京都で空き家を選ぶという選択|壊すより整えて住む価値とは

はじめに|“本当に壊すべき家”なんて、そう多くはない

「理想は京都の町で、古い家をリノベして暮らすことなんです」
最近、他府県からそう言って相談に来られる方が増えています。

でも、いざ不動産情報を見始めると、だいたいこんな声が返ってきます。

  • 「再建築不可って、もう無理なんですよね?」
  • 「古民家って憧れるけど、実際は寒いしカビっぽいって聞いて…」
  • 「“解体前提”って書いてあるし、やっぱり難しいのかな」

そして気づかぬうちに、空き家は“検討から外される存在”になってしまう。
でも僕は思うんです。
それって、**空き家の本当の価値を“誰も言葉にしてこなかったから”**じゃないか、と。

空き家を「壊す前提」で見ると、たしかにリスクの塊に見えます。
でも、「整えて住む前提」で見れば、可能性の塊なんです。

    1. はじめに|“本当に壊すべき家”なんて、そう多くはない
  1. 第1章|なぜ今、京都で空き家を選ぶ人が増えているのか?
    1. ■ 理由①:家賃と住宅ローンの逆転が起きている
    2. ■ 理由②:自分たちらしい住まいを“編集”したい人が増えた
    3. ■ 理由③:京都という都市が“変えられないこと”に価値を持っている
  2. 第2章|“壊す前提”で見てしまうと見落とすもの
    1. 見た目が古い=構造が悪い、とは限らない
    2. “空気がどう流れているか”が、住めるかどうかの鍵になる
      1. ✔ 床下の湿気はどうか?
      2. ✔ 壁の中に結露跡があるか?
      3. ✔ 窓の配置と風の抜け方は?
    3. “住めない”と思っていた家に、実はちゃんと“住める理由”がある
  3. 第3章|空き家を整えて住むための3つの視点
    1. ① 空気の通り道をつくる
      1. ✔︎ 見直すポイント
    2. ② 素材の呼吸を活かす
      1. ✔︎ 呼吸する素材の例
    3. ③ “余白”を残す設計
      1. ✔︎ 具体的には
  4. 第4章|空き家の本質は「余白」にある
    1. 完成されていない空間だからこそ、呼吸ができる
    2. 時間を重ねるという“伸びしろ”が残っている
    3. 余白がある家には、静けさとやさしさが宿る
  5. まとめ|空き家を“壊さず住む”という価値観を、もう一度見直そう
    1. 空き家は「古くて不便なもの」ではなく、「整える余地がある家」
    2. 壊さないことで見える風景がある
    3. 僕たちは、“整えて住む”という選択肢をもっと広げたい
    4. 最後に|空き家を壊す前に、一度だけ“空気”を感じてみてください
    5. ▶ 京都の空き家を、壊すか整えるか。迷ったときに見てほしい。

第1章|なぜ今、京都で空き家を選ぶ人が増えているのか?

空き家というと、「古くて不便」「安かろう悪かろう」というイメージがつきものです。
とくに京都では、町中の物件が再建築不可だったり、法的制約が多かったりして、
不動産会社から「これはもう壊した方がいいですね」と言われるのが当たり前。

でも、そうした物件にあえて価値を見出す人が、ここ数年確実に増えています。

■ 理由①:家賃と住宅ローンの逆転が起きている

京都では月6〜8万円程度で空き家を購入できる地域が少なくありません。
築50年の木造2階建て、土地20坪弱。条件は厳しいが、価格は現実的

  • 賃貸で5〜6万円払っていた人が、ローンで同額以下の支払いに収まる
  • 固定資産税は月1万円以下。賃貸よりランニングコストが抑えられる

これまで「買う=高い」という前提だった暮らしの概念が、
空き家という選択肢によって反転し始めているんです。

■ 理由②:自分たちらしい住まいを“編集”したい人が増えた

新築は完成された商品。建売は選べないパッケージ。
その一方で空き家は、「自分たちの手で整えていける」という**“余白”**があります。

  • DIYができる
  • 生活に合わせて間取りを変えられる
  • 素材や空気の質まで選び直せる

とくに30代〜40代の子育て世帯では、
**「一から理想を追うより、“今あるものを活かす”方がリアルに感じられる」**という声も多く聞きます。

■ 理由③:京都という都市が“変えられないこと”に価値を持っている

京都では、「思い通りに設計できない」ことが多い。
防火地域・斜線制限・接道義務・文化財規制など——自由度は決して高くない。

でも、逆に言えばそれは、**「個人の暮らしに制約がある場所で、どう折り合いをつけていくか」**という文化が根付いているということ。

  • 残された柱や梁に、新しい暮らしを載せていく
  • 間口3.5mの家で、どう視線を抜いて風を通すか考える
  • 壊せない家を“整えることで活かす”という思想

