第1章|風は“抜け道”をつくることで整う|風通しと空気の質の話
風通しの良さは「空気の整い」に直結する
僕は現地調査に行くと、最初に「この家、風が整ってるかな?」と感じるようにしています。
空気がよどんでいたり、湿気がこもっていたり、何かにおいが停滞していたり——
そういう空間はたいてい、「風の抜け道がない家」です。
空気が入ってきても、出ていく道がなければ、その場にとどまる。
つまり、風通しの良さとは、単に風が入るかどうかじゃなく、“ちゃんと抜けていけるか”が本質なんです。
風は「導いてあげる」もの
僕が設計する上で意識しているのは、
“風に期待しすぎない”ことです。
風が吹くのは気まぐれです。
でも、風が吹いたときに、それを受け入れ、やさしく送り出せる構造をつくっておく。
それが「風通しのいい家」だと思っています。
具体的には、
- 風の入口と出口がつながっているか
- 部屋を隔てる壁に、風の通り道があるか(引き戸・欄間)
- 天井や床の段差で、空気が溜まる場所をつくっていないか
- 押し入れや収納内にも、空気が止まらず流れるように設計できているか
つまり、“風がどこで止まるか”を先回りして設計するんです。
「風が通る」=「空気が澄む」
風が通る家は、湿気が溜まりにくく、においがこもらない。
何よりも、“気持ちがいい”と感じる家になる。
でもそれは、どんなに素材が良くても、空気が動かないとダメ。
空気が動いて、入れ替わること。
それこそが、素材が呼吸している空間の条件だと僕は思っています。
この第1章は、風通しを“暮らしの感覚”として捉える入り口に立ち戻って書き直しました。
次章では、**実際に僕が行っている風の設計操作(開口の高さ差や、収納や水回りの風だまり解消など)**に進みます。
第2章|風の抜け道をつくる|設計と間取りで変わる空気の流れ
空気は“流れやすい道”を探して動いていく
風は水と同じ。流れやすいところにしか流れない。
つまり、空気を動かしたければ、道を用意する必要があるんです。
ただ「窓を開ける」だけではダメで、
その風がどこから来て、どこに抜けるかまで設計して初めて、家の中を“風が通る空間”にできる。
僕が現場でやっている「風の抜け道」のつくり方
1. 対角線+高さ差を意識した窓配置
- 南北だけでなく、東西にも補助窓を設けて風向きの変化に対応
- 1階の吸気口と2階の排気窓をつなぐことで、**温度差による重力換気(スタック効果)**が発生する
2. 家具・間仕切りで風を止めない工夫
- 廊下や階段に風の逃げ道を用意する
- 建具の上に欄間(らんま)を設けることで、閉めても風が通る構造にする
- 引き戸や可動間仕切りを採用して、気候に合わせた開放と閉鎖が可能な空間を設計
3. 外部環境を“味方につける”配置計画
- 敷地の風の流れを読み、風上に吸気ゾーン、風下に排気ゾーンをつくる
- 隣家や塀が風を遮るなら、吹き溜まりを避けて窓をずらす設計にする
4. 内部にも“空気の階層”をつくる
- ロフト・吹き抜け・勾配天井は、空気が上昇する性質を活かして、空気の動線を立体的に設計
- 天井に設けた高窓(ハイサイドライト)から熱と空気を一緒に排出
設計操作で、エアコンに頼りすぎない空間ができる
エアコンの効きが悪い、部屋の奥が暑い・寒い。
そういう家の多くは、空気が滞留していて熱が分散しない構造になっている。
風が通る家では、夏でも扇風機ひとつで過ごせる日がある。
冬場は風が穏やかに動くことで、湿気も冷気もこもらず、素材がしっかり働く。
風は“換気”であり“冷暖”でもあり“快適さの演出”でもある。
第3章|風通しは結露を防ぐ|空気が動く家は湿気がこもらない
空気が動けば、湿気は溜まらない
カビ・結露・部材の劣化。
これらの原因の多くは、空気が“止まっている”ことにあります。
- 押し入れの奥がカビ臭い
- 北側の部屋だけ結露する
- 階段下の収納に湿気がこもる
これは、換気設備以前に風が通る道がない家の特徴です。
空気が“抜けない”というのは、湿気が“逃げられない”ということでもあるんです。
僕が重視している“自然換気の配置設計”
断熱と気密をしっかり確保しながら、どう湿気を逃がす道を残すか。
これは僕がリノベでも新築でも最も気を使う設計ポイントです。
1. 小屋裏・床下も「空気を通す設計」に
- 小屋裏には軒裏換気+棟換気+ハイサイドライトを連動させて熱ごもりを抜く
- 床下は防湿シート+基礎断熱 or 外気換気の選定を丁寧に行う
2. 水回り空間には“自然な排湿経路”を
- 浴室・洗面・脱衣室に窓がない場合でも、高低差を活かした排気口配置で自然換気を誘導
- 湿度の滞留を防ぐため、収納内や天井裏にも排湿の“逃げ”を残す
3. 北側・閉鎖ゾーンに空気が滞らないように
- 吹き抜けや階段ホールを通して空気を上に逃がす
- 押し入れの奥には換気口 or 吸排気用の欄間を設け、風の通り道を確保
- 曇る窓や結露しやすい壁面には、通気層を内外両面に設定する
結露は“空気の設計ミス”から始まっている
窓が結露する、壁紙が浮く、家具の裏にカビが生える。
こうした症状の多くは、素材や設備のせいではなく、空気の動線を設計していないことによるものです。
風が通れば、湿気は溜まらない。
湿気が溜まらなければ、素材は傷まない。
素材が元気なら、空気はきれいになる。
僕が風の設計を大切にしているのは、それが空気の健康につながる“最初の一手”だからです。
第4章|空気のやわらかさを設計する|感覚に届く風と素材の連携
「この家、なんか呼吸しやすいですね」その理由とは?
