リフォームも改修も何もしていない町家は寒いから良かった。
改修も何もしていない町家は寒い。
足元から底冷えして、靴下を重ねても追いつかない。
押入れを開ければ湿気の匂いがする。
エアコンを強めても、奥の部屋までは暖まらない。
これは、京都で何件も町家を見てきた僕がいつも直面する現実です。
でも、僕はおもうんですよ。
町家を不便にしているのは、古さそのものではなく
「空気の流れ」を失っていることことなんだと考えます。
ただ空気が流れれば暖かくなるわけではありません。
大切なのは、暖房でつくった熱を家中にムラなく届けるための空気のルートを設計することです。
これができないと、せっかくの暖かさも一部だけに偏って、足元だけ寒いままになります。
昔の町家は断熱も気密もほぼゼロでしたが、
その代わりに隙間風で自然に空気が入れ替わっていました。
ところが今、何も考えずに中途半端に気密性や断熱性を高めるために、
空気の逃げ道を失い湿気が抜けず結露が起きる。
寒いのに顔だけ暑い——
そんなチグハグな町家リフォームが増えています。
今日は、町家を「深呼吸したくなる家」に変える
空気設計の考え方と実践法を一緒に考えていきましょう。
町家の寒さと結露は「空気のコントロール不足」
京町家の寒さの原因は「古さ」じゃない
大抵の人が「町家が寒いのは古いから」と思い込んでいます。
実際は、空気の流れと換気をコントロールできていないことが本当の原因です。
昔の町家は、断熱も気密もほぼゼロ。
その代わり、隙間風で勝手に換気ができていた。
だから寒いけど、湿気は外に抜けていたんです。
問題は、リフォームで中途半端に気密性や断熱性を高めたとき。
隙間風は減るのに、計画換気がない。
その結果——
- 空気が滞留する
- 湿気が抜けない
- 断熱の施工制度が悪いから内部結露が起こる
- 足元は寒いのに顔だけ暑い
まあ。家を傷めるだけのリフォームが多いですよ。
空気が流れれば暖かい」は半分正解
「空気を流せば町家が暖かくなる」というのは半分正解です。
ただ空気が動けば良いわけではありません。
大事なのは、暖房でつくった熱をムラなく届けるルートを設計すること。
空気の流れをコントロールできると、暖かい空気が部屋の奥まで行き渡り、
温度差がなくなるから「暖かい家」として体感できるんです。
逆に、空気の通り道がないまま断熱だけ入れると、
熱が一部にこもって足元は冷たい、顔だけ暑い——これが「町家での足元 が寒い」の原因です。
結局、「町家の寒さ対策」で必要なのは、
断熱だけでも換気だけでもなく、この3つ計画換気+断熱+気密のセットがカギセットで計画することです。
京町家を寒くする構造と間取りの落とし穴
町家が寒いのは「うなぎの寝床」のせい?
