第1章|「エコハウス=快適でお得」は本当か?京都で立ち止まって考える
最近、リノベーションの相談でも「エコハウスっていいですよね?」という言葉を聞くことが増えました。
省エネ、断熱、太陽光、高気密…
どれも「なんとなく良さそう」に聞こえるし、実際にメリットもある。
でも僕は、京都という土地においては、
そのまま鵜呑みにしてしまうと、かえって後悔することもあると思っています。
エコハウスは“東京モデル”でつくられている
「エコハウス」という概念自体は、基本的に国の省エネ基準(HEAT20・ZEH・断熱等級7など)をベースにしています。
けれどこの基準、実はかなり東京・名古屋など中間地の気候をモデルに設計されているんです。
一方で京都は…
- 冬は底冷えするが、積雪は少ない
- 夏は蒸し暑く、熱がこもりやすい盆地地形
- 春秋は日較差が大きく、日中と朝晩で空気感がまるで違う
- 町家や狭小住宅の多くが風の通らない閉じた間取りになっている
つまり、京都の住宅環境にフィットするエコ設計は、独自の再編集が必要なんです。
“エコなはずなのに快適じゃない家”が生まれる理由
僕が実際に見てきた中にも、
- 高性能樹脂サッシを入れたのに、夏に熱がこもって地獄のよう
- UA値(外皮平均熱貫流率)は良好なのに、冬に足元が冷たい
- 太陽光を載せたが日照条件が悪く、売電単価も伸びない
- 換気のバランスが崩れ、かえって室内が乾燥・粉塵だらけ
というような**“数字は良いのに住み心地が悪い”エコハウス**が少なくない。
その原因は、
「断熱・気密・太陽光」を切り離して導入していること、そして空気の設計がなされていないことにあると僕は考えています。
キノスミカが考える「京都におけるエコハウスの再定義」
僕が目指しているのは、
スペックのための家ではなく、“深呼吸したくなる家”です。
そのためには、京都という土地に合わせてエコの文脈を読み替える必要がある。
- 断熱は“外皮の性能値”ではなく、“体感的な空気の厚み”で捉える
- 太陽光は“電気を生む”だけでなく、“熱と明るさ”もデザインする
- 気密は“数値”より、“風を制御できるか”が本質
- 設備ではなく“空気の抜け道と素材の呼吸”で省エネを実現する
それが、京都で本当に成立するエコハウス=暮らしに優しく、環境に調和した設計の第一歩なんです。
第2章|夏の蒸し暑さ、冬の底冷え。京都で“快適なエコ”をつくるには
「断熱性能が高ければ、夏も冬も快適に暮らせる」
そんなイメージを持たれている方も多いと思います。
でも京都のように四季のメリハリが極端で、特に夏と冬の質が特殊な地域では、
“快適”をつくるためには断熱以上の要素が必要なんです。
夏の京都は“熱ごもり”と“湿気だまり”の戦い
京都の夏は気温も湿度も高く、熱の抜け道がないと家の中はサウナ状態になります。
- 夜間でも熱がこもる
- 壁・天井からの輻射熱で寝苦しい
- 無風の湿気だまりで食材や家具も傷みやすい
このとき断熱だけを強化してしまうと、**“魔法瓶のように熱を閉じ込めてしまう”**結果になることも。
僕たちが実践している夏対策:
- 東西面の窓は極力小さく、遮熱設計に特化
- 通風が抜ける“高さのある抜け道”を設計(上下通風)
- 風の動線と給気・排気バランスを事前にシミュレーション
- 庇や格子で日射遮蔽しながら、窓は開けて風だけを通す
断熱は必要。でもそれ以上に、熱を「入れない・逃がす」設計との組み合わせが不可欠なんです。
冬の京都は“底冷え”との静かな戦い
