なぜ床下が湿気るのか?
|“地面と空気と断熱材”がつくる見えない湿潤空間
見えない場所だからこそ、見落とされている
普段の生活では意識しない「床下」。
でもその空間は、家の中でもっとも湿気がこもりやすい場所です。
「押し入れの布団がなんとなくカビ臭い」
「床がひんやりしている気がする」
「床下収納を開けたら、空気がもわっとしていた」
そんな“サイン”が出ているなら、床下が湿っている可能性が高い。
なぜ、床下に湿気がたまりやすいのか?
理由は、いくつかあります:
① 地面から水蒸気が上がってくる
- 土の中には常に水分が含まれていて、
それが水蒸気となって空気中にじわじわ上がってくる - コンクリートの基礎があっても、床下全体を完全に密閉できるわけではない
📝 注釈:昔の家は床下=“土間そのまま”が一般的でした。
近年では防湿のために土間コンクリートを打設するのが標準的ですが、
京都のようにコンクリートの単価が高い地域では、
リフォーム時にコスト面から未施工のまま進むケースもあります。
この場合は、湿気が上がるリスクが高いため慎重な判断が必要です。
② 空気が動かない
- 床下は外の風が通りにくく、よどみやすい空間
- 通気口が少なかったり、配管や基礎の構造で風の流れが遮られていると、
湿気が“逃げ場を失う”
③ 断熱材が湿気を抱え込んでいる
- グラスウールなどの断熱材は湿気を吸う素材
- いったん含んでしまうと乾きにくく、
→ カビの発生源になったり
→ 重みで垂れ下がって断熱性能が落ちたりする
新しい家より、“中途半端なリノベ”の方が危険かもしれない
最近よく見かけるのが、
断熱や気密を「一部だけ」強化した中古住宅。
でも──
断熱材を入れたことで、かえって床下の空気が動かなくなり、
湿気が逃げられなくなっているケースも少なくありません。
「断熱してあるから大丈夫」ではなく、
「湿気が抜ける道筋があるか?」を見なければいけない。
断熱材の入れ方ひとつで、床下はカビる|“入れただけ”では機能しない、グラスウールと湿気の話
断熱してあるのに寒い? それ、断熱材が効いてないかもしれません
「床下に断熱材を入れました」
──それだけで安心するのは、ちょっと危険かもしれません。
実際の現場ではこんなことが起きています:
- グラスウールが湿気を吸って重くなり、垂れ下がっている
- そのせいで、床材との間に隙間ができ、冷気が入り放題
- 吸った湿気が抜けずに、カビの原因になっている
つまり、「断熱材を入れること」と「断熱できていること」は、
まったく別の話なんです。
湿気を含んだ断熱材は、“冷やす布団”になってしまう
特にグラスウールは、湿気を含みやすい素材。
本来は、乾いた状態で空気を閉じ込めることで断熱性を発揮します。
でも、湿気を含んだ瞬間──
空気は逃げ、繊維の間に水分が入り、断熱性能が激減します。
📝 補足:現在は“耐水処理済み”のグラスウール製品も流通しています。
表面に撥水加工がされていたり、吸水しにくい構造になっているものもあり、
適切に施工されれば湿気に強い性能を持つ製品も増えています。
ただし、施工環境や通気設計が伴わなければ性能を活かせないため、
製品の選定だけでなく、空気と湿気の“逃げ道”を一体で考える必要があります。
こんな施工、見覚えありませんか?
