狭くても心地いい京都の家|うなぎの寝床を“抜け”と素材で変える設計術
はじめに|京都の狭小住宅は“特別”だ
京都のまちに多い“狭小住宅”は、単なる狭い家ではありません。三間間口と呼ばれる間口の狭さ、奥へと続く細長い敷地形状、そして歴史的景観を守る条例や高度制限。これらが複雑に絡み合い、京都特有の住環境を形成しています。
けれども、狭いという制限の中だからこそ生まれる空気感、濃密な暮らしの気配というのも、また事実。僕たちはこの“制約”を、設計で“快適さ”へと変えることができると信じています。
ここでは、うなぎの寝床のような京都の家を、「風」「光」「素材」の設計で、どのように心地よく仕立て直すかをご紹介していきます。
第1章|うなぎの寝床と空気の通り道|通風と気配設計
京都の長屋や狭小住宅に共通する特徴は、間口が狭く、奥行きが長いこと。俗に言う“うなぎの寝床”です。
この形状は、風の通り道を確保しづらいという弱点があります。しかし逆に言えば、通り道を設計すれば確実に風が抜ける空間にもなる。
僕が意識しているのは、次のようなポイントです:
- 対角線上に開口を取る(小さな窓でも位置関係が重要)
- 高低差のある通風経路(床レベルとロフトなど)
- 建具や間仕切りの上部に欄間や内部窓を設け、風を止めない
さらに、風だけでなく「人の気配」も空間の中で流れるようにすること。奥まった部屋でも孤立せず、気配がつながる家は、狭くても安心感があります。
第2章|狭いからこそ素材が空気に響く|杉・漆喰・和紙の力
空間がコンパクトだからこそ、素材の存在感がより際立ちます。たとえば、杉の床板を使えば、足元の空気がやわらかくなり、空間全体が静かに整っていくのがわかります。
漆喰の壁は、音の反響を抑え、湿気を吸って空気の密度を調整してくれる。和紙の天井や建具は、光をやさしく拡散させ、素材の呼吸を空間全体に伝えてくれます。
狭い家こそ、素材と空気が一体になって働くように設計することで、“深呼吸したくなる家”へと生まれ変わります。
第3章|明るさは窓の大きさじゃない|光の反射・透過の設計
狭小住宅において明るさを確保するには、単に大きな窓をつければ良いわけではありません。京都では南面が隣家に塞がれていることも多く、光は“設計して取り込む”ものになります。
たとえば:
- 内壁や天井に白い漆喰や和紙を使って光を反射させる
- 室内にガラス欄間を設け、奥まで光を通す
- 中庭や光庭を挟み、間接光で空間を柔らかく照らす
重要なのは、“目に見えない拡がり”をつくること。空間に余白が生まれ、心理的な広さにつながっていきます。
第4章|空気がよどむ場所をつくらない|湿気・カビ対策の構造設計
狭小住宅で怖いのは、風が止まる場所、湿気がたまる場所ができやすいこと。
僕たちは以下のようなポイントを設計で整えています:
- 通気層を壁内に確保する
- 床下に自然換気+気密の調整を行う
- 室内の空気を常に循環させる換気計画(第1種または第3種)
また、施工中にも注意が必要。部材が濡れたまま壁を閉じると、気密性が高い家ほど乾きません。完成直後から“隠れた湿気”が家を傷め始めるのです。
こうした細部まで意識することで、空気が巡り、素材が傷まない家に仕立てることができます。
第5章|広さじゃなく“心地よさ”で勝負する家へ
僕たちが手がける家の中には、20坪程度でも「この家、なんか気持ちいいですね」と言われることがあります。
それはきっと、数字に表れない部分——風、光、素材、音、空気——そうした“気配の設計”がちゃんと機能しているから。
狭いという前提を受け入れて、それでも「深呼吸できる空間」を丁寧につくっていく。そこに、僕たちキノスミカのリノベの本質があるのかもしれません。
まとめ|“抜ける京都の家”は狭くても深呼吸できる
京都の狭小住宅には、設計の工夫が詰め込める余地があります。
狭いからこそ素材が生き、狭いからこそ空気が濃くなる。風が通り、光が滲み、気配がつながる設計で、“抜けのある暮らし”は実現できます。
「広くはないけれど、すごくいい空気が流れている」——そんな住まいを、僕たちはこれからも設計していきたいと思います。
▶ 狭くても、空気が抜ける家は心地いい。
京都のまちで“広くないけど、すごく気持ちがいい”と言われる家があります。
素材が空気と調和し、風と光が巡る。そんな家を、僕たちは設計でつくっています。