イヤフォンで成立した音を、空間でも成立させる。6畳クラス・ゲーム音楽制作スタジオの計画事例

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イヤフォンでは成立するのに、スピーカーで鳴らすと低音が崩れる。

イヤフォンやヘッドフォンでは、かなり細かく音を作れている。

キックとベースの関係。
シンセの重なり。
空間系エフェクトの広がり。
ゲーム実装を意識した音の密度。

イヤフォンの中では、バランスが取れている。
けれど、スピーカーで鳴らした瞬間に印象が変わる。

低域が膨らむ。
キックの芯が見えない。
ベースが前に出すぎる。
部屋鳴りで音の輪郭が濁る。
イヤフォンでは成立していた音が、空間に出た途端に崩れる。

これは、ミックスの腕だけの問題ではありません。

机の大きさ。
スピーカーの置き方。
部屋の奥行き。
天井からの返り。
後方壁の近さ。
低域が溜まるコーナー。

小さな制作室では、こうした部屋側の条件が、作った音の印象を大きく変えてしまいます。

DIVERでは、こういう部屋を「吸音材を足すかどうか」だけでは見ません。
まず、スピーカーから出た音が、作業位置までどう届き、その後どこへ返っていくのかを読みます。


問題は、スピーカーで確認できる部屋になっていないこと

ゲーム音楽やトラックメイクの制作室では、イヤフォン中心で作業が成立していることがあります。

もちろん、イヤフォン制作が悪いわけではありません。
音色の整理、細部のノイズ確認、レイヤーの調整には、とても有効です。

ただ、空間に出た音の支配感は、イヤフォンだけでは読み切れません。

低音が部屋の中でどう膨らむか。
キックが身体にどう当たるか。
ベースが前に出るのか、沈むのか。
音の密度が空間で重くなるのか、薄くなるのか。

これは、スピーカーで鳴らして、部屋の中で確認する必要があります。

問題は、スピーカーを置けば解決することではありません。
スピーカーで確認できる部屋になっていないと、鳴らした瞬間に部屋の影響で判断が濁ります。

だから僕たちでは、まずこう考えます。

イヤフォンで作った音を、空間でも判断できる制作室にする。


6畳クラスの制作室で、最初に疑うべきもの

6畳クラスの制作室でまず見たいのは、機材のグレードではありません。

最初に見るべきなのは、机とスピーカーです。

よくあるのが、巨大なデスクです。

PCモニター、MIDIキーボード、オーディオインターフェース、コントローラー、外部機材。
作業性を優先すると、机はどんどん大きくなります。

でも、机が大きくなるほど、スピーカーから出た音は机面で強く反射します。

直接音の直後に、机からの早い反射が耳に届く。
中高域の輪郭が濁る。
定位が曖昧になる。
低域以前に、まず音の基準がぼやける。

その状態で低音を判断しようとしても、部屋の問題なのか、机の問題なのか、ミックスの問題なのかが見えにくくなります。

この計画では、机を主役にしません。

デスクは W1200×D600mm程度の既製デスク
できるだけ前壁に寄せます。

理由は、作業スペースを広げるためではありません。
後方に、音が返っていくための空間を残すためです。


スピーカーを机に置かない

この部屋では、JBL 4309クラスのスピーカーを基準に計画します。

完全なデスクトップモニターではなく、大型メインモニターでもない。
6畳クラスの制作室でも扱えるサイズでありながら、音楽として空間に押し出す力があるスピーカーです。

