はじめに:性能だけでは測れない「京都の暮らしやすさ」
「冬は底冷え、夏は蒸し暑い」──
これは、京都に暮らす人なら誰もが感じている体感的な不満かもしれません。
さらに町家や古い木造住宅が多い地域では、「断熱が弱い」「耐震が不安」「空気が重たい」といった声もよく聞かれます。
それでも、僕たちは京都の住まいに**「心地よく暮らす可能性」**があると信じています。
なぜなら、京都の気候・文化・風土を理解し、性能だけにとらわれず“空気”や“暮らし方”を整えていく設計をすれば、
古い住宅でも“深呼吸したくなる家”をつくることができるからです。
今すぐ解決したい悩みも、「なんとなく気になっていること」も
この記事は、以下のような思いを抱える方に向けて書いています。
- 「断熱って結局どれくらい必要なの?」
- 「太陽光って本当に意味あるの?」
- 「古い家、壊さずに暮らせるようになる?」
- 「町家って魅力的だけど、実際どうなの?」
- 「“心地よさ”って、性能でつくれるものなの?」
そしてもう一歩奥には、
- 子どもの健康に良い空気をつくりたい
- 将来的な電気代や災害対策として備えたい
- 自分たちの家に“誇り”を持ちたい
- 家を“資産”として次の世代に残したい
そんな**“今すぐ”と“もしかしたら”の両方のニーズ**を同時に満たすために、
京都でリノベーションを検討する方に必要な知識と視点を、
5つのテーマに分けて整理しました。
第1章|エコハウス=数字ではなく“深呼吸できる空気”
「エコハウスにしたいんです」
そう相談を受けたとき、最初に尋ねるのは「なぜそう思いましたか?」という問いです。
- 電気代を抑えたい
- 環境にやさしい家に住みたい
- 健康にいい暮らしをしたい
どれも間違いではありません。
でも、それらを本当に実現するには、単に性能数値を上げるだけでは不十分なんです。
「エコ=数値」の時代はもう終わり
UA値やC値、ZEHやHEAT20といった性能基準がよく使われます。
もちろん大切な指標ですが、それだけを追っていると、こうなります:
- 数値は良くても空気が重い
- 冬は暖かいけど喉が乾く
- 湿気がこもってカビやすい
- エネルギー効率だけで“感覚的な快適さ”が置き去り
エコとは本来、「地球にやさしく、自分たちにもやさしい設計」であるべきです。
だからこそ、“体に染み込む空気”を整えることが最優先なんです。
京都という地域性が、エコの考え方を変える
京都は冬の底冷えと夏の湿気が厳しく、日照や風通しにも制限がある地域です。
その中で「高性能化」だけを目指すと、こうした問題が起こります:
- 熱は逃げないが、湿気も抜けない
- 気密が高くなりすぎて空気が滞る
- 無垢材や自然素材が生かされない空間になる
つまり、京都では**「空気が動いてこそ、性能が活きる」**という考え方が必要なんです。
僕たちが考えるエコハウスとは、「空気を整える家」
- 空気が軽い
- 湿度がちょうどいい
- 温度が偏らない
- 自然素材が呼吸している
- 換気がスムーズに巡る
そんな空間では、エアコンを最低限しか使わなくても快適に過ごせます。
これが結果として、電力消費を抑える“本物のエコ”につながるんです。
結論:エコは“外にやさしい”だけでなく“自分たちにもやさしい”こと
高断熱・高気密・自然素材・パッシブ設計。
そのすべては、快適な空気をつくるためのツールであり手段です。
京都のように、気候のクセが強く、暮らしに合わせた設計が必要な地域こそ、
「エコとは何か?」という問いを、“暮らしの空気”から考えるべきなんです。
第2章|太陽光は“売る”より“整える”時代へ
「太陽光、載せたほうがいいですか?」
この問いに、僕はいつも「載せ方次第です」と答えます。
京都という土地では、太陽光パネルをただ設置するだけでは意味がない。
むしろ、どう暮らしの中で“整える”かが鍵なんです。
売電で得をする時代は終わった
かつては、太陽光でつくった電気を電力会社に売って、
10年で元を取るような時代もありました。
でも今は──
- 売電単価が1kWhあたり10円前後
- 購入電力が30円以上
- 蓄電池と自家消費の普及
- 停電リスクとエネルギー自給への関心の高まり
つまり、「売る」よりも**「どう使うか」への転換**が起きているのです。
京都で太陽光を導入するには“3つの条件”がある
① 屋根の向きと周辺環境
- 南向きが取れない町家が多い
- 隣家が近く、日照時間が短い
- 景観規制で設置に制限がある地域も多い
② 暮らしの時間帯とエネルギーの使い方
- 日中在宅か? 夜型か?
