
リノベーションで新築並みの暖かさは本当に手に入るの?
中古住宅を購入し、「リノベーション」で理想の家をつくろうとするあなたが、胸に抱く最も根源的な不安は何でしょうか。
それは、「安く家が手に入っても、冬に寒かったり、結露でカビが生えたりしたら意味がない」という、暮らしの根幹に関わる不安です。
モデルハウスで体感した新築住宅の「ムラのない暖かさ」や「澄んだ空気」。あれは、古い家をリフォーム・リノベーションしても再現できるのでしょうか?
「厚み」では勝てないが、「精度」で勝利できる
僕たちは、この問いに対し、現実的かつ前向きな答えを持っています。
既存の構造の制約があるため、断熱材の「厚み」や「量」といった物理的な性能で、新築と完全に同じ完成度を目指すのは非常に難しい場合があります。
ですが、その限界を超えて「体感温度」と「建物の寿命」という暮らしの質を新築並みに引き上げることは、「気密性能の施工精度」を最優先することで十分に可能です。
この記事でわかること
この記事では、中古住宅のリノベーションを成功させたいあなたへ、新築の断熱設計との根本的な違いを解説します。特に、「断熱材を分厚く入れること」以上に「いかに隙間をなくすか」という、リノベーション特有の成功の鍵を徹底的に掘り下げます。
新築戸建てと中古住宅との断熱の「ゴール」は同じ、「スタートライン」が違う
新築もリノベーションも、「家族が健康で快適に暮らせること」というゴールは同じです。ですが、そのゴールに至るための「スタートライン」が根本的に異なります。
新築の断熱設計:壁の外側から理想を積み上げる
新築はゼロベースで設計できるため、断熱の3要素(断熱・気密・換気)を理想的なバランスで計画的に積み上げることができます。
- 断熱材の連続性: 壁、床、屋根を隙間なく分厚い断熱材で包み込むことが容易。
- 性能保証: 建築基準法の等級(例:HEAT20 G2、G3など)を目標に、Ua値(断熱性能)やC値(気密性能)といった数値を事前に計画し、確実に保証できる。
- 結論: 性能を追求する上で、構造的な妥協はほぼ必要ありません。
リフォームやリノベーションの制約:構造と制約が第一
リノベーションは、「既存の構造を活かす」という大前提があります。これが、新築ではありえない大きな壁となります。
- 断熱材の厚み制限: 既存の柱や梁の厚み(一般的に105mm程度)によって、入れられる断熱材の「厚み」が物理的に制限されます。
- 熱橋(ヒートブリッジ)の発生: 既存の柱や梁を交換せずに残す場合、その構造材が外部と内部を繋いでしまい、熱を伝え逃がしてしまう「熱橋」が発生しやすくなります。
- 見えないリスク: 壁の中に潜む、既存の断熱材の湿気による劣化やカビ、構造材の腐食といった見えない問題を同時に解決する必要があります。
この制約の中で「新築並みの快適性」を追求するためには、断熱材の量で勝負するのではなく、施工の「質」で勝負するという発想の転換が不可欠なのです。
リノベにおける「断熱性能」の現実的な2つの道

リノベーションでどこまで高性能を追求できるかは、「どこまで壁を壊し、お金と時間をかけるか」という費用対効果の選択にかかっています。
Aルート:内装側からの部分リフォーム(内断熱補強)
施工内容
内装材(石膏ボードや壁紙など)を剥がし、既存の柱と柱の間に断熱材を入れ直す方法です。最も一般的なリフォームの形式です。
性能限界と成功の鍵
このAルートを選ぶ場合、断熱材の厚みは柱の幅で止まるため、断熱材の量での追求は諦めざるを得ません。
- 性能の限界: Ua値(断熱性能)を新築並みに劇的に向上させるのは困難です。
- 成功の鍵: 断熱性能の追求は一旦諦め、「気密性能」の向上に全力を注ぐこと。断熱材を入れた後の防湿シートの隙間処理や気流止めの施工精度が、暖かさを決めます。(→第3章へ)
ルートB:外壁側からのフル改修(外張り断熱 or 外装側補強)
施工内容
既存の外壁材を全て取り壊し、断熱計画を行う。または外装側に高性能な断熱材を付加断熱として貼り付けるなど、大規模なリノベーションです。
この方法は、新築の考え方に最も近付きます。構造の制約を外側でカバーするため、「新築並み」の性能を最も実現できる現実的な道です。
- 断熱性能: 既存の柱の厚みに縛られず、高性能な断熱材を必要な厚みだけ外側に追加できます。
