風通しの良い家を設計でつくる方法|自然素材との相性も解説

空気と健康
  1. 第1章|風は“抜け道”をつくることで整う|風通しと空気の質の話
    1. 風通しの良さは「空気の整い」に直結する
    2. 風は「導いてあげる」もの
    3. 「風が通る」=「空気が澄む」
  2. 第2章|風の抜け道をつくる|設計と間取りで変わる空気の流れ
    1. 空気は“流れやすい道”を探して動いていく
    2. 僕が現場でやっている「風の抜け道」のつくり方
      1. 1. 対角線+高さ差を意識した窓配置
      2. 2. 家具・間仕切りで風を止めない工夫
      3. 3. 外部環境を“味方につける”配置計画
      4. 4. 内部にも“空気の階層”をつくる
    3. 設計操作で、エアコンに頼りすぎない空間ができる
  3. 第3章|風通しは結露を防ぐ|空気が動く家は湿気がこもらない
    1. 空気が動けば、湿気は溜まらない
    2. 僕が重視している“自然換気の配置設計”
      1. 1. 小屋裏・床下も「空気を通す設計」に
      2. 2. 水回り空間には“自然な排湿経路”を
      3. 3. 北側・閉鎖ゾーンに空気が滞らないように
    3. 結露は“空気の設計ミス”から始まっている
  4. 第4章|空気のやわらかさを設計する|感覚に届く風と素材の連携
    1. 「この家、なんか呼吸しやすいですね」その理由とは?
    2. 「空気のやわらかさ」を生む3つの条件
      1. 1. 空気の流れが“直線”ではなく“カーブ”になっている
      2. 2. 素材が風と一緒に働いている
      3. 3. 暮らしの中に「風が通る動作」がある
    3. 空気のやわらかさは「感覚」を整える
  5. まとめ|風通しから考える、空気と健康の設計
    1. 空気の“設計”は、感覚と健康をつなぐ
    2. 風通しは偶然ではなく、操作できる
    3. 素材は、空気が整ったときに本領を発揮する
    4. 最後に
    5. ▶ 風が通る家は、素材が呼吸できる家

第1章|風は“抜け道”をつくることで整う|風通しと空気の質の話

風通しの良さは「空気の整い」に直結する

僕は現地調査に行くと、最初に「この家、風が整ってるかな?」と感じるようにしています。
空気がよどんでいたり、湿気がこもっていたり、何かにおいが停滞していたり——
そういう空間はたいてい、「風の抜け道がない家」です。

空気が入ってきても、出ていく道がなければ、その場にとどまる。
つまり、風通しの良さとは、単に風が入るかどうかじゃなく、“ちゃんと抜けていけるか”が本質なんです。

風は「導いてあげる」もの

僕が設計する上で意識しているのは、
“風に期待しすぎない”ことです。

風が吹くのは気まぐれです。
でも、風が吹いたときに、それを受け入れ、やさしく送り出せる構造をつくっておく
それが「風通しのいい家」だと思っています。

具体的には、

  • 風の入口と出口がつながっているか
  • 部屋を隔てる壁に、風の通り道があるか(引き戸・欄間)
  • 天井や床の段差で、空気が溜まる場所をつくっていないか
  • 押し入れや収納内にも、空気が止まらず流れるように設計できているか

つまり、“風がどこで止まるか”を先回りして設計するんです。

「風が通る」=「空気が澄む」

風が通る家は、湿気が溜まりにくく、においがこもらない。
何よりも、“気持ちがいい”と感じる家になる。

でもそれは、どんなに素材が良くても、空気が動かないとダメ。
空気が動いて、入れ替わること。
それこそが、素材が呼吸している空間の条件だと僕は思っています。

この第1章は、風通しを“暮らしの感覚”として捉える入り口に立ち戻って書き直しました。
次章では、**実際に僕が行っている風の設計操作(開口の高さ差や、収納や水回りの風だまり解消など)**に進みます。

