第1章：京町家に、こんな“寒さの不安”ありませんか？
「京町家って、冬は寒いって聞きますけど…」
「移住して住みたいけど、底冷えが心配で」
「古民家って断熱が効かないんですよね？」
そんな声を、何度も耳にしてきました。
実際、京町家は断熱性の面では、現代の住宅に比べてかなり不利な構造をしています。
例えば、こんな経験はありませんか？
- 暖房をつけても、足元だけが冷えたまま
- 朝起きたら、洗面室が冷蔵庫みたいに寒い
- 玄関から冷気が入り込んで、居間までひんやり
- 隙間風が顔に当たって、夜中に目が覚める
こうした寒さは、住む人の体調だけでなく、暮らしの質そのものに影響を及ぼします。
- 子どもが風邪を引きやすくなる
- 年配の家族がヒートショックに不安を抱える
- 家の中で厚着をし続けるストレス
- 結露やカビが発生してしまう環境的問題
でも、“京町家＝寒い”はもう当たり前じゃなくていい。
断熱性を高めながら、暮らしやすい住まいに変えていくことは、ちゃんと可能です。
次章では、なぜ京町家がこれほどまでに寒くなるのか、
**構造や素材の視点から“寒さの正体”**を見ていきましょう。
第2章：なぜ京町家は“ここまで寒い”のか？
「京町家って、なんでこんなに寒いの？」
——その理由は、単なる築年数の問題ではなく、“構造と暮らし方”にあります。
■ ① 土間空間の多用
京町家には、**通り土間（通りどま）**と呼ばれる土の床が多く残されています。
玄関から奥の台所まで土間が貫いており、床が断熱されていない状態がほとんどです。
土間の下は直に地面。
つまり、冬の冷気がそのまま室内に立ち上がってくる構造です。
■ ② “うなぎの寝床”構造と空気の流れ
京町家は、間口が狭く、奥に細長い「うなぎの寝床」のような間取りが特徴。
この形状は空気の対流が起こりやすく、暖めた空気が奥まで届かないという問題を引き起こします。
また、風通しの良さ＝冷気も抜けていくというジレンマも。
■ ③ 開口部（窓・建具）が寒さを通す
- 単板ガラスの木製建具
- 隙間のある障子やふすま
- 引き戸のすきま風
こうした開口部まわりの断熱欠損も、町家の寒さの大きな原因。
「閉めていても冷たい空気が入ってくる」と感じたことのある方も多いのではないでしょうか。
■ ④ 壁・天井・床に断熱材が入っていない
多くの京町家では、土壁や板壁の中に断熱材が入っていません。
- 天井裏は吹き抜けのまま
- 床下は無断熱（もしくは空気層のみ）
- 壁内も中空または土壁のみ
つまり、建物全体が“外気と同じ温度”に引っ張られる構造になっているのです。
このように、京町家の“寒さ”は単なる古さではなく、構造そのものに根差した課題です。
では、こんな構造を持つ町家を、どうやって“快適に”再生していけばいいのか？
次章では、断熱と耐震の設計思想を含めた「構造的な改善」の視点から解説していきます。
第3章：「耐震性を上げるなら、断熱性も上げよう」
京町家を再生するうえで、
「耐震補強だけでいいんじゃないか？」
と考える人も多いかもしれません。
でも僕は、断熱と耐震は“セットで考えるべき”だと思っています。
■ なぜセットで考えるのか？
理由はシンプルです。
● 耐震改修には、“壁を触る”タイミングがある。
● 断熱改修も、“壁の中にアクセスする”必要がある。
つまり、「今、耐震補強で壁を壊すなら、断熱も入れてしまえばいい」ということ。
わざわざ別のタイミングで工事を分けるより、コストも手間もぐっと抑えられるんです。
■ “壊さずに補う”設計が鍵
現代の技術では、
- 面材補強で耐震性を高める
- 断熱パネルやシートを内側から設置する
といった方法で、町家の意匠を壊さずに機能性を追加することができます。
■ 動線の再設計とセットにするともっと快適に
さらに、断熱と耐震を整えるなら、
暮らしの動線も見直すチャンスです。
- 通りドマの冷気を遮る位置に建具を追加
- 水回りを“暖かいゾーン”に集約
