた器具へ適切に水を補給し、臭気が一時的に改善した場合は、封水が関与している可能性があります。ただし、改善したことが蒸発だけを原因とする証明にはなりません。排水管内の圧力変動、部品の欠落、器具と排水管の接続不良によって、使用を再開すると再び臭うこともあります。
清掃の後にわんトラップの部品を正しい位置へ戻せていない、器具の部品が破損しているなど、器具側の対応で済む条件もあります。トラップ内部の沈殿物やスケール、封水の保持を確認することは、厚生労働省の維持管理要領にも示されています。
技術根拠:厚生労働省「建築物環境衛生維持管理要領」第4「排水の管理」。対象建築物の法的な適用範囲は別途確認が必要ですが、排水設備の維持管理を考えるうえで参考となる一次資料です。
排水後に封水が減るなら、通気管と排水管の圧力変動を疑う
他の器具から大量に排水した直後に、トラップの水位が変わったり、ゴボゴボ音がしたり、臭気が再発することがあります。排水立て管や横枝管内の空気圧が変化し、封水が吸い出される・押し出される現象が考えられます。これを器具の清掃不足だけで説明することはできません。
通気管には、排水が流れる際に空気を出し入れし、排水系統の圧力変動によってトラップの封水が失われることを抑える役割があります。調査では、配管図と現況を照合し、通気立て管の接続、端部の閉塞、増改築時の接続変更、横枝管の構成、局所的な排水障害などを確認します。
特定階の同じ系統で症状が起きる場合は、ほかの階・器具にも同じ現象があるかを確認します。一つのトラップを交換しても、通気系統の閉塞や接続不良が残れば再発する場合があります。ただし、ゴボゴボ音だけで通気管の不具合が確定するわけではありません。排水管の堆積や流下障害、器具構造の問題も含めて調査します。
設備メーカーのLIXIL「大便器の溜水が無くなり臭気が上がる原因」でも、排水管の通気が不足した場合の負圧や、排水抵抗によって封水が失われる可能性が説明されています。適用対象の器具と現場条件を確認して判断します。
地下排水槽(ビルピット)の臭気は、清掃だけでなく貯留時間とポンプ運転を確認する
地下排水槽を備えるビルでは、臭いの原因が居室の排水口ではなく、排水槽内に長く留まる排水や、槽の通気・密閉状態にある場合もあります。特にポンプ運転時に臭気が強まる場合は、排水槽で発生した臭気が排出・移動する経路を調べます。
排水槽内の浮遊物・沈殿物、マンホールの密閉状態、通気管、ポンプの運転水位・起動間隔、槽内の滞留条件を一体で確認します。ポンプが正常に回っていることと、排水が長時間滞留せず臭気を抑えられていることは別です。
京都市上下水道局は、「排水槽(ビルピット)の基準及び設置等の手続きについて」で、排水槽からの硫化水素や悪臭を防止するため、設置・改築時の協議や既設槽の原因調査、適切な維持管理を案内しています。これは京都市の取扱いです。工事場所が別の市町村であれば、その自治体の基準を確認します。
臭いの原因を隠すためだけに芳香剤や換気を増やしても、貯留条件や密閉不良が変わらなければ発生源への対応にはなりません。改修が必要な場合は、ポンプ運転・水位制御の見直し、槽の構造・通気の改善、配管接続部やマンホールの補修など、原因に応じた案を比較します。制御・電源工事が必要な範囲は、専門業者との施工区分を事前に確認します。
排水槽内は立入調査を前提にしない。硫化水素・酸素欠乏の安全対策が先
排水槽やマンホールを開けて内部へ入ることを、通常の管理担当者による簡易確認として扱ってはいけません。厚生労働省は、排水槽には有毒な硫化水素や可燃性のメタンガス等が充満する場合があると注意しています。臭いが強い、ガスが疑われる、体調不良があるときは、安易に近づいたり内部に立ち入ったりせず、専門の管理責任者・業者による安全な手順を優先してください。
槽内調査が必要な場合は、酸素欠乏・硫化水素等の測定、換気、監視体制、立入管理など、法令と事業所の安全管理手順に基づいて実施します。原因調査のために火気を近づけたり、危険を感じている作業者を単独で入槽させたりすることはできません。
