【第1章】耐震だけで、本当にいいのか?──誰も教えてくれない“断熱との関係”
「耐震リフォームを考えているんです」
そう話してくださる方の多くが、その先の問いには、まだたどり着いていません。
「耐震だけで、本当にいいんですか?」
という問いです。
地震が心配だから、構造を強くしたい。
それは、命を守るためにとてもまっすぐで、正しい判断です。
でも──
その“壊す工事”を、ただ耐震だけで終えてしまっていいのか。
私たちは、そこで立ち止まってほしいのです。
町家の耐震補強は、壁を開け、床を剥がし、梁をあらわにする作業です。
そこには、同時に「断熱を入れる」「空気の通り道を整える」「生活環境を根本から見直す」
もう一つのリノベーションの入り口が、静かに開いている。
でも多くの人が、その入口に気づかないまま、
耐震工事だけを終え、
「また別で断熱やるのもなあ…」と、
二度と戻れない“閉じた壁”を見つめることになります。
私たちは、「どうせ壊すなら全部やってしまおう」と煽るつもりはありません。
ただ一つだけ、こう問いかけたいのです。
──その壁、本当に“耐震だけ”で閉じてしまっていいですか?
【第2章】耐震と断熱は、工事範囲が“重なる”
耐震と断熱は、まったく別の話のように思われがちです。
でも実際の現場では──その多くが“同じ場所”を工事しています。
✅ 壁の中、床下、天井裏──開ける場所はほとんど同じ
耐震補強をする場合、たいていはこうした箇所を開口します:
- 柱と柱の間(耐力壁の追加・筋交い補強)
- 床下(基礎補強・土台接合の金物設置)
- 天井裏(梁・軸組の補強)
そして、断熱工事もまったく同じ部位を対象とします:
- 壁の中に断熱材を充填する
- 床下にグラスウールやパネルを設置する
- 小屋裏に断熱材を吹き込む、敷き詰める
つまり、「開ける場所は同じなのに、目的が違う」。
これは裏を返せば──
「一度でやれば最小の手間で済むのに、
別々にやると二度壊して、二度塞がなければならない」
という、**明確な“二度手間構造”**です。
✅ 断熱だけをあとから…は“物理的に非効率”
「とりあえず耐震だけやって、断熱はまた考えます」
この判断が、実は最もコストと手間を生むパターンです。
- 壁をもう一度剥がす→クロスや左官もやり直し
- 断熱材を入れるために、補強済みの構造に再び干渉
- 工期も費用も、二重に膨らむ可能性
✅ 生活導線も“2回”分断されるというストレス
工事中、生活はどうしても制限されます。
もし別々にやれば、同じ部屋を2回、施工で使えなくなる。
特に高齢のご家族や、お子さんがいるご家庭では、
この“生活動線の分断”が心理的にも大きな負担になります。
解体のインパクトは、精神的にも経済的にも大きい。
だからこそ、一度の解体で、できる限りの未来を準備しておく。
それが、構造的にも生活的にも合理的な選択です。
【第3章】「快適さ」は“贅沢”じゃない──断熱も命を守る性能です
断熱というと、多くの人がこう感じます。
「あったかくなるのは魅力だけど、贅沢じゃない?」
「うちは耐震が先。断熱は余裕ができたら…」
でも本当にそうでしょうか?
✅ 京町家の寒さは“我慢できる不快”ではなく、“命に関わる負荷”
町家は、その構造上:
- 無断熱の壁と床(外気がそのまま入る)
- 床下からの冷気(ヒートブリッジ)
- 壁内結露 → カビ → アレルギー/喘息
- 部屋ごとの温度差(ヒートショックの危険)
こうした目に見えないストレスや健康リスクを抱えています。
耐震が「地震のときの命を守る」ものだとすれば、
断熱は「毎日の暮らしの中で命を守る」存在です。
- 高齢者の冬季死亡リスク
- 赤ちゃんの夜間体温低下
- 冬のトイレ・洗面所の急激な温度差(ヒートショック)
これらは、すべて「断熱不足の家」で起きている現実です。
✅ 「安全な家」に、“寒さ”という罠があることも
耐震工事をしたあとに、
「家は強くなったけど、相変わらず寒いまま」
という声も実際にあります。
構造は強くなっても、
暮らしのストレスが改善されないなら、それは本当に“よい家”と呼べるでしょうか?
