第1章|「空気は見えないからこそ、設計しないと手遅れになる」
空気は、見えません。
触れられません。
でも確かに、感じています。
朝起きた瞬間の「どんよりした重さ」
帰宅したときの「においのこもり」
料理中の「息苦しさ」や、夜中に感じる「鼻の乾燥」…
それらすべてが、空気の質によって起こっている暮らしの現象です。
特に京都のように、盆地特有の湿気・気温差・底冷えがある地域では、
空気の設計が住み心地を大きく左右します。
空気は「自然に整わない」からこそ、設計が必要
「風通しのいい家に住みたい」
「自然素材で健康に暮らしたい」
「なんとなく気持ちいい家が理想」
よく聞く言葉です。
でも、実際にそういう家をつくるには、空気を“設計”しなければ実現しません。
空気が自然に整わない理由:
- 現代の住宅は高断熱化し、密閉空間が基本構造になっている
- 外気に頼るだけでは四季や時間帯の変化に対応できない
- 通気口・窓・レンジフードなど、機械と建材が複雑に絡み合っている
そして、京都のまちなかのような隣家との距離が近く風が抜けにくい環境では、
空気の設計は“あって当たり前”の要素だと、僕たちは考えています。
空気が整っていない家のサインとは?
空気設計がされていない家では、以下のような“症状”が出てきます。
- 湿気が取れず、カビやダニが発生しやすい
- においが残る・混じる(トイレ、キッチン、洗面)
- 喉が乾く/鼻が詰まる/静電気が起こりやすい
- 一部屋だけ極端に寒い・暑い
とくに**冬の京都で起きる「足元の底冷え」と「湿気が抜けない現象」**は、
空気が動かず、断熱と気密が不十分な家でよく見られます。
キノスミカが考える「空気設計」とは
僕たちが言う空気設計は、ただの換気経路の話ではありません。
- 空気の入口と出口の位置
- 風の流れと温度の分布
- 素材の呼吸との調和(漆喰・無垢材など)
- 気密と換気設備のバランス
- 外気との関係性(遮断と取り入れのデザイン)
こうした総合的な空気の設計があるからこそ、
京都の四季や湿気、寒暖差に寄り添った、深呼吸したくなる家がつくれると、僕は思っています。
第2章|空気は暮らしと健康の「接点」そのもの
空気は、食べ物のように味がするわけでも、
照明のように明るさでわかるわけでもありません。
でも、人の身体は敏感に空気の質を感じとっています。
そしてそれは、暮らしの快適さと健康状態の両方に直結しているんです。
「気のせいじゃない」はずの、微細な違和感
- 朝起きて、なんだか頭が重い
- リビングにいると、鼻がムズムズする
- 子どもが寝苦しそうにしている
- 在宅ワーク中、集中できない
こうした「なんとなく調子が出ない」状態。
実は空気が「よどんでいる」「乾燥しすぎている」「冷たすぎる」などの
小さな要因の積み重ねであることが少なくありません。
京都の気候が「空気の質」に強く影響している
特に京都は、日本でも屈指の湿度変化と寒暖差が激しいエリアです。
- 夏は湿度80%以上でムワッとした空気が滞りやすく
- 冬は底冷えし、空気が乾燥して過敏な体調を引き起こしやすい
- 春秋は花粉・黄砂・PM2.5が多く、外気をそのまま入れづらい
つまり、「外気をそのまま入れれば快適」という発想が通用しない地域。
設計で空気を“選び”、育てる必要があるというのが、京都における住宅の本質です。
空気の質=呼吸器・睡眠・免疫・メンタルに直結する
医学的にも「室内空気の質」が
以下のような健康要因と深く関係していることが示されています:
- 呼吸器系:乾燥とPM2.5、ダニ・カビは喘息や鼻炎を誘発
- 睡眠の質:湿度や空気の重さは入眠・熟睡の妨げに
- 免疫機能:寒暖差や冷えは免疫抑制につながる
- 自律神経・メンタル:通気性のない空間はストレスの蓄積を促進
僕たちが空気にこだわるのは、