調査は何から頼むか。全配管の洗浄や交換より前に決める範囲
管理会社が工事会社へ相談するときは、「排水臭の原因を調べてほしい」と伝えるだけでなく、建物の図面、臭気が出る区画、清掃履歴、排水槽の有無、ポンプの点検記録などを整理して渡します。これにより、器具・通気系統・排水槽のどこを先に調査するか決めやすくなります。
| 調査段階 | 確認内容 | 必要となる可能性がある作業 |
|---|---|---|
| 一次確認 | 臭気発生記録、器具の使用状況、封水保持、清掃・点検記録 | 利用者・テナントへの聞き取り、器具の点検 |
| 配管系統調査 | 排水立て管・横枝管・通気管のルート、閉塞・漏れ、改修履歴 | 図面照合、点検口の調査、必要箇所の管内確認 |
| 地下排水槽の確認 | 貯留時間の傾向、ポンプ運転、密閉・通気、浮遊物・沈殿物 | 専門業者による安全な外部確認・必要な計測 |
| 調査結果の整理 | 原因と不確定事項、工事対象範囲、使用中の施設への影響 | 調査記録、写真、系統図、見積条件の作成 |
ここで大切なのは、調査で確定した事項と、天井・壁の開口や試掘後でなければ分からない事項を分けることです。最初から全面更新を前提とせず、調査だけを先行する範囲を見積で明確にする方が、施設管理者の社内説明も進みます。
すでに同じ区画で複数回の清掃を行い、臭気や封水の異常が再発している場合は、発生記録と設備図面をもとに排水・通気配管の調査と改修範囲について相談いただけます。
清掃を続けるか、器具修理・配管更新・排水槽改修へ進むか
| 確認された主な原因 | まず検討する対策 | 配管・設備工事に進む条件 |
|---|---|---|
| 低頻度使用による封水の蒸発 | 封水管理、使用頻度・定期点検方法の見直し | 器具部品の破損や封水保持の不具合が残る |
| 器具トラップの詰まり・部品不良 | 適切な清掃、部品の組付け・交換 | 接続部の損傷、器具交換・排水管接続変更が必要 |
| 通気管の閉塞・誤接続・排水系統の圧力問題 | 系統調査、原因箇所の特定 | 通気管・排水管のルート変更、部分更新が必要 |
| 排水管の損傷・変形・継続的な詰まり | 管内や接続部の調査、清掃方法の再検討 | 配管の部分補修・区間更新が必要 |
| 排水槽の堆積・滞留・密閉・通気不良 | 清掃、ポンプ運転記録と設備状態の確認 | 槽・通気・配管・ポンプ運転条件の改修が必要 |
排水管の閉塞・詰まりが主題の場合は、「高圧洗浄しても排水管の詰まりが再発する場合の判断」で、管内カメラ調査と部分補修・区間更新の比較を説明しています。本記事は「臭いがどこから侵入し、なぜ発生するのか」の切り分けを中心にしています。
改修工事の見積は、材料費より施工場所・停止条件・復旧範囲が重要
ビルの排水・通気配管改修は、配管材料の単価だけでは工事金額が決まりません。天井内の狭さ、シャフトへの立入り、使用中のトイレを停止する時間、既存の壁・天井を開口する範囲、通気管を屋上まで延長する必要性などが費用と工程に影響します。
| 見積で確認する項目 | 数量・仕様の確認内容 | 不足すると困ること |
|---|---|---|
| 現況調査 | 調査する階・区画、器具数、点検口・配管調査の範囲 | 調査追加時の費用が分かりにくい |
| 器具・トラップ改修 | 器具種類、トラップ・継手の数量、接続方法 | 清掃と交換工事の範囲が曖昧になる |
| 排水・通気配管 | 管径・管材・更新延長、継手・支持・貫通の数量 | 配管ルート変更で数量差が生じる |
| 排水槽・ポンプ関連 | 対象槽、清掃・構造改善、ポンプ運転条件、別途電気・制御工事の区分 | 設備工事の取り合いと安全管理が不明確になる |
| 建築復旧・停止対応 | 天井・壁の開口復旧、養生、夜間・休日施工、停止区画 | テナント運営や施設稼働への影響を見落とす |
| 完成確認 | 封水保持・通水・漏れ・再発状況の検証、変更系統図 | 臭気が再発した場合の原因調査が難しくなる |
