第1章|「壊す」ではなく「整える」時代へ──空き家の価値観が変わってきている
かつて、「空き家=老朽化=壊すしかない」という価値観が、常識のように流通していました。
不動産としての価値も低く、築年数が古いほど“負債”のように扱われることさえありました。
でも今、空き家は「整えて住む」ものへと価値転換が進んでいると僕は感じています。
「安い」「広い」だけじゃない、“整える暮らし”という豊かさ
京都で増え続ける空き家は、たしかに価格の面で魅力があります。
物件価格が500万円以下の家も珍しくなく、
「この家がこの値段で買えるの?」と驚かれることも多い。
けれどその安さの裏にあるのは、手つかずの空気、整えられていない時間、そして未完成の余白です。
僕たちが目指すのは、その余白をどう住まいとして再構築していけるかという問い。
空き家を選ぶとは、単なるコストメリットではなく、暮らしを自分の手で“整えていく”選択だと僕は考えています。
京都の空き家が持つ「整えがい」という魅力
京都には、間口が狭く奥行きの深い町家や、戦後すぐに建てられた簡易構造の住宅が多く残っています。
構造上の制限も多く、現代の建築基準に合わせるのが難しいものもあります。
けれど、そうした家にこそ、壊さずに活かせる可能性が残されている。
- 湿気が溜まりがちな床下を改善する
- 風の抜けない間取りに空気の通り道を設ける
- 天井裏に溜まった重い空気を軽やかに整える
- 無垢材や漆喰が再び呼吸し始める空間を取り戻す
これらの工夫ひとつひとつが、空き家に「呼吸」を戻すことにつながっていきます。
僕たちが見ているのは、「新しさ」ではなく「整えられる余白」
住宅業界では、スペックや新しさ、設備の最新性が語られることが多い。
でも僕たちキノスミカが見ているのは、その家に“整えられる余白”があるかどうかです。
- 風は通るか?
- 素材は呼吸できるか?
- 間取りは読み替えられるか?
- 住む人の呼吸と、家の呼吸が合いそうか?
それを感じられる空き家は、たとえ古くても“住まいの器”として、
もう一度息を吹き返す可能性を持っているのです。
第2章|移住・暮らしの転機にこそ、整える空き家が向いている理由
「京都で暮らしてみたい」
「もっと静かな環境で子育てしたい」
「仕事を見直したい。自分の時間を取り戻したい」
そう思って移住や転居を検討する方が、ここ数年とても増えています。
でも、いざ物件を探し始めると、こんな悩みに直面するんです。
- 「予算内で買える家がない」
- 「新築は立地が希望と合わない」
- 「賃貸では自分らしく住めない」
そこで選択肢に浮かぶのが「空き家」。
でもそのとき、こう思うのではないでしょうか?
“古くて不安”…
“どこから手をつければいいの?”
