見えない湿気が家を壊す|空気と暮らしの質の関係
「なんだか空気が重い」──その違和感の正体は?
家のにおいがこもる。
朝起きると、のどがイガイガする。
床に座ると、ひんやりとして落ち着かない。
そうした“なんとなくの不快感”の正体は、湿気と空気の停滞かもしれません。
住まいの中に湿気が滞ると、それは少しずつ「空気の質」を下げ、\n私たちの体にも影響を与えていきます。
にもかかわらず、住宅の設計で“空気と湿気”は見落とされがちです。
湿気が家を壊す「静かな進行」
湿気は目に見えない場所で、静かに家をむしばんでいきます。
- 壁の中で、断熱材が湿気を含み垂れ下がる
- 天井裏で、結露が木材を腐らせる
- 床下で、空気が動かずカビ臭がこもる
こうした問題は、決して古い家だけの話ではありません。
むしろ、中途半端な断熱・気密施工をした新築やリフォーム住宅のほうが深刻なケースもあります。
快適さ=「素材」ではなく「空気と湿気」の整い
自然素材を使っても、空気がよどんでいれば不快感は拭えません。
逆に、素材が普通でも、空気が軽く流れる家は、驚くほど快適に感じるものです。
「なんとなく心地いい家」には、必ず理由があります。
それは、“空気と湿気が自然に循環していること”。
空気は「見えないインフラ」
断熱材を入れる。気密テープを貼る。換気口をつける。
それらはすべて、「空気をどう流すか」という設計思想の上にあるべきもの。
でも、空気の流れを想定せずにパーツだけ入れても、
その家の呼吸は止まったままです。
次章では、そうした「空気の質」を静かに壊していくカビという侵入者について深掘りしていきます。
カビは“空気の質”を壊す静かな侵入者
見えないカビのほうが、はるかに怖い
「カビが生えたから、掃除しよう」
そう思う人は多いですが、本当に怖いのは“見えない場所”のカビです。
- 壁の裏に、びっしりと黒くなった石膏ボード
- 小屋裏で、湿気を吸った合板がしっとりと変色
- 床下で、垂れ下がったグラスウールがカビ臭を放つ
これらはただの“見た目の劣化”ではありません。
空気中にカビの胞子が常時放出されているという、「目に見えない健康リスク」なのです。
内部結露がカビを呼ぶ|その発生メカニズム
家の中でカビが繁殖しやすいのは、「内部結露」が起きている場所。
以下の3つの条件がそろうと、壁や床の中で水分が発生し、カビの温床になります。
- 室内の湿気が壁内に入り込む
→ 気密処理の甘さや、コンセント周りの隙間などが原因 - 外気との温度差で断熱層が冷やされる
→ 露点温度を下回り、水滴が発生 - 湿気の逃げ道がなく、滞留する
→ 通気層がない、あるいは断熱材が密閉状態で施工されている
におい・咳・カビ臭──空気の異変は、家からのサイン
内部結露が進行しても、壁を触っても湿っていないかもしれません。
でも空気はこう教えてくれます:
- 「土っぽいにおい」がする
- 朝、のどがイガイガする
- サッシまわりに常に水分がついている
- クローゼットの布製品にカビ臭が移る
これは、空気中にカビの胞子が混じり始めているサインです。
「素材が腐る」より前に、「空気が崩れている」
カビが生えたとき、僕たち設計側は素材を見る前に、こう考えます:
「空気はどこで止まっている?」
「湿気は、どこに逃げられなかった?」
つまり、カビは気流設計と気密精度の失敗で生じる。
空気が整っていない家に、素材は耐えられません。
結露が起きる構造には、決まったパターンがある
「カビた家」には、共通する設計のミスがある
何百件と現場を見てきて、僕が確信していることがあります。
カビが生える家には、必ず“起こるべくして起こる”原因がある。
それは偶然ではなく、「空気と湿気の流れが断たれた構造」ゆえのもの。
そしてそれには、ある“決まったパターン”が存在します。
よくある「カビが出る構造」3パターン
① 天井裏:断熱材がむき出し、気密ラインが切れている
- 気密シートが天井で止まっていて、壁との取り合いが甘い
- ダクトの周囲が断熱されておらず、冷却されて結露
- 結果:天井裏で断熱材が濡れ、カビの温床に
② 水まわり:ユニットバス背面や洗面所の壁裏
- 湿気がこもるうえ、気密が不十分で壁内に湿気が侵入
- 防水シートの施工ミスがあると、外壁からの水分も加わる
- 結果:石膏ボードや断熱材が見えないところで腐朽する
③ 北側収納・押し入れ・階段下
- 外気で冷やされやすい+空気が動かない
- 内装が合板やビニールクロスの場合、湿気が滞留しやすい
- 結果:布団や衣類にカビ臭が移り、生活レベルで不快感が出る
原因は「線がつながっていない」こと
断熱・気密・通気は、面ではなく“線”でつながって初めて意味を持ちます。
気密ラインが途中で切れていたり、
通気層が断熱材と連動していなかったりすれば、
どれだけ素材や性能を誇っていても、家は呼吸できません。
カビは、設計の“見逃された綻び”を教えてくれる
断熱材がカビていた──
それは単に湿気がこもったからではなく、
- 気密が破綻していた
- 通気がふさがれていた
- 湿気が逃げるルートがなかった
という「構造的な欠陥のサイン」です。
次章では、そうした構造の中に置かれる素材そのものに目を向け、
自然素材が湿気にどう影響されるかを解説していきます。
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素材は湿気に耐えられない|自然素材と空気の関係
「自然素材だから安心」…本当にそうですか?
漆喰、和紙、無垢材、珪藻土──
これらの自然素材は、“調湿性”や“呼吸する素材”として好まれます。
でも、それが空気と湿気の流れが整っていない空間に置かれたら?
