京都の町家は耐震補強できる?壊さず強くするリノベの考え方

中古リノベ
  1. 第1章|町家や古民家って、本当に危ないの?
    1. 地震に弱い家の特徴は、町家に限らない
    2. 僕たちがよく見る町家の“弱点と可能性”
      1. よくある弱点:
    3. 補強=壊す、ではない。整えて“活かす”という発想へ
  2. 第2章|耐震補強ってどこまで必要?コストと安心のバランス
    1. 「全部やる」が正解ではない。耐震補強にも“戦略”がいる
      1. 僕たちが大事にしているのは:
    2. コストと安心の“両立”は可能です
    3. 安心は“数字”ではなく“家族の感覚”で決まる
  3. 第3章|僕たちが実践している“壊さず強くする”耐震補強の方法
    1. “見せる構造”を活かす、最小限の補強戦略
    2. 「見えない部分」をどう処理するかが、耐震の質を決める
    3. リノベーションでは「構造を後から描き直す力」が問われる
  4. 第4章|町家と景観、そして構造|三つ巴をまとめる設計術
    1. 構造を整えるだけでは「町家の空気」が失われる
    2. 景観規制は「縛り」じゃない。「整えるためのルール」
    3. 三つ巴の交差点で生まれる「呼吸する町家」
  5. 第5章|住み継ぐために強くする|京都の家の“これから”に備える
    1. 地震はいつ来るか分からない。でも“来る”ことは確実
      1. 重要なのは:
    2. 耐震リノベは「資産の価値」を守る行為でもある
    3. 強くすることは、「受け継ぐ」という行為そのもの
    4. ▶ 「壊さない耐震補強」で、町家を未来へ。

第1章|町家や古民家って、本当に危ないの?

「京都の町家って、地震に弱いんでしょ?」
「古民家って、耐震補強できるの?」

よく聞かれます。たしかに、古い木造住宅は耐震的に見て不安がある構造も多いです。
でも僕は、“古い=危険”と一括りにしてしまうのは、もったいないと思っています。

なぜなら──
構造を読み解き、丁寧に補強すれば、むしろ“しなやかに揺れる家”になる可能性があるから。

地震に弱い家の特徴は、町家に限らない

まず最初に知っておいてほしいのは、
「古いから倒れる」わけではないということ。

実際に地震で倒壊しやすいのは、以下のような住宅です:

  • 筋交いが少ない、または配置が偏っている
  • 壁量が不足している
  • 接合部が弱く、揺れを吸収できない
  • 基礎が布基礎や無筋コンクリートで割れやすい

つまり、構造のバランスと接合の強さこそが、耐震性の本質。

京都の町家も、そこを読み解けば補強が可能なストックなんです。

僕たちがよく見る町家の“弱点と可能性”

町家の耐震診断をしていると、
「ここがダメだな」と感じる箇所はだいたい共通しています。

よくある弱点:

  • 開口部が多く、耐力壁が少ない
  • 土壁が多く、剛性はあるが脆い(崩れると戻らない)
  • 通し柱や梁の接合が弱く、揺れが集中しやすい
  • 布基礎で、アンカーや鉄筋が入っていない

でも逆に、町家にはこんなポテンシャルもある:

  • 通し柱や差し鴨居で粘り強く揺れを受け止める構造
  • 壁を少し増やすだけでバランスが整いやすい間取り
  • 素材が無垢で、長寿命な再生向きの部材が多い

つまり、「弱い」ではなく「整えきれていない」だけなんです。

補強=壊す、ではない。整えて“活かす”という発想へ

僕たちが目指しているのは、
“古民家の魅力を壊さず、命を守る強さを与えること”

そのためにやるのは、解体ではなく、構造の読解と再構成。

  • 足りない壁を、意匠を壊さず加える
  • 接合部を、金物と木組みで補強する
  • 土壁を壊さず、内部から構造パネルで補完する
  • 基礎に、あと打ちアンカーで耐力を加える