**単なる「心地よさ」ではなく「暮らしの土台」であり「健康のインフラ」**だと捉えているからです。
子どもやペットにとっての“空気の質”は、暮らしのバロメーター
特に乳幼児や高齢者、呼吸器が敏感な方、そしてペットにとって、
空気の悪さは見えないストレスそのもの。
- 床に近いほどホコリやにおいが溜まりやすい
- 喉の乾燥や皮膚トラブルが起こりやすい
- 一部屋にこもる湿気や熱が体調に影響を及ぼす
これらも、「空気を設計する」ことで根本から改善できます。
京都のような季節のメリハリが強い地域こそ、
空気と健康はセットで捉える必要があるんです。
第3章|空気の巡りを決めるのは、換気と気密の設計
空気の質を整えるには、感覚だけでは足りません。
設計と施工によって、空気がどう動くかを“構造的に整える”必要があります。
その要となるのが、「換気」と「気密」です。
自然に空気が入れ替わる時代は終わった
かつての日本家屋は、隙間風だらけでした。
でも今は、断熱性能や省エネ基準の高まりにより、
気密性の高い住宅が前提になっています。
京都のように町中に密集した住宅や狭小地が多い環境では、
外からの風を受けにくく、自然換気に頼れないケースも多い。
このとき重要なのが、強制換気=機械による吸排気のバランスなんです。
換気で空気を“巡らせる”仕組みをつくる
僕たちがよく採用しているのが、**第3種換気(排気機械・給気自然)**や、
**熱交換式の第1種換気(機械吸排気)**です。
なぜ換気が重要なのか:
- 湿気やにおいを排出し、空気の淀みを防ぐ
- 結露・カビ・ハウスダストの発生を抑える
- 花粉やPM2.5をフィルターで除去できる
- 冷暖房効率の安定につながる
とくに京都のような盆地地形では、空気がこもりやすく、外気汚染も停滞しやすい。
だからこそ、換気は“住まいの呼吸器”として不可欠なんです。
換気と気密は、セットで考えないと意味がない
よく「換気扇を増やせばいい」「窓を開ければOK」と思われがちですが、
気密性能が低い家では、空気は制御できません。
気密性が低いと起きる問題:
- 意図しない場所から空気が入ってくる(隙間風)
- 換気扇を回しても、必要な空気量が流れない
- 暖房/冷房効率が下がる
- 室内の温湿度ムラが起こる
気密が高ければこそ、**換気計画通りに空気を「流せる」**んです。
僕たちは、設計段階からC値(隙間相当面積)を意識し、
あと施工でも気密シートを貼ることで、呼吸の“通り道”を設計どおりに整えるようにしています。
京都で大切なのは、「熱と空気を一緒に考える」こと
冬の京都では、換気によって冷気がそのまま室内に入ってくることがあります。
このとき重要なのが、「熱交換型の換気機器」を選ぶこと。
- 給気側に熱交換素子がある機器
- 局所ではなく全館換気システム
- フィルター+断熱ダクト併用設計
これにより、冷たい空気を室温に近づけて取り込めるようになります。
「空気を入れ替える」だけでなく、“整った空気”として入れるのが、これからの家づくりには不可欠です。
第4章|湿気・におい・埃──空気の質を保つ“素材と空間の呼吸”
空気を整える設計には、換気や気密といった“機械的な調整”だけでなく、
**素材の選び方と、空間の「余白の取り方」**がとても大切です。
なぜなら、素材には呼吸する力があり、空間には空気を溜める性格があるからです。
湿気は「閉じ込める」のではなく「逃がす」ことで制御する
京都の家は、特に湿気対策が肝になります。
夏は高湿度でカビが発生しやすく、冬は底冷えの影響で結露が起こりやすい。
このとき重要なのが、「防ぐ」ではなく、「流す」設計です。
湿気対策に効果的な設計要素:
- 漆喰や珪藻土などの調湿性素材を壁や天井に使用
- 天井裏・床下の通気ルートを確保
- 家具を壁にベタ付けせず、空気の層をつくる
