第1章:無垢の床に、足を下ろす朝。そこから違いは始まっている
素足で感じる「やさしい温度」が、毎日の気分を変える
朝、まだ目が覚めきらないまま布団を抜け出して、素足で床に足をつける瞬間。
その「ヒヤッとしない感覚」が、無垢の家の良さを最初に実感するタイミングかもしれません。
僕が以前、杉の無垢フローリングを使った家に初めて住んだとき、最初に驚いたのはこの感覚でした。
「えっ、床ってこんなに優しいの?」と。冬なのに、裸足で歩ける。スリッパがいらない。
朝いちばんの行動がストレスにならないだけで、その日の気分はけっこう変わるんです。
空気を含む素材が生む“自然なぬくもり”
無垢材の床は、空気をたくさん含んでいて、熱を伝えにくいという性質があります。
つまり、周囲の温度に影響されすぎず、“自分の体温”にちょうど寄り添ってくれる素材なんです。
これは合板やフローリングシートではなかなか再現できない感覚。
しかも、冬だけじゃなく、梅雨時にも違いがはっきり出ます。
一般的な床材がジメっと感じる季節でも、無垢の床はほんのりさらっとしていて、素足が気持ちいい。
京都のように湿度の高い地域では、この「足裏の快適さ」が毎日の積み重ねで実感として残ります。
「触れる設計」が暮らしの快適さをつくる
実はこういう感覚って、カタログや性能表では伝わらないんですよね。
だからこそ僕は、無垢材の家を設計するときに、暮らしの中でどう“触れるか”を一番に考えます。
手で触る、足で感じる、背中を預ける。そのときにどう感じるかが、毎日の「快適さ」に直結しているから。
「いい素材ですね」と言われるより、「毎日がちょっとラクです」と言われるほうが、
僕は嬉しかったりします。
第2章:数字では測れない「ちょうどいい」がここにある
同じ温度なのに、無垢材の家のほうが快適なのはなぜ?
「同じ24℃でも、この家のほうがあたたかく感じるんです。」
これは実際に無垢材の家に住み始めた方からよく聞く言葉です。
エアコンの設定温度は一緒。でも、体が感じる“温度”が違う。
これは「体感温度」と呼ばれる感覚で、空気の温度だけでなく、湿度や放射熱、そして**“何に触れているか”**によって左右されます。
無垢材は、表面が柔らかく、空気を含みやすい構造をしています。
だからこそ、床や壁に触れたときの“冷たさ”や“硬さ”が緩和され、温かさを感じるのです。
つまり、同じ室温でも「心地よさ」が違う。それが、数字に出ない無垢材の魅力のひとつです。
湿度も整うから、家の中の“息がしやすい”
もうひとつ見逃せないのが「湿度」のコントロール。
無垢材や珪藻土などの自然素材は、空気中の湿気を吸ったり吐いたりする“調湿性”を持っています。
エアコンを使っているのに乾燥しにくいとか、ジメジメした日でもカラッと感じるとか。
そういう小さな違いが、実は快適性に大きく関わってきます。
特に京都のような湿気の多い土地では、こうした素材の“呼吸する力”が暮らしに直結します。
僕自身、工務店として現場に立っていて感じるのは、設備だけでは補えない空気の質があるということ。
「快適さ」は、設備のスペックじゃ測れない
高性能な断熱材や最新の空調機器ももちろん大切ですが、
人の感覚は、それだけでは満たされないこともある。
大切なのは、数値を追うことよりも、**「暮らしの中で気持ちがラクかどうか」**という感覚。
無垢材や自然素材は、その感覚をじわじわ支えてくれる存在なんです。
数字で語れない「ちょうどいい」が、無垢の家にはある。
これは、暮らしてみた人にしかわからない、ちょっと贅沢な発見かもしれません。
第3章:京都の気候こそ、自然素材の真価がわかる
冬は底冷え、夏は湿気。京都の家づくりに求められるもの
京都に住んでいると実感するのが、**「底冷え」と「蒸し暑さ」**の両方に耐える暮らしの大変さ。
冬の朝、室温以上に床が冷たく感じたり、夏は湿気で空気が重く感じたり。
四季がある、というより「四苦がある」と言いたくなるほどです(笑)。
だからこそ、京都で家をつくる・選ぶときには、数値上の性能だけでは足りないと僕は思っています。
大切なのは、気候と“呼吸を合わせられる”家かどうか。
それを叶えるのが、無垢材をはじめとする自然素材です。
無垢材は「京都の空気」に適応してくれる素材
たとえば冬の底冷え。断熱性を上げることも大事ですが、床材の体感温度も重要です。
無垢材は熱を奪いにくく、素足でも冷たさが和らぐ。
だから「足元から冷える京都の朝」でも、起きたくなる家になる。
一方、夏の蒸し暑さに対しても、無垢材は調湿力で空気を整えてくれます。