- エアコン、食洗機、蓄電などの使用タイミング
③ 使いこなす設計(HEMS・蓄電池・家電連動)
- つくった電気を“見える化”し
- “自動で使える状態”をつくる
京都では、これらを満たさずに「とりあえず載せる」はむしろ非効率になりがちなんです。
太陽光は「家電」ではなく「エネルギー設計の一部」
僕たちが大切にしているのは、
太陽光を“パネル”として見るのではなく、
「暮らしを支えるひとつの仕組み」として設計すること。
- 昼間の電力をいかに効率よく自家消費するか
- 夜間や災害時の電力をどう確保するか
- エアコンや冷蔵庫、調理家電との連動でどうロスを減らすか
これらを一緒に設計することで、
「発電量」ではなく「安心・快適・持続性」が手に入る家になるんです。
最後に|京都で意味のある太陽光は、「暮らしを整える道具」
太陽光をただ「つけるかどうか」ではなく、
「どう使いたいか」「何を叶えたいか」から逆算する。
これが、京都で太陽光を活かすためのいちばんの近道です。
第3章|断熱と気密が整うと、家の空気が変わる
「断熱材を変えたら暖かくなりますか?」
「気密って、必要なんですか?」
この問いに対して、僕はいつも「空気を変えたいなら、両方必要です」と答えています。
断熱と気密は、快適性の“温度と質感”を決める根本の要素。
とくに京都のように寒暖差と湿度の差が激しい地域では、断熱だけでも、気密だけでもダメなんです。
断熱=熱を逃がさない、気密=空気を逃がさない
断熱材を入れるだけで暖かくなる──これは半分正解で、半分不正解です。
たとえば:
- 床に断熱材を入れても、壁や窓の隙間から熱が逃げれば意味がない
- 気密を高めても、内部の湿気やCO₂を排出できなければ空気が悪くなる
つまり、断熱と気密はセットで初めて、温度・湿度・空気の巡りをコントロールできるのです。
京都の家こそ、“空気設計”が命になる
京都には、こんな住環境の特徴があります:
- 冬の底冷え(放射冷却が激しい)
- 夏の蒸し暑さ(気温+湿度のダブルパンチ)
- 狭小住宅・町家が多く、自然通風が難しい
- 密集地で窓の位置が限定される
このような状況では、自然任せの空気づくりが成立しにくい。
だからこそ僕たちは、断熱と気密を使って「空気を意図的に整える家」を設計しているんです。
高性能グラスウール+気密シートという現実的な選択
僕たちが標準的に採用しているのが、
- 高性能グラスウール(16K〜24K)
- あと施工型の気密シート施工
その理由は明快で:
- コストが現実的
- 施工の柔軟性が高い(リノベ向き)
- 湿気・結露リスクにも強く、メンテ性も高い
- 気密性能と素材の“呼吸”がバランスよく整う
つまり、「きれいな空気」と「ちょうどいい温度感」を両立できる選択肢なんです。
快適さは、“空気の質”でできている
人が快適と感じる空間とは、単に温度が整っているだけではなく、
- 空気が軽い
- 匂いや湿気がこもらない
- 音がやわらかく響く
- 表面温度と体感温度が近い
こうした“感覚的な空気の整い”があってこそ、
人は「この家、なんか落ち着くな」と感じる。
断熱と気密は、その“空気の土台”です。
第4章|町家を“壊さず強くする”という選択肢
京都でリノベーションを考えるとき、多くの人が気にするのが**「町家の安全性」**です。
- 地震に弱いんじゃないか
- 土壁って補強できるの?
- 古さを残したまま、安全な家って本当に可能?