“快適に暮らせるのかな…”
整える暮らしは「未完成を楽しめる」移住者に向いている
移住とは、「今ある暮らしを手放す」行為。
だからこそ、すべてが整っている必要はありません。
むしろ、整えていける余白があるからこそ、自分たちの暮らしを編み込めるのです。
空き家には、完成された設備も間取りもありません。
だからこそ――
- 壁の色を塗り替える
- 空気が流れるように窓を開け直す
- 古い柱をそのまま“芯”として活かす
そうした行為すべてが、**「自分の暮らしをつくる実感」**に変わっていきます。
移住者が空き家に求めるのは、“スペック”ではなく“空気”
新築や築浅物件は、確かに設備や性能は優れています。
でも多くの移住者が感じているのは、「どこか自分の暮らしが入り込めない」という息苦しさ。
それはおそらく、空気が流れていないから。
物理的にも、心理的にも。
- 朝、庭に出たくなる空気の軽さ
- 音がやわらかく響く静けさ
- 季節の変化が感じられる室温のゆらぎ
これらは、空き家のもつ「素材」「構造」「風の抜け方」すべてが合わさって生まれるもの。
移住を考えるとき、“この家は呼吸できているか?”という感覚は、とても大切な判断基準になります。
「暮らしながら整える」という自由さ
整える家は、常に“未完成”です。
でもそれは、「ずっと不完全」という意味ではありません。
暮らしに合わせて、更新し続けられる家ということ。
- 子どもが成長したら、間仕切りを足す
- 趣味が変われば、部屋の用途を変える
- 季節に合わせて、風の通り道を調整する
この柔軟性は、すでに完成された家にはない、整える暮らしだけの特権です。
第3章|コストを抑えるなら、「安く買う」より「整えられる」を見極める
「空き家は安いから、お得」
これはある意味で正しくて、でも同時にとても危うい言葉です。
確かに、物件価格だけを見れば安価なものはたくさんあります。
でも、僕たちが数多くの現場で見てきたのは、**「買ってから思ったより高くついた」**というケース。
原因は単純です。
「壊す量」と「直す手間」の見積もりが甘い。
壊す部分が多いと、すぐに数百万円が消えていく
たとえば、築50年の空き家を買って…
- 天井を全部剥がす
- 壁をスケルトンにする
- 配管を全て引き直す
- 屋根裏を補強する
これをすると、物件価格が300万円でも、総額2000万円を超えることはよくあります。
逆に、整える家は壊さない。
- 床を剥がさずに重ね張り
- 壁の一部だけ補修
- 設備の位置を活かした間取り
残せる構造や空気の流れがある家は、それだけでコストを抑えられるんです。
「整えやすい家」には、共通の特徴がある
コストが膨らみにくい家は、初見でもある程度わかります。
僕たちが現地調査で見るのは、次のようなポイントです。
- 床下の湿気が少なく、換気が効いている
- 天井裏にカビ臭や結露の兆候がない
- 風の通り道が既に家にある
- 設備や間取りに余白がある
これらがそろっていれば、予算の8割は“活かす工事”に使える。
一方で、壊す工事にお金がかかる家は、整える楽しさより“修繕の苦しさ”が先に来てしまう。
本当にコストを抑えるのは、「設計段階の判断」
大切なのは、「買ってから考える」ではなく、
「買う前に読み解く」こと。
- どこを残して活かせるか
- どこを直せば空気が流れ出すか
- どこまでならDIYで手が届くか
この判断ができると、
素材やデザインに予算を回す余裕も生まれ、結果として満足度の高い家になる。
コストを抑える鍵は、「価格の安さ」ではなく「整える知性」なのです。
第4章|見るべきは“劣化”ではなく、“整えられる余白”
空き家を見るとき、多くの人がまず探すのは「劣化ポイント」です。
- 床が沈んでないか?
- 壁にヒビがないか?
- 雨漏りしていないか?
- シロアリは?カビは?
もちろん、どれも重要な確認項目です。
でもそれだけでは、“壊すべきかどうか”の判断にしかなりません。
僕たちが空き家を見るときに考えるのは、それとは逆です。
「この家は、どこが活かせるだろう?」
「この空間には、どんな風が通せるだろう?」
つまり、“整えられる余白”があるかどうかを探しているんです。
劣化は「終わり」ではなく、「読み直しのサイン」
たとえば、壁にシミがあるとします。
それは確かに劣化のサインですが、“水がここに集まりやすい構造”の証拠でもある。
- 雨仕舞いが悪いなら、屋根の角度を見直す
- 通気が足りないなら、風の入口を増やす
- 結露なら、断熱と気流止めを検討する