京都の冬は、気温以上に「足元から冷える」のが特徴。
これは湿度を含んだ冷気が、床下に溜まり、上昇してこないためです。
- スリッパを履いても寒い
- エアコンをつけても足元は冷たい
- 結露によるカビ・カーテンの劣化
僕たちの冬対策:
- 床下は“閉じて断熱”、空気層で冷気遮断
- 高性能グラスウール+床合板の2層構造で蓄熱性を確保
- 壁断熱と気流止めで床下からの冷気侵入をカット
- 可能な範囲で基礎断熱+床断熱のハイブリッドも検討
単なる断熱性能だけでは、“底冷え”には太刀打ちできません。
冷気の滞留と気流の分布を設計することが、本当の快適性に直結します。
快適性とは「断熱の性能値」ではなく「空気の質」
僕たちが現場で大切にしているのは、
数値ではなく、空気の感触です。
- 暑さが“肌に貼りつかない”空気
- 冷たさが“床から立ち上がらない”構造
- 湿気が“動いて抜けていく”感覚
これらを実現するために必要なのは、
断熱材だけじゃない。窓だけじゃない。太陽光でもない。
「空気の動き」と「温度と湿度のバランス」を設計する視点こそが、京都で本当に快適な“エコ”なんです。
第3章|「省エネ=節約」ではない。京都で“コストを取り戻す家”の考え方
「エコハウスにすれば光熱費が下がりますよね?」
多くの人が、そう言います。
たしかに、省エネ住宅はランニングコストが安くなります。
でも僕はあえてこう言いたい。
**「それだけじゃ、もったいないですよ」**と。
“省エネ”は目的じゃなくて、「暮らしの循環を良くする手段」
光熱費が月3,000円安くなる。
それを10年続けて36万円。たしかに節約効果はあります。
でも、断熱・気密・換気・太陽光・調湿素材…
これらにかかる初期コストは数十万〜数百万円単位。
「元が取れるか?」の問いにだけ縛られると、本質を見失ってしまう。
「コストを回収する家」とは、“整っている家”
僕が考える「エコな家の価値」とは、
**ただ安くなることではなく、“整っているから結果的に回収できる家”**です。
- 無理なく暖冷房が効く→光熱費が自然に下がる
- 家具や建材が傷まない→修繕費が減る
- 結露やカビが出にくい→健康リスクが減り、医療費も減る
- 温度ムラがない→家族が集まりやすくなり、使っていない部屋が減る
それはすべて、「空気と熱が整っている」家でしか起こらないこと。
京都の“リノベにおける回収戦略”は4つの視点で考える
① 設備依存より、構造的に省エネに
→ エアコン1台でも快適な断熱構造を最優先
② メンテナンスコストを先読みして抑える
→ 換気設備・窓の選定で、将来の更新費を想定
③ 通年で使える熱と光の設計
→ 太陽光だけに依存せず、冬の蓄熱・夏の遮熱を組み合わせる
④ “住み続ける動機”をつくる
→ 快適性を高めれば「住み替えコスト」や空き家化リスクも減らせる
つまり、「お得になる家」ではなく、
“住み続けたくなる家”をつくることこそが、最も確実なコスト回収なんです。
「省エネ」の数字より、「暮らしの循環」を整える視点を
UA値、C値、年間電気代。
もちろんそれも大事です。
でも僕が一番大切にしているのは、「その家で呼吸する人の実感」です。
- 春に窓を開けたくなる
- 夏に足元が蒸れない
- 冬に朝起きても部屋が冷えきっていない
- 冷暖房が必要な日が減る
こうした実感が、数字以上に住む人の心と財布を軽くする。
それが、京都で「エコハウス」を考える意味だと思っています。
第4章|「冬は寒い、夏は暑い」その悩み、断熱性能だけで解決できますか?