初めて家に来た人が「なんか落ち着く」「空気が軽い」と感じてくれるとき、
それは間取りでも意匠でもなく、“空気の設計がうまくいっている”証拠だと僕は思っています。
- においがこもっていない
- 湿気が抜けている
- 素材の香りがほんのり残っている
- 音が反響せず、空気が穏やかに感じる
これらはすべて、風の通り道×自然素材の相互作用によって生まれます。
「空気のやわらかさ」を生む3つの条件
1. 空気の流れが“直線”ではなく“カーブ”になっている
- 窓から窓へ一気に抜けるのではなく、空気が部屋を撫でるように巡る設計
- 吹き抜け・梁・家具配置を活かして、風にリズムをつける
2. 素材が風と一緒に働いている
- 無垢材が湿気を調整し、風に乗せてやさしく空間に香りを残す
- 漆喰や和紙がにおいを吸着し、空気を清浄化する“フィルター”になる
- 床材が反響音を吸収し、空間全体の音環境も落ち着かせる
3. 暮らしの中に「風が通る動作」がある
- 朝起きたら窓を開ける習慣
- 階段の上と下で気温差を感じて扉を調整する
- 洗濯物を干す動作の中で空気を入れ替える
空気のやわらかさは、「設計×素材×暮らし」が揃って初めて成立するもの。
それは機械ではつくれない、“呼吸の余白”のようなものです。
空気のやわらかさは「感覚」を整える
設計に携わる立場として、数値や性能を整えるのは当然です。
でも、それだけでは「なんとなく心地いい家」にはなりません。
人は、無意識に空気の差を感じています。
息を吸ったときの違和感、音の反響、湿気の滞り。
そのすべてが身体に伝わって、「この家、落ち着かない」と感じるんです。
だから僕は、素材と風を、感覚のために設計する。
その空気に包まれて、呼吸が深くなるような家をつくりたいと思っています。
次章では、このスポーク記事のまとめとして、
**「風通しから考える、空気と健康の設計」**を総括します。
まとめ|風通しから考える、空気と健康の設計
空気の“設計”は、感覚と健康をつなぐ
「風が通る家」って、単に気持ちいいだけじゃない。
風が通ると、湿気が抜ける。においがこもらない。素材が呼吸する。
つまり、人の体にも素材にもやさしい空気環境が生まれる。
それを「自然換気」という言葉だけで済ませずに、
空気のルート・素材の配置・高さと抜け道を設計に組み込むこと。
これが僕たちができる“健康への配慮”のひとつだと思っています。
風通しは偶然ではなく、操作できる
風が通らない家は、風が悪いのではなく、設計に理由がある。
窓の高さ・向き・距離、開口部の関係性、風が流れる道の有無。
僕が大切にしているのは、
- 風が「抜ける」場所を設けること
- 家具や建具で風を遮らないこと
- 自然の風を“通す”ための空間操作を行うこと
設計とは、空気の性格を読み解き、それに合わせて家を整える行為です。
素材は、空気が整ったときに本領を発揮する
杉、漆喰、和紙、珪藻土——
どれも素晴らしい素材ですが、空気が滞留していたら、性能を発揮できません。
逆に空気が動き、湿気が整えば、素材は自然と働き出す。
- においを和らげ
- 湿度を調整し
- 空間をやわらかく包み
- 耳障りな音を吸収してくれる
これらすべては、空気と素材が対話している結果なんです。
最後に
僕が設計するとき、性能や間取りだけではなく、
「この家、風が気持ちよく抜けるかな」と、目を閉じて想像します。
それは住まいの“見えない気配”を整える仕事。
住まい手が深く息を吸って、「この家、なんかいいね」と感じてくれること。
それが僕にとってのゴールです。
▶ 風が通る家は、素材が呼吸できる家
空気が抜ける家では、においも湿気もこもらない。
素材がきちんと呼吸できて、空気が自然とやわらかくなる。
そんな家を、設計でつくることができます。