京都には、“壊さず再生する”文化があります。
その延長線上にあるのが、町家の耐震リノベなんです。

第2章|耐震補強ってどこまで必要?コストと安心のバランス

「耐震補強って全部やらないと意味ないんですか?」
「予算に限りがある中で、どこまでやるべき?」

町家や古民家のリノベ相談を受けると、
必ず出てくるのがこの“どこまで補強すべきか”問題です。

僕の答えは明快です。
**「命を守ることを第一に、そのうえで優先順位をつける」**という考え方です。

「全部やる」が正解ではない。耐震補強にも“戦略”がいる

耐震補強と聞くと、「とにかく強くすれば安心」という印象がありますが、
実際には──

  • 全体を強化しすぎて“揺れの逃げ道”がなくなる
  • 一部だけ補強して“他の箇所に負荷が集中”する
  • 補強のために“建物の魅力を壊してしまう”

というような“やりすぎによる失敗”もあります。

僕たちが大事にしているのは:

  • 建物全体のバランスを読む
  • 必要最小限の補強で**「命が守れる強さ」**を確保
  • それ以外は「将来の段階補強」を想定して設計

つまり、100点を目指すのではなく、“85点を確実に出す”設計をすることなんです。

コストと安心の“両立”は可能です

耐震補強にはコストがかかります。
でも、だからといって**「何もしない」という選択は危険**です。

  • 100万円で1階の壁量を補うだけでも、倒壊率は大きく下がる
  • 屋根を軽くするだけで、重心バランスが安定する
  • 一部に構造パネルを入れるだけで、揺れ方が変わる

耐震補強は「やるか・やらないか」ではなく、
“何を優先して、どこから手をつけるか”の戦略で決まる

安心は“数字”ではなく“家族の感覚”で決まる

耐震診断では、上部構造評点(倒壊の可能性を数値化)が使われます。

  • 1.0以上 → 倒壊しないとされる
  • 0.7〜1.0 → 一部損傷が想定される
  • 0.7未満 → 倒壊の恐れが高い

でも、最終的に大切なのは「家族がその家でどう感じるか」。

  • 子ども部屋の真上に重い屋根がある
  • 寝室の横に補強されていない壁がある
  • 夜間の避難経路が確保されていない

それらを一つずつ丁寧に拾って、
“感覚的に安心できる家”を設計することこそが、本当の耐震リノベだと僕は考えています。

第3章|僕たちが実践している“壊さず強くする”耐震補強の方法

「耐震補強=壊す・やり替えるもの」と思われがちですが、
実際の現場ではむしろ、“壊さず整える”方が効果的なことが多いんです。

なぜなら、京都の町家や古民家は、
**ただの古い建物ではなく、文化的価値や空気感を持った“空間資産”**だから。

それを壊さず、強さを加える。
それが、僕たちが大切にしている耐震補強のアプローチです。

“見せる構造”を活かす、最小限の補強戦略

たとえば、伝統的な梁や柱、差し鴨居を壊して構造壁にするなんて、もったいない。

だから僕たちは、こう考えます:

  • 構造的な弱点をピンポイントで補強する
  • 接合部の“抜け”や“緩み”を金物で確実に補う
  • 土壁をそのまま残しつつ、裏側から構造パネルを設置
  • 板壁の内側に構造用合板を仕込む二重壁設計

これにより、意匠を壊さずに“強さ”だけを後づけすることが可能になります。

「見えない部分」をどう処理するかが、耐震の質を決める

耐震性は、見える壁ではなく床下・壁の中・小屋裏で決まることが多い。
だからこそ、そこに**「読み解き」と「手の入れ方」の技術**が必要なんです。

僕たちが現場でやっているのは:

  • 小屋裏に登って、梁の接合と剛性を確認・補強
  • 床下に潜って、束柱のぐらつきや基礎の割れをチェック
  • 壁内の空洞を探知して、補強材が効く位置を探る

これらは全部、**“見えないところに耐震の核心がある”**という現場経験から来た判断です。

リノベーションでは「構造を後から描き直す力」が問われる

新築なら、図面上で構造バランスを整えることができます。
でもリノベでは、今あるものに“どう追加するか”がすべて。

  • 無理なく、構造を補う
  • 意匠を壊さず、強さを加える
  • 将来の補修性も残す

僕たちは、それを**「構造の再編集」と呼んでいます。**
それができるかどうかで、リノベの価値はまったく違ってくるんです。

第4章|町家と景観、そして構造|三つ巴をまとめる設計術

京都で町家や古民家をリノベーションしようとすると、
必ずぶつかるのがこの三重苦──

  • 構造(耐震):安心して住むために補強が必要
  • 景観規制:外観を変えると届け出や指導が必要
  • 町家の美意識:空間の抜けや素材感を壊したくない

この三つをどうまとめるか。
設計士の“感性と論理”が試される局面です。

構造を整えるだけでは「町家の空気」が失われる

町家の魅力ってなんでしょう?