第2章|風の抜け道をつくる|設計と間取りで変わる空気の流れ

空気は“流れやすい道”を探して動いていく

風は水と同じ。流れやすいところにしか流れない。
つまり、空気を動かしたければ、道を用意する必要があるんです。

ただ「窓を開ける」だけではダメで、
その風がどこから来て、どこに抜けるかまで設計して初めて、家の中を“風が通る空間”にできる。

僕が現場でやっている「風の抜け道」のつくり方

1. 対角線+高さ差を意識した窓配置

  • 南北だけでなく、東西にも補助窓を設けて風向きの変化に対応
  • 1階の吸気口と2階の排気窓をつなぐことで、**温度差による重力換気(スタック効果)**が発生する

2. 家具・間仕切りで風を止めない工夫

  • 廊下や階段に風の逃げ道を用意する
  • 建具の上に欄間(らんま)を設けることで、閉めても風が通る構造にする
  • 引き戸や可動間仕切りを採用して、気候に合わせた開放と閉鎖が可能な空間を設計

3. 外部環境を“味方につける”配置計画

  • 敷地の風の流れを読み、風上に吸気ゾーン、風下に排気ゾーンをつくる
  • 隣家や塀が風を遮るなら、吹き溜まりを避けて窓をずらす設計にする

4. 内部にも“空気の階層”をつくる

  • ロフト・吹き抜け・勾配天井は、空気が上昇する性質を活かして、空気の動線を立体的に設計
  • 天井に設けた高窓(ハイサイドライト)から熱と空気を一緒に排出

設計操作で、エアコンに頼りすぎない空間ができる

エアコンの効きが悪い、部屋の奥が暑い・寒い。
そういう家の多くは、空気が滞留していて熱が分散しない構造になっている。

風が通る家では、夏でも扇風機ひとつで過ごせる日がある。
冬場は風が穏やかに動くことで、湿気も冷気もこもらず、素材がしっかり働く。

風は“換気”であり“冷暖”でもあり“快適さの演出”でもある。

第3章|風通しは結露を防ぐ|空気が動く家は湿気がこもらない

空気が動けば、湿気は溜まらない

カビ・結露・部材の劣化。
これらの原因の多くは、空気が“止まっている”ことにあります。

  • 押し入れの奥がカビ臭い
  • 北側の部屋だけ結露する
  • 階段下の収納に湿気がこもる

これは、換気設備以前に風が通る道がない家の特徴です。
空気が“抜けない”というのは、湿気が“逃げられない”ということでもあるんです。

僕が重視している“自然換気の配置設計”

断熱と気密をしっかり確保しながら、どう湿気を逃がす道を残すか。
これは僕がリノベでも新築でも最も気を使う設計ポイントです。

1. 小屋裏・床下も「空気を通す設計」に

  • 小屋裏には軒裏換気+棟換気+ハイサイドライトを連動させて熱ごもりを抜く
  • 床下は防湿シート+基礎断熱 or 外気換気の選定を丁寧に行う

2. 水回り空間には“自然な排湿経路”を

  • 浴室・洗面・脱衣室に窓がない場合でも、高低差を活かした排気口配置で自然換気を誘導
  • 湿度の滞留を防ぐため、収納内や天井裏にも排湿の“逃げ”を残す

3. 北側・閉鎖ゾーンに空気が滞らないように

  • 吹き抜けや階段ホールを通して空気を上に逃がす
  • 押し入れの奥には換気口 or 吸排気用の欄間を設け、風の通り道を確保
  • 曇る窓や結露しやすい壁面には、通気層を内外両面に設定する

結露は“空気の設計ミス”から始まっている

窓が結露する、壁紙が浮く、家具の裏にカビが生える。
こうした症状の多くは、素材や設備のせいではなく、空気の動線を設計していないことによるものです。

風が通れば、湿気は溜まらない。
湿気が溜まらなければ、素材は傷まない。
素材が元気なら、空気はきれいになる。

僕が風の設計を大切にしているのは、それが空気の健康につながる“最初の一手”だからです。

第4章|空気のやわらかさを設計する|感覚に届く風と素材の連携

「この家、なんか呼吸しやすいですね」その理由とは?