空き家に手を入れることは、京都という都市との対話でもあると僕は思っています。

第2章|“壊す前提”で見てしまうと見落とすもの

不動産情報には「解体推奨」と書かれた物件がよくあります。
でも実際に現場に立ってみると、“整えればまだ住める家”は想像以上に多いんです。

空き家は確かに古びて見えるし、使い込まれた痕跡がそのまま残っていたりもします。
でも、その見た目の印象だけで「壊すしかない」と判断してしまうと、
家が持っている“住まうための力”を見落としてしまうことが多い。

見た目が古い=構造が悪い、とは限らない

僕たちが実際に関わってきた空き家の多くは、
「表面はくたびれていても、構造体そのものはしっかりしていた」というパターンでした。

  • 壁や床が日焼けやひびで劣化しているように見えても、
     下地は無垢の木材で健全に保たれていることがある
  • 設備が古くて“昭和の香り”が漂っていても、
     配管や配線は最小限の更新で十分使えることもある
  • 隙間風が吹いていても、気密・断熱を丁寧に組み直せば、家は変わる

つまり、「古い=終わっている」ではなく、
“更新できる部分”と“活かせる部分”を見分けることが大事なんです。

“空気がどう流れているか”が、住めるかどうかの鍵になる

見た目や築年数よりも、僕たちが重視しているのは、空気の状態です。

✔ 床下の湿気はどうか?

→ ジメジメしてカビ臭いなら、通気計画の改善が必須。
→ でも、乾いていれば床下の基本性能はまだ“生きている”。

✔ 壁の中に結露跡があるか?

→ 可変透湿気密シートや断熱層の再構成で、内部結露は回避できる。
→ 大きな腐朽やカビがなければ、構造は再活用可能。

✔ 窓の配置と風の抜け方は?

→ 自然換気が見込める間取りなら、設計次第で空気は巡る
→ 機械換気とのハイブリッドで快適性を高めることも可能。

空気が流れる家は、暮らしの質が整えやすい。
逆に、どれだけ見た目がキレイでも、空気が停滞していれば、**「息苦しい家」**になります。

“住めない”と思っていた家に、実はちゃんと“住める理由”がある

空き家の評価って、結局“誰の目で見るか”で大きく変わります。

不動産会社は売りやすいように「更地渡し」を提案するし、
建築会社は新築のほうが利益が出やすい。

でも、**その家を実際に使うのは「暮らす人」**なんです。

だからこそ、壊すかどうかは「性能」と「空気」と「可能性」で判断するべき
それが、住まいの見方を変える第一歩だと僕は思っています。

第3章|空き家を整えて住むための3つの視点

空き家を“新築のように再現”しようとすると、
費用も手間も膨大になり、住むこと自体が目的ではなくなってしまう。
でも僕たちはいつも、「壊さず、やりすぎず、整える」ことを提案しています。

住まいは、見た目の新品さではなく、空気と暮らしやすさのバランスで決まる。
そのために意識すべき3つの視点があります。

① 空気の通り道をつくる

最初に設計するのは、風のルートです。
空き家の多くは、建てられた当時の通風設計があいまいだったり、
リフォームの過程で風の流れを断ち切られてしまっています。

✔︎ 見直すポイント

  • 窓を開けても風が抜けない間取りになっていないか
  • 廊下や納戸が“空気の袋小路”になっていないか
  • 床下〜天井まで、空気が垂直にも動けるか

風の入り口と出口さえ設計できれば、空気は自然に巡ります。
床下換気/機械給気・排気/室内開口を丁寧に組み合わせることで、
“息をしている家”に変えることができるんです。

② 素材の呼吸を活かす

古い家を整えるとき、断熱材や仕上げ材を新しくするのは当然です。
でも僕たちは、「素材が呼吸できるかどうか」もとても大事にしています。

✔︎ 呼吸する素材の例

  • 杉の床板:湿気と温度の調整に優れ、裸足でも心地よい
  • 漆喰の壁:においや湿気を吸収・分解する性質
  • 和紙クロス:音を吸い、光を柔らかく広げる

こうした素材は、ただの“仕上げ”ではありません。
家の空気の質そのものをコントロールする層だと僕は考えています。

だからこそ、表面だけ新しくして終わりではなく、
“素材の声を聞く設計”が必要になるのです。

③ “余白”を残す設計

空き家の魅力は、完璧にしすぎなくてもいいということ。
古さを受け入れ、暮らしながら手を加えていける自由さがある。

✔︎ 具体的には

  • 使わない部屋は将来用として“余らせておく”
  • 子どもが独立するまでは2階を閉じて、必要な空間だけを整える
  • 壁を設けすぎず、“暮らしの変化”を見越した空間設計にしておく

