「この家、なんだか息がしやすいですね」
そんな言葉を、お引き渡しのたびに聞けるようになったのは、僕が“間取り”を「空気の通り道」として意識するようになってからです。
間取りとは、ただの部屋の配置ではありません。
それは、空気と人の“動き”を重ねて整える設計の骨格なんです。
この記事では、僕の設計哲学の中心にある
「深呼吸したくなる家」を支える間取りの5原則を、
建築的な根拠と具体事例を交えながら、徹底的に掘り下げていきます。
なぜ空気が巡らない家は、暮らしが息苦しくなるのか?
「断熱も気密もやってるのに、空気が重たい」
「24時間換気があるのに、こもった感じがする」
これは、“空気の設計”をせずにスペックだけに頼った間取りで起こりがちな問題です。
現代の住宅では高気密・高断熱が当たり前になってきていますが、
その分、「空気の流れ」が設計に組み込まれていなければ、
性能が空気を滞らせる“壁”になってしまうこともあるんです。
原則①|吸気と排気の“対角線上”に回遊性を持たせる
空気の基本原則は「入ったら、抜ける」。
そして、最も効率的な空気の流れは、吸気と排気を対角に配置することです。
(※建築環境工学でも推奨される設計手法)
例えば──
- 北側に給気口、南側の水まわりやトイレに排気ファン
- 吹き抜けを介して上下にも空気が動けるルートを確保
- 玄関→LDK→洗面→階段→2階ホールと巡る動線に沿って排気
こうすることで、家の中を風が一巡し、よどみのない空気がつくれるのです。
※
建築学会の「住宅の換気と空気質」指針でも、
“給気と排気の距離を確保し、部屋を通過させる設計”が最も効果的とされています。
原則②|“引き戸と開放”が生む空気の通り道
ドアを開けたままにできるか?
それが空気設計において重要な視点です。
- 開き戸は動線を遮断する
- 引き戸は開けっ放しにでき、空気をつなげる
- 室内窓やスリット開口は“空気だけ通す”テクニック
例えば、個室同士の間に引き戸と欄間を設ければ、
ドアを閉めても空気は回遊できる。
空間のプライバシーは保ちつつ、“空気は閉じない”設計が可能です。
【実例】
洗面室と脱衣所を引き戸で仕切り、上部開口で空気を回すだけで、
湿気こもりやにおいが劇的に改善されます。
原則③|“家事動線”と“空気動線”を重ねる
空気は、“人の動き”と同じルートを辿らせると自然に流れます。
だからこそ──
- キッチン→パントリー→洗面→脱衣→物干し
この一連の家事動線を、空気の通り道として設計する。
【実践例】
ランドリールームに排気ファン+窓を配置し、
通路を兼ねた“空気の流れ”をつくる。
これにより、洗濯物も乾きやすく、湿気がこもらない。
※
気流設計では、「熱・湿気・CO2の滞留ゾーンを人の移動と重ねること」で、空気清浄度が高まることが示されている
原則④|“よどみゾーン”をつくらない視線と空気の抜け
家の中には、必ず“空気が滞留しやすい場所”があります。
- 廊下の突き当たり
- 使われない収納の上部空間
- 窓がない玄関ホールや階段下
こうした「空気の死角」をどう抜け感ある空間に変えるかがカギです。
【設計の工夫】
- 廊下の突き当たりに窓を設ける
- 階段ホールに高窓+排気ファンを設置
- 吹き抜けや天井の段差を使って“空気を引っ張る”形にする
※
空気は、風圧・温度差・圧力差で動きます。
よどみやすいエリアは、排気点や開口を設けることで気流を誘導することが可能です
原則⑤|“素材”と“空気の動き”を連動させる
無垢材・漆喰・珪藻土といった自然素材は、
空気が動いてこそ“呼吸する素材”になります。
逆に言えば──
- 換気が機能していない空間に珪藻土を塗ると、逆に湿気を溜める
- 無垢材も、空気が滞ると臭気や湿度を逃がせず、かえって不快になる
【具体例】
リビングの一面に杉板を貼るだけでも、通風ラインを設計すれば、
空気の質が明らかに変わる。
→「においがこもらない」「呼吸が楽」といった実感につながります。
【補足】
自然素材と空気の設計は“セットでなければ逆効果”になることを、
僕は何度も現場で学んできました。
間取りは「空気を見える化」するためのツール
僕はいつもお客さんにこう伝えます。
「間取りは、暮らしの動線を描くためだけじゃありません」
「空気の動線も、一緒に描きましょう」
これはつまり──
- 家族の気配がつながる設計
- 深呼吸したくなる空間構成
- 空気と暮らしのリズムが重なる暮らし
間取りとは、“空気の器”なんです。
📘 『深呼吸したくなる家』でもこの考えを書いています
Kindle出版した本では、
空気・素材・断熱・空き家リノベを通じて、
「どうすれば暮らしが変わる空間がつくれるか?」を言葉にしました。
間取りに迷っている人にも、
“感覚の手がかり”になる一冊です。
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