サウナで気づいた、家づくりの本質|空気が暮らしを決めていた

はじめに
  1. 第1章|僕は、空気を設計するという思想にたどり着いた
    1. ■ 空気は、自然に整わない
    2. ■ サウナは、“空気と向き合うための空間”だった
    3. ■ 空気は、ちゃんと設計できる
    4. ■ 住宅って、空気を包む器なんじゃないか?
  2. 第2章|説明されない図面に囲まれた現場で、何が壊れているのか
    1. ■ “慣れてる”という安心感が、一番危うい
    2. ■ “語れない図面”は、信頼されない
    3. ■ 説明されない設計は、やがて壊れる
    4. ■ 僕は、「説明できる図面しか描かない」と決めた
  3. 第3章|断熱・気密・換気は“素材”ではなく“空気の思想”
    1. ■ 断熱は、“逃がさない素材”じゃない
    2. ■ 気密は、“止める”んじゃない。“整える”んだ
    3. ■ 換気は、“出す”んじゃない。“循環させる”という思想
    4. ■ 3つは、別々じゃなくて“空気の思想”そのもの
  4. 第4章|家は“空気を包む器”であるという哲学
    1. ■ 素材は、空気の中で“育つ”
    2. ■ “空気の手ざわり”が、暮らしを決める
    3. ■ デザインや素材じゃない、“空気のかたち”をつくる
    4. ■ 家って、本当は“空気を包む器”なんだと思う
  5. 第5章|これからの設計者は、“空気の思想”を持てるか
    1. ■ 図面の外にある“感覚”を、誰が設計するのか
    2. ■ 説明できる設計は、守られる
    3. ■ 僕が設計したいのは、“深呼吸したくなる家”
    4. ■ 設計って、空気の哲学だと思う
  6. まとめ|空気を設計するという思想が、暮らしを変える
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    1. ▶ 「空気が、暮らしを変える。」

第1章|僕は、空気を設計するという思想にたどり着いた

サウナの設計監修を頼まれたとき、
最初はちょっと面倒だなって思った。
住宅と違ってスケールも条件も極端で、
しかも「空気」の繊細な設計が求められると分かっていたから。

でも現場を見て、図面を開いた瞬間に、僕の中で火がついた。

「これ、誰も“空気”をわかってないな」って。


■ 空気は、自然に整わない

ストーブの種類が決まってない。
給気の位置はどこでもいいみたいな雰囲気。
気密なんて、そもそも議題にすら上がってない。

現場にあったのは「前もこの仕様でやってたし」という慣習だけ。
でも、前回うまくいったのは偶然でしかない。
空気って、感覚じゃなくて構造で成り立ってるものだから。

僕は図面を見てゾッとした。
施工者も設計者も、
「なぜここに断熱が必要なのか」
「なぜここに給気が必要なのか」
誰も語れないし、考えてない。


■ サウナは、“空気と向き合うための空間”だった

高温、多湿、密閉。
裸で過ごす空間を、どうやって「気持ちいい」に変えるか。

サウナって、言ってみれば空気の感性を試される空間なんですよね。

気密が取れてなかったら蒸気が漏れる。
断熱が甘ければ、壁体内に湿気がまわってカビが生える。
給気と排気のバランスが悪ければ、のぼせる。

全部、見えないけれど確かに“人の身体に返ってくる”。
サウナをやって、僕はそれを肌で体感した。


■ 空気は、ちゃんと設計できる

僕は図面を一から引き直した。
気密ラインも、断熱層の取り回しも、給気と排気の流れも。
ぜんぶ描き直して、ぜんぶ説明した。

そして完成したとき、
中に入って、最初に深呼吸した瞬間、
**「あ、これなんだよな」**って、静かに思った。

性能値じゃなくて、
“体で感じる空気”が、そこにはちゃんとあった。


■ 住宅って、空気を包む器なんじゃないか?

その瞬間から、僕の住宅設計は変わった。
家の見た目でも、素材でも、性能でもなく、
「空気」からつくる。

なんか、ふと深呼吸したくなるような空間。
身体が緊張しない空気。
それをどうやって設計するか。

サウナっていう極端な空間から、
僕は住宅設計の「本筋」に気づかされたんだと思う。

第2章|説明されない図面に囲まれた現場で、何が壊れているのか

サウナの図面を見直しているとき、
ふと、あることに気づいた。

「これ、住宅の現場でも同じことが起きてるな」って。


■ “慣れてる”という安心感が、一番危うい

現場で施工者に話をしたとき、
返ってきたのは、こんな言葉だった。

「まぁ、いつもこれでやってますから」
「前の現場も、これで特に問題なかったです」
「大丈夫っすよ、心配しすぎじゃないですか?」

正直、これを聞いたとき、僕は怖くなった。

“いつもやってる”っていうのは、慣れでしかない。
でも空気の設計って、1mmのズレでも体感に響く世界なんです。

気密がほんの少し甘いだけで、
湿気が裏に回り込んで結露する。
断熱が切れてたら、そこから熱が逃げて不快になる。
排気の位置がズレてれば、空気がこもって酸欠になる。


■ “語れない図面”は、信頼されない

設計って、線を引くことじゃない。
その線に、意味が込められていなきゃいけない。

なぜ、そこに給気?
なぜ、この厚みの断熱?
なぜ、ここで気密を切ってはいけない?

