コンセプトって、ただ言いたいだけになってないか?
「コンセプト重視です」
「しっかりコンセプトを設計してます」
いま、空間設計や出店計画の現場で、この言葉は当たり前のように飛び交っています。
でも、聞き返したくなるんです。
「そのコンセプト、ちゃんと言語化されてますか?」
「誰に、何を、どの時間帯に届けたいかまで、具体的に掘り下げていますか?」
ほとんどの場合、答えはNOです。
「主婦層を狙ってます」──その言葉、何を示してる?
たとえば、こんな会話があります。
「うちは主婦層がターゲットです」
「だから、ナチュラルでぬくもりのある空間にしたくて…」
でも主婦層って、一言で括れるほど単純でしょうか?
• 平日の朝に来る人と、土日に家族連れで来る人は、まったく違う顔を持っている
• 「ぬくもり」と言っても、それは木材のことか?照明か?接客トーンか?
• モーニング需要なのか、ランチ回転か、夕方の“自分時間”か?
こうした深堀りのないまま語られるコンセプトは、
ただのイメージにすぎません。
具体性も戦略性もないまま、「とりあえずコンセプトがある風」に振る舞ってしまっているのです。
コンセプトは、曖昧にした瞬間に存在しないのと同じ
「いいものを提供したい」
「温かみのある空間にしたい」
「非日常を感じられる場所を」
こうしたフレーズも、耳ざわりはいいけれど、
その背景や選定理由、顧客像まで深掘りされていなければ、何の価値も生まない。
空間設計やブランディングの言語は、常に誰かに向けた“明確な意図”とセットでなければならない。
言葉が曖昧なら、空間もブレる
「朝も夜も使えるように」
「高そうに見せたいけど、実は安い」
「和風でも洋風でもない、中間を狙って」
こうして「どっちつかず」の設計が量産されていきます。
でも、顧客の記憶に残るのは、誰にでも合う店ではなく、自分のためにあるように感じた空間です。
コンセプトとは、選ぶことと同時に、選ばなかったものを捨てる勇気があるかどうかです。
それがないコンセプトは、ただの願望の寄せ集めとなってしまいます。
「コンセプト」という言葉が、深掘りを止めている
みんな「コンセプトが大事」とは言うけれど…
空間の設計でも、店舗の立ち上げでも、ブランド開発でも・・・。
どの現場でも「コンセプトが大事です」という言葉は、もはや常識のように語られています。
でも、本当に大事にされているでしょうか?
言い換えれば、「コンセプトがあるからこの色、この動線、この素材です」と言えるだけの選定理由が共有されているか?
多くの場合、それはありません。
言葉が先にあると、考えた気になってしまう
コンセプトという言葉を出した時点で、
思考が止まってしまうケースが非常に多いのです。
• コンセプトシートは作った
• ロゴはデザイナーに依頼した
• 世界観の参考資料もある
だから「整った気」になってしまう。
でも、その言葉やロゴの背景にあるはずの思想やターゲットへの理解、伝えたい感情は置き去りになっていることが少なくない。
つまり、言葉が表層の“手続き”になってしまった瞬間に、コンセプトは空洞化するんです。
SNS時代の「映えコンセプト」が、表面をなぞらせてしまった?
Instagram、Pinterest、TikTok──
どのプラットフォームでも「世界観」という言葉とセットで「映え」が消費されています。
• トレンドの内装
• 人気店の雰囲気
• ブランドっぽい配色
こうした要素をコラージュして、「うちもこんな感じで」というコンセプトが生まれてしまう。
でもそれは、他人の正解を借りただけで、自分の問いに答えていないんです。
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「コンセプト=雰囲気」という誤解
特に設計現場では、「雰囲気を大事にしたい」「空気感のある空間にしたい」という意図でコンセプトが語られることが多いのが現状です。
でも本来、コンセプトとは空気感の説明ではなく、その空気を選ぶ理由や背景まで含めた思想です。
コンセプトとは、単なる方向性ではなく、「なぜその選択をしたのか」に対するすべての答えなんだと僕たちは考えます。
言葉が曖昧なら、空間もブレる。接客も、SNSも、全部がズレる。
なぜ「ただのおしゃれ空間」になるのか?
空間の中に確かに設計意図はある。
素材もいい。照明もこだわっている。
けれど、印象が薄い・・・。
それは、空間に「芯」がないからです。
その芯がコンセプトなのに、曖昧なままだとどうなるでしょか?
• デザインは整っているのに、誰にも刺さらない
• 高そうな内装なのに、安さが売りというギャップ
• SNSの発信と店舗体験がつながっていない
すべてが、メッセージがダイレクトになっていないことから始まっているのです。
「選べないコンセプト」は、選ばれないブランドになる
何がメインか、どこを軸に据えるか、何を手放すか。
そういった選択”がないままのコンセプトは、設計も運営も全部盛りになっていきます。
• ターゲットが広すぎて誰にも刺さらない
• 回転率も雰囲気もどちらも追いたくて設計が散漫になる
• ファサードは和風、内装は洋風、BGMは無国籍
選べなかった結果、顧客の記憶にも残らない無個性な店ができてしまう。
運営側にも迷いが生まれる?
コンセプトが言語化されていないと、現場のスタッフは「どう振る舞えばいいのか」が曖昧になります。
• どんな接客トーンが正解か?