こうした不安はもっともです。
でも僕たちは、“町家を壊さずに強くする”というルートがちゃんとあることを伝えたいんです。
「古い=危険」は思い込み
たしかに昭和以前の住宅は、耐震基準が緩く、今の構造基準には満たないことも多い。
でもそれは、「壊さないと住めない」ということではありません。
- 構造を読み直し
- 接合部を補強し
- 壁のバランスを整え
- 基礎に補強を加える
こうした“読み直しと追記”を行えば、町家はしなやかに地震に耐えられる家になるんです。
京都の景観・文化と調和する補強設計
町家リノベにおける難所は、耐震補強だけではありません。
京都には厳しい景観規制があり、「見た目を変えないこと」も大切な要素です。
- 外観はそのままに、内側から構造パネルで補強
- 土壁を壊さず、柱の根元に金物を仕込む
- 格子・障子・鴨居の位置を残しながら耐力壁に変える
これらは、「壊す」ではなく「読み解いて整える」設計だからこそできること。
僕たちはそれを「再編集の設計」と呼んでいます。
町家を残すとは、“文化と命を同時に守る”こと
町家は単なる古民家ではなく、地域の空気感や暮らしの記憶が刻まれた器です。
それを現代の技術で整え直し、次の世代へと渡す。
それが僕たちの考える「町家の耐震リノベ」です。
町家を「古いから」と切り捨てず、
“強さ”を与えて住み継ぐこともまた、
京都に生きる家づくりの美しいかたちだと思っています。
第5章|断熱材の選び方が、未来の快適性を左右する
断熱材というと、「熱を逃さないもの」というイメージが強いかもしれません。
でも僕たちが現場で感じるのは、断熱材は“空気の質と将来の暮らしやすさ”を決める素材だということです。
そしてその選び方には、性能・施工性・健康・予算・将来性といった、いくつもの軸が絡んできます。
自然素材系 vs 高性能グラスウール
最近では自然素材への関心も高まり、「セルロースファイバーがいいですか?」「羊毛は身体にやさしいですか?」という声もよく聞きます。
たしかに、自然素材には吸放湿性ややわらかい空気感という魅力があります。
でも一方で、施工の難しさ・コストの高さ・メンテナンス性の低さといった現実的なハードルもある。
それに対して僕たちが推奨しているのが、高性能グラスウール+気密シート施工です。
- 性能が安定している
- リノベーション現場に対応しやすい
- 将来の交換や補修がしやすい
- コストを抑えつつ、空気の質を整えられる
つまり、無理なく、ちゃんと快適になる選択肢なんです。
「納まり」と「メンテナンス性」が断熱材の本当の価値を決める
どんなに性能が高い断熱材でも、「現場で上手く納まらない」素材は、その力を発揮できません。
ましてや将来、点検や補修ができない断熱材は、長く住むほどにリスクになります。
僕たちが断熱材を選ぶとき、重視するのはいつもこの問い:
- 湿気や漏水が起きたときに、補修できるか?
- 10年後にリフォームするとき、再利用できるか?
- 暮らしが変わっても、素材が邪魔をしないか?
断熱材は“今の快適”だけでなく、未来の柔軟さも担うパーツなんです。
最後に:素材の選定は「空気の質」をつくる第一歩
断熱材は、住まい手の目に触れることはありません。
でも、その選び方が室内の空気感・湿度・静けさ・温度ムラ・メンテナンスのしやすさに、確実に影響してきます。
「何を入れるか」ではなく、
「どんな空気で暮らしたいか」から逆算する素材選びを。
それが、京都で深呼吸したくなる家を実現するための、本当の断熱設計なんです。
おわりに|京都で「深呼吸したくなる家」をつくるということ
“深呼吸したくなる家”──
それは単なるキャッチコピーではなく、僕たちが京都という土地に向き合ってきた中で、
自然と導き出された住まいのあり方です。
数値やデザインの奥にある、「感覚」と「信頼」
家づくりには、性能やデザイン、間取りといった“目に見える要素”がたくさんあります。
でも、実際にそこに暮らしてみてわかるのは、空気の重さ・匂い・温度のムラ・音の響きといった、
“数字では測れない感覚”が暮らしの質を決めているということ。
そしてそれらは、設計や素材の選び方、職人の手仕事の積み重ねからしか生まれないものです。
京都の家だからこそ、求められる「空気を設計する力」
- 夏の湿気
- 冬の底冷え
- 狭小敷地や町家の制限
- 景観と文化のバランス
京都の家づくりには、他地域とはまったく違う難しさと面白さがあります。
でもだからこそ、僕たちのような「土地に根ざした設計者」が必要とされるのだと思っています。
僕たちは、ただ家をつくっているわけじゃない
僕たちが届けたいのは、
「性能が良い家」でも「デザインが映える家」でもありません。
それらを超えて、**“気持ちが整い、暮らしに誇りを持てる家”**をつくること。
- 家族の深呼吸が深くなる
- 来客が「空気がいいね」と言ってくれる
- 帰宅した瞬間にホッとする
そんな体験を生む家を、京都で一軒ずつ、丁寧につくっていきたいと思っています。
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▶ 空気を整えるリノベーション、相談してみませんか?
京都の家づくりに悩んでいるなら、まずは話してみてください。
「なんとなくの違和感」こそ、家づくりの出発点です。