自然素材”なのにカビる家|素材は“空気の質”に左右される
「自然素材にしたのに、なんでカビるの?」
無垢の床、漆喰の壁、珪藻土の天井──
自然素材をふんだんに使った家にしたはずなのに、どこか湿っぽい。
「なんかカビ臭い気がする」「布団や衣類にもにおいがつく」
そんな相談を、僕たちは本当によく受けます。
素材が悪いんじゃない。空気が崩れている。
自然素材は、確かに湿気を吸ってくれる“調湿性”を持っています。
でも、それは空気の流れとバランスが保たれていることが前提。
湿気を“吸う”ことはできても、“逃がす”力は素材にはありません。
素材が湿気を吸い続け、やがて飽和し、カビが生える。
その原因は、「素材そのもの」ではなく──
その素材が置かれた“空気の環境”にあるんです。
漆喰も、無垢材も、“湿気の逃げ道”がなければ飽和する
たとえば──
- 漆喰の壁が、北側の窓のない部屋に施工されていたら?
- 無垢の床材が、脱衣室やトイレなどの湿気の多い空間に使われていたら?
- 和紙クロスの内側に、通気層が設けられていなかったら?
どれも、素材は「湿気を溜めるだけ」になってしまい、やがて劣化していきます。
素材が悪いのではない。“素材の居場所”が合っていないだけ
僕たちが設計で考えるのは、
「この素材が“呼吸できる空間”になっているか?」
- 湿気の入り口と出口は設計されているか?
- 通気層や気密ラインが素材の裏側に連続しているか?
- その部屋に“空気の動線”が通っているか?
素材を活かすためには、素材の居場所を設計することが必要なんです。
次章では、なぜ“自然素材”でもカビが出るのか?
そのメカニズムと、空気の設計原則から原因を深掘りしていきます。
自然素材がカビる“3つのパターン”
|素材を腐らせる“空気の罠”とは?
「自然素材=カビない」は思い込みかもしれない
漆喰や無垢材は、“調湿性があるから安心”と思われがちです。
でも実際には、自然素材の家こそ、カビやすいパターンもあるんです。
その原因は、素材そのものではなく、
素材のまわりの空気の設計が破綻していること。
パターン①|“動かない空気”の中に素材を閉じ込める
- 北側の収納・納戸・トイレなど、通気がない空間
- 押し入れの中、天井裏など、空気が動かず湿気が溜まる場所
- 調湿素材を使っていても、逃げ道がないと吸いっぱなしでカビる
素材は呼吸できなければ、自らの吸湿性で“飽和”していく。
パターン②|“結露の起きる構造”に密着させる
- 無垢材を外壁直下の内装に使用
- 和紙や漆喰の仕上げ材の裏に断熱・気密ラインが破綻している
- 結露水を抱え込むグラスウールと素材が密着して施工されている
空気が逃げない構造では、素材は「カビを呼ぶ器」になってしまう。
パターン③|“湿度の高い場所”に選ばれた素材
- 洗面所やトイレなど、日常的に湿気が多い空間に無垢材
- 換気設計の甘い浴室脱衣室に、和紙クロスや珪藻土
- 床下換気が弱い1階に無垢フローリング
湿気を“調整する”力はあっても、“逃がす”仕組みがなければ素材は傷む。
カビた素材は、設計ミスの結果である
僕はいつもこう思っています。
素材が劣化するのは、その素材の居場所が間違っているからだ。
つまり、「設計上の空気設計と排湿設計」が素材の寿命を決めているということ。
次章では、自然素材が“呼吸できる空間”にするための設計視点を紹介していきます。
素材が“呼吸できる”空間とは?