素材は湿気を抱え込んだまま飽和し、
カビたり、変色したり、あるいは性能を失っていきます。
調湿素材は「吸っても、逃がせない」
自然素材は、湿気を調整する“力”は持っています。
でも湿気を「排出する力」は持っていない。
だから、素材だけで湿気を制御するのは不可能なんです。
「空気が流れ、湿気が抜ける構造」があってこそ、素材は活きる。
僕が気をつけている“素材の居場所設計”
自然素材を使う前に、僕が必ず設計で確認することがあります:
- その壁面の裏側に通気層があるか?
- その天井裏に換気経路が通っているか?
- その押し入れの中に湿気が溜まらない工夫があるか?
素材は、そこに空気が流れてはじめて「呼吸できる」のです。
使用場所によっては、自然素材もリスクになる
◎ 向いている場所(通気が確保される空間)
- 杉の無垢床(1階リビングなど)
- 漆喰壁(南側の風通しの良い部屋)
- 和紙壁紙(書斎や子供部屋など湿度変化が少ない場所)
△ 注意が必要な場所
- 脱衣室やトイレの無垢材(湿気+水濡れリスク)
- 北側の閉鎖空間での漆喰(結露によるカビ)
- 壁内断熱との“密着施工”で素材が腐るケース
素材に語らせる前に、空気を整える
素材の性能を語る前に、その素材が健康に機能できる空間かどうかを考える。
僕たちはそれを「素材の居場所を設計する」と呼んでいます。
次章では、目に見えない場所「床下」に注目し、
空気と湿気が“どこから来て、どこで滞っているのか”を掘り下げていきます。
床下の空気がよどむ家は、冷える・におう・カビる
「断熱したはずなのに、床が冷たい」──その理由は?
断熱材を入れた。気密もある程度確保した。
それなのに床が冷たい。冬になると足元から冷える。
そして、なんとなくカビ臭い──
その原因の多くは、床下の湿気と空気のよどみにあります。
床下に湿気がこもると、何が起きる?
- グラスウールが水分を含んで垂れ下がる
- 木部がしっとりと濡れ、カビや腐朽が始まる
- そのにおいが、床から室内へと立ち上がってくる
床下は、空気の出入りが少なく、
しかも見えにくい・乾きにくい・気づかれにくい空間。
だからこそ、もっとも「被害が進行しやすい場所」でもあるのです。
一昔前の家は、かえって“抜けていた”
昔の家は床下が「土」のままで、風が通り抜ける構造でした。
そのため内部結露は起きていても、空気が通り抜けていたためカビ被害は最小限で済んでいました。
しかし、近年の家や中途半端なリフォームでは、
- 土間コンクリートを打ったものの気密が甘い
- グラスウールが湿気を吸ってしまう
- 排湿経路が不明確
という状態が多く、**湿気が入ったら抜けない“閉じた床下”**になっています。
※ 京都では土間コンクリート施工のコストが高く、
床下リフォームの際は予算と構造の両面での検討が必要です。
「今のグラスウールは耐水性がある」…それでも過信は禁物
最近は耐水処理された断熱材も出てきています。
ですが、それは“濡れても劣化しにくい”だけで、湿気を排出する力はありません。
つまり、湿気が入らない設計、もしくは入っても抜ける構造を同時に考える必要があります。
僕がやっている床下湿気対策の基本原則
- 防湿シート+土間コンクリートをできる限りセットで
- 換気口の配置は風の抜けを意識する
- 断熱材は空気を通さない材料とのハイブリッド設計
- 外気との遮断ライン(気密)が途切れないように
床下は、“空気の始まり”であり、“素材が耐えられるかどうか”の最前線です。
まとめ|空気と湿気を制す者が、素材を活かす
素材は“貼っただけ”では働かない
漆喰、無垢材、和紙、珪藻土。
そういった自然素材を使えば、なんとなく「快適な家になる」と思われがちです。
でも実際は──
空気と湿気の設計ができていなければ、素材は機能しない。
- 漆喰が常に湿気を吸い、飽和してカビる
- 無垢材が床下からの湿気を吸って反り返る
- 和紙壁紙が結露で変色する
これはすべて、素材の問題ではなく、素材が置かれた環境の問題です。
空気と湿気は、設計の“インフラ”である
断熱・気密・換気・通気──
これらはすべて「素材を活かすための土台」です。
僕がいつも自問するのは、こういう視点です:
- 湿気が抜けるルートはあるか
- 通気層と断熱ラインが連動しているか
- 気密ラインに破綻はないか
- 換気経路が生活動線と重なっていないか
- 給気が冷気の侵入になっていないか
見えない部分こそ、素材の性能と寿命を決定づける。
設計の失敗は、空気に現れる
カビや結露は、単なる施工不良ではありません。
それは「空気の設計が破綻している」という、設計上の警告です。
素材が悪いのではない。
空気と湿気の環境を整えずに、素材だけを信じた設計が間違っていた。
だから、素材に敬意を払うなら──
自然素材を活かすというのは、
“美しい仕上げをする”という意味ではなく、
その素材が長く、健康に機能し続けられる環境を整えること。
空気と湿気と素材を一体で考え、
見えない場所にこそ、丁寧に設計の目を向ける。
それが、僕たちがめざす「本当に心地よく、長持ちする住まい」です。
🟡 このハブ記事で扱った主なスポーク:
- カビと空気の質|壁内結露の実態
- 通気・断熱・気密の3重設計|湿気を逃がす構造とは
- カビる家の共通点|設計と施工の“見逃しゾーン”
- 自然素材と湿気の相性|使い方を間違えないために
- 床下の湿気・断熱・におい対策
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