見積書の数量が不明な「配管修繕一式」だけでは、どの系統を直し、どこまで復旧するのかを比較できません。図面がない区間や開口後にしか確認できない範囲は、調査で決める条件として示すべきです。施工範囲が確定する前に、根拠のない概算単価で発注金額を決めないことが重要です。
使用中のビルでは、工事日数ではなく「使えなくなる区画と時間」を決める
便所や洗面所、厨房、地下設備を稼働させたまま作業するビルでは、工事日数だけでなく、どの階の器具が何時間使用できなくなるかを関係者と共有します。単独器具の交換なら局所的な停止で済む場合もありますが、共用立て管の交換では複数階の排水使用を制限する必要があるかもしれません。
調査や施工をテナント休業時間に分けられるか、仮設トイレ・別系統の利用が必要か、利用者動線を避けて材料を搬入できるかを事前に整理します。作業が完了したら直ちに全区画を使えるとは限らないため、漏れ確認や通水、封水の確認に必要な時間も工程へ入れます。
工事後は「その場で臭わない」だけでは改善を判定できない
引渡し時に芳香剤や換気で臭いが消えていても、根本原因が改善したとは限りません。臭気が出ていたときの使用条件と、改修後に確認する条件を合わせることが重要です。
- トラップ:封水が保持されるか、清掃後の部品の組付けが正しいか、関連器具の排水後も異常がないか
- 排水・通気管:施工箇所の通水・漏れ・流下と通気状態を、適用する設備条件に応じて確認する
- 排水槽:ポンプ運転・水位・密閉・通気の状態を確認し、以前に臭気が強くなった運転条件で再発状況を調べる
- 建築復旧:点検口、シャフト、天井・壁の開口や仕上げが必要な範囲まで復旧したか
- 記録:改修した配管経路、管材・管径、点検・施工・試験結果、未解決の条件を管理会社へ引き渡す
臭気には使用時間帯や季節による変動があります。可能なら工事後にも、苦情が発生したときに近い使用条件で経過確認を行い、同じ問題が再発していないか記録します。臭気がなくなることを根拠なしに保証するのではなく、原因に応じた確認方法と、再発時の判断条件を発注時点で決めておくことが大切です。
清掃と配管工事の境目が分からない段階から、HAGANEへご相談ください
HAGANEでは、ビル・法人施設の給排水設備について、既設配管の改修、通気・排水管のルート変更、ポンプ周辺の配管更新、関連する建築工事・天井復旧などをご相談いただけます。必要な排水槽清掃や特殊な機器・制御工事がある場合は、専門業者との担当区分を事前に整理します。
「清掃したが臭いが再発する」「封水が減る原因を確かめたい」「既設図面がなく、改修する範囲を決められない」。こうした段階で、清掃と工事の境界、停止範囲、見積に必要な条件を確認できます。
お問い合わせには、建物の用途・所在地、臭いが出る階と設備、発生時期、清掃履歴、排水槽の有無、工事可能な時間帯を、分かる範囲でお知らせください。図面がすべてそろっている必要はありません。詳しい対応範囲は設備メンテナンス・設備更新工事でもご案内しています。
HAGANEのお問い合わせフォームに進みます。個別の現地条件・施工範囲を確認するための法人向け窓口です。
参考資料と適用上の注意
- 厚生労働省「建築物環境衛生維持管理要領」:排水管・通気管、トラップ、排水槽・ポンプの点検と補修
- 厚生労働省「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」:排水設備の点検・維持管理
- 名古屋市上下水道局「トラップの点検・清掃をおすすめします」:トラップ・封水の基本
- 京都市上下水道局「排水槽(ビルピット)の基準及び設置等の手続きについて」:排水槽の悪臭対策と市内での協議
- LIXILビジネスユーザー向けQ&A「大便器の溜水が無くなる原因」:封水切れに関する器具・通気条件
資料確認日:2026年11月7日。本記事はビル等の排水設備について発注時の判断材料を整理したものです。法令上の維持管理義務や、自治体の設計・協議手続きは建物用途・規模・所在地などによって異なります。専門的な設備調査・安全管理は適切な資格・体制の下で行ってください。

