「傷がつくから心配」
「長く使うと汚れそうで不安」
無垢材を選ぶとき、多くの方がこうした言葉を口にされます。
たしかに、天然素材は新品のような状態を保つのが難しい。
でも僕は、こう問いかけたいんです。
それ、本当に“劣化”でしょうか?
無垢材の床に刻まれるキズや色ムラは、時に“暮らしの証”になります。
今日は、そんな「味わい」に価値を見出す暮らし方についてお話しします。
傷の数だけ、暮らしの物語が刻まれている
ある家族の話。
2人の小さなお子さんがいるお宅で、杉の無垢床を採用しました。
走り回る子どもたち、転がるおもちゃ、うっかりこぼした麦茶。
半年後、床にはたくさんの傷と少しのシミができていました。
でもその奥さんはこう言いました。
「この床、家族のアルバムみたいで好きです」
暮らしの中でできた跡は、時間が蓄積された“記憶”そのもの。
それを「汚れ」や「劣化」と捉えるか、「味わい」と見るかで、家の価値はまったく変わります。
経年変化=素材の成熟
無垢材の特徴のひとつが、「時間とともに表情が変わる」こと。
これを建築では経年変化と呼びます。
- 明るかった杉が、飴色に近づいていく
- 日焼けや手垢が重なって、床が“ツヤ”を帯びてくる
- 年月を経た板は、音もやわらかくなる
この変化は、塗装では絶対に再現できない“天然の熟成”。
工業製品では得られない、生きている素材ならではの魅力です。
「劣化」を「味」に変える3つの視点
① そもそも“完璧な見た目”は求めない
無垢材は、完成した瞬間がゴールではなくスタート。
日々の生活で少しずつ“育っていく”素材です。
むしろ、完璧を求めすぎると疲れてしまいます。
少しのキズや凹みも「家が暮らしに馴染んできたサイン」と思えたら、それは強みです。
② メンテナンス=手入れではなく、愛着を深める時間
無垢の床は、オイル塗装をしてあげるとツヤが戻ります。
汚れも手垢も、落とすことができます。
手をかけた分だけ美しくなるのが天然素材のいいところ。
それはまるで、革靴や木の家具を育てるような感覚です。
③ 傷を恐れない設計をする
「傷をつけたくない」なら、タイルや複合フローリングの方が向いているかもしれません。
でも、「傷を恐れなくていい」設計にすれば、無垢材の魅力が一層引き立ちます。
たとえば…
- 土間やラグで“緩衝帯”をつくる
- 家族の集まる場所に杉、通路は硬めのナラや栗
- キズが気になる人にはオスモカラーなどの補修しやすい塗装
住まいは見本市ではなく、日々の営みが重なる場所だからこそ、設計にも“ゆとり”が必要です。
僕が思う「美しい家」とは
新品のようにピカピカな床ではなく、
少しだけ角が取れて、ところどころツヤが違っていて、
子どもが描いたペン跡が消えかけていて──
そういう“時間の積み重ね”がにじんだ家を、僕は本当に美しいと思います。
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