サウナに学ぶ家づくり|空気を設計するという発想

はじめに

第1章|“何もわかっていない現場”に足を踏み入れたとき、僕は思った。

サウナの設計監修を頼まれたとき、正直「面倒だな」と感じた。
興味がなかったわけじゃない。
けど、それ以上にすぐ気づいたんです。

「あ、誰も“どういう構造体にすべきか”を理解してないな」と。

図面を開いた瞬間、それは確信に変わった。
ストーブは置き型なのか、壁掛けなのか──すら曖昧。
給気の位置はどう考えても「ストーブの裏」じゃなきゃおかしい。
入ってくる冷たい外気が、ストーブを通って温められ、
室内に優しく拡散する──それが基本なのに、誰もその導線を描いていない。

排気だってそうだ。
「対角に置くと効率が良い」なんて、換気の教科書にすら載っている。
それすら、検討された形跡がない。


第2章|「大丈夫だろう」の一言が、一番危うい

現場でその話をしたとき、返ってきたのは一様にこうだった。

「まあ、大丈夫っしょ」
「前もこの仕様でやったから」
「これでやってますよ、いつも」

……その言葉に、僕は一瞬、息が詰まった。
誰も「なぜ?」を問わない。
誰も、これが“空気と熱の実験室”だという意識がない。

サウナって、人体が裸で100℃の蒸気空間に入る場所だ。
住宅の比じゃないほど、温湿度の設計が暮らし(いや命)に直結する。
それなのに、誰も構造を気にしない。
それが、僕にとって強烈な違和感だった。

なぜサウナは“断熱・気密・換気”の教科書なのか?


第3章|僕は図面をゼロから引き直した

そのサウナがまともに機能するには、設計段階からやり直すしかないと思った。
僕はすべての前提を疑って、図面をゼロから描き直した

  • 給気の位置はストーブの下から確実に暖めながら導入できるルートに
  • 排気は対角かつ“熱と湿気の流れが自然に抜けるライン”へ
  • 断熱材はヒーター背面を中心に二重構造+熱橋防止処理
  • 湿気がまわる箇所には、蓄熱を妨げない断熱+防湿層処理を重ねた
  • 気密ラインは「見えない施工部位」まで徹底的に確認・指定

まさに、空気と熱と湿気の力学を、手で描いて、言葉で説明する作業だった。
現場監督に伝えたのは、設計内容じゃなくて、意味と必要性だった。


第4章|家もまた、空気と湿気に支配されている

設計の途中でふと思った。

「これ、完全に家と同じ構造だな」

サウナだからじゃない。
むしろ、気密が取れていなければ内部結露を起こす構造
断熱がグラスウールなら、湿気で性能低下を起こし、ただの“詰め物”になるだけ。

それ、住宅でもよく見てきた。
京都の築古住宅。町家の再生案件。
気密施工が曖昧で、断熱はあるけど**“体感としては寒い”家**。

「こんなに細かく考えないといけないのか」
「正直、認識が甘かった」

──これは、実際に現場の施工者が漏らした言葉だった。


第5章|“空気を設計する”という思想の原点はここにある

僕にとって、このサウナの現場は、
断熱・気密・換気が「スペックではなく思想だ」と気づかせてくれた経験だった。

ただ温かい空間じゃダメ。
ただ湿度を逃す空間でもない。
空気が心地よく巡り、人が安心できる空間は、設計と施工が噛み合って初めて成立する。

サウナはその“極限状態”でそれを突きつけてきた。
そして、僕にこう教えてくれた。

家もまた、空気をつくる器なんだと。

空気が整えば、暮らしが整う。
サウナ設計で得た知見は、住宅にも通じていました。
僕たちは、ただの性能ではなく「深呼吸できる空間」を届けたい。
まずは、空気の話からしませんか?