第1章|「断熱と気密って、本当に必要ですか?」という問いから始めよう
「断熱って、どのくらい必要なんですか?」
「気密って正直よく分からないけど、やらないとダメ?」
京都でリノベーションを検討されている方から、よく聞く言葉です。
そのたびに僕が感じるのは、「断熱と気密」が単なる性能値としてしか語られていない現実。
でも本当に大事なのは、“快適性と健康、そして暮らし方がどう変わるか”という視点なんです。
結論から言えば、断熱と気密が整うと「空気が変わる」
数値で語るとUA値・C値になりますが、
僕がいつもお伝えしたいのは、
**「断熱と気密によって“空気がどう変わるか”が暮らしを左右する」**ということ。
- 冬でも足元が冷えない
- 冷暖房の効きが早い
- 湿気や結露が出ない
- アレルゲンやカビの抑制になる
- 音も静かになり、眠りが深くなる
これはすべて、断熱+気密で空気の温度と動きをコントロールできるから起こる現象です。
京都のような「底冷え」と「高湿度」のある土地では特に重要
京都の冬は、体感的には東北に近い寒さとも言われます。
しかも、住宅密集地では日当たりも風通しも期待できない。
そのため、以下のような問題が起きがちです:
- エアコンをつけても床は冷たいまま
- 壁の裏で内部結露が起きやすい
- 湿度が逃げず、空気が重くなる
- カビやダニ、PM2.5の滞留で空気が汚れる
これらは、断熱だけでは解決しない。
気密=空気の通り道を「意図通り」に設計する力がなければ、快適にはなりません。
僕たちが考える「断熱と気密の関係」は“表と裏”
断熱は“熱を防ぐための壁”。
気密は“空気の流れを制御する膜”。
- 断熱だけやっても、隙間から熱は逃げる
- 気密だけ良くても、内部に湿気が溜まって結露する
この両者をセットで設計・施工することで初めて、空気の質が整うんです。
第2章|「性能値」よりも「体感」で考える快適性
住宅性能を語るとき、
UA値(断熱)やC値(気密)といった数値はよく登場します。
もちろん大切な指標です。
でも、僕が京都で家を設計するうえで、もっと大切にしているのは、
その家に入った瞬間に「気持ちがいい」と感じるかどうかです。
暮らしは“数字”で感じるものじゃない
UA値0.46、C値1.0。
それがどれだけ高性能でも、住む人がこう感じたら意味がない。
- 「なんとなく湿気が気になる」
- 「暖かいけど、空気がもわっとしてる」
- 「足元が寒くて、頭がのぼせる」
- 「静かだけど閉塞感がある」
これらは性能数値では見えない“不快さの残りかす”。
そしてそれを取り除けるのが、空気の設計=断熱×気密×空気の流れなんです。
京都の“住環境”は数字だけでは語れない
京都は、
- 日射量が少ない
- 湿度が高く、空気が抜けにくい
- 町家・狭小敷地で採光・通風に制限がある
という特性から、性能値が良くても快適性が担保されにくい地域です。
例えば:
- 南面が開けていない → 日射取得ができない
- 隣家が迫る → 自然通風が成立しない
- 底冷え → 床の断熱より気流止めが効果的
だからこそ、「数字を追う」よりも、“暮らしの体感値”を設計で整えることが重要なんです。
快適とは「気温」ではなく「空気の質」
気温22℃でも、「寒い」と感じる部屋があります。
一方で、18℃でも「心地いい」と感じる空間もある。
この差をつくるのは、
- 表面温度(壁・床・天井の冷たさ)
- 空気の動き(気流)
- 湿度(乾燥や蒸れ)
僕たちが快適に感じるのは、
空気が穏やかに流れ、湿度が整い、体がリラックスする空間。
それを数値だけでつくることは、できません。
第3章|高性能グラスウールと気密シート、なぜ僕たちはこれを使うのか?
断熱材と聞くと、セルロースファイバーやウレタン、羊毛など、いろんな素材が思い浮かぶかもしれません。
でも僕たちは、あえて高性能グラスウールを中心に採用しています。
そして、それと組み合わせるのが気密シートを用いたあと施工の気密処理です。
その理由はシンプルです。
“京都のリノベーションにおいて、現実的かつ確実な選択肢だから”。
なぜグラスウール?──答えは「施工精度と再現性」
グラスウールには、こんなイメージがあるかもしれません。
- 安価だけど、施工が雑だとダメになる
- 湿気に弱い
- 他の断熱材より“性能が低い”?