- **風が上から下へ動く仕組み(上下通気)**をつくる
湿気を流せる家は、カビやダニの発生を抑え、室内のにおいや埃も溜まりにくい。
それが、そのまま住む人の“呼吸の質”につながります。
においは「空気の履歴」──素材と風が記憶をつくる
玄関を開けた瞬間に感じるにおい。
キッチンやトイレに残る空気の重さ。
それは、過去にその家でどんな風が、どんな素材の中を通ってきたかを物語っています。
僕たちが使う素材は、呼吸する素材。
- 無垢の杉や桧:湿気と共ににおいも調湿
- 漆喰や土壁:アンモニア臭や生活臭を吸着
- 和紙や木製建具:空気を受け入れながら静かに抜ける
これらは換気扇のような即効性はありませんが、
時間をかけて空気の質を“背景ごと整える”役割を担ってくれます。
埃を「取り除く」のではなく、「溜めない空間」を設計する
空気が停滞する空間には、埃も湿気もにおいも溜まります。
だからこそ、空間には“抜け”が必要です。
- クローゼットや納戸にも通気口を設ける
- 上部に開口を設け、天井裏まで空気を通す
- ドア下にアンダーカット(通気隙間)を入れる
- 吹き抜け・階段・格子壁で、視覚と空気の連続性をつくる
埃が舞い上がらず、滞留せず、自然に抜けていく空間は、
人の気持ちまで軽くしてくれる。
素材と空間が呼吸していれば、
人も自然と、深く、楽に、呼吸できるようになるんです。
第5章|「深呼吸したくなる家」はこうしてつくる
僕たちキノスミカが目指しているのは、
機能や設備でつくる家ではありません。
それは、「深呼吸したくなる家」。
空気が澄み、温度や湿度にストレスがなく、
においがこもらず、自然に呼吸が深くなる。
そういう空気の質が整った家には、確かな“居心地”があります。
では、どうすればそんな家をつくれるのか?
空気設計には、5つの要素が欠かせない
① 吸排気のバランスを設計する
- 機械換気(第1種・第3種)を適切に選定
- レンジフードは吸排気連動型を採用
- 給気口にはフィルターと熱交換機能を持たせる
② 気密性能を確保する
- C値(隙間相当面積)を明確に設定
- あと施工でも気密シートとテープで対応可能
- 換気効率・温熱効率が安定し、外気の流入が制御可能に
③ 素材を「呼吸するもの」にする
- 無垢の床、和紙の天井、漆喰の壁
- 空気中の湿度・においを素材が“吸って吐く”
④ 空間に“抜け”と“余白”をつくる
- 風が動ける動線を設計
- 光と空気が連続して動く、視覚的な開放性
- 収納や個室にも通気を忘れない
⑤ 京都の気候に合わせて“整える力”を持たせる
- 冬の底冷えに備え、熱交換型換気と床下空気層を組み合わせる
- 夏の高湿度に対応する、上下通気+調湿素材+除湿設備の設計
- 春秋の外気活用には、高低差のある窓と遮蔽設計を組み込む
いい空気には「数字」も「感覚」も必要
空気設計は、性能値(換気回数、C値、温湿度)だけで判断できません。
設計士と住まい手の“体感的な感受性”が合うことが大切です。
- どこで一息つきたいのか
- 光の入り方をどう感じたいか
- 子どもの寝室はどんな空気が必要か
- ペットの居場所に風が届いているか
それらは図面には書けないけれど、
空気の巡り方を設計していれば、自然と形になる。
僕たちは、空気から家をつくる
「深呼吸したくなる家」は、
構造でも、断熱性能でも、意匠性でもなく、
“空気が通っている”というたった一つの事実から生まれます。
京都という気候と密集環境の中で、
そこにしかない風の流れや素材の呼吸を設計していく。
それが、キノスミカが“空気から家を整える理由”です。
▶ 空気は、見えない。でも、暮らしにとって一番近い存在です。
深呼吸したくなる家に必要なのは、空気を整える設計。
京都の気候に合った「風」と「温度」のつくり方を、一緒に考えてみませんか?