第1章|慣習だけが残った現場に、僕は違和感しかなかった
「大丈夫っしょ」
「前もこれでやったから」
「これでやってます、いつも」
──サウナの現場で耳にしたこの言葉たちに、僕はゾッとした。
誰も図面を読み解こうとしていない。
誰も“なぜここに給気があるのか”を考えようとしない。
たしかに、過去に何度かやったことのある施工なんだろう。
でもその「前例」に、根拠はあるのか?
施工者も設計者も、“なぜ?”を説明できないことに違和感を持っていない。
第2章|説明できない設計は、信頼を生まない
サウナという極端な空間で、断熱・気密・換気の納まりが数センチずれただけで、体感がガラリと変わる。
それを経験している僕からすると、
「なんとなく」で片付けられる現場は、もはや怖さすらあった。
- 気密が1箇所甘いだけで、湿気が裏に回り込む
- 断熱が欠損していれば、そこだけ熱ロスが起きる
- 換気が効かないと、CO₂が溜まり、人がのぼせる
図面の中に“空気の流れ”が描かれていない。
その時点で、これは設計ではなく、ただの“形づくり”なんだと感じた。
第3章|「語れない設計」は、いつか崩れる
僕は住宅設計でも同じ光景を何度も見てきた。
- サッシの下に断熱が入っていない
- 電気配線の貫通部に気密処理がない
- 24時間換気のはずなのに、実際は空気が回っていない
それを説明しても、「まあ、大丈夫でしょう」と軽く流される。
「ちゃんとやってます」
「これ、誰でもやってる仕様なんで」
──でも、それ、“なぜそうしているのか”を語れる人はどれだけいるのか?
第4章|設計者に求められるのは、“納まり”ではなく“思想”だ
図面が描ける人は多い。
でも、なぜその線を引くのかを語れる人は、ほんの一握りしかいない。
僕がサウナの設計で痛感したのは、
空気・湿気・熱という「見えないもの」ほど、意図と説明が必要だということだった。
見えないからこそ、意味を言葉にする。
意味が語れるからこそ、現場が動く。
語れない設計は、伝わらないし、守られない。
だから僕は「語れる図面」を描く。
それが家を、空間を、空気を守ることにつながると信じている。