ただし、机には置きません。

左右それぞれ、独立したスピーカースタンドに設置します。

机とスピーカーを切り離すことで、机面反射や不要な振動の影響を減らします。
スピーカーを家具の一部にせず、音を出す基準として独立させます。

さらに、スピーカーはやや強めにトーインします。

ここでいう強めのトーインは、単に音を真ん中に集めるためではありません。

小さな部屋では、側壁からの一次反射がすぐに耳へ戻ります。
その反射が強すぎると、直接音の輪郭が崩れます。

内振りを強めることで、側壁へ向かう強い放射を抑え、作業位置に届く直接音を優先します。

まず作るべきなのは、広い音場ではありません。
制作者が作業位置で信じられる直接音です。


作業位置そのものを、モニタリング基準点にする

基準になるのは、デスク前に座ったときの耳位置です。

作業位置=モニタリング基準点。

この計画では、スピーカーから耳位置までの距離を約900mm程度で見ます。

かなり近い距離ですが、6畳クラスの制作室では現実的です。
近接で直接音をつかみ、部屋の影響を減らす。
その上で、後方の空間をどう整えるかを考える。

これが、この部屋の基本です。


前壁は、吸い切らずに少しまろやかに返す

スピーカー背面の前壁には、ラフソーン仕上げの木を使います。

前壁をすべて吸音すると、制作判断はしやすくなるかもしれません。
でも、音楽としての押し出しや質感が痩せることがあります。

一方で、硬い壁のまま返すと、6畳クラスでは反射が早すぎて音が濁ります。

だから、前壁中央はラフソーン木。

硬すぎず、吸いすぎず、少しまろやかに返す。
黒い空間の中で、前壁だけが自然木として見える。
その木が、視覚的にも音響的にも、前方のステージになります。

ここで大事なのは、前壁を「ただの意匠」として扱わないことです。

仕上げは、音の返り方にも関わります。
素材の選び方が、そのままモニター環境の質に影響します。


前方コーナーにはベーストラップ。照明も音響構成の一部にする。

6畳クラスの部屋では、低域がコーナーに溜まりやすくなります。

キックが膨らむ。
ベースの音程が見えない。
ある音だけ大きく聴こえる。
逆に、ある帯域だけ抜ける。

ゲーム音楽制作では、低域の判断が作品の印象に直結します。
だから前方コーナーには、ベーストラップを入れます。

ただ、ベーストラップを「置いただけ」にすると、部屋は一気に機材置き場のようになります。

この計画では、前壁のラフソーン木とベーストラップの間に、縦の間接照明を入れます。

これはただの演出ではありません。

視線を前方に集める。
黒い空間に奥行きを作る。
制作中の集中感を高める。
音響処理を、空間デザインとして成立させる。

音響処理を隠すのではなく、設計の一部として見せる。
ここもDIVERの考え方です。


天井は、横ではなく後方へ傾ける

天井は、左右方向へ傾けません。
前後方向にだけ、後方壁へ向けて傾斜させます。

目的は、上方の一次反射を側壁へ逃がすことではありません。
後方へ導くことです。

小さな部屋では、天井からの返りも早く耳へ届きます。
それを全部吸音で処理すると、部屋はどんどんデッドになります。

制作判断のために、作業位置まわりをデッド気味にすることは必要です。
でも、部屋全体を死なせる必要はありません。

反射を消すだけではなく、どこへ返すかを決める。

この部屋では、上方一次反射を後方へ逃がし、その先にKAIROSを置きます。


後方壁にKAIROSを2台入れる理由

イメージパース

6畳クラスの制作室では、後方壁が近くなります。

何もしなければ、背後からの反射が早く強く戻ってきます。
それが作業位置の判断を濁すことがあります。

ここで後方壁を全面吸音にすれば、確かに返りは減ります。
でも、部屋の奥行き感や空間のリアリティも失われます。

この部屋では、後方壁に 800角程度のKAIROSを2台 入れます。
仕上げは黒塗装。

KAIROSの役割は、後方の反射を単純に吸い切ることではありません。
返ってくる音を、時間方向へほどくことです。

前方は、制作判断のためにデッド気味に整える。
後方は、KAIROSで空間エネルギーを残しながら整理する。

つまり、この部屋は前後で役割を分けます。

前方:制作判断領域
後方:空間エネルギー領域

この分け方が、6畳クラスの制作室ではかなり重要になります。


黒い部屋。でも、音は死なせない。

仕上げは黒を基調にします。

壁も天井も、基本は暗くまとめる。
KAIROSも黒塗装。
視覚ノイズを減らし、画面と音に集中できる状態を作ります。

ただし、黒いスタジオだからといって、音まで死なせるわけではありません。

前壁のラフソーン木。
前方コーナーのベーストラップ。
縦の間接照明。
作業位置まわりのラグ。
後方へ導く天井。
後方壁のKAIROS。

これらを組み合わせて、制作判断に必要な静けさと、空間で鳴る音のリアリティを両立させます。

この部屋は、ライブすぎる部屋ではありません。
でも、完全に死んだ部屋でもありません。

イヤフォンでは分からない、空間に出た音の支配感を確認するための制作室です。


この計画で変わること

計画平面パース断面パース

この部屋でやりたいのは、豪華なスタジオを作ることではありません。

イヤフォンでは整っていた音を、スピーカーでも確認できるようにすること。
机や部屋鳴りに邪魔されず、キックとベースを判断できるようにすること。
作業位置で直接音を信じられるようにすること。
後方の反射を殺し切らず、空間として整理すること。

6畳クラスの制作室では、広さよりも設計の順番が効きます。

スピーカーをどう置くか。
机をどこまで小さくできるか。
どの反射を避けるか。
どの反射を後方へ送るか。
後方壁でどう受けるか。

この順番を間違えると、部屋は吸音材だらけになっても、制作判断には使いにくいままです。


DIVERが見るのは、部屋そのものです

DIVERは、防音工事だけを見るわけではありません。
吸音材の枚数だけで判断するわけでもありません。

小規模な制作室、プライベートスタジオ、作曲部屋、ミックスルームでは、建築・防音・音響・モニター環境を一体で見ます。

どの音を鳴らすのか。
どの音量で確認したいのか。
どのスピーカーを使うのか。
机はどこまで小さくできるのか。
反射はどこへ返すのか。
どこをデッドにし、どこに空間を残すのか。

そこから計画します。

イヤフォンで成立していた音を、空間でも成立させる。
それは、スピーカーだけの問題ではありません。

部屋そのものを、制作判断できる器として設計する必要があります。


小規模スタジオの計画を相談する

6畳〜10畳程度の制作室、ゲーム音楽制作部屋、プライベートスタジオ、ミックスルームで、スピーカー再生時の低域や部屋鳴りに悩んでいる方は、DIVERにご相談ください。

スピーカー配置、机まわり、防音、低域、反射、KAIROSの導入まで、部屋全体を見ながら計画します。


KAIROSについて詳しく見る

KAIROSは、後方反射を単純に吸い切るのではなく、時間方向へ整理するDIVER独自の音響モジュールです。

小さな部屋で、制作判断と空間のリアリティを両立するための選択肢として設計しています。



この記事を書いた人

goさん / DIVER
建築士・音響デザイナー・オーディオフリーク。
小さな部屋でスピーカーと部屋が本当に鳴る空間をつくるために、DIVERを運営しています。
DIVERでは、防音・音響設計・スピーカーセッティング・低音対策を分けて考えず、部屋全体で「音楽が鳴る条件」を整理します。
このブログでは、6畳のような小さなオーディオルームで起きる低音、反射、吸音、防音、スピーカーサイズの悩みを、goさんの実体験と建築音響の視点から解説しています。
記事を読んでも自分の部屋で何が起きているかわからないときは、リスニングブースでコーヒーを飲みながら、音の話をしましょう。

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