「断熱材は入れたけど、あまり暖かくない」
「冷暖房の効きが悪くて、結局電気代が高い」
「冬はすきま風がひんやりする」
これらは、“気密”の重要性を見落としたリフォームでよくある後悔です。
中古住宅リノベにおいて、断熱だけを強化して満足してしまう人が多いですが、
実は快適な暮らしを手に入れるためには、断熱と気密はセットで考えるべきものなんです。
この記事では、なぜ気密が断熱と同じくらい大切なのか?
そしてリノベの現場でどう設計すべきなのか?
建築士の視点でお伝えします。
「断熱だけ」では快適にならない理由
断熱は“温度を逃さない素材”。
気密は“空気の出入りを制御する性能”。
この2つは、まったく違う機能を持ちながら、両方そろって初めて意味を持つのです。
たとえば:
- 壁に高性能な断熱材を入れても、コンセントや配管まわりにすき間があれば冷気が入る
- 天井断熱をしても、小屋裏にすき間があれば暖気が逃げる
- 気密が甘いと、換気が効かなくなり空気がよどむ
つまり、“すき間”があると、せっかくの断熱性能も半減してしまうのです。
僕が経験した「断熱だけでは不十分だった家」
築28年の中古住宅を購入されたご夫婦。
「断熱材は入れてあるので安心」と言われていたそうですが、
実際は冬の寒さがまったく改善されなかったとのこと。
現場で調査すると──
- 天井裏の断熱は途中で切れていて気流止めが機能していない
- 壁の断熱材に隙間があり、結露の跡
- 換気の吸気口がスカスカで、外気がそのまま侵入
いわゆる“見せかけの断熱”だったんです。
ここに気密シートと断熱の再施工を行い、ようやく「断熱が効く家」に生まれ変わりました。
気密を整えると、暮らしが変わる3つの理由
① 冷暖房効率が大きく上がる
気密がしっかりしていれば、室温を保つエネルギーが最小限で済みます。
エアコンの設定温度が控えめでも、部屋全体が穏やかな温度で包まれる感覚に変わります。
② 換気が「効く」ようになる
24時間換気は、建物の気密が前提になっています。
すき間が多いと、給気も排気も計画通りに動かず、
空気が“どこかに抜けていく”だけの状態になります。
気密を整えることで、必要なところに新鮮な空気を届け、汚れた空気を排出できるようになるのです。
③ 室温差が減り、ヒートショックのリスクが下がる
気密が低いと、部屋ごとの温度差が大きくなり、
- 脱衣所が極端に寒い
- 寝室だけ冷気が残る
- 廊下がヒヤッとして足元から冷える
といった不快や危険が生まれます。
気密を整えれば、家全体が“ワンルーム感覚”で快適に。
リノベで気密を高めるときの設計ポイント
中古住宅の場合、「完全気密化」は難しい部分もあります。
でも、以下のような対策で、“効果的な気密補強”は可能です。
- コンセントや配管まわりを気密ボックスで処理
- 気密シート+テープで壁内部の隙間を処理
- 小屋裏や床下の気流止めを設計に組み込む
- サッシは可能な限り樹脂化+コーキング処理
- ドアの下部にスリットを設けて空気の通路をつくる
「全部は無理」でも、“要所を抑える設計”で大きく変わります。
僕が目指しているのは、「深呼吸できる密閉空間」
気密という言葉に、「閉じ込める」「窮屈そう」という印象を持つ方もいます。
でも実際は逆です。
- 外気の騒音や排気ガスを遮断できる
- アレルゲンや湿気が入りにくくなる
- 計画換気で、空気の質が安定する
僕の感覚では、気密が高いほど「空気が澄む」んです。
そして、その空間では“深呼吸”が自然としたくなる。
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