京都の町家でよくあるのが、細長い奥行きのある間取り。
いわゆる「うなぎの寝床」と呼ばれる構造です。
この間取りでは、窓は前後にしかなく、左右には抜けません。
そのため、風が家の奥まで届かず、中央の部屋は光も空気も滞ります。
これが「町家の奥の部屋がなんか寒い」と言われる原因なんです。
南面が閉じて太陽熱が入らない
京町家は街区が密集しているため、南側が隣家や塀で塞がれていることが多いです。
- 冬場、太陽熱を室内に取り込めない
- 断熱性が低い窓から熱が逃げる
- 暖房してもすぐに外に熱が漏れる
結果、暖房効率が悪くなり、「町家での暖房効かない」なんていう悩みが出てきます。
床下の湿気が冷気を呼び込む
もう一つ大きいのが床下です。
通気が弱く、床下の土が常に湿っている。
この湿気が冷気を呼び込み、床から底冷えを引き起こします。
加えて、まあ、京都の町家の床下は湿気てます。土が濡れてます。
そのことで湿った空気が室内に上がってくることで、押入れや壁内で結露やカビを発生さることにも繋がります。
構造だけではなく「空気の流れ」とセットで考える
こうした町家の構造は変えにくい部分も多いのが現状です。
でも、構造を理解した上で、空気の流れをどう設計するかが大事なんですね。
構造だけ直しても、空気が動かなければ寒さと湿気は消えません。
町家に耐震性を向上させることは重要です。
ですが、耐震性➕αを考えないと住みやすい家には辿り着くことはできません。
室内空気の流れをつくることは、体感(すげー気持ちい空間)を向上させるためには、結局のところ必要不可欠なんですね。これは断言できます。計画換気をしていないと体感が向上するなんてことありません。
お時間がゆるすなら、この記事をよんでください。
僕のおすすめする記事NO1
京町家を「深呼吸できる家」に変える現実解
断熱・気密・換気は「理想」と「現実」のバランスが鍵
改修現場での寒さ対策では、
「断熱と気密を高めれば解決する」という話をよくしますが、
でも、荒壁や土壁仕上げの町家では、それが簡単にはいかないのが現実です。
- 外壁に通気層を作るには外壁を一度解体しなければならない
- 土壁を残したまま高気密化するのは技術的に難しい(相性がそもそも悪い)土がカビる
- 機械換気を完璧に設計するのも、古い構造では施工コストや納まりのハードルが高い(機密性が悪いから無理がある)
つまり、理想論をそのまま町家に当てはめても失敗しちゃう。
壁断熱は「付け柱+塗り厚」で調整する現実的手段も
町家の土壁や荒壁をを壊さず残すという選択をした場合、断熱性を補う方法として
付け柱を設置して土壁の塗り厚を増すという方法もあります。
これは、構造補強材としての面では微々たる補強でしかありません。
あくまで、内側に施工しやすい「面の下地」として付け柱を使い、
塗り厚を増して壁の熱容量を上げる工夫と微々たる耐震性の向上も念頭にいれています。
この方法には以下の現実的なポイントがあります。
- 外壁を解体せず、内部から厚みを足せる
- 土壁の調湿力を活かしたまま熱の伝わりを抑えられる
- 耐震性能は大幅には向上しないので、必要であれば別途構造補強が必須
つまり、付け柱+塗り厚は、あくまで断熱バランスを調整する手段の一つ。と考えるのがベスト。
気密性は「素材の呼吸」とのバランスを取る
町家で新築並みに気密を上げようとすると、
土壁や自然素材が持つ調湿力を失うリスクがありますし、そもそも最小が悪。
だからこそ、町家でのリノベーションを計画するときは、
「完全気密にこだわらず、できる範囲の気密+自然通気の活用」
これが一番現実的で、素材も活かせる方法です。
荒壁などを取り払い、耐震性を向上させ、しっかりと断熱気密を確保する。となると話は変わって、計画換気をしなければいけません。
僕としては、荒壁の状態が悪い場合は取り除く方がベストだと考えます。予算の都合上「悪いものに蓋をする」が最もやってはいけないことなので、優先順位をしっかりと計画することも大切です。
計画換気は100%は目指さない、建物の呼吸を助ける設計へ