- 気密性能: 建物の外側全体で気密層(防水シートなど)を連続して構築できるため、新築並みのC値(気密性能)を達成しやすい。
- 結果: 費用と工期は最もかかりますが、体感温度、光熱費、建物の耐久性において、新築と遜色のない性能を手に入れることが可能です。
リノベの成否はC値で決まる!「薄い断熱材」を効かせる気密施工の真実
リノベーションにおいて、「厚み」で勝てないなら「精度」で勝つ。その「精度」の全てが、気密性能(C値)に集約されています。
C値が「体感温度」を劇的に変える理由
気密性能を示すC値(隙間相当面積)は、家全体の隙間の総面積を示す数値です。このC値が低いほど(隙間が少ないほど)、以下の効果が生まれます。※僕たちは新築では0.5を目指しながら3回各工程でテストを行います。
- 隙間風(ドラフト)の撲滅: 暖房で暖めた空気が隙間から漏れるのを防ぎ、同時に隙間風をゼロにする。体感温度は断熱材の厚み以上に向上する。
- コールドドラフトの抑制: 気密性が高まることで、隙間からの冷気の流入が断たれます。さらに、気密が保たれた上で窓の断熱性能を高めれば、窓面で空気が冷やされる現象(コールドドラフト)も抑制され、体感温度を劇的に改善します。
- 薄い断熱材の救世主: 暖房で暖めた空気が隙間から逃げるのを防ぎ、建物内に留まるため、断熱材の性能を100%引き出すことができます。
リノベーションの断熱工事で、気密施工に手を抜くことは、お金をドブに捨てるに等しい行為だと言っても過言ではありません。
リノベ最大の失敗:「壁内結露」とカビのリスク回避
気密は、住む人の快適さだけでなく、建物の寿命にも直結します。
気密層(防湿層)が不連続だと、室内で発生した湿気が壁の隙間を通って冷たい断熱材内部に入り込み、そこで水滴化する「壁内結露」が発生します。
これは、「断熱材を入れたのに、カビが生え、構造材が腐る」というリノベーション最大の失敗を招きます。
- 解決策: 湿気を建物内部に入れない「防湿シートの連続性」が命綱です。複雑な既存の柱や梁を避けながら、いかに隙間なく、テープで丁寧に処理していくかという、職人の意識と設計の計画性が問われます。
※Greener’s Houseでは断熱気密施工は大工施工にせず自社で必ず行います。
「息苦しい」という誤解を解消する「計画換気」
「高気密だと空気がこもって息苦しいのでは?」という不安は、実は大きな誤解です。
換気システムは、高い気密性能があって初めて設計通りに機能します。隙間風がなく、換気経路が確立されることで、汚れた空気や湿気を狙った場所から排出し、新鮮な空気をムラなく取り込むことができます。
「息苦しさ」や「部屋の空気が重い」という問題の真の原因は、気密不足による換気計画の破綻です。
- 詳細はこちらの関連記事へ → 高気密高断熱なのに息苦しい?|空気が重い家を変える換気の基本
まとめ:あなたのリノベーションのゴールを明確にする
リノベーションで新築並みの快適性を手に入れるために必要なのは、「何に妥協するか、何を追求するか」という、費用対効果の明確な選択です。
最終チェックリスト
| 追求する道 | 断熱性能(Ua値) | 気密性能(C値) | コスト・工期 | 推奨されるユーザー |
| ルートA(内装改修) | 中程度で妥協 | 徹底的に追求 | 低〜中 | 予算を抑えつつ、底冷えを解消したい方 |
| ルートB(外壁改修) | 新築並みを追求 | 新築並みを追求 | 高 | 構造の不安を解消し、最高の快適性を求める方 |
リノベーションは、ただ古い家を綺麗にする「リフォーム」ではありません。それは、性能を「一新」し、未来の快適な暮らしを設計し直す「リノベーション」です。
あなたの家づくりが、後悔のない、安心できるものになるように。まずは、あなたの家の構造と予算で、どこまでできるか診断させてください。
【リノベーションを成功に導く次のステップ】
- 体感温度を上げる具体的な方法: 中古住宅の底冷えに勝つための具体的な7つの対策 → 中古住宅リフォームで失敗するな!底冷えに勝つ「断熱・気密」7つの視点
- 施工の裏側を知る: 見積書の「断熱一式」に騙されないために → 「断熱工事 一式」は危険信号?高性能住宅で見積もりの“ブラックボックス”を徹底解剖
「施工対応エリア」
京都府:京都市、宇治市、城陽市、京田辺市、長岡京市、八幡市、精華町、宇治田原、亀岡市
滋賀県:草津市、大津市、近江八幡市
大阪府:枚方市、高槻市


