中古リノベ

町家をホテルにするという選択|“深呼吸できる空間体験”を旅人へ

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第1章:「町家をホテルにする」という不安と関心に寄り添う

「町家をホテルにするって、なんだか文化を壊してしまうような気がする」
「見た目だけ町家風で、中はまるで普通のビジネスホテルじゃないか」
「空き家になった実家、壊すには惜しいけど、活かす方法がない…」

そんな声を、僕はたくさん聞いてきました。

確かに、京町家は簡単には活かせない建物です。
細長い“うなぎの寝床”の構造、冬の底冷え、夏の湿気。
そして現代の生活様式には合わない導線や断熱性。

けれどその一方で、
「町家に泊まったとき、なんだか心が落ち着いた」
「木の匂いと空気感が忘れられない」
そんな感動を口にする旅行者も、決して少なくありません。

町家という空間には、たしかに人の心を動かす“なにか”がある。

それを壊さずに、
むしろ設計の力で、
“深呼吸したくなる空間”として再生できたとしたら?

町家ホテルは、ただの事業ではなく、
町家という文化を未来へと手渡す「方法」になり得る。

そう信じて、僕はこのテーマに向き合っています。

次章では、「なぜ町家のホテル化が失敗しやすいのか?」という構造的な問題を明らかにしていきます。

第2章:なぜ“町家ホテル”は失敗しやすいのか?

空き家活用の文脈で、京町家を宿泊施設に転用する事例は増えています。
けれど、その多くは**「町家風ホテル」になってしまっている。
——つまり、
“見た目だけ町家”の空間**です。

■ 安易な内装リノベが文化を“剥がして”しまう

  • 土壁をベニヤで隠す
  • 天井を落としてエアコンを増設
  • 空気の通り道を断つような間仕切り
  • 防火・法規対応の名目で無垢材がビニルクロスに変わる

こうした対応は、確かに“管理しやすさ”や“コスト削減”の観点では正しいのかもしれません。
でも、それは「町家を活かす」設計ではなく、「町家を形式にする」設計です。

■ 「泊まり心地が悪い」ではなく、「空気感が壊れている」

実際、レビューにはこんな声もあります。

「町家の宿に泊まったけど、なんか普通の宿と変わらなかった」
「エアコンの音がうるさくて眠れなかった」
「湿気がこもってて、夜中に目が覚めた」

これらは単なる“快適性の問題”ではありません。
町家本来の「空気の循環」や「温度のグラデーション」が消えてしまっていることによる、
“身体的違和感”なんです。

つまり、失敗の根源はこうです。

「町家の構造と空気感を無視して、商業化だけを優先した」

次章では、この問題をどう設計思想で乗り越えるか、
“深呼吸できる空間”をつくるために必要な構造的条件をお伝えします

第3章:「深呼吸できる空間」をつくるための5つの設計要素

「深呼吸したくなる町家ホテル」をつくるには、
単に断熱材を入れたり、気密を高めたりするだけでは不十分です。

“身体で感じる快適さ”は、5つの要素のバランス設計によって生まれます。

✅ 1. 断熱

町家の断熱は「冷気を遮断すること」だけが目的ではありません。
・土間や中庭からの底冷えをどう防ぐか
・漆喰や土壁が持つ蓄熱性をどう活かすか

現代の断熱材と**伝統素材の“いいとこ取り”**が求められます。

✅ 2. 気密

気密性が低いと、せっかく断熱しても空気が抜けてしまいます。
でも、町家の構造では**「全体を密閉する」のではなく、「必要な場所だけを気密化する」**という考え方が必要です。

