はじめに|奥の部屋で、誰かが孤立している気がした
京都の典型的な狭小住宅、いわゆる“うなぎの寝床”と呼ばれる間取り。
間口が狭く、奥行きが長いこの空間では、人の気配が途切れやすいという設計上の課題があります。
- 奥の部屋でひとり作業していると、家族の声が届かない
- リビングと水回りの動線が長くて、生活が分断される
- 子ども部屋が2階の奥で“孤立空間”になってしまう
「空間はつながっているのに、暮らしが分断されている」
——この違和感を放置しないことが、狭小住宅における設計の本質だと、僕は考えています。
第1章|“視線”と“音”で気配をつなげる
狭小住宅で人の気配をつなげるには、物理的な広さではなく、情報の通り道が必要です。
● 視線の通り道をつくる
- 室内窓、欄間、抜け感のある階段
- 家のどこにいても、視線が一度は交差するように設計する
● 音が届く構造にする
- 吸音ではなく、柔らかく“響く”素材選び(漆喰・無垢材)
- 閉じた部屋より、仕切りすぎない半個室構造
第2章|“孤立”を生まない動線と居場所の設計
狭小住宅では、縦・奥方向への動線が長くなるため、居場所が孤立しやすくなります。
だからこそ、動線上に“出会いの余白”をちりばめておくことが大切。
- 階段脇にワークスペース
- 廊下の途中にベンチや収納カウンター
- 奥まった寝室にこそ開口と光を
動線の途中に「立ち止まれる場所」を用意することで、人の動きが滞り、会話が生まれる。
それが気配のリズムを生み出すんです。
第3章|光のつながりが、家族のリズムを整える
奥の部屋にいても、時間の流れがわかる。
家族の動きが、光や影となって伝わってくる。
こうした“光のつながり”もまた、心理的なつながりに大きな影響を与えます。
- 曇りガラスで明るさを共有
- スリット窓や高窓で、空の色をシェアする
- 季節の光を感じられる南面の反射設計
視界に家族がいなくても、同じ空間にいるような空気感をつくる。
それが、うなぎの寝床の新しいあり方だと思っています。
第4章|音と空気が“気配の手触り”をつくる
素材の選び方ひとつで、音と空気の“触れ方”は変わります。
僕が好んで使うのは、音を優しく受け止めて、空気が静かに抜ける素材たちです。
- 杉の床:足音が軽やかに吸い込まれていく
- 和紙クロス:声が反響せず、場に馴染む
- 漆喰の壁:空気の湿度と音を一緒に整える
「この家、なんか落ち着くね」って言われるのは、
たぶん音や声や気配が、空気の中で“衝突しない”からなんですよね。
まとめ|狭い家でも、気配は“つくれる”
狭小住宅=閉塞的ではない。
設計の手で、光・音・視線・動線をつなぎ直せば、家族の気配はむしろ豊かになる。
“狭いからこそ、余白のつくり方にセンスが問われる”
僕たちはそう信じて、暮らしを設計しています。
▶ 視線と音と光が、つながりをつくる。
うなぎの寝床のような狭小住宅でも、孤立感のない空間は設計できます。
視線、音、光、空気。そのすべてを整えることが、家族の気配を感じられる家につながります。