初めて家に来た人が「なんか落ち着く」「空気が軽い」と感じてくれるとき、
それは間取りでも意匠でもなく、“空気の設計がうまくいっている”証拠だと僕は思っています。

  • においがこもっていない
  • 湿気が抜けている
  • 素材の香りがほんのり残っている
  • 音が反響せず、空気が穏やかに感じる

これらはすべて、風の通り道×自然素材の相互作用によって生まれます。

「空気のやわらかさ」を生む3つの条件

1. 空気の流れが“直線”ではなく“カーブ”になっている

  • 窓から窓へ一気に抜けるのではなく、空気が部屋を撫でるように巡る設計
  • 吹き抜け・梁・家具配置を活かして、風にリズムをつける

2. 素材が風と一緒に働いている

  • 無垢材が湿気を調整し、風に乗せてやさしく空間に香りを残す
  • 漆喰や和紙がにおいを吸着し、空気を清浄化する“フィルター”になる
  • 床材が反響音を吸収し、空間全体の音環境も落ち着かせる

3. 暮らしの中に「風が通る動作」がある

  • 朝起きたら窓を開ける習慣
  • 階段の上と下で気温差を感じて扉を調整する
  • 洗濯物を干す動作の中で空気を入れ替える

空気のやわらかさは、「設計×素材×暮らし」が揃って初めて成立するもの。
それは機械ではつくれない、“呼吸の余白”のようなものです。

空気のやわらかさは「感覚」を整える

設計に携わる立場として、数値や性能を整えるのは当然です。
でも、それだけでは「なんとなく心地いい家」にはなりません。

人は、無意識に空気の差を感じています。
息を吸ったときの違和感、音の反響、湿気の滞り。
そのすべてが身体に伝わって、「この家、落ち着かない」と感じるんです。

だから僕は、素材と風を、感覚のために設計する。
その空気に包まれて、呼吸が深くなるような家をつくりたいと思っています。

次章では、このスポーク記事のまとめとして、
**「風通しから考える、空気と健康の設計」**を総括します。

まとめ|風通しから考える、空気と健康の設計

空気の“設計”は、感覚と健康をつなぐ

「風が通る家」って、単に気持ちいいだけじゃない。
風が通ると、湿気が抜ける。においがこもらない。素材が呼吸する。
つまり、人の体にも素材にもやさしい空気環境が生まれる

それを「自然換気」という言葉だけで済ませずに、
空気のルート・素材の配置・高さと抜け道を設計に組み込むこと。
これが僕たちができる“健康への配慮”のひとつだと思っています。


風通しは偶然ではなく、操作できる

風が通らない家は、風が悪いのではなく、設計に理由がある
窓の高さ・向き・距離、開口部の関係性、風が流れる道の有無。

僕が大切にしているのは、

  • 風が「抜ける」場所を設けること
  • 家具や建具で風を遮らないこと
  • 自然の風を“通す”ための空間操作を行うこと

設計とは、空気の性格を読み解き、それに合わせて家を整える行為です。


素材は、空気が整ったときに本領を発揮する

杉、漆喰、和紙、珪藻土——
どれも素晴らしい素材ですが、空気が滞留していたら、性能を発揮できません
逆に空気が動き、湿気が整えば、素材は自然と働き出す。

  • においを和らげ
  • 湿度を調整し
  • 空間をやわらかく包み
  • 耳障りな音を吸収してくれる

これらすべては、空気と素材が対話している結果なんです。


最後に

僕が設計するとき、性能や間取りだけではなく、
「この家、風が気持ちよく抜けるかな」と、目を閉じて想像します。

それは住まいの“見えない気配”を整える仕事。
住まい手が深く息を吸って、「この家、なんかいいね」と感じてくれること。
それが僕にとってのゴールです。

▶ 風が通る家は、素材が呼吸できる家

空気が抜ける家では、においも湿気もこもらない。
素材がきちんと呼吸できて、空気が自然とやわらかくなる。
そんな家を、設計でつくることができます。

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