• SNSの投稿で、どういう写真を載せるべきか?
• メニュー開発で、何を基準に選ぶべきか?
こうした問いに答える「軸」がないまま、現場判断にゆだねられ、チーム全体がブレていく。
言葉になっていないブランドメッセージは、誰にも共有できません。
共有されないブランドメッセージは、空間にもサービスにも影響を及ぼしません。
だから、空洞のままのコンセプトは、すべての判断を迷わせ続けるんです。
コンセプトとは、「選びきること」から始まる
コンセプトとは、選ぶことであり、捨てること
まず大前提として、コンセプトとは選び取る行為です。
• 朝ごはんか、夜ごはんか?
• 一人客か、家族利用か?
• 安さが売りか、世界観が売りか?
• 「映え」なのか、「落ち着き」なのか?
これらに「どちらでもいいです」と答えた時点で、コンセプトは成立していません。
なぜなら、それは誰にも届かない中立のままの場所だからです。
「コンセプトらしい言葉」を疑うことから始める
多くの現場で語られる以下のような言葉があります。
• ぬくもり
• 自然体
• 地域とのつながり
• 心地よさ
• 非日常
これらは一見コンセプトっぽく見えるけれど、思考の中身がないまま使われていることが多いのです。
大切なのは、それを「なぜ、誰に、どうやって届けるのか」まで掘り下げることです。
本当に使えるコンセプトは、必ず言語化されている
実践すべき3つのステップ
1. 誰に届けたいのかを「時間帯」「感情」レベルまで言語化する
→「主婦層」ではなく、「平日10時、子育てに追われながらひと息つける瞬間」など
2. 届けたい価値をひとことで言うなら?
→「気取らない、でもちゃんと整った場所」
→「忙しい人のための、余白のある空間」
3. “それ以外”を潔く捨てる覚悟を持つ
→ 迷いのない選択こそが、ブランドの輪郭になる
コンセプトを考えるとは、世界を狭くすることではなく、あなたに届けたいという意思を、研ぎ澄ますことなんです。
コンセプトが通った空間は、言葉ではなく気配で伝わる
言葉が思想として宿った空間は、空気感そのものが違う
しっかりとしたコンセプトが設計に反映されていると、空間に「語りすぎていないのに伝わる何か」が生まれます。
• 看板が大声で説明しなくてもいい
• 内装がナチュラルでも安っぽくない
• 静かな店なのに、人が惹きつけられる理由がある
これは、空間が語るストーリーが明確に存在している証拠です。
人は言葉ではなく、整合性のある気配に反応しています。
コンセプトがあるから、顧客が「自分ごと」にできる
例えば、
「ここに来ると、時間がゆっくり流れる感じがする」
「この店の雰囲気って、あの人に教えたくなる」
そう思わせる店は、必ず誰かの感情を射抜くようにデザインされています。
そしてその起点が、コンセプトで選びきった届けたい体験の具体性にあるのです。
SNSや口コミで共感される世界として語られていく
しっかりと設計されたコンセプトは、SNSでこう広がります。
• 「ここ、○○な人にぴったりの場所だと思う」
• 「○○な気分のときに来たくなる店」
• 「この照明、インスタで見てずっと来たかった」
つまり、“自分にとって意味がある場所”として認識されている。
これは偶然ではなく、コンセプトが「人の時間や感情」と結びついている結果です。
コンセプトは、空間の設計図ではなく、人の記憶の中に残る起点です。
コンセプトを語る前に、自分に問うべき5つの問い
1. 誰の、どんな感情に応えたいのか?
「主婦層」「ビジネスマン」「インバウンド」──
そういう括り方ではなく、その人の1日のどこに寄り添うのかまで描いてみてください。
• 朝のひと息
• 午後のご褒美
• 夜、思考を整える場所
時間と感情をセットで想像すること。
そこにだけ、本物のコンセプトは強くなります。
2. なぜ自分は、この空間をつくりたいのか?
利便性、立地、流行──それだけじゃないはずです。
「この価値を届けたい」「こんな経験がほしかった」
自分の中にある原体験こそが、最強のブランド起点になります。
3. どんな写真で切り取られたいか?
SNSで紹介されるとき、Googleでレビューされるとき、
その空間はどんなワンシーンで語られてほしいか?
• 窓辺に光が射す一枚
• カウンター越しの笑顔
• ベンチに置かれたブランケット
そのひとコマをイメージすることが、空間の設計をブレさせません。
4. 何を選ばないと決められるか?
朝も夜も対応、全員に好かれる内装、和洋ミックス──
それでは誰の記憶にも残りません。
誰にとっての場所かを定めるために、誰のためではないかも決めてください。
選ばないという決断が、店に芯を与えます。
5. 「ここで過ごす時間が、どう語られるか?」
この店、この空間に訪れた人が、
誰かに紹介するとき、どんな言葉で語るでしょうか?
「ここ、ちょっといいんだよ」
「落ち着くっていうか、なんかわかってる感がある」
その言葉こそが、あなたのブランドの実体になります。
コンセプトは、言葉遊びじゃありません。
店から顧客へのメッセージであり、誰かの時間を有意義なものに変えます。
だからこそ今、「コンセプトがある」と言う前に、自分自身に問い直してください。
その問いの深さが、空間の強度を決めます。