|設計で変わる自然素材の寿命と性能
素材の性能は「空気との相性」で決まる
自然素材は“呼吸する素材”とも呼ばれます。
でも、それはあくまで**「呼吸できる環境があるとき」だけの話**。
空気がよどみ、湿気が逃げず、断熱が破綻していれば──
どんな良質な素材でも、黙って傷み続けるだけ。
✅“呼吸できる空間”をつくる3つの設計視点
① 空気が動く導線を設ける
- 空気が「出入り」できるように、吸気と排気のセット設計
- 特に北側や収納など“止まりがちな空間”には、意図的に空気の抜け道を
- 漆喰や和紙などの“吸う素材”には、必ず“出せる経路”を組み合わせる
呼吸する素材には、吸って吐ける空気の道筋が必要です。
② 素材の裏側を“断熱と気密”で守る
- 無垢材や珪藻土が冷たい構造体に直に触れていないかを確認
- 壁体内に気密+断熱+通気層の3点セットがあるか
- 結露が起きない構造に素材を“浮かせて”設置する感覚で
結露リスクを断つことで、素材が長く呼吸できる空間に変わる。
③ 湿気がこもるゾーンに素材を置かない
- 洗面所・脱衣室・トイレなどには、無垢材を避ける or 保護処理を
- 換気が不十分な空間では、あえてビニールクロスなどの非吸湿材も選択肢に
- **「素材ありき」ではなく、「空間に合う素材」**を選ぶことが肝心
素材を活かすのは“選定の自由”ではなく、“配置の戦略”。
次章では、実際に僕たちが行っている**「空気と素材の相性を見極めた施工」**を
具体的な事例とともに紹介していきます。
「自然素材を選んだのに、不快」だった人へ
|素材の力は、“空気の器”が整ってこそ
素材にこだわったのに、なぜかうまくいかない
「無垢材にしたのに、なんかベタつく」
「漆喰の壁なのに、ほのかにカビ臭い」
「和紙の壁紙、浮いてきた…?」
そんなふうに、素材に期待して選んだはずなのに、思ったような快適さが得られない。
それは、素材が悪いのではなく──素材が“置かれた空気”に原因があるのかもしれません。
素材は、空気に“反応する”
自然素材には、調湿性があります。
空気中の湿度が高ければ湿気を吸い、乾燥すれば水分を戻す──
だから快適な空間をつくれる。…そう信じていた。
でも現実には、こういうことが起こります:
- 湿気を吸い続けて飽和し、カビの温床になる
- 裏側が結露して剥離や変色が起きる
- 湿気が抜けない構造でにおいが素材に染みつく
つまり、どれも空気の流れが断たれている場所で起こっている。
調湿素材は、“抜ける空気”がなければ機能しない
僕たちはよく、「調湿性のある素材なら安心ですか?」と聞かれます。
そのとき、僕はこう答えます。
「素材は湿気を吸う。でも、“自力で排湿はできない”んです」
素材は空気に応えてくれる存在ですが、空気の質そのものは設計でしか整えられない。
空気が滞留しない構造、通気と排湿の道筋があってはじめて、素材の力が活きてくる。
素材の居場所は「感覚」と「設計」で決まる
僕たちが素材を選ぶとき、まず考えるのは
「この素材が、ここで快適に呼吸できるか?」
- 天井に杉板を張るなら、必ず小屋裏換気を設ける
- 和紙クロスを貼るなら、裏側に断熱+通気層を仕込む
- 押し入れに漆喰を使うなら、吸排気を設けて空気を循環させる
こうした“小さな配慮の積み重ね”が、素材の寿命と快適性を支えます。
「素材を活かす設計」とは、“空気の器”を整えること
リノベーションで自然素材を選ぶというのは、
素材に対して敬意を持つということだと僕は思います。
だったら、その素材がちゃんと働けるように、
空気の器を整えてあげること。
それが、僕たちの仕事です。
空気”が整えば、素材は裏切らない
|自然素材リノベの前提条件としての空気設計
自然素材に裏切られたわけじゃない
「いいと思って選んだのに、うまくいかない」
「自然素材はやっぱりメンテが大変なのかな…」
そんなふうに、素材を選んだこと自体を後悔してしまう人がいる。
でも僕は、そうじゃないと思っています。
素材は、ちゃんと働こうとしていた。
ただその素材にとっての「空気の居場所」が整っていなかっただけなんです。
空気と湿気は“設計のインフラ”
断熱・気密・通気・換気。
それらは、素材の上にのせる“装備”ではなく、
素材が機能するための土台=インフラです。
- 湿気が抜けるルートがあるか
- 結露が起きるような壁の構成になっていないか
- 気密ラインと通気層が連動しているか
- 換気の流れが、生活の空気の動きと矛盾していないか
こうした“目に見えない設計”が整っていてはじめて、素材は力を発揮します。
「素材が好き」だからこそ、空気を先に整える
自然素材は、“空気に反応する素材”です。
だからこそ、空気が整っていない家では、その反応が悪い方向に出てしまう。
カビやにおい、浮きや変色──
それは素材が「今、うまく呼吸できていません」と教えてくれているサイン。
素材に惹かれた人は、きっとその優しさややわらかさを大切にしたかったはず。
だからこそ、「まず空気を整える」という考え方を、僕は伝えたいんです。
素材の魅力は、空気に守られてこそ。
そして空気は、設計によって整えられる。
このスポークでは、**自然素材が活きるための「空気設計」**を軸にお話してきました。
リノベーションを考えるとき、「どんな素材を選ぶか」と同じくらい──
「その素材が呼吸できる環境か?」を一緒に考えてみてほしい。
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