「設計と同時にブランディング」は、たいてい失敗する
空間からつくる。でも、何かが決まらない。
「まずは内装をどうするか考えましょう」
「とりあえずファサード案を出してみますね」
そうして始まる店舗づくりのプロジェクトは、実際に多い。
特に京都・大阪といった都心部では、開業予定者も設計者もスピード感を求められるあまり、ブランディングが固まらないまま設計を走らせてしまうことが少なくないのです。
けれど、そのまま工事が進んでいくうちに、こうした声が出てくるようになります。
• 「これってうちの雰囲気とズレてませんか?」
• 「想像してた空気感とちょっと違うかも…」
• 「これってどこにでもある店っぽくないですか?」
それもそのはず。世界観が定まっていない状態で設計を進めてしまったのだから、想像しているブランドビジョン通りの空間にはなりません。
「設計してからブランド考えよう」は、順番が逆です
ブランディングとは、単に「ロゴ」や「コンセプト」をつくることではありません。
それは誰に、どんな空気を届けたいかを言語化し、設計や接客、SNS発信すべてに軸を通すこと。
だからこそ、それが定まらないまま設計を進めてしまうと、次のようなズレが生まれます。
• インバウンド狙いなのに日本的なものがない(体験価値が低い)
• 和風のファサードなのにメニューに一貫性がない
• SNSの投稿と空間の雰囲気がまるで違う
• 高級感の内装なのに価格帯が中途半端
このように、体験全体の整合性が取れなくなってしまうのです。
そして一度ズレた空間は、後からいくら整えようとしても、設計にひそんだ矛盾がボディブローのように効いてきます。
ブランディングは地盤であって、装飾ではない
「ファサードはおしゃれに」「店内は木のぬくもりで」
どんなに設計上で素敵な表現を並べたとしても、
それが誰のために、どんな価値を提供する空間なのかという問いに答えていない限り、すべては浮いてしまう。
設計は大切です。空間デザインも必要です。
でも、それらが本当に機能するのは、ブランディングという見えない設計が先に固まっている時だけです。
「設計しながらブランディング」なんてできるはずがないのです。
まず地盤をつくってから、設計を立ち上げる。
それが本当の意味で戦略的な店舗づくりとなります。
「設計が先」になる構造は、現場が急ぎすぎるから?
設計が進まないと不安。でも、進めるともっとズレる。
物件が決まり、契約が済み、開業日が決まり、家賃が発生する──。
都心の店舗計画において、とにかくスピードが求められるのは事実です。
「とりあえず設計から始めよう」
「早く形にしないと間に合わない」
「ファサードや平面図を先に見ないと安心できない」
「フリーレントの間に間に合わせないと・・・」
こうして、まだブランディングが固まりきっていない段階で、
設計図面が先行してしまうプロジェクトが非常に多いです。
でも実は、それが最大の落とし穴なんです。
形にしてから方向性を考えるというのは、
「見た目だけを先につくって、中身を後づけする」行為だから。
物語のない設計に、人は共感できない
人は、空間そのものに魅力を感じるのではなく、
その空間に宿る物語や思想に惹かれて店を選びます。
けれど、設計から先に始めてしまうと、
あとから「こんなイメージで」「このターゲットで」「こういう暮らしを提案して」と言っても、
それが空間に染み込んでこないんです。
• デザインは整ってるのに、何も感じない空間
• 一貫性がないBGM、香り、接客のトーン
• 投稿されたSNSと、実際の店が“別物”のように思える
これは、順番が逆だったから起きた不一致。
現場の多くは「ブランド不在のまま設計している」
実際、「とりあえず設計しておいて、あとで考えましょう」で進行しています。
• クライアントも不安だから、とにかく平面図がほしい
• 設計士も図面を描かないと報酬が動かない
• ロゴや写真、コンセプトは外注されて後づけで合流
このように、プロセス自体がブランドを生む設計になっていないのが問題なんです。
だからまず必要なのは、空間設計ではなく、「何を届けたいか」を共有する土壌をつくること。
