はじめに|風が通らない家は、暮らしが濁る
京都の家って、風が通らないんです。三間間口の細長い敷地、ぎりぎりまで詰まった隣家、条例で決められた建物の高さや形。こうした“まちのルール”のなかで、風を感じられない家が生まれていく。
でも僕は、それを「仕方ない」とは言いたくない。風が通らない家には、空気が澱み、気持ちまで閉じ込められていくような、そんな“圧”がある。逆に、ふとした瞬間に風が抜けたとき、空気が軽くなり、呼吸が深くなる。それが暮らしのリズムを整えてくれる——そんな感覚を、僕は何度も経験してきました。
だからこそ、僕たちキノスミカは、風を設計する。狭小住宅だからこそ、風を丁寧に扱う。それが「深呼吸したくなる家」への第一歩だと信じているからです。
第1章|敷地の風を“読む”ことから、設計は始まる
京都のまちは、風が直線的に流れるようにはできていません。盆地であるがゆえに、朝夕で風向きが変わり、住宅密集地ではさらに局所的な流れが生まれます。
僕が敷地に立ったときにまずするのは、「風の癖」を見ること。隣家との隙間、道路の幅、上空の空き、そして樹木や塀の配置。そこから、空気が入りたがっている方向と、抜けていく方向を見つけるんです。
風は設計者の意思では動きません。でも、受け入れる姿勢を持ったとき、自然と家の中に流れ込んでくる。その“風の意思”を読むことが、最初の設計です。
第2章|風は高さで動かす|上下の抜けと余白の力
狭小住宅で横に風が抜けないなら、縦の力を借りる。
それが、僕たちがよく採用する“吹き抜け”や“高窓”という設計です。
上下に温度差があると、空気は自然に動きます。これを利用して、
- 中庭や吹き抜けから光と風を集め、
- 2階の高窓やトップライトから熱を逃がす。
さらに、室内建具に欄間や室内窓を仕込めば、個室にしながらも空気の通り道をつくれる。そうやって、**目には見えない「空気の動線」**を家の中に張り巡らせるんです。
それは単なる通風設計ではなく、**暮らしの呼吸を整える“空気の設計”**です。
第3章|風と人の動線を重ねていく
空気が動く家は、人の動きとも調和している。だから僕たちは、生活動線と風の通り道を重ねるように間取りを考えます。
- 玄関からまっすぐに抜ける視線と空気
- キッチンや水回りに抜けるルートをつくり、湿気をこもらせない
- 廊下をただの通路にせず、風の通り道として意味を持たせる
空気と一緒に動く生活。それはとても自然で、ストレスがない。家に帰ったとき、「ふう」とひと息つける空気感は、設計の中に確かに存在しているんです。
第4章|機械に頼らない“整う空気”
換気設備はもちろん大事。でもそれは、空気が動かない前提の補完手段です。僕たちはまず、“設計そのものが空気を整えているか?”を問う。
狭小住宅では、風が滞るとすぐに湿気がたまる、においがこもる、音が反響する——つまり、暮らしが“重く”なるんです。
そのすべてを、風と空気の設計でほぐしていく。機械ではなく、構造と素材と間取りで“空気が調う器”をつくる。
それこそが、僕たちが考える「深呼吸したくなる家」の根本です。
まとめ|狭小住宅は、空気で生まれ変わる
限られた敷地、塞がれた窓、逃げ場のない風——
それでも僕たちは、“抜ける空気”をつくることができる。
風は、数字で測れないけれど、確かに人の心を整えてくれるもの。
空気の通り道があるだけで、暮らしは軽くなり、心に余白が生まれる。
「この家、空気がいいですね」と言ってもらえるとき、
それはきっと、僕たちの設計が住む人の呼吸に寄り添えたということ。
京都の狭小住宅だからこそ、空気を丁寧に扱う。
それが、キノスミカの家づくりの、静かで強いこだわりです。
▶ 空気が通ると、暮らしが整う。
「窓を開けても風が通らない」
そんな悩みの多い京都の家でも、設計で空気は動き出します。
僕たちは、素材・構造・設備を一体で考え、“深呼吸できる家”をつくっています。