第1章|床下に家の未来が宿る|通気・湿気・構造を見抜く目
空き家を見るとき、まず最初に目が行くのは、
外観や内装の“見えるところ”かもしれません。
でも、僕たちキノスミカは真っ先に「床下」を見ます。
なぜなら、床下にはその家の寿命と再生可能性が詰まっているからです。
京都の空き家は、地面に近い。だから“湿気”をなめてはいけない。
京都は盆地で湿度が高く、空き家の多くが昔ながらの低基礎・地面直下の構造です。
築年数が古い家ほど、床下の湿気対策がほとんどされていません。
- 換気口が少なく、風が抜けない
- 地面にコンクリートが打たれていない
- 防湿シートが敷かれていない
- 床下断熱材が入っていない
こうした条件が重なると、**床下は“湿気の袋小路”**になります。
長年放置されていた家では、空気が動かず、土台がカビに覆われていることもあります。
床下が語る“見えない腐朽”のリスク
表面的には綺麗に見える家でも、
床下を覗くと、次のような“見えないリスク”が眠っていることが多いです。
- 根太が黒く変色している(過去の水害またはカビ)
- 土台に白蟻の蟻道が残っている
- 吊り金物が錆びていたり、土台との接続が緩んでいる
- 断熱材が湿気を含んで垂れ下がっている
こうした症状が見つかった場合、「壊すしかない」わけではありません。
ただし、それを見逃したままリノベに進めば、いずれ再び暮らしを壊すことになります。
見るべきは“現状”だけじゃない。“整えられるか”を判断する。
床下を見る目的は、「悪いかどうか」を判断することではありません。
「整えられるかどうか」を見極めることです。
✔ 床下で確認すべき技術的な指標
観点 | チェック内容 | 再生可能な状態の目安 |
---|---|---|
通気 | 基礎換気口の数と配置 | 四隅+中間に1つずつが理想 |
湿気 | 床下に湿ったにおいがこもっていないか | においがなければ概ね通気良好 |
腐朽 | 土台・根太に柔らかさや剥離がないか | 金属工具で突いても硬ければOK |
断熱 | 古いグラスウールが垂れていないか | 再施工できるスペースが確保されているか |
これらを総合的に判断して、「整えれば蘇るか?」という視点で見ていくことが
失敗しない空き家選びの第一歩です。
床下こそ、空気の最初の入口。だから最初に見る。
僕たちは「深呼吸したくなる家」をつくるために、
まず床下の空気を見ます。
なぜならそこが、家の中で一番最初に“空気が入ってくる場所”だから。
- 湿気とともに冷気が上がってくるか
- カビ臭がこもっていないか
- 外気が通っているか
空気が流れていれば、家は蘇る可能性があります。
流れていなければ、まず整えるべきは構造でも内装でもなく、**“空気の入口”**です。
第2章|風が抜けるかどうかで“住み心地”の8割が決まる
リノベ後の住み心地は、断熱性?機密性?それとも間取り?