命を守る構造(耐震)と、
命を育む環境(断熱)その両方があって、初めて「本当に守られた住まい」が生まれます。
【第4章】部分改修と全体最適の“あいだ”をとる──断熱×耐震リノベという設計
「全部まとめてやるのは、さすがに大変そう」
「断熱も気になるけど、予算が…」
そう感じるのは当然のこと。
だから私たちは、“一度で全部やるべき”とは言いません。
でも、その工事が「何のために、どこを、どう壊すのか」を考えるなら──
断熱と耐震を“別々に扱うことの非効率さ”にも、気づいていただけるはずです。
✅ “いまできる範囲”と“将来やる範囲”を分けて設計する
町家の補強やリノベーションでは、こんな進め方が可能です:
- 【今やる】
→ 耐震補強+断熱が必要な壁面だけを同時施工
→ 寝室・水回り・北側の床など、寒さが危険なエリアに断熱を優先 - 【将来やる】
→ 外観を変えたくない面/住んでいない2階/使用頻度の低い納戸など
→ 耐震補強だけして、断熱はあとで入れられるよう“準備”だけしておく
✅「壊すときだけは、未来を見越す」という発想
たとえば:
- 耐力壁を補強するために壁を開ける
→ そのときに断熱材の挿入用スペースも確保しておく - 根継ぎした柱の周辺を仕上げる
→ 気密処理をあとからでも追加しやすい納まりにしておく - 天井裏を補強した
→ 将来的に吹込み断熱ができるよう、配線・開口を整理しておく
一体化しなくてもいい。でも、**“一体化できる設計”**にしておくこと。
それが、後悔のない住まいづくりへの近道です。
【第5章】“守るだけの家”から、“整える家”へ──リノベは暮らしの再設計
耐震リフォームは、住まいを守るためのもの。
それはもちろん正しい。
でも、私たちはその一歩先に、こんな問いを投げかけたいのです。
「あなたが本当に望んでいるのは、“壊れない家”だけですか?」
町家に暮らすということは、
ただ“残す”ことではなく、“今の暮らしに合う形で活かす”こと。
- 寒さで朝起きるのがつらい
- 洗面室がヒヤッとするたびに足元が冷える
- 子どもが風邪をひきやすいのは家のせいかもしれない
そんな毎日のストレスを、
構造と環境の両方から整える──それが、断熱と耐震の“リノベーションとしての融合”です。
✅ リノベは「性能」を上げることではない。「生き方」を見直すこと。
耐震+断熱リノベで得られるのは、
安全・快適・経済性、だけではありません。
- 仕事から帰ってきてホッとできる空気
- 家族が風邪をひかなくなった季節の変わり目
- 年を取っても、1階だけで快適に暮らせる安心感
それはすべて、「壊すついで」に得られるものではなく、
「整える意思」があって初めて届く暮らしの変化です。
家を守ることはゴールではなく、出発点。
そこから、どう生きたいかを設計しなおすことが、
リノベーションの本質です。
【第6章】壊すなら、未来につながる壊し方を──そのために、いまできること
ここまで読んでくださったあなたは、きっとこう思っているのではないでしょうか。
「たしかに…耐震だけで終えるのは、もったいないかもしれない」
「でも、全部一気にやるのはやっぱり不安だ」
「私の家でも、できるのかな?」
大丈夫です。
この問いが生まれた時点で、もうあなたは未来への再設計を始めています。
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✅ 最後に
耐震リフォームは、壊す工事です。
でも、その“壊す瞬間”は、未来をつくりなおせる貴重なチャンスでもあります。
「せっかく開けた壁に、命を守る断熱を一枚だけ加える」
「その一手間で、10年後の暮らしが変わる」
その可能性を、どうか見落とさずにいてください。
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