- 根太の間に断熱材をふわっと乗せただけ
- 施工時の養生が甘くて、雨水や結露で湿っている
- 経年で垂れ下がり、束の上にベターッと落ちている
一見、断熱してあるようでも、
湿気を抱え込んだ断熱材は、カビの巣にも、冷えの原因にもなり得るんです。
「断熱してあるのに、床が冷たい」は典型的なサイン
その家は、
✔ 断熱材が正しい位置にない
✔ 湿気の逃げ場がない
✔ そもそも、床下の空気が動いていない
そんな状態かもしれません。
僕たちが現場で重視するのは、**断熱材の厚みや種類だけでなく、
「乾いているか」「密着しているか」「空気が動くか」**なんです。
床下が“湿気の袋小路”になる理由
|通気・気密・防湿が“つながっていない”家に起きること
湿気がたまる理由は「逃げ道がないから」
湿気は入ってくるものです。
でも、それが外へ抜ける仕組みがなければ、その場にとどまり、濃くなっていく。
まるで、袋の底に水が溜まっていくように──
床下でも同じことが起きます。
よくある「抜けない構造」の例
① 通気口があっても、空気が“流れない”
- 通気口の配置が悪く、風が通らない位置にある
- 室内の間仕切りや配管が邪魔して、床下が“袋小路”状態になっている
- 隅に空気がよどみ、そこだけ湿度が高くなる
② 気密と防湿が“途中で切れている”
- 気密シートや防湿フィルムが、部材の継ぎ目で途切れている
- 貫通部(配管・束・ボルト)まわりの処理が甘く、湿気が侵入
- 結果、床下に入った湿気が逃げられない構造に
③ 外周部の断熱だけ強化し、床下は放置
- 外壁まわりは断熱・気密がしっかりしていても、床下だけ“無防備”
- 外からの冷気や湿気が、床下で溜まり、家全体にじわじわ影響を与える
一言でいうと、
「通気・気密・断熱のラインがつながっていない家は、湿気の逃げ場がない」
湿気は“気流と一緒に動く”
これは僕が現場でよく口にする言葉です。
湿気そのものには足がない。
でも、空気の流れに乗って、どこまでも移動していく。
だからこそ、床下の空気が流れていない家では、
湿気はそこにとどまり、素材を腐らせていく。
「床下の空気が動く家」がつくる快適さ
|通気・断熱・防湿の“つながり”を設計する
空気が流れている家は、においも湿気も溜まらない
床下に入ったとき、ひんやりしてるけど“さらっとしてる”感じがする。
そんな家は、ほぼ間違いなく空気がよく動いています。
逆に、空気がこもっている家は──
- カビのにおいがこもる
- 湿気が素材に染みつく
- 冷えが床からじわじわ上がってくる
そんな“住み心地の質”に影響を与えます。
僕たちが重視する「床下の通気と断熱の設計原則」
✅ 床下は“通す空間”として設計する
- 空気がスムーズに入って、出ていくルートをつくる
- 通気口+防鼠網+排気口など、“風の流れ”を明確に
- 土間コンクリート仕様でも、排湿ルートがなければ意味がない
✅ 通気と断熱を「連続させる」
- 外壁の断熱層→床の断熱→床下通気ラインまでつながっていること
- 断熱が“点”で終わると、そこに結露が起きやすくなる
- 気密シートや防湿処理も、“切れ目がないこと”が条件
✅ 自然換気と機械換気を“補完関係”で考える
- 地域や家の形状によって、自然通気だけでは足りない場合もある
- その場合は、床下換気ファンやダクトで強制排気を組み合わせる
- とくに京都のように湿度の高い地域では、通年通気のプランニングが前提
快適な床下は、“音がしない、空気が澄んだ場所”
現場に入ると、はっきりとわかることがあります。
湿気が多い床下は「どんよりしていて、空気が動いてない」
逆に、空気が流れている家は、「音がなくて、すっとした空気がある」
それは、素材が呼吸している証拠でもあります。
まとめ|空気と湿気を設計することが、断熱の性能を決める
|“断熱材の性能”ではなく、“設計思想”が家の寿命を左右する
「断熱材は入れたのに寒い」──よくあるその原因は?
断熱材の性能だけを信じて、床下にただ詰め込む。
でも、湿気を逃す設計や、空気を流す工夫がなければ、断熱は機能しません。
- 湿った断熱材は、冷えを止めるどころか「冷やす布団」になる
- 通気がなければ、湿気がこもり、素材はカビて腐っていく
- 結果、におい・冷え・健康リスクにじわじわつながる
断熱は「物」じゃない。空気と湿気をどう流すかという“考え方”の設計です。
僕たちが守りたい、断熱・気密・通気の「3原則」
これは僕がリノベーションで必ずチェックしている要素です:
✅ 断熱:乾いていて、密着しているか
- 素材の性能を最大限に活かすには、「乾いた状態」で「密着して」いること
- 浮いている・たるんでいる・濡れている──それだけで断熱は効かなくなる
✅ 気密:切れていないか
- 配管・束・貫通部のすべてが丁寧に処理されているか
- 特に、**床と壁・床と束の“接点”**は、最も気密が切れやすい場所
✅ 通気:空気が動いているか
- 通気口があっても、流れが生まれていなければ意味がない
- 風が通るルート・湿気が抜ける方向を設計図に“描いてあるか”が重要
断熱材を入れる前に、「空気と湿気の動線」を描いているか?
僕が床下の設計で最も大切にしている問いがあります:
「この空間は、空気がどこから入って、どこへ抜けていくのか?」
「湿気が入ったとき、それを逃がせる構造になっているか?」
それがない設計では、どんな高性能な断熱材を入れても、数年で劣化が始まる。
断熱性能は、“空気と湿気のインフラ”で決まる
住まい手には、こう伝えたいと思っています:
- 断熱材は“材料”にすぎない
- 家を快適にするのは、その素材が「ちゃんと働ける環境」
- つまり、見えない空気の流れと、湿気の逃げ道こそが断熱の土台
「断熱したはずなのに、なぜか寒い」
それは、断熱材のせいじゃなく、空気と湿気の“設計が抜けている”だけかもしれません。
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