  • 奥へと続く“通り庭”の奥行き感
  • 光と風が抜ける“中庭のリズム”
  • 柱や梁の“痩せた木肌”が語る時間

耐震補強でこれらを無視すると、
たとえ安全でも「ただの古い建物」になってしまう。

僕たちは、「壊さずに守る」ことを設計の出発点にします。

景観規制は「縛り」じゃない。「整えるためのルール」

京都市の景観規制は厳しい。
屋根の形、外壁の色、窓の大きさや格子のデザインまで制限があります。

でも僕は、それを**「京都の家らしさを整えるルール」**と考えています。

  • ガルバでなく“焼杉”を選ぶ
  • 樹脂サッシでなく“木製内窓”を組み込む
  • 南面に“格子”を通して、現代設備を隠す

こうした工夫を重ねることで、景観と安全性の両立は十分に可能なんです。

三つ巴の交差点で生まれる「呼吸する町家」

町家リノベの醍醐味は、景観・構造・美意識が矛盾しながらも、どこかで手を結ぶことにあります。

  • 金物を隠すように梁を巻く
  • 耐力壁を、意匠格子で包む
  • エアコンや蓄電池を“中庭”に配置し、外観を壊さない
  • 中庭に風を通し、気流で“熱と湿気”を逃がす

このように、見た目・強さ・空気感を同時に整えることが、
京都でしかできない“町家の再設計”だと僕は思っています。

第5章|住み継ぐために強くする|京都の家の“これから”に備える

僕が町家の耐震補強をすすめる理由は、
単に「安全だから」じゃありません。

この土地で、これからも家族が暮らし続けるために、必要な“準備”だからです。

地震はいつ来るか分からない。でも“来る”ことは確実

南海トラフ地震、活断層型地震、内陸直下型地震…。
京都は決して“安全地帯”ではありません。

でも、災害はどんな家にも起こる。
そこで問われるのは、「その家が、どこまで耐えられるか」。

重要なのは:

  • 構造的に倒れないか?
  • 逃げる時間が確保できるか?
  • 家族が安心して暮らし続けられるか?

僕たちが提供したいのは、「絶対に壊れない家」ではなく、
**「命を守り、暮らしを継続できる家」**なんです。

耐震リノベは「資産の価値」を守る行為でもある

町家や古民家を耐震化するということは、
“住みたい人にとっての価値”を高めるということ。

  • 家族に引き継げる
  • 賃貸やゲストハウスとして活用できる
  • 地域の資源として長く残せる

逆に、耐震性が担保されていない家は、
いくら意匠や素材が素晴らしくても「選ばれにくい不安物件」になってしまう。

つまり、**補強とは未来の選択肢を増やすための“投資”**でもあるんです。

強くすることは、「受け継ぐ」という行為そのもの

町家に限らず、家というのは手入れが必要です。
でもその中でも、**構造を整えるという行為は、“未来への意思表示”**に他なりません。

  • 自分たちがここに住みたいという気持ち
  • 子どもや次の世代に渡したいという希望
  • この町にこの家を残したいという祈り

そういった思いを、「補強」という形にして残すことができる
それが、耐震リノベーションの本当の価値なんだと、僕は信じています。

▶ 「壊さない耐震補強」で、町家を未来へ。

大切な構造や意匠を残しながら、安全に住み継ぐための設計が、京都には必要です。
景観と構造の狭間で悩んでいる方へ。まずは実例を見てみませんか?

耐震補強を施した施工事例を見る
町家の耐震リノベについて相談してみる
Kindle書籍『深呼吸したくなる家』を見る 

▶︎ noteはこちらから。