第1章|“動かない空気”が、住まいを重たくする
「なんかこの家、空気が重い」
これは、お施主さんの言葉です。
温度でも湿度でもなく、“なんとなく感じる空気の重たさ”。
これって、実はかなり多くのリノベ済み住宅に起きている現象なんです。
「換気はしてるはず」なのに、なぜ空気がよどむのか?
今の家って、法律で「24時間換気」が義務付けられてるじゃないですか。
だから「換気口あるし大丈夫でしょ」って思いがちなんですけど、
“設備がある”ことと、“換気が機能している”ことは別物なんですよね。
- 給気口の前に家具が置かれて空気が入らない
- 排気ファンがホコリで詰まって動いていない
- 室内が負圧になって、逆流現象が起きている
こういうことが、現場ではけっこう普通に起きています。
京都の家で換気が“効かない理由”はたくさんある
京都の町家や狭小住宅って、構造的にこんな傾向があります:
- 開口部が少ない
- 細長い形状で、空気が巡りにくい
- 換気経路を確保しづらい
さらに、気密が不十分だと、空気が想定どおりに流れてくれない。
つまり、「計画換気」が破綻してるケースがすごく多いんです。
“重たい空気”が人を疲れさせる
これ、意外と見過ごされがちなんですけど、
空気が滞留している家って、身体がだるくなります。
- CO₂濃度が高いと、集中力が下がる
- 湿気がこもると、カビやダニの温床になる
- 匂いが抜けないと、五感がストレスを受け続ける
つまり、「空気が動いていない家」は、じわじわと人を疲れさせていく家なんです。
だから僕は、いつもリノベ設計で「空気がどこから入って、どこへ抜けるか」を徹底的に考えます。
空気がちゃんと動いてる家は、たとえシンプルな間取りでも、深呼吸したくなる。
第2章|給気と排気の“バランス”が空気を決める
換気の話になると、多くの人は「とにかく空気を入れ替えればいい」と思いがちです。
でも、実は“排気”だけでも、“給気”だけでもダメなんです。
空気って、押し出さなきゃ入ってこないし、入れたらちゃんと出す先が必要。
つまり、換気の本質は“バランス”なんです。
給気:ただの穴じゃない、“設計された入口”
よくあるのが、「壁に換気口をつけたから大丈夫」って思ってるケース。
でもその給気口から、**本当に空気が入っているか?**っていうのが、問題なんです。
- 外に面していない位置に設置されている
- フィルターが詰まって空気が通らない
- 家の中が負圧すぎて、空気が逆流している
こうなると、「吸ってるつもり」でも、ほとんど吸えてないんですよ。
排気:空気を“捨てる場所”が整っていないと台無し
排気も大切。けど、京都のリノベでは難しい場面が多いんです。
- 密集地で排気口の位置が制限される
- 古い家でダクトスペースが取れない
- キッチン・トイレ・浴室が一直線で干渉し合う
こんな現場では、排気がうまくいかないと“家中がモワッとする”感覚になる。
「なんか匂いが残る」「湿気が抜けない」──それ、排気不足のサインです。
第1種換気+熱交換のすすめ
僕たちがよく採用するのが、第1種換気(機械給気+機械排気)で、
しかも熱交換ユニット付きのタイプ。
- 冬に冷たい外気がそのまま入ってこない
- 熱を捨てずに空気を入れ替えられる
- フィルターで花粉・PM2.5もある程度カット
京都の底冷えに対して、この“熱を持った空気を入れる”という設計は、快適性を大きく左右するポイントになります。
空気は“巡ってこそ”価値がある
入れる、出す、整える。
そのすべてが揃って、はじめて「空気が動く家」が生まれます。
- 暮らしに合わせて流れる空気
- 動線に寄り添う換気経路
- 余計な風を感じず、匂いが抜けていく感覚
それって、数値じゃ測れないけど、すごく暮らしに効いてくるんです。
第3章|キッチンやトイレの“排気問題”と対策
家の中でも、特に“におい”や“湿気”が集中するのが、キッチン・トイレ・浴室まわり。
でもね、ここがうまく排気できていないと、家中に悪影響が広がるんです。
① キッチンの排気は“連動型”でなければ危ない