これらはすべて、“読み直し”によって改善できる余地なんです。
古さを見つけて判断を止めるのではなく、
「この不具合の裏に、どう整える道があるか?」と問い続けることが、僕たちの視点です。
“整えられる家”には、物理的な条件がある
整えられる空き家は、感覚だけで判断するものではありません。
しっかりとした技術的・構造的な根拠があります。
僕たちが見る具体的なポイント:
観点 | 着眼点 | 解釈すべきサイン |
---|---|---|
床下 | 換気の通り・湿気のこもり方 | 土台が乾いている=再生可能性が高い |
天井裏 | 断熱材の有無・カビの匂い | 空気層の再設計ができるかどうか |
開口部 | 窓の位置・風の動線 | 換気計画と通風の設計余地があるか |
壁構造 | 柱の位置・抜ける壁の判定 | 間取り再構成がしやすいかどうか |
こうした条件が整っている家は、「整える設計」へとスムーズに移行できるんです。
“壊すかどうか”より、“どう育てていけるか”
僕たちは空き家を見るとき、
「ここを壊しましょう」と簡単には言いません。
それよりも、
- この素材、残したら味が出るかも
- この風の道、少し工夫すればもっと伸びる
- この床の音、整えすぎない方が落ち着く
そんなふうに、“家との対話”を大切にしています。
整えられる余白がある家は、暮らしの中でどんどん育っていきます。
それは、素材の経年変化だけではなく、
住む人と家が一緒に呼吸し続けられるかどうか、という関係性の話でもあるんです。
第5章|整えることで「深呼吸したくなる家」へ
整えるという行為は、ただのリノベーションではありません。
それは、住まいにもう一度“呼吸”を取り戻すことです。
空き家のリノベーションで僕たちがもっとも大切にしているのは、
「完成された機能やデザインを目指すこと」ではなく、
“空気が動き、素材が呼吸できる状態を整えること”。
深呼吸したくなる家には、共通の設計思想がある
どれだけ自然素材を使っても、
どれだけ性能値が高くても、
空気が滞れば、それは“閉じた家”です。
深呼吸できる家は、こんな状態に整っています:
- 風の入口と出口が設計されている
- 素材が呼吸し、湿気や匂いがこもらない
- 温度だけでなく、空気の質が快適
- 静けさの中に、風や光がさりげなく通る
これは設備で作るのではなく、
設計と読み取りによって「整える」ことではじめて実現できるんです。
空き家は、「家の呼吸を取り戻す」チャンスでもある
新築住宅では実現しにくい“深呼吸する家”を、
空き家だからこそつくれる。
なぜならそこには…
- 無垢の柱があり
- 窓の高さにばらつきがあり
- 壁の厚みや床の響きに個性がある
それらが、“均質ではない家”を形づくっている。
そして、そこに風を通し、湿気を逃がし、音や光が巡るように整えたとき、
その家は再び、暮らしの器として息をし始める。
キノスミカの願いは、「住まいと暮らしの呼吸が合う」こと
僕たちが空き家の再生を手がけるとき、
常に考えているのは、**“この家が住む人と調和できるか”**ということです。
- その人が深呼吸したくなる瞬間を、家が支えられるか
- 四季のうつろいを、空気で感じられるか
- 住まいの中に、余白としての静けさが残せるか
それが整ったとき、ようやく家は「居場所」として完成するのだと思います。
まとめにかえて|空き家にあるのは、「壊す理由」ではなく「整える余白」
壊すことは、簡単です。
でも、整えて残すことには、“時間と空気を受け継ぐ美しさ”がある。
空き家には、まだ呼吸の余地があります。
そしてそれは、住む人がいて初めて“家の呼吸”になる。
キノスミカは、そうした呼吸を一緒に探し、
整えることから始まる豊かさを、ひとつずつカタチにしていきたいと考えています。
✅ 関連記事リンク
→ 京都で空き家を選ぶということ|整える価値をどう見抜くか
→ 移住して暮らす京都の空き家|空気の余白と整える暮らし
→ 空き家リノベは何から始める?|京都で整えるための最初の一歩
→ 京都の空き家リノベで失敗しないために見るべき4つの技術的ポイント
→ 空き家=安いは間違い?京都でコストを抑えるリノベの考え方
▶ 空き家には「壊す前にできること」があります。
京都で整えて住むという選択。
住む人の呼吸と、家の呼吸が合うことからはじめてみませんか?
▶ 空き家の施工事例を見る
▶ 整える相談をしてみる
▶ Kindle書籍『深呼吸したくなる家』を見る
▶ NOTEでも発信してます。