語れない設計は、伝わらないし、現場では守られない。

「この気密ラインが崩れると、空気が逃げて、湿気が回る」
「この断熱を欠損させると、体感温度が2℃変わる」
僕は、そうやって現場で“なぜ”を語ることが設計者の仕事だと思ってる。


■ 説明されない設計は、やがて壊れる

住宅でも、同じことが山ほど起きている。

  • サッシの下に断熱がなくて、冬に足元が冷える
  • 換気扇があっても、空気が巡らないからカビが出る
  • 気密処理が甘くて、エアコン効率が落ちて電気代が跳ね上がる

でも住んでる人は、それが「設計ミス」だとは思っていない。
ただ、“なんか暮らしにくい”って感じるだけ。

これは、設計者の責任なんです。
語るべきものを語ってこなかった。
説明されないまま、現場に流された設計図の末路なんです。


■ 僕は、「説明できる図面しか描かない」と決めた

図面って、現場との対話の道具だと思ってる。
「ここは、こういう理由でこうしてる」って語れる設計じゃなきゃ、
空気の質なんて、絶対につくれない。

空気は見えない。
だからこそ、設計者が言葉で構造を描くしかない。

そしてそれが、“深呼吸したくなる家”の前提になる。

第3章|断熱・気密・換気は“素材”ではなく“空気の思想”

家づくりの相談を受けると、よくこう聞かれます。

「断熱材って、どれが一番いいんですか?」
「C値って、どのくらいなら安心ですか?」
「換気は1種がいいんですか、3種がいいんですか?」

もちろん、大事な質問。
でも僕は、いつもこんなふうに答えます。

「その家に、どんな“空気”を流したいか次第ですね。」


■ 断熱は、“逃がさない素材”じゃない

断熱って、「寒さをシャットアウトする壁」と思われがちだけど、
本当はもっと繊細で、**“空気の温度と湿度の緩衝材”**なんですよ。

例えばグラスウール。
しっかり施工されれば優れた断熱材だけど、
湿気を吸えば一気に性能が落ちる。
気密が甘ければ、そこから冷気が入り、断熱が“ただの詰め物”になる。

だから僕は、断熱を「素材」ではなく、
**“暮らしの空気を守る設計の一部”**として考えてる。


■ 気密は、“止める”んじゃない。“整える”んだ

気密っていうと、「隙間を埋めること」って思われがち。
けど、僕の感覚ではちょっと違う。

気密って、**空気を“意図通りに流すための設計”**なんですよ。

たとえば、気密がしっかりしていれば、
給気から入った新鮮な空気が、汚れた空気と自然に入れ替わっていく。
でも、どこかに隙間があれば、空気は最短経路で抜けて、
湿気も、熱も、快適さも全部逃げてしまう。

気密は、空気の“流れを整える技術”なんです。


■ 換気は、“出す”んじゃない。“循環させる”という思想

「とりあえず24時間換気がついていれば大丈夫」
──そんなふうに思われてるけど、それじゃ全然足りない。

換気って、空気の質を保つ“呼吸のリズム”みたいなもの。

家全体が、ゆっくりと空気を入れて、
滞りなく出していく。
その流れがあるだけで、カビも出にくいし、匂いもこもらない。

でも、設計が間違っていれば、
冷気が直接入ってきたり、空気が動かずに淀んだりする。

だから僕は、換気も「設備」じゃなくて、**“空気の思想の通り道”**として考えてる。


■ 3つは、別々じゃなくて“空気の思想”そのもの

断熱・気密・換気って、それぞれが別の工事のように見えるけど、
僕にとっては全部、「どういう空気でこの家を包むか」のための手段なんです。

空気を、冷たくないようにする。
淀まないようにする。
湿気がこもらないようにする。
そのために、どう素材を配置して、どこを閉じて、どこを開くか。

それが“設計”だと思うし、
僕の中では、全部“空気のためにある技術”としてつながってる。

第4章|家は“空気を包む器”であるという哲学

僕が「深呼吸したくなる家をつくりたい」と言うと、
「それって、自然素材の話ですか?」ってよく聞かれる。

もちろん、自然素材も大切。
でもそれだけじゃ、深呼吸したくなる空間にはならない。

僕が目指しているのは、素材を活かす“空気”を設計すること。
もっと言えば、家そのものを“空気を包む器”として考えること。


■ 素材は、空気の中で“育つ”