- 寝室の断熱を強化してヒートショックを防止
「安全」と「快適」は、設計の工夫ひとつで一緒に手に入るんです。
ここまで読んで、「じゃあ実際にどうすればいいの？」と感じた方もいるかもしれません。
次章では、町家の断熱性をどう上げるか？ どんな方法があるのか？
具体的な対策と事例を、分かりやすくご紹介していきます。
第4章：町家の“寒さ”は、こうして変えられる
「町家は寒くて当たり前」——そんな常識は、もう過去のものにしていい。
断熱性は“構造を尊重しながら”向上させることが可能です。
ここでは、僕が現場で実践してきた対策を、要点に絞って紹介していきます。
■ ① 内側からの断熱改修（内断熱）
京町家では、**既存の外壁を壊さずに内側から断熱材を入れる“内断熱”**が基本になります。
- 床下にスタイロフォームや羊毛系断熱材を充填
- 壁に断熱ボードを施工し、その上から仕上げ材
- 天井裏に吹込み式断熱材を追加（小屋裏空間に余裕がある場合）
→ 通気層と調湿性能を両立させながら、町家に合った断熱性を実現。
■ ② 建具の工夫で「冷気の通り道」を断つ
うなぎの寝床構造では、冷気が一直線に抜けていく間取りが問題です。
これを断ち切るには：
- 中間の建具で空間を区切る（縦格子＋アクリルなども有効）
- 断熱カーテンや障子の二重化
- 玄関・勝手口に風除室や内戸を追加
→ 「冷気の動線」を断ち切ることで、体感温度は大きく変わります。
■ ③ 木製の二重サッシを活かす
アルミではなく、木製の内窓＋Low-Eガラスの組み合わせが町家に美しく馴染みます。
見た目を損なわず、結露対策と遮音性・断熱性を同時に実現。
■ ④ 土間の“冷え”を逆手に取る
通り土間が寒いからといって、全てを塞いでしまうのではなく：
- 床暖房付きの石畳スペースとして活かす
- 中庭や勝手口と連携した「光の導線」に変える
→ 土間の寒さを「動線と温熱設計」でリデザインする。
■ ⑤ 断熱だけじゃない、“暮らし全体の再設計”を
- 暖かい場所に寝室を移動
- 光が入る部屋にダイニングを配置
- 水回りに集中断熱対策を行う
→ 暮らしの中で「快適ゾーン」を増やしていくのが本質です。
断熱性は、**快適な町家暮らしの“入口”**にすぎません。
それを通して、あなたの生活そのものが「新しくなる」。
それが僕が考える、町家再生の本当の価値です。
第5章：町家を壊さず、未来へつなぐために
「町家って寒いし、古いし、大変そう」
そう感じるのは、ごく自然なことかもしれません。
でも僕は、こう思っています。
**「町家は“壊す”ものじゃなく、“つなぐ”ものだ」**と。
■ 歴史と素材を生かして、快適に暮らす
釘を使わずに建てられた伝統構法。
調湿性に優れた土壁や無垢の木材。
町家は、**100年を超えてもなお「呼吸している建築」**です。
そこに、現代の技術で断熱と耐震を加える。
ただ“寒くない家”にするのではなく、
「安心して、心地よく住み継げる家」に変えていく。
■ 改修は「家を直すこと」ではなく、「暮らしを設計し直すこと」
- 生活動線の見直し
- 快適なゾーニング
- 家族構成に合った空間の再構成
断熱や耐震は、単なる設備ではありません。
**「暮らしの質を上げるための再設計」**なのです。
■ 京町家に、もう一度“住む理由”をつくる
- 地元に戻って親の家を再生する人
- 京都に移住して町家暮らしを始めたい人
- 空き家を活用して多世代で住み継ぐ家にしたい人
そんな未来の住まい手たちにとって、
「寒いからやめた」ではなく、
**「手を入れれば、ちゃんと快適に暮らせる」**という希望を届けたい。
僕もまた、京町家の再生に携わる一人の建築士として、
そして木材のプロとして、
この町家という文化を、次の世代へと手渡していきたい。
その一歩を、あなたと一緒に踏み出せたら嬉しいです。
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