最近、「断熱等級6の家を建てたいんです」と相談に来られる方が増えました。
住宅性能表示制度の浸透により、「数字」で家を比べる時代になったことを感じます。
でも、僕はこう問いかけたくなります。
「その数字の“先”に、どんな暮らしが見えていますか?」
今日は、建築士として実際に現場で見てきた体験から、数字だけでは測れない“暮らしの質”についてお話しします。
等級はあくまで「基準」であって「保証」ではない
断熱等級は国が定める性能の基準です。
等級4・5・6・7と、等級が上がるごとにUA値(外皮平均熱貫流率)は小さくなり、熱が逃げにくい家とされます。
しかし、それはあくまで計算上の性能値。
実際には次のような要素で、体感は大きく変わります。
- サッシや窓の配置と日射取得
- 気密性能(C値)
- 換気設計
- 暖冷房機器の選定と配置
- 各部位の断熱の“施工精度”
つまり、等級6のラベルが貼ってあっても、暮らしが快適とは限らないのです。
僕が実際に体験した「数字は高いのに寒い家」
以前、別会社で建てられた断熱等級5の家にリフォーム相談で訪れたことがありました。
お客様の第一声は、
「冬の朝がとにかく寒くて、エアコンつけても全然温まらない」でした。
詳しく見てみると…
- 壁の断熱材が途中で途切れている
- サッシ周りの気密処理が甘く、すきま風が入っている
- 換気は第三種で、冷気が直接リビングに侵入している
「断熱等級5」なのに、家の中では靴下2枚が当たり前。
僕はその時、「ラベルで安心しすぎる怖さ」を改めて実感しました。
数字より「体感」。そして「暮らしに合っているか」
たとえば、僕が設計する家は「等級6」「C値0.5以下」を基本としています。
でもそれは、スペックを競いたいわけじゃない。
その性能が、その人の暮らしにどう役立つか?
そこがすべてだと思っています。
小さなお子さんがいるなら、足元の冷えを防ぎたい。
高齢のご両親と同居なら、温度ムラを減らしてヒートショックを防ぎたい。
そんな「目的」から性能を逆算する。
それが、本当の意味で“快適な家”だと僕は考えています。
高断熱=高コストではない。むしろ暮らしにやさしい
もうひとつ誤解されがちなのが、
「断熱等級を上げるとお金がかかる」という話。
確かに初期費用は少し上がるかもしれません。
でも、次のような点で長期的にはコストメリットが出ます。
- エアコンの稼働が減り、光熱費が下がる
- 冬の乾燥が軽減され、加湿器が不要になることも
- 結露やカビによる内装劣化が防げる
- ヒートショックによる医療費リスクも下がる
結果として、家計にも身体にもやさしい家になる。
数字の意味を“暮らし”に置き換えて考えれば、納得できるはずです。
僕が届けたいのは、「数字で買う家」ではなく「暮らしを選ぶ家」
断熱等級は、たしかに大切です。
でも、それが家づくりの“ゴール”になってしまうと、本質を見失うことがある。
僕は数字を超えたところにある、
「日々の呼吸が心地よい家」「子どもが床に寝転がっても安心な空気」
そんな“体感と安心”を届けたいと本気で思っています。
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