荒壁や土壁仕上げで施工する場合、正直にいって気密性の担保は期待できませんので計画的な換気という視点からは遠のきます。
その代わりに、
- 室内窓や欄間で部屋同士をつなぐ
- 吹き抜けを設けて上下階の空気を動かす
- 湿気が溜まる場所(台所・浴室)には局所換気を優先配置する
こうした設計で、町家全体の空気の滞留を減らすことが、
最も現実的な「町家の換気計画」につながると考えます。
サーキュレーター、エアコン、扇風機、シーリングファンなどを上手く活用して空気を動かすこと。
町家リノベは「古さを活かす×空気を導く」が成功の鍵
断熱・気密・換気を新築の常識で押し付けても、町家は快適になりません。
大切なのは、
「壊さない設計で、空気の流れをコントロールし、素材を生かす」
という考え方です。
これが、町家を「深呼吸できる家」に変えるための、
僕の現場視点での現実解です。
断熱設計の基本と素材選びの核心
断熱は「種類」と「構成」を理解してから始める
町家の断熱改修で大事なのは、
「どこに何を入れるか」ではなく、
そもそも断熱材の特性と、壁構成の考え方を理解しておくことです。
例えば:
- 透湿性の高い壁材を使うなら、荒壁下地を残す方が理にかなっている
- 透湿抵抗が高い壁材を気密不十分な状態で使うと、逆に内部結露を生む
つまり、断熱材の性能だけを信じても、壁の中で湿気が逃げられない構造なら逆効果。
これを概念として頭に入れておかないと、町家リノベは必ず失敗します。
断熱材を選ぶときは「透湿性」と「施工性」をセットで考える
町家でよくある勘違いは「高性能=万能」だと思い込むこと。
実際は:
- 高性能グラスウールでも、壁内の湿気設計を間違えると結露する
- 吹付断熱も密閉すればいいわけではなく、下地の透湿性が低いと水蒸気が溜まる
- 逆に荒壁を活かしながら外側に断熱材を足す方法もあるが、施工難度が上がる
だからこそ、「町家の既存構造と、断熱材の特性を合わせて選ぶ」
これが選定で一番重要です。
気密と透湿抵抗のバランスを知る
断熱だけでなく、気密と透湿抵抗はワンセットです。
- 気密性が低いなら、透湿性が高い構造が合う
- 逆に透湿抵抗が高い材料を使うなら、気密をきちんととらないと逆に壁内結露が起こる
要するに、「どのくらい湿気を逃がして、どこで止めるか」 を設計者が理解しておくことが最も重要です。
■ 実際にやるときは「理屈を知ってから施工を決める」
町家の断熱改修は、見た目の仕上げよりも先に:
1️⃣ 既存の壁構造を理解する
2️⃣ 透湿・気密・断熱の役割を整理する
3️⃣ それに合う素材と施工方法を選ぶ
これをすっ飛ばして「どこを断熱するか」だけを考えると、
結露しやすい町家が完成するだけです。
町家の断熱は「場所の前に概念を決める」
町家で寒さと結露を同時に防ぐには:
- 断熱材の性能より、構造と透湿抵抗の理解が最優先
- 気密と断熱を無理に高めすぎず、構造と素材の呼吸を活かす
- 必ず計画換気や自然換気を考え合わせる
これが町家の断熱を「うまくいかせるか」「失敗するか」を分ける最大のポイントです。
僕のおすすめ記事
読んでる途中にほんとごめんなさい。
この記事も読んでみてください。断熱リフォームを失敗する人が続出してます。だって施工者がなんにも知らないんだもん。
京町家って「空気を設計する」だけでまだまだ快適に住める
町家は、古いから寒い家ではありません。
極端ですが、壁を剥がして全部新しくするのが正解でもありません。
大切なのって、
今ある町家の構造を理解し、空気の流れと湿気の動きを考え、それに合った断熱と気密を設計すること。
長い。
これだけで、町家は我慢しながら住む家ではなくなります。
むしろ「町家だからこそ深呼吸したくなる家」になります。
僕は、京都で実際に
こうした空気設計と町家の部分断熱・換気計画を組み合わせて
いくつもの町家や田舎家屋を改修してきました。
町家の暮らしは、壊さずに活かすことでもっと快適に、もっと長く続いていきます。
簡単ではありませんが、色んな話し合いの中できっと素敵な改修計画ができるんだと思うんです。
まあ、木が好きなおっさんに話を聞いてみるかっていう気さくな方はお気軽にご相談ください。