たしかに全部大切ですが、僕たちが最も重視するのは「風が通るかどうか」です。
なぜなら、空気が動かない家は、どこか息苦しいから。
湿気もにおいも、音も熱も、空気が動いてこそ整います。
風が抜けない家の共通点|“間口狭小・奥行き深”構造
京都の町家タイプや郊外の旧住宅街に多いのが、
間口3〜4m・奥行き10〜15mという典型的な風が抜けにくい構造。
こんな構造、要注意です:
- 南面にしか窓がない
- 窓の位置がすべて同じ高さで、対角線上にない
- 廊下やトイレが“行き止まりの空間”になっている
- 家の中央に大きな押入れや階段が風の壁になっている
これは「狭いから仕方ない」ではなく、
設計で改善できる余地を見抜けるかどうかが鍵です。
自然換気 × 機械換気で「設計された風」をつくる
僕たちは“自然な風”だけに頼ることはしません。
とくに冬場や花粉・PM2.5の多い時期には、機械換気と組み合わせた設計が重要になります。
キノスミカの風の設計ポイント:
- 縦通風(上下方向)
→ 高窓や吹き抜けを使い、空気を“引き上げる”設計に - 横通風(南北・東西)
→ 風の流入口と排出口を1m以上離し、流速を確保 - 排気ファン+フィルター付き給気口
→ 家の“気圧バランス”を崩さず、外気の浄化もセット
これにより、風が滞る間取りでも**「設計された風」が生まれる**のです。
空気の“行き止まり”を読み解くと、間取りの再設計が見えてくる
僕たちは間取りを読むときに、必ず「風の地図」を描きます。
すると、家の中で**“風が止まる場所”=暮らしが詰まる場所**が浮かび上がります。
- 家の中心であるリビングに風が届いていない
- 寝室が密閉空間で湿気がこもりやすい
- 廊下や水回りに風の経路がなく、においが抜けない
これらを読み解くことで、
ただ広くする/明るくするというリノベとは違う再設計が始まります。
「風を通す家」こそ、暮らしを静かに整える
風が通る家には、音のやわらかさ、光の揺らぎ、素材の呼吸が自然と宿ります。
それは設備で補えない、“深呼吸できる空気”の感覚です。
間取りやデザインの前に、風を設計する。
それが僕たちのリノベにおける基本姿勢です。
第3章|屋根と天井裏が語る“家の履歴書”
家の中で最も「見落とされやすくて、重要な場所」。
それが屋根と天井裏です。
なぜならそこには、過去の修繕履歴・設計思想・劣化の進行度がそのまま表れているから。
天井裏を見れば、その家が“呼吸できるかどうか”が、ある程度わかります。
屋根が語るのは「どんな時間を過ごしてきたか」
外から見える屋根の劣化には、パターンがあります。
✔︎ 確認すべき外観サイン:
- 瓦のズレ、ひび、漆喰の崩れ → 経年劣化/地震/台風の影響
- トタンやガルバリウムの浮き・錆 → 結露や通気不足
- 軒のたわみや下地板の黒ずみ → 雨漏りの痕跡
この時点で“補修済みかどうか”もある程度判断できます。
中途半端に修繕された屋根は、二次被害(隠れた劣化)を見落としがちです。
天井裏は“空気の履歴書”。ここが重たい家は、整え直しが必要
点検口を開けて天井裏に入ったとき、最初に感じるのは「空気の質」です。
重くて湿った空気がこもっているなら、それは通気が設計されていない証拠。
✔︎ 小屋裏で確認すべきポイント:
- 垂木の間に断熱材が詰まっているか(無い=未施工)
- 野地板に黒カビ・雨染みがないか(雨漏り or 結露)
- 妻側(建物の端)に換気口 or 換気棟が設置されているか
- 電気配線やダクトの引き回しが雑ではないか
この空間に空気が流れていれば、**屋根も家全体も“呼吸できている”**んです。
断熱材の種類・施工方法で“築年の思想”がわかる
断熱材の有無はもちろんですが、どのように使われているかが重要です。
- 床・壁・天井のどこに入っているか?
- 材質(グラスウール/スタイロフォーム/羊毛)
- どこかに気流止めがされているか?
- 気密シートが施工されているか?