杉や桧は湿度を吸い取り、室内をカラッと保とうとする力があるんです。
つまり、京都という厳しい気候のなかでこそ、自然素材の持つ**「目に見えない快適さ」**が生きてくる。
僕はこれを、“空気が賢い家”と呼んでいます。
設備より「素材で整える」という選択肢を
もちろん、最新の設備や機械の力で環境を制御することもできます。
でも、素材が呼吸してくれるなら、それは人にとってもラクな環境です。
自然素材は、調湿・断熱・肌ざわりなど、複数の機能を一つの素材でまかなえる。
これは、「設備で制御する暮らし」では得られない安心感なんです。
とくに、京都のように一年を通して気候の変化が大きい地域では、
こうした素材が持つ“自然の適応力”が、暮らしに静かに効いてきます。
第4章:自然素材が暮らしを整えてくれる理由
何気ない感覚が“整っている”ということ
「最近、家にいると落ち着くんです」
そんな声を住まい手から聞くたびに、僕は内心で“それ、無垢材の力ですよ”と思っています。
たとえば、夏でも足裏がベタつかない。冬はスリッパなしでも歩ける。
呼吸がしやすい。空気がどこかやわらかい。
それって、実は暮らしが**“整っている”**状態なんです。
でも、誰もそれを意識していない。ただ「なんか気持ちいい」と感じている。
無垢材や自然素材は、そんなふうに静かに暮らしを整えてくれる存在なんです。
「暮らしを整える」とは、空気とリズムを整えること
人間って、意外と環境に振り回されているものです。
湿度が高いとイライラしやすくなったり、空気が乾燥すると集中できなかったり。
自然素材の家では、空気の質そのものが穏やかなので、暮らしのリズムも安定しやすくなります。
呼吸が浅くならない。無意識に緊張しない。
そんなふうに、空間が人に与える影響ってじつはすごく大きい。
僕はこの状態を、「深呼吸できる暮らし」と呼んでいます。
片づけも、気持ちも、自然と整っていく
面白いのが、素材が整っていると、人の行動も自然と整うこと。
無垢材の床にホコリが落ちるとすぐ気づくから、掃除をする習慣ができる。
お気に入りの木の天板には、物を置きすぎたくなくなる。
つまり、「整っている空間が、整った行動を生む」ということ。
それは“意識高い系”の暮らしではなく、“素直な暮らし”です。
整えようとしているんじゃなくて、整っていたくなる。
そんな力が、無垢材の家にはあるんです。
第5章:無垢材の家に住んで変わったこと
朝起きるのが、少しだけ楽しみになった
無垢材の家に暮らしはじめて、僕の中でいちばん大きな変化は「朝の気分」でした。
以前は寒くて、つい布団から出るのが億劫だったのに、今は床に足を下ろす瞬間が苦じゃない。
足裏に伝わる“やさしい温度”や、空気のすがすがしさが、自然と体を目覚めさせてくれるからです。
暮らしのスタートが心地いいと、その日1日がうまく回る。
これは本当に小さなことだけど、日々の質を左右する大きな要素だと思うんです。
「ただ住む」から「整える暮らし」へ
無垢材の家に暮らすようになってから、僕の中で「暮らし方」の意識も変わりました。
たとえば、床に触れること。
たとえば、空気を感じること。
たとえば、気持ちが落ち着く時間を大切にすること。
そういった一つひとつの小さな行動が、「自分の暮らしを整えていく」ことにつながっている。
家に住むというより、家と一緒に呼吸する暮らしに近い感覚です。
住まいは“性能”ではなく、“感覚”で選んでいい
もちろん、性能やデザイン、コストは家づくりにおいて大事な指標です。
でも、実際に暮らすなかでじわじわ効いてくるのは、“感覚”の部分。
「この床、気持ちいいな」
「空気がやさしいな」
「なんか落ち着くな」
その“なんか”の正体が、無垢材でできた家には、ちゃんとあるんです。
僕が伝えたいのは、そういう見えない豊かさも、家選びやリノベーションの理由にしていいということ。
それが、「深呼吸したくなる家」を選ぶ、いちばん素直な理由だと思います。
【記事のまとめ】
- 無垢材の床は、体感温度や湿度の違いで暮らしに“静かな快適”を生む
- 京都の気候こそ自然素材の力が活きるフィールド
- 数値化できない「整う感覚」は、住んでみて初めて気づく
- 自然素材は、毎日の行動や心のリズムまでも整えてくれる
【お役立ち】
- 僕のnoteで、他にも暮らしのヒントを紹介しています:
https://note.com/hagane_arch - 「深呼吸したくなる家」のアイデアPDFはこちらから無料でダウンロードできます:
https://www.hagane-arch.co.jp/thanks-pdf/