無垢の床板も、漆喰の壁も、杉や檜の天井も。
それらは単体で良し悪しが決まるものじゃない。
空気が澄んでいて、温湿度が安定していてこそ、素材は素材らしく育つ。

たとえば無垢のフローリング。
空気が乾燥しすぎれば反るし、
湿気がこもればカビが生える。
冷たい空気が足元を這っていれば、せっかくの肌触りも意味を失う。

素材の心地よさって、空気の設計とセットじゃないと生きない。


■ “空気の手ざわり”が、暮らしを決める

住宅って、毎日を過ごす場所。
料理するし、洗濯するし、眠るし、働く人もいる。
言ってみれば、呼吸の大半をそこでしている。

だから僕は、「その空気が気持ちいいか」がいちばん大事だと思ってる。

  • 空気が軽い
  • 冷えがない
  • 匂いがこもらない
  • 換気の音が気にならない

そういう“感じ取れないはずのもの”が、
実は住み心地の正体なんじゃないかって。


■ デザインや素材じゃない、“空気のかたち”をつくる

世の中には、見た目が素敵な家がたくさんある。
でも僕が見たいのは、「この家、空気がいいな」って思える空間。

空気の流れがスムーズで、
温度が安定していて、
湿度が偏らない。

そんな空間に入ると、身体がふっと力を抜く。
呼吸が深くなる。

それって、図面には描けないし、写真にも映らない。
でもたしかに存在している“空気のかたち”なんです。


■ 家って、本当は“空気を包む器”なんだと思う

構造でも、デザインでも、素材でもなく。
家って、暮らす人のために空気を整えて包む場所なんじゃないか。
最近、本当にそう感じる。

空気が整っていれば、素材は長持ちするし、家族の健康も守れる。
そして何より、“暮らしていて、気持ちがいい”。

そんな空間を目指すなら、
家は「空気をデザインする器」として、もっと見直されていいと思う。

第5章|これからの設計者は、“空気の思想”を持てるか

サウナで空気の流れを設計したあの日から、
僕の設計は、ずっと「空気」を中心に据えている。

でも、空気って目に見えないし、
図面にも明確には描けない。
だから、多くの現場で置き去りにされる。

「見えないから考えない」
「考えなくてもバレない」

──そういう空気の軽視が、
僕たちの暮らしを、いつの間にか“なんとなく不快”にしている。


■ 図面の外にある“感覚”を、誰が設計するのか

いま、家づくりに求められているのは、
性能値の高い家じゃない。

  • 暖かいだけじゃなく、冷えない家
  • 静かなだけじゃなく、呼吸が深くなる家
  • 無垢材の床が“素足で気持ちいい”と感じる空気

それって、数値で語れない感覚
でも、その感覚をちゃんと設計できるかが、
これからの建築に求められる力だと思ってる。


■ 説明できる設計は、守られる

僕は、どんな断熱ラインでも、気密の処理でも、
「なぜここにこれが必要か」を説明できなきゃ意味がないと思ってる。

説明できる設計は、現場で守られる。
守られた設計は、住む人を裏切らない。

それは性能の話じゃない。
思想として、住まい手を信じて設計するという態度の話だ。


■ 僕が設計したいのは、“深呼吸したくなる家”

言葉にするとシンプルだけど、
それを実現するには、素材でも間取りでもなく、空気が整っていることが絶対条件なんです。

空気は、住む人の身体に直接届く。
気づかないふりはできても、無視はできない。
だから僕は、空気の質を設計する。
そしてそれを伝える言葉と図面を持つ。


■ 設計って、空気の哲学だと思う

家づくりって、構造計算でも仕上げの選定でもなくて、
突き詰めると、「どんな空気に包まれて暮らすか」を考えることだと思ってる。

その空気を、どう整えるか。
その空気を、どう図面に落とすか。
その空気を、どう言葉で届けるか。

僕が設計に込めているのは、
空気をつくる哲学です。


まとめ|空気を設計するという思想が、暮らしを変える

サウナから始まったこの旅は、
いま、住宅という日常空間のなかで
“暮らしを整える設計”に進化してきた。

木の住処でつくる家は、
呼吸が整い、心も整う家。
そしてそれは、空気から設計する思想があってこそ、実現できるものなんだと感じている。

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あなたの家の空気、思い通りに整っていますか?
「冬の朝がつらい」「窓まわりが結露する」「匂いがこもる」──
それは、家そのものの“呼吸”ができていないのかもしれません。

僕が設計する家は、
性能値でも設備でもなく、“空気の質”からつくります。
そしてそれが、「深呼吸したくなる家」につながっていくんです。

まずは、僕の空気の設計思想に触れてみてください。

家の性能は測れても、
「心地よさ」は測れない。
だから僕は、空気から考えるんです。