「この家、大きな地震が来たらどうなるんだろう……」
ふとしたときに、頭をよぎる不安。
——この家、大丈夫かな?って。
築年数が古い町家に暮らしていると、
地震のニュースを見るたびに、そんな想いが胸をかすめる方は多いと思います。
「壁が薄いように感じる」
「柱が細い気がする」
「耐震診断って、どうやってやるの?」
「壊したくないけど、本当に安全なのかな」
町家の持つ“味わい”や“趣”に惹かれて住み始めたけれど、
「もしもの時にどうなるのか?」という不安だけは、なかなか拭えないまま。
実際に、町家の耐震性についてちゃんとした情報って、あまり多くないんです。
“壊して建て替えたほうが安全”という声もある一方で、
“伝統工法は柔構造だから地震に強い”という話もあって、結局なにを信じたらいいか分からない。
僕自身も、町家の設計や補強に関わるなかで、
「壊さずに活かすこと」と「命を守ること」、
そのバランスの難しさに何度も向き合ってきました。
だからこそ、この記事では
“古い=弱い”ではないという前提から、構造的な事実と補強の可能性を整理していきます。
あなたの町家にとっての“最適な答え”を、一緒に探すために。
第2章:なぜ町家は「耐震性が不安」と思われるのか?
京町家は、その美しさや歴史的価値とは裏腹に、
「地震に弱そう」という印象をもたれがちです。
実際、そう感じるのにはいくつかの“構造的背景”があります。
■ ① 耐震基準がなかった時代の建築
多くの町家は昭和56年以前(=新耐震基準以前)に建てられており、
当時の建築では「耐震性能そのもの」が法的に求められていませんでした。
つまり、**“地震に耐えることを前提に設計されていない建物”**も多いのです。
■ ② 壁量の不足と、開口部の多さ
町家は、格子や障子、ふすまなどを使い、開放的で風が抜ける構造。
その反面、耐震的に重要な“耐力壁”が少ないという傾向があります。
また、通りに面した大開口や、奥行きのある間取りも、
横揺れへの抵抗が弱くなる原因です。
■ ③ 基礎が“無筋”であること
多くの町家では、現代のような鉄筋コンクリート基礎ではなく、
玉石基礎や布基礎など、無筋・浅い基礎構造が主流です。
これは地面との緊結性が低く、大きな揺れで建物が浮いたり、ズレたりするリスクが高まります。
■ ④ 部材の劣化や蟻害
町家が築50年を超えると、
- 柱脚の腐食
- 土台の白蟻被害
- 接合部の緩み
など、建物自体の“健全性”が損なわれていることが多いです。
これらは見た目では分かりづらいため、余計に「不安」を助長します。
■ ⑤ 構造の“見えなさ”と情報不足
最後に大きいのは、
「そもそもどうやって調べたらいいか分からない」
「診断って高そう/難しそう」
という、情報の不足や心理的ハードルです。
でも、ここで知っておいてほしいのは——
「古いから弱い」わけじゃない。
むしろ、“補強の可能性がある構造”だということ。
次の章では、町家の構造に潜む強みと弱みの本質を、
建築士として、そして耐震診断士・インスペクターとしての視点から、
できるだけ平易にお伝えしていきます。
第3章:「木造軸組」と「伝統構法」の本当の実力
「町家は古くて弱い」——そう決めつける前に、
ぜひ知っておいてほしいことがあります。
町家の多くが採用している“木造軸組工法”や“伝統構法”には、現代建築にない強みがあるのです。
■ 木が“揺れをいなす”という発想
町家の柱や梁に使われているのは、無垢の木材。
この木材には、揺れに対して“しなる”ことで力を逃がす性質があります。
特に、時間を経て乾燥・安定した木は粘りがあり、
瞬間的な衝撃に対しても、一気に壊れずに耐える力を発揮します。
■ 接合部が“壊れても粘る”構造
伝統構法では、釘を使わずに木組みで部材を組み合わせるのが一般的。
この仕口・継手による接合は、
- 少しずつ“ズレ”ながら力を逃がす
- 一部が壊れても、全体で倒れにくい
という**「全壊しにくい構造」**として、再評価されています。
■ 壁がなくても“骨組みで耐える”発想
現代建築は「耐力壁で固める」設計が主流ですが、
伝統構法は、柱と梁の“フレーム”自体で地震力を受け止める設計です。
これは一見すると“弱そう”に見えますが、
繰り返しの地震に対しては、柔構造の方が生き残るケースも多いという研究もあります。
■ ただし、「今の暮らし」には限界もある
もちろん、昔の構造のままでは
- 部材が痩せていたり
- 接合部が緩んでいたり
- 壁量が不足していたり
といった**“経年劣化”と“現代基準とのギャップ”**があります。
ここを補ってこそ、町家は本当の意味で「安心して住める家」になるのです。
🪵【僕の立場からの補足】
僕自身、これまで釘を使わない伝統工法や社寺建築にも実際に携わってきました。
そして、**製材所の経営経験を活かし、木材の選定・流通・性質まで把握できる“木のプロフェッショナル”**として、
木組みの力学や合理性を、現場の中でずっと追い続けてきた自負があります。
町家を単なる古い家としてではなく、
“生きている木の建築”としてどう捉えるか。
それが、補強を考えるうえでの出発点になると、僕は信じています。
■ インスペクションから「見える化」する
耐震診断士・住宅インスペクターとして断言します。
町家の耐震性は、現状を“見える化”することで初めて正しく評価できる。
- 壁量のバランス
- 接合部の状態
- 基礎の健全性
- 重心と剛心のズレ
これらをデータで捉えることが、補強の第一歩です。
第4章:「壊さずに補強する」という選択肢
耐震補強というと、
「壁を壊して柱を入れ替えるのかな?」
「住みながらなんて無理では?」
そう思ってしまう方も少なくありません。
けれど実際は、町家の構造を“活かしながら補強する”方法が、今はたくさんあるんです。
■ ① 壁を増やさずに“面”をつくる
今ある壁を壊さずに、構造用合板を使って“面材補強”をする方法があります。
これは、既存の意匠を保ったまま、建物の耐力を高めることができます。
■ ② 見えないところに“金物”を仕込む
柱と梁の接合部に、現代的な耐震金物を内部から仕込む補強方法も有効です。
見た目はそのままで、地震時のズレや抜けを防ぐことができます。
■ ③ 基礎を補強する
基礎が無筋の場合でも、
- 布基礎にベースプレートを追加する
- アンカーボルトで土台と緊結する
といった部分的な基礎補強で、地震時の横滑りを大きく減らすことが可能です。
■ ④ 柱脚・土台の差し替え補強
白蟻や腐朽があった場合でも、
“全体の建て替え”ではなく、傷んだ部分だけを選んで補修・差し替えする方法があります。
伝統工法に慣れた大工なら、既存の木組みと自然に馴染む施工が可能です。
■ ⑤ 暮らしと一緒に“少しずつ”補強していく
すべてを一気にやる必要はありません。
- 水回りの改修に合わせて
- 一部屋ごとの間取り変更に合わせて
暮らしに沿って、少しずつ補強していくというスタイルも、今では主流になっています。
そして何より大切なのは、
**「直す=壊す」ではなく、「補う=活かす」**という視点を持つこと。
京町家は、壊すより“育てていく”ほうがずっと価値がある。
そのための“適切な補強の選択肢”は、必ずあります。
次章(第5章)では、
この町家とどう付き合っていくか——
「共創」や「希望」の視点から、暮らしとの向き合い方を丁寧に描いていきます。
第5章:壊さずに、暮らしを“育てていく”という選択
町家の補強って、「耐震性のために何かを“犠牲にする”こと」だと思われがちです。
でも、本当はその逆かもしれません。
手を入れていくことによって、むしろ暮らしが“豊かになる”——
それが、町家の持つ不思議な魅力でもあると僕は思っています。
■ 補強は“暮らし直し”のきっかけになる
例えば、構造のバランスを取るために壁を補強する。
そのついでに、光の入り方を変えてみたり、
収納を増やして動線を見直したり。
「安全性」を整える作業が、「暮らし方」そのものを見直すきっかけになるんです。
住まいが“防災”だけでなく、“快適性”も育ててくれる。
そんな補強の在り方が、町家では本当に可能なんです。
■ プロと一緒に“かたちにする”ことができる
大切なのは、「全部自分で分かる必要はない」ということ。
あなたが今思っている不安や希望を、
そのまま言葉にしてくれたら、
僕のようなプロが、その声を“かたち”にしていきます。
僕は、木の特性を活かす構造計画や、
壊さずに補強する技術、
そして町家の魅力を損なわない意匠設計に、ずっと関わってきました。
あなたの町家が、
これからの10年・20年を“育っていく家”になるように——
そのパートナーでありたいと思っています。
■ まずは“小さな一歩”からでいい
耐震診断を受けてみる。
どこが弱っているかだけでも見てみる。
まずはそこからでも、十分すぎるほどの第一歩です。
不安を見える化して、希望に変えるプロセス。
そこから、町家との新しい関係がはじまります。
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