「断熱性能を上げれば、冬も暖かくなりますよね?」
「高気密・高断熱の家なら、夏も快適に過ごせますか?」
京都でリノベーションを検討されるお客様から、よく聞く質問です。
答えは――「YESでもあり、NOでもある」。
なぜなら、断熱だけでは快適性はつくれないからです。
実は、快適性の“半分以上”は空気と湿度で決まる
断熱性能は、あくまで「熱の移動を抑える力」。
でも、住み心地は「温度」だけで決まりません。
- 湿気がこもって寝苦しい
- エアコンを切った途端に寒くなる
- 足元は冷たいまま、顔だけ暑い
- 空気がよどんで、気持ちが重い
こうした現象は、すべて空気の流れ・湿度の管理・気密バランスの問題。
断熱材を厚くしても、空気が動かず、湿度が整わなければ快適にならないのです。
快適さをつくる4つの設計視点
① 温度
→ 高性能グラスウールや複層サッシで、外気の影響を減らす
② 湿度
→ 調湿性のある素材(漆喰・無垢材・和紙)を使い、自然に湿気を吸放出
③ 空気の流れ
→ 機械換気+自然通風で、風の入り口と出口を設計
④ 気密
→ 気密シートやパッキンで、空気のコントロールを可能に
これらが総合的に設計されている家だけが、“本当に快適”と言えるんです。
京都の家は、風と湿気をどう設計するかが勝負
京都は、四季の空気感が極端に変わります。
- 夏は高温多湿→湿気を「抜く」設計
- 冬は底冷え乾燥→湿度を「保つ」設計
- 春秋は日較差→空気を「動かす」設計
つまり、断熱性能を高めるだけでは、“気持ちいい空気”はつくれない。
そこに、風と湿気と素材の設計が加わって、はじめて
「深呼吸したくなる」空間ができあがるのだと僕は考えています。
第5章|“深呼吸したくなる家”という京都型エコハウスの答え
これまでエコハウスといえば、
「性能が高い」「光熱費が安い」「環境にやさしい」
そんな“正しさ”のイメージが先行してきました。
でも僕たちが京都で家をつくるときに大切にしているのは、
もっとシンプルで、もっと感覚的な基準です。
それが――
「深呼吸したくなるかどうか」
“数値”ではなく、“身体が感じる空気”を整える
どれだけ断熱等級が高くても、
どれだけ太陽光でエネルギーが賄えても、
空気がよどんでいたら、そこに居たいとは思えない。
- 朝、自然に背筋が伸びて、大きく息が吸えるか
- 家に入ったとき、「あ、いいな」と感じられるか
- 湿気や冷えを気にせず、床に寝転がれるか
それらはどれも、“数値化できない快適さ”だけれど、
人の本能がちゃんと反応する感覚だと思うんです。
京都でしか生まれない“呼吸の設計”がある
京都は、難しい土地です。
湿気もあるし、底冷えもするし、町並みの制限もある。
でもだからこそ、空気の動き・素材の呼吸・光と風の関係を丁寧に設計することが、
何より重要になる。
- 床下の空気を止めず、循環させる
- 湿度を吸って吐く素材を選ぶ
- 冷気と温気が混ざり合う設計をする
- エネルギーだけでなく、“空気の質”で快適をつくる
それはつまり、
「エコハウスの数値」ではなく「京都に合った呼吸の家」をつくるということ。
僕がつくりたいのは、「正しい家」じゃなくて、「帰りたくなる家」
僕は建築士でありながら、
性能や制度だけで“正しい家”をつくることに、どこか違和感を感じてきました。
もっと感覚的で、もっと身体に近い。
そんな家こそ、これからの時代に必要とされると思っています。
だから僕はこう問い続けたい。
「この家で、深呼吸できますか?」
その問いに「はい」と答えられる家が、
京都における本当のエコハウスの答えだと、僕は信じています。
▶ 数字じゃない。身体で感じる「快適さ」を、京都で。
京都の家づくりは、断熱や性能だけじゃ足りない。
風が通り、湿気が動き、呼吸が整う空気設計を、一緒に考えてみませんか?