換気計画で見落とされがちなのが、キッチンのレンジフードの排気量。
- 排気だけ強くて給気が足りないと、家全体が負圧になる
- 外からすき間風が入って、換気経路が崩れる
- 給気口がない場合、煙が部屋中に回る
さらに、負圧状態が続くと、断熱材内部に空気を引き込んで、内部結露の原因にもなり得ます。
だから僕は、給気連動型のレンジフードを必ず提案しています。
料理中でも「空気が巡ってる」感じになるし、家のバランスを壊さない。
② トイレや洗面所は“滞留ポイント”になりやすい
狭くて閉じた空間こそ、空気が溜まりがちです。
特に冬のトイレや洗面脱衣所は──
- 湿気がこもる
- 壁や天井に結露が起きやすい
- 暖房との温度差でカビの温床になる
僕が現場で見るカビの多くは、“空気の動かない場所”に集中しています。
だからこそ、こういう場所こそ“換気ファンの性能”や“風の流れの設計”が重要なんです。
③ 浴室は“抜け”の悪さがカビを呼ぶ
古い家の浴室って、自然排気しか付いてないことが多いんです。
でも湿気って、重いから上に抜けていかない。
だからこそ、ファン+ダクトの排気設計が大事。
そして何より、浴室からの湿気が洗面・廊下に回り込むと、他の場所でも結露が始まる。
浴室って“発生源”なんですよ。
ここで空気が抜けてなければ、家中が湿気に引きずられる。
④ 排気は“健康リスクを減らすインフラ”
排気がうまくいってないと──
- 湿気 → 結露 → カビ → アレルギー
- におい → 空気の不快感 → ストレス
- CO₂ → 頭痛・眠気・集中力低下
つまり、「排気が悪い家」は、ジワジワと人の心身を疲れさせていく家なんです。
僕たちが換気を真剣に考えるのは、
それが「家のため」じゃなくて、「住む人のため」だからなんですよ。
第4章|換気=健康のための設計インフラ
「家の中で、深呼吸できてますか?」
僕が設計の相談を受けるとき、たまにこんな質問を投げかけます。
少し意地悪かもしれないけど、これはすごく本質的な問いなんです。
空気は目に見えないけれど、人の体と心にずっと影響を与え続けているから。
① 室内のCO₂濃度は、思ってるより高い
たとえば家族4人で、リビングで過ごしているとします。
窓を閉め切っていたら、1時間後にはCO₂濃度が1000ppmを超えることも珍しくない。
そのときに起きるのは──
- なんとなくボーッとする
- 眠気や頭痛が出る
- 子どもが集中できずに落ち着かない
これ、空気のせいなんですよ。
しかも冬は窓を開けたくないから、空気がこもりやすくなる。
② アレルギー・喘息・肌荒れ…その原因、空気かもしれない
空気がこもると、ホコリや花粉、ハウスダストが抜けずに滞留します。
そして湿気が高ければ、カビやダニが増える。
これが、喘息やアレルギーの大きな引き金になる。
さらに、PM2.5やウイルス粒子なんかも、“入ってくるのを防ぐ設計”がなければ侵入してくる。
空気って、呼吸するだけじゃなく、“体を包む環境そのもの”なんです。
③ だから換気は、単なる設備じゃない。“住まいの健康設計”なんです
僕はいつも「換気=健康インフラ」だと伝えています。
電気や水道と同じくらい、住まいと人の健康を支える根っこになるもの。
ただのファンの設置じゃなくて、
- どこから新鮮な空気を入れて
- どこで汚れた空気を出して
- その流れが住まいと暮らしにどう合っているか
そこまで考えてはじめて、“生きた換気”ができるんです。
④ 深呼吸したくなる家には、空気の流れがある
僕がつくりたいのは、「空気がきれい」っていうだけの家じゃないんです。
**“気づかずに深呼吸してる家”**なんです。
換気はそのための静かな仕組み。
でもその仕組みがあるかないかで、暮らしの質は全然違う。
静かだけど、確かに整ってる。
空気が流れて、音も温度もやさしい。
そんな家が、人をゆっくりと整えてくれるんです。
▶ 空気が変わると、暮らしが整う
「なんとなく重い」「湿気が抜けない」──そんな空気の不快感、感じていませんか?
換気の設計で空気が動き出せば、家の中にやさしい“呼吸”が生まれます。