そうすることで、生活そのものが設計の一部になっていく。
空き家だからこそ許されるこの“余白の美学”が、
住まいに深呼吸をもたらしてくれると僕は信じています。

第4章|空き家の本質は「余白」にある

空き家の魅力は「安さ」でも「DIYができる」でもないと、僕は思っています。
もっと深いところに、その家だけが持つ**“余白”の価値**がある。

それは、新築や建売住宅にはまず存在しない、暮らしのためのゆとりです。

完成されていない空間だからこそ、呼吸ができる

新築のようにきっちりと寸法が揃っていて、ピカピカの設備が入っていて、
間取りもすでに完成されている家。
たしかにそれは快適かもしれません。

でも、同時にどこかで「完成しすぎていて、入っていく余地がない」と感じたことはありませんか?

空き家は、どこかが足りない
だからこそ、そこに自分の暮らしを“編み込める”

  • 壁の色を塗り替える
  • 天井を少し抜いてみる
  • 小さな窓から光が射す時間帯に、自分だけの席をつくる

住まい手の手が加わっていくことを許してくれる空間。
それが空き家の持つ最大の魅力だと思っています。

時間を重ねるという“伸びしろ”が残っている

僕たちが空き家リノベで大切にしているのは、完成形にしないことです。
「100点」を目指すのではなく、「これから育っていく状態」で渡す。

  • 無垢の床板は、暮らしの傷を受け止めながら味わいを深める
  • 壁の色は、暮らしの変化に合わせて塗り直せる余白を持たせる
  • 残しておいた和室が、数年後には子どもの勉強部屋になるかもしれない

これが、新築住宅にはあまり見られない“成長の余白”です。

住まいを「整えて、育てていく」こと。
それは空き家だからこそ自然にできることなんです。

余白がある家には、静けさとやさしさが宿る

空き家を整えて暮らしている人から、こんな言葉をよく聞きます。

  • 「この家、どこか静かなんです」
  • 「なんか、自分のペースで暮らせる感じがする」
  • 「足音とか、風の音とか、生活音がうるさくないんですよね」

それは、空間がギリギリまで詰め込まれていないからこそ感じられる**“やわらかさ”**。
家に隙間があることは、暮らしの余白でもある。
そしてその余白こそが、深呼吸を誘うのだと、僕は思います。

まとめ|空き家を“壊さず住む”という価値観を、もう一度見直そう

空き家は、確かに“手間がかかるもの”です。
現地を見て、直すべきところを探し、整える手間もある。
「これなら新築の方が楽かもしれない」と思う気持ちも、僕はよくわかります。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみてほしいのです。

空き家は「古くて不便なもの」ではなく、「整える余地がある家」

その家はもう一度、人が住む準備を待っているだけかもしれません。

  • 空気の通り道を読み直せば、風はまた巡りはじめる
  • 床を張り替え、断熱を入れ直せば、底冷えもしなくなる
  • 素材を選び直せば、家の中に静けさとやわらかさが宿る

それは、新築とはまた違ったかたちの**“居心地のいい家”**です。

壊さないことで見える風景がある

新しいものをつくると、過去をゼロにしてしまうことが多い。
でも、空き家は「時間」と「風景」と「物語」を引き継ぐことができる。

  • 誰かが住んでいた痕跡に、自分の暮らしを重ねる
  • 傷のある柱や、風で軋む引き戸に、安心を感じる
  • 暮らしが建物に馴染んでいく感覚を楽しめる

それはきっと、壊さず住むという選択をした人にしか見えない風景です。

僕たちは、“整えて住む”という選択肢をもっと広げたい

キノスミカが目指すのは、
ただ古い家を直すことではありません。
深呼吸したくなる空気を、もう一度その家に取り戻すこと。

空き家が持っている静けさ、余白、風の通り、素材のあたたかさ。
それを、住まいとしての魅力に再構築していくことが、僕たちの仕事です。

最後に|空き家を壊す前に、一度だけ“空気”を感じてみてください

「この家は、壊さないとダメかな」
そう思ったときほど、一度立ち止まって、深呼吸してみてください。

  • 空気が流れているか
  • 湿気がこもっていないか
  • 足元の感触がどうか
  • 家の中に光がどう落ちているか

それらを肌で感じられたなら、
その家はきっと、まだ“生きている”家です。

空き家に、もう一度チャンスを。
壊さず、整えて、暮らしていくという未来を。
僕たちはその可能性を、これからも提案していきます。

▶ 京都の空き家を、壊すか整えるか。迷ったときに見てほしい。

空き家は壊すしかないと思っていませんか?
でも、“整える”ことで息を吹き返す家はたくさんあります。
まずは空気を感じてみてください。

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