「この家、もう人が住むのは無理ですよね?」 空き家調査に行くと、こんな声をよく耳にします。
床はミシミシ、壁はシミだらけ、畳もフカフカ── でも、僕はそうした家を前にすると、むしろワクワクすることがあるんです。
なぜなら、それは**“空気を変えられる家”**だから。
この記事では、「空き家 × 自然素材」というリノベの選択肢が持つ本質的な価値と、 そこから始まる“深呼吸できる暮らし”について、 建築士としての実体験と、空き家問題という社会背景を交えて掘り下げていきます。
空き家は「朽ちた建物」ではなく「再生の素材」
日本全国で、空き家の数は900万戸を超え(2023年 総務省調査)、 そのうち「その他の住宅」(長期間放置の空き家)は増加傾向にあります。
- 放置すれば景観が悪化し、治安や資産価値にも影響
- 相続したまま手がつけられない人が多数
- 解体コストが高く、新築を建て直すのも現実的でない
しかし逆に言えば、**空き家こそ“再生可能な資源”**だと僕は思います。
なぜなら、
- 土地がすでにある
- インフラが整っている
- 古材や既存構造が活かせる という意味で、最もエコで合理的な選択肢になりうるからです。
自然素材リノベが空き家に向いている3つの理由
1. 経年変化と素材がなじむ
空き家は、「築年数=デメリット」ではありません。 素材が乾燥し、構造が安定しているケースも多く、 むしろ新築より“味わい”が出やすい素材の下地がそろっているのです。
そこで重要なのが、
- 無垢材(特に杉・桧・栗)
- 漆喰や珪藻土
- 和紙や布クロス など、自然素材の“呼吸する性質”を活かした設計です。
これらは“家が家として生き直す”ための素材でもあります。
2. 換気設計と自然素材の相性が良い
空き家特有の問題は、空気のよどみと湿気。 そのまま住み始めれば、カビ・ダニ・においなどが蓄積し、 健康を損なう要因にもなります。
でもここに、
- 給気・排気の通り道を設計
- 通気層の確保
- 天井裏にファンで対流をつくる といった空気設計を加えることで、 自然素材の調湿効果が最大限に発揮される家に変わるのです。
3. 地域の素材と人の手で再生できる
空き家リノベでは、地元の木材や左官技術を活かせば、
- 補助金制度(地域材加点)
- 地元職人の活用
- 文化的資源の継承 といった社会的価値も生まれます。
つまり、空き家再生とは“個人の住宅選び”であると同時に、 “地域の再生”にもつながる社会的行為でもあるのです。
僕が手がけた空き家再生の実例①|京都郊外・築42年 木造住宅
以前、京都郊外の住宅地で放置されていた築42年の空き家。
- 床は沈み、風呂は在来式、外壁は傷みが進行
- ただし基礎と柱は良好な状態をキープ
この物件を見たとき、僕は「まだ生きている」と直感しました。
提案したのは:
- 壁天井は漆喰仕上げ、床は杉の無垢材
- 天井裏に気流を通し、自然換気+ファンで通風経路を確保
- 水まわりは最新設備に刷新しつつ、配管ルートを簡潔に
住まい手の言葉が忘れられません。
「この家が“私たちの居場所”になった感じがするんです」
空気と素材が整うと、家が「ただの建物」から「居場所」へ変わる瞬間があります。
実例②|滋賀県・築38年 平屋の空き家を週末住宅へ
滋賀県にあった平屋の空き家を、 ご夫婦が週末だけ過ごす“セカンドハウス”としてリノベした事例も印象的です。
- 日常は都会で働き、週末に自然の中で過ごしたい
- 古い家の佇まいを残したいが、空気の悪さが気になる
そこで:
- 南面を全開口の木製サッシにし、視線と風を通す設計
- 壁は珪藻土、天井は断熱+和紙貼り
- 梅雨〜夏にかけて湿気がこもらないよう、天井裏に小型換気扇を常設
結果、
「週末に深呼吸できる場所ができただけで、仕事の疲れ方が違います」
という声をいただきました。
これはまさに、“空気から暮らしを整える”リノベの本質だと思っています。
空き家 × 自然素材リノベ=“人が集まる空気感”をつくる
空き家に自然素材で手を入れると、
- 家族が笑顔になる
- 子どもが裸足で走る
- 友人が自然と集まる
そんな**「空気の場」**が生まれます。
僕が設計で目指しているのは、
「何か理由があるわけじゃないけど、なんか気持ちいい家」
それを支えているのは、
- 自然素材が持つ“感覚の記憶”
- 空気がよどまない設計
- 暮らし手の価値観に沿った住まい方
空き家だからこそ、それが1から組み立てられるんです。
僕が伝えたい「空き家を壊す前にできること」
空き家は、壊す前に“呼吸させて”みてください。
- 空気を通す
- 光を入れる
- 素材を整える
それだけで、**「この家、まだいけるな」**という感覚が生まれることがあります。
僕はそういう“命をつなぐ家づくり”にこそ、 建築士としての本領があると思っています。
今、空き家は全国どこにでもあります。 だからこそ、“深呼吸できる暮らし”を広げていくチャンスでもあるんです。
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