断熱=性能と思われがちですが、
実際は設計思想の反映なんです。
断熱材があるかどうか以上に、**“整える再設計の余地があるか”**を見ることが大切です。
屋根・天井裏が健全なら、リノベは軽やかに進む
僕たちは、空き家の初期診断で屋根と天井裏が健全な物件ほど成功率が高いと感じています。
なぜなら、ここがクリアなら以下が揃うからです:
- 空気の経路が確保できる
- 結露やカビのリスクが少ない
- 内装をいじるだけで快適性が大きく変わる
逆にここに劣化があると、根本からの再構築が必要になり、
コスト・手間・設計の自由度が大きく制限されます。
第4章|“整えられる家か”という本質的な視点
空き家を見るとき、
「この家、まだ住めるのかな?」という視点で判断してしまいがちです。
でも、僕たちはいつも、「この家は“整えられる家”かどうか」を見ています。
それは、“今住めるかどうか”よりも、
“これから育てていけるかどうか”に目を向けるということです。
「住める家」ではなく、「育てられる家」を選ぶということ
築50年。床はきしむ。設備は古い。
そんな家でも、整えることで驚くほど暮らしやすくなることがあります。
一方で、築20年でも構造が密閉的で空気が動かず、湿気が抜けない家もあります。
- 間取りが壁で区切られすぎている
- 無垢材が使われておらず、素材が呼吸しない
- 通風経路がなく、機械換気だけに頼っている
- 壁の中で結露が起きやすい断熱設計になっている
これらの家は、「住めるけど整えにくい」ことが多い。
つまり、“育てにくい家”なんです。
設計者が「この家、整えられます」と判断する基準
キノスミカでは、空き家を診断する際に以下の視点で「整えられる家かどうか」を見ます。
✔︎ 設計的視点
項目 | 評価の基準 |
---|---|
空気のルート | 風の入り口・抜け道・上昇気流があるか? |
日射・採光条件 | 冬の日差しが南面に入るか? |
床・壁の可変性 | 間取りの自由度があるか? |
既存構造との親和性 | 壁を抜けるか?補強は可能か? |
✔︎ 素材的視点
項目 | 評価の基準 |
---|---|
下地の状態 | ベニヤではなく無垢材やラワンなら再利用しやすい |
断熱の再施工性 | 空間に“余白”があるか?吹き付け材の撤去が可能か? |
仕上げの呼吸性 | ビニルクロスより、塗り壁や和紙が活きる空間か? |
こうした視点を持つと、
“どの家を直すか”ではなく、“どこから活かせるか”に変わるんです。
整える、とは“家と暮らしをすり合わせていく”こと
完璧な状態にして引き渡すのではなく、
整えた状態から“暮らしながら育てていく”。
- 無垢の床が足に馴染んでいく
- 光の入り方が季節とともに変わる
- 漆喰が空気を整えていく
それらは、設計でコントロールできるものだけではありません。
「この家は、これから育っていけるか?」という視点を持って選ぶことが、
空き家リノベで後悔しないための、いちばん大切な判断軸になります。
まとめ|“壊す家”か“整えられる家”かを見極める目を持つ
空き家リノベは、一見すると不確実性の高いプロジェクトです。
どこが壊れているかわからない、どこまで直す必要があるかわからない。
でも、見るべきポイントがわかれば、未来は整えられます。
空き家を見る4つの視点は、「呼吸できる家かどうか」を見抜くための基準
- 床下の湿気と通気性
→ 家の“根”が乾いていれば、整える価値は高い。 - 風が抜けるかどうか
→ 空気が動けば、暮らしの快適性は格段に上がる。 - 屋根と天井裏の健全性
→ 構造が呼吸できていれば、断熱や通気の設計に自由度が生まれる。 - 整えられる余白があるか
→ 壊すのではなく“育てていける家”かどうかが分かれ目。
「いい空き家」とは、“整える可能性”を秘めた家
新築にはない“余白”と“未完成の可能性”が、空き家には眠っています。
そしてその可能性は、家が空気を受け入れる構造を持っているかどうかで決まります。
僕たちキノスミカは、
壊すことを前提とせず、
空気を整え、暮らしに寄り添う設計で、住まいを再生するというアプローチを続けています。
最後に|判断を急がず、“空気と素材に耳をすませて”みてください
空き家を見に行ったとき、床下や屋根裏を見なくてもいいんです。
まずは玄関で立ち止まって、空気の流れを感じてみてください。
- 空気が動いているか?
- においがこもっていないか?
- 光がどう落ちているか?
- 足元の冷気や湿気を感じるか?
五感を使って「この家はまだ呼吸できるか?」を感じられたなら、
それは**“整えられる家”**かもしれません。
そしてそのとき、キノスミカがあなたと一緒に、
「深呼吸したくなる家」づくりの最初の一歩を整えるお手伝いができたらと思います。
▶ 空き家は「壊す前提」で見る時代は、もう終わり。
僕たちは、空気の流れと素材の声を聞きながら、整えて住む家をつくっています。
まずは“この家はまだ呼吸できるか?”を一緒に確かめませんか?