でも実は、**「高性能グラスウール16K~24Kクラス」+「適切な防湿・気密処理」**を行えば、
断熱性能は非常に高く、安定性もあります。
しかも:
- 加工性が高く、既存住宅の変形部位にも対応しやすい
- 供給が安定し、品質とコストが読める
- 他の自然素材系断熱材よりメンテと補修性が高い
リノベーションでは、“現場が想定外の連続”です。
だからこそ、応用が利く素材で、確実に断熱性能を出せるかがカギになるんです。
あと施工気密こそ、リノベの実力が問われる
新築と違い、リノベーションでは壁や床を完全に開けられない部分も出てきます。
その中で、どこまで“空気の漏れ”を制御できるか。
だから僕たちは、気密シートをあと施工で貼る方式を採用しています。
- 壁・天井・床を解体しない範囲でも面で気密層を形成できる
- 配管やサッシまわりにもテープで丁寧に処理
- C値は実測で1.0〜1.5程度を安定して出せる
重要なのは、“数値を追うこと”ではなく、
「どの空気をどこに流すか」を意図通りに制御できる状態をつくること。
「素材の選び方」が、そのまま「空気の質」になる
断熱材はただの材料じゃなく、空気の性格を決める要素です。
- 音の伝わり方
- 湿度の移動
- 温度の保ち方
- 空気の軽さや流れやすさ
僕たちは、コスト・精度・安定性・メンテナンス性すべてをふまえて、
“京都のリノベーションで責任が取れる断熱材”として、グラスウール+気密シートを選んでいるんです。
第4章|「断熱すれば快適」ではない。京都で失敗しないための視点
「高断熱にしたのに、なんだか寒い」
「夏の暑さは変わらなかった」
「結露がひどくなった気がする」
こうした声は、断熱リノベーションをした方から、実際に届く“リアルな後悔”です。
その原因は、ただ一つ。
「断熱すれば快適になる」という思い込みです。
快適性は「断熱性能」ではなく「空気の整い方」で決まる
たとえば──
- 高性能断熱材を入れたけど、気流止めがない→床が冷たい
- サッシを二重にしたけど、換気が悪い→空気が重い
- 壁は厚くしたが、熱橋(ヒートブリッジ)処理していない→結露が出る
これは、部分的な性能強化が“全体のバランス”を崩している典型例。
僕たちは、いつもこう考えます。
「断熱」は“空気を設計するための一要素”でしかないと。
京都の気候は、「断熱だけ」では対処しきれない
京都には、全国でも類を見ない住環境の複雑さがあります。
- 冬は底冷え(体感温度が気温以上に低く感じる)
- 夏は高湿度・熱こもり(夜も冷えず空気が重い)
- 風通しが悪い狭小住宅が多い
- 外気の取り込みが制限される住宅密集地
この中で断熱だけを強化してしまうと──
**“閉じ込めた熱や湿気が逃げ場を失い、逆に不快になる”**というケースが多発します。
快適な家には「逃がす」「調整する」視点が必要
僕たちがリノベーション設計で気を配るのは、断熱材の厚みよりも、
- 気流止めと通気層で**“熱と湿気の動線”を設ける**
- 漆喰・無垢材・和紙などで**“素材が呼吸できる”空間にする**
- 換気計画を立てて**“空気が動く”仕組みをデザインする**
つまり、**「守る」だけじゃなく「逃がす」「整える」**ことを合わせて考えないと、
快適さは成立しない。
「断熱すればいい」という言葉に、もう騙されないために
断熱は重要。でも、それだけじゃ不十分。
気密、換気、素材、空気の流れ…
それらすべてを“設計の言語”として扱うことで、ようやく快適性は形になる。
僕たちは、数字では測れない「空気の心地よさ」を、
住む人の“深呼吸”という感覚で測れる家づくりをしていきたいと思っています。
第5章|「空気を設計する」という断熱リノベの新常識
断熱リノベーションというと、多くの人はこう考えます。
- 断熱材を厚くすればいい
- 気密性を高めればいい
- 高性能サッシに替えればいい
確かにそれらは大切です。
でも僕たちは、それを**“性能リノベ”と呼んで一歩引いて見るようにしています。**
本当に必要なのは──
**「空気がどう流れ、どう感じられるかをデザインすること」**です。
快適な住まいは、「空気の設計図」から生まれる
たとえば京都の町家をリノベする場合、
その構造は複雑で、通風経路も限られ、外気との接点も少ない。
だからこそ、僕たちは以下を先に設計します:
- どこから給気し、どこへ排気するか
- 空気が“滞る場所”に調湿・吸着できる素材を置くか
- 吹き抜けや格子で空気の“逃げ道”を設計するか
これが、数値だけでは測れない“深呼吸できる家”の正体なんです。
素材・気密・断熱が「空気を整える仕掛け」になる
空気を設計するとは、単に設備の話ではありません。
- 無垢の床が湿度を吸って静電気を防ぎ
- 和紙や漆喰がにおいを吸着して空気を柔らかくし
- 気密処理が外気のノイズをシャットアウトし
- 断熱層が熱の出入りを緩やかに調整する
それぞれが単体で働くのではなく、空気という“全体”をつくるための装置として作用する。
これが、僕たちが実践している「空気設計の断熱リノベ」です。
最後に──「断熱する家」から「空気を育てる家」へ
僕たちは、断熱を通して何を目指しているのか?
それは、“閉じた空間を快適にする”ことじゃない。
“空気が育っていく家”をつくること。
- 暮らす人の呼吸に寄り添い
- 季節の変化に対応し
- 音・湿気・におい・熱をやわらかく受け止めてくれる家
そんな家は、ただの高性能住宅ではありません。
それは住む人の感覚に寄り添い、健康を守り、心を整えてくれる空気の器です。
これが、京都の暮らしに合った“断熱リノベの新常識”。
そしてキノスミカが目指している、深呼吸したくなる家の本質です。
▶ 断熱材を選ぶ前に、“空気の設計”を考えてみませんか?
断熱をしても寒い、暑い、空気が重い…。
それは素材選びではなく、空気を整える設計そのものに原因があるかもしれません。