設計はその土台に命を吹き込む工程でなければならない。
「出店戦略にブランディングがない」──この順番がすべてを狂わせる
出店は、ブランディングから逆算して決まるべき
本来、店舗出店のプロセスはこうあるべきです。
1. どんなブランドか(誰に/何を届けたいか)
2. その価値が届く立地・立場・導線はどこか
3. その上で空間や導線、価格設計を最適化する
でも現実は違う。
まず物件ありき。家賃も決まってる。設計の締切もある。
だからとりあえず設計に入って、ブランディングは後づけ。
それってつまり──
「誰に届けるかも決まっていないのに、空間だけ先に作る」ってこと。
それではただ当てものになってしまいます。
都市型と郊外型──集客戦略は真逆
たとえば、
「都心(京都・大阪)のインバウンド向け」なのか、「郊外の主婦層ランチ狙い」なのかで、戦略はまったく違ってきます。
• SNSで映える店舗設計が必要なのか
• 価格帯は客単価1000円台か、3000円超えか
• ターゲットが体験重視か、コスパ重視か
• 一人客か、家族利用か、女性グループか
これ全部、ブランディングで決めないと動かせない要素なんです。
なのに、店舗設計を先に始めてしまったら、どうなるか?
→ 「立地にも、ターゲットにも、価格にも、雰囲気にも合わない」空間が完成する。
「フリーレント中に仕上げよう」は、計画ではなく博打
実際の出店現場では、「2ヶ月フリーレントがあるのでその間に工事を終えましょう」という流れも多い。
でもそこで急いで決めた設計が、ブランド戦略とズレたものだったら、どうするでしょう?
完成後にSNSで発信しても、誰にも刺さらない。
オープンしても「思ったより客が来ない」
→ そこから広告・値下げ・リニューアル…で、ブレたブランドがさらに崩れていく。
「いや、そんなのは現場のスピードに合わない」って声もあります。
でも、だからこそ──最初の段階でブランディングを固めておく必要があるのが実際です。
店舗出店は、ブランディングがあってこそ意味を持つ。
設計だけで成立する空間なんて、どこにでもある。
でも、誰に向けて、何を届けるかが決まった空間は、唯一無二になると僕たちは考えています。
空間づくりは「ブランドの地盤」を整えてから
「設計前に決めるべきこと」が、現場には足りていない
多くの出店プロジェクトで見落とされているのは、
設計以前に「整えておくべき項目」が明確になっていないことです。
以下のような問いに、言語化された答えを持っていないままでは、設計はただの見た目の加工に過ぎません。
• 誰に届ける空間か?(ターゲット)
• どんな体験をしてほしいか?(価値)
• どんな言葉で語られるブランドか?(トーン)
• SNSではどんな印象で届いているか?(想起性)
これらを丁寧に整理することで初めて、「このブランドなら、この設計であるべきだ」という必然性が生まれます。
ブランディング → ストーリー → 空間設計 という流れを
実際に機能する空間づくりのプロセスは、こうあるべきです。
1. ブランドの核を定める(哲学・ターゲット・届けたい感情)
2. そのブランドの物語を描く(SNS・接客・口コミを含めたストーリー)
3. 体験としての空間を設計する(光・音・素材・ファサード・動線)
この流れを逆転させてしまうと、「誰のためか」が抜け落ち、結果として雰囲気だけが整った記号的空間が生まれます。
設計は、ブランドの余白を具体化する手段でしかない
設計は大切です。けれどそれは、主役ではありません。
主役は「誰に、どんな期待感を届けたいのか」というブランドの問い。
設計は、その期待感を視覚や導線、素材によって確信に変える手段であるべきなのです。
• 木材の選定も
• 壁の色味も
• 照明の温度も
• 看板の書体も
それらすべてが、「このブランドなら、こうあるべき」と感じさせる整合性の連鎖として機能してこそ、空間は心に残るものになります。
ブランディングから設計した店舗は、人を惹きつける
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空間が、ブランドの語り手になる?
ブランドがしっかりと定まったうえで設計された空間には、無駄な装飾がありません。
そこにあるのは、「なぜこの素材なのか」「なぜこの光の入り方なのか」といった理由と必然の集合体です。
• ロゴと同じトーンの照明
• SNSで見た窓辺のスツール
• 誰かが投稿した観葉植物の揺らぎ
• 看板に記された言葉と、空間に流れるリズム
そのすべてが、あのブランドらしさをまとっている。
来店した人は無意識のうちに、「ここは、そういう空間だった」と心に刻んで帰っていきます。
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狙い撃ちされた顧客が、自分から語り始める
ブランド設計がなされていれば、そこにやってくるのは偶然の通りすがりではなく、確信をもった来訪者です。
そして彼らは、SNSで写真を撮り、Googleマップにレビューを書き、
Instagramのストーリーで「ここ、ずっと来たかった」と言ってくれる。
それは設計の力ではなく、語りたくなるブランドを感じさせた結果です。
つまり、「おしゃれですね」と言われる空間ではなく、
「○○らしいよね」「この空気が好き」とブランドとして語られる空間に変わるのです。
ファサードも、内装も、すべてが一貫性のメディアになる
ブランドが先にあることで、設計された空間そのものが、広告でも、発信ツールでも、共感の入口にもなります。
• 看板がメッセージになる
• 床材が物語の余韻をつくる
• 写真が“語れる空気”としてSNSを回遊する
ここに至った空間は、もうただの「お店」ではありません。
体験される世界観として、顧客の心に残り、再訪の理由になります。
ブランディングから設計を導いた空間は、無理に惹きつけなくても、人が寄ってくる。
それは信じられる空間として、記憶の中で静かに生き続けるからです。
設計の前に、ブランドを言葉にしてください。
まず、空間に込めたい感情”を言語化することから
設計図を書く前に、見積もりを取る前に、工務店に相談する前に、あなたのブランドは、誰に、どんな感情を届ける存在なのか?
まずそれを、誰かに説明できるくらいまで言語化してください。
• 安心感?
• 憧れ?
• 日常への贈り物?
• それとも、非日常のトリップ?
その一言が空間のあらゆる要素を導き、ファサードから内装まで、一貫性を生む原点になります。
店舗設計から始めないという決意が、成功への第一歩
「今すぐ内装を決めないと間に合わない」
「とりあえず形を見せないと不安になる」
そんな焦りを手放し、立ち止まって言葉を整えることが、実は最速のブランディングです。
• あなたのブランド名に込めた意味
• ターゲットの暮らしへの理解
• SNSで伝えたい“らしさ”のトーン
• 写真に映る世界観の解像度
こうした“見えない要素”が整っていれば、設計は驚くほどスムーズに、深く、心に残る空間になります。
設計者・依頼者・施工者が、すべて同じ物語を共有しているか?
ブランディングとは、空間に世界観の共通言語を持たせる行為です。
その物語が共有されていれば、設計者は素材を選びやすく、
施工者もディテールの意味を理解し、発信者も“らしい写真”を撮れる。
逆に言えば、物語が欠落したまま空間をつくることは、全員が迷子になるプロジェクトです。
あなたの店舗が世界観を伝えるメディアになるために
「ブランディングなんて後でいい」
そう思っていた人こそ、一度立ち止まって考えてみてください。
設計を前に出すのではなく、
ブランドを先に言語化し、それを建築的に翻訳する。
それだけで、空間の伝わり方、顧客の反応、SNSの拡がり方──
すべてが“ブレない軸”を持つようになります。
設計を始める前に、ブランドを明確に
空間は、あなたの想いが伝わるための“器”です。
ブランドがあるから、空間は意味を持ち、ブランドがあるから、誰かの心に届く。
設計からではなく、ブランディングから始めることが、
今、都心で生き残る唯一の戦略です。