→ たとえば、寝室や浴室などのゾーニングごとの気密対応。

✅ 3. 換気

町家は本来、風が通るように設計された家。
けれど、間取りの変更やサッシの改修で**“風の道”が断たれている**ことが多い。

→ 現代の換気設備を活かしつつ、「風の動線」を読み直して設計する必要があります。

✅ 4. 動線設計

「通り土間」「うなぎの寝床」「部屋を通り抜ける構造」
——これらは町家ならではの動線ですが、現代人にとっては**“ストレス”になる動線**でもある。

→ **「人の流れ」=「空気の流れ」**として再設計すれば、
プライバシー性と町家の風情を両立できます。

✅ 5. 素材

町家の魅力の大半は、「木」「土」「紙」がつくる呼吸する素材感です。
→ 無垢材・調湿壁・珪藻土・漆喰・紙障子……
素材は単なる装飾ではなく、“空気の質”をつくる道具

この5つが、ただの「町家風ホテル」と、
“深呼吸できる町家宿”との違いです。

次章では、具体的にどのようにこれらを組み合わせて空間を設計していくのか。
設計アプローチを紹介します。

第4章:「町家の呼吸を体験に変える」設計アプローチ

では実際に、どのようにすれば町家を
“深呼吸したくなる宿”に設計し直すことができるのでしょうか?

ここでは僕が実際に手がけてきた、
町家改修・自然素材設計・断熱施工の経験をもとに、具体的なアプローチをご紹介します。

✅ 1. 「断熱」と「耐震」をセットで再構築する

町家を宿にする際、**構造の安全性(耐震)と快適性(断熱)**は切っても切れない関係です。

  • 柱や梁の補強位置と、断熱材の配置が干渉しないように
  • 無理に金物を入れて、補助金のためだけの設計をしない
  • 構造を活かしたまま、**“余白の中で断熱を重ねる”**という思想

→ 「壊してつくる」ではなく、**“読み解いて足す”**ことが大切。

✅ 2. 「土間・中庭・縁側」を“空気の起点”に再設計する

昔の町家には必ず“空気の入口と出口”がありました。
それが 土間中庭(坪庭)、そして 縁側 です。

→ この空間を潰してしまうと、“息苦しい町家”になります。

  • 土間には換気システム+床断熱
  • 中庭には風が抜けるルート光の跳ね返り
  • 縁側には内外の温度緩衝帯としての役割

→ これらを「残して設計する」ことで、感動の空気感が戻る。

✅ 3. 見せ場をつくる:「素材」と「余白」の演出

宿泊者は、“ほんものの素材”に触れることで呼吸が深くなる

  • 無垢材の床
  • 漆喰の壁
  • 煙返しと火袋(昔の台所空間)
  • 障子越しのやわらかい光

→ これらは、豪華な照明や最新設備より、
**旅人の五感に強く残る“設計体験”**になる。

そして何より大切なのは、

**「住まいの思想を旅の体験に翻訳する」**という視点。

町家ホテルは、文化遺産でも観光資源でもない。
暮らしの空気感そのものを伝える“装置”なんです。

次章では、この記事全体を締めくくる希望パートとして、
町家の未来に対するビジョンと読者への提案をお伝えします。

第5章:町家の“未来”を宿にするという提案

町家を壊すか、残すか。
その問いの先に、「誰かが住むか」「空き家として朽ちるか」という選択肢しかなかった時代は終わりました。

いま、もうひとつの選択肢が生まれています。

“町家を、深呼吸できる宿に変える”という選択。

それは単なる収益化ではありません。
町家の呼吸・素材・構造美を次世代に伝える手段です。

旅人にとっても、ただ寝泊まりするだけではなく、
「町家に泊まることで、こんなにも空気が違うのか」
「この木の感触、壁の呼吸、どこか懐かしくて落ち着く」
——そんな“感動”に触れてもらう時間になります。

僕が設計する町家は、
**「ただ泊まる場所」ではなく「空気に出会う場所」**でありたいと思っています。

✅ 町家の再生は、文化の再起動でもある

  • 暮らしの知恵が詰まった間取り
  • 四季の変化と呼応する断熱設計
  • 自然素材とともに生きるという思想

これらを手渡す場所として、
“町家宿”は大きな可能性を持っている。

「深呼吸したくなる空間」は、
暮らす人だけでなく、旅人の人生の一部にもなれる。

町家に宿泊するという体験が、
誰かの中に新しい“住まいの